災害下の外国人住民に適切な情報を――「やさしい日本語」の可能性

「やさしい日本語」の表現

 

災害が起きると、防災無線や市区町村役場、消防の広報車、コミュニティFMなどで知らされる「やさしい日本語」で外国人を避難所へ誘導します。日本に来て1年前後の外国人でも、また漢字圏からの、あるいは非漢字圏からの外国人も確実に理解して行動を起こせる表現と読み方にして伝えます。避難所に移ってからは掲示物で知らせます。

 

そこには日本人用の掲示物もたくさん貼り出されますから、その中にあって外国人の目を引くもの、そして日本語だけど読んでみようという気にさせる情報の書き方と表現にします。

 

「やさしい日本語」は阪神・淡路大震災(1995年/最大震度7)、宮城県北部地震(2003年/最大震度6強)、新潟県中越地震(2004年/最大震度7)、東日本大震災(2011年/最大震度7)のとき、被災者へ伝えられた情報に基づいています。たとえば次の文は東日本大震災のときに使われた避難所への誘導文で、掲示物(書き言葉)でも広報文(広報車やコミュニティFMでの読み言葉)でも使えるよう作られました。

 

 

s-2

 

 

つぎのものは掲示物での表記法を説明したもので、新潟県中越地震で初めて使われました。

 

 

s-3

 

 

いずれも被災外国人が行動を的確に起こせるよう考え出された表現です。これら表現にするための「やさしい日本語」12の文法(※9)や掲示物作成のための正書法(※10)、放送用文の読み方(ポーズのとり方やスピード)(※11)など、さらに災害発生時にそのまま使える「やさしい日本語」マニュアル(※12)や「やさしい日本語」にするときに言い換えをアドバイスするパソコンソフト「『やさしい日本語』化支援システム」(※13)も開発しています。

 

(※11)災害時に外国人にも情報が伝わる放送の読み方スピードの検証結果(弘前大学・社会言語学研究室)

 

(※12)増補版『災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル』(弘前大学・社会言語学研究室)

 

(※13)「やんしす」YAsashii Nihongo SIen System(東北大学工学研究科・伊藤研究室)

 

 

すでに紙幅を超えましたのでそれらについての説明は避けますが、下記ページで全ての本体とそうした根拠の確認ができます。いずれも著作権をフリーにしてありますが、公にするときは引用元のクレジットだけ書き添えてください。http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ3mokuji.htm

 

 

「やさしい日本語」の理解率と普及状況

 

ここまで読んでくださった皆さんは、それでは「やさしい日本語」だとどのくらい通じるのかを知りたくなったことと思います。そこで最後に、「やさしい日本語」の理解率と普及状況をお知らせして本稿を終えることにします。

 

まず理解率についてですが、日本に住んで1年くらいの外国人に「やさしい日本語」は通じるのかや、漢字を使う国から来ている外国人と使わない国から来ている外国人がいて、そのいずれにも通じるのか、さらに読みことばでも書きことばでも通じるのかを数量的に示す実験を行いました(※14)。

 

(※14)『「やさしい日本語」の有効性と安全性検証実験解説書』(弘前大学・社会言語学研究室)

 

結論だけ示しますが、普通の日本語での情報を聞いたり見たりして正しく理解した外国人は60.5%でした。一方、「やさしい日本語」での同じ内容を正しく理解した外国人は84.9%でした。「やさしい日本語」での情報は普通の日本語より伝わることが実験によって検証されました。

 

つぎに普及状況についてお知らせします。2014年4月、内閣府は「日系定住外国人施策の推進について」(※15)で「自治体等に対して、「やさしい日本語」を活用した災害発生時の情報提供方法について習得するためのコンテンツの整備等を行う。」「自治体に対し、地域防災計画において位置付けるなど、「やさしい日本語」の積極的な活用を推奨する。」(以上、4. 安全・安心に暮らしていくために必要な施策,  防災・減災のための対策 )他を発表をしました。

 

(※15)日系定住外国人推進会議(2014)『日系定住外国人施策の推進について』内閣府

 

この施策を受け、気象庁等の関連機関は、2015年3月に多言語で緊急地震速報を伝えられるよう、英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語と「やさしい日本語」での表現のための多言語辞書を公表しました(※16)。

 

(※16)気象庁・内閣府・観光庁(2015)『緊急地震速報の多言語辞書』気象庁

 

このような「やさしい日本語」で外国人に情報を伝える取り組みは、すでに47都道府県すべてで実施されていて、それらでは防災情報や地域防災計画、避難誘導標識、注意喚起情報、生活情報などを伝えるのに活用されています(※17)。

 

(※17)『やさしい日本語』に対する社会的評価(弘前大学・社会言語学研究室)

 

「やさしい日本語」はこのように、日本に住んで1年くらいの外国人なら知っている語や漢字、文構造によって表現されますので外国人によく伝わります。私たち日本人が想像しやすい文でいうと、小学校3年生の国語の教科書で使われている文と似ています(※18)。

 

(※18)「やさしい日本語」におけるやさしさの基準について(弘前大学・社会言語学研究室)

 

外国語に親しんだ人でも、情報を外国語に翻訳するときは慎重さが要求されます。しかし「やさしい日本語」の場合、その情報が適切かをすべての日本人が確認できるので誤訳の心配がほとんどないという特徴もあります。

 

このことに関連し、行政が「やさしい日本語」の採択を検討しり際の参考にして欲しいことが1点あります。それはコミュニティーに住む外国人の多寡に関係なく「やさしい日本語」の導入は効果が期待できるということです。

 

つまりこういうことです。外国人住民の数が少ないほど、行政はそのために人員を割くことができませんし、外国人ボランティアも支援に入りません。外国人同士の共助も機能しませんから、彼らを救おうとすると地域社会の負担はどうしても大きくならざるを得ません。そんなとき「やさしい日本語」でなら、状況に応じた対応が可能ということです。

 

きょう、拙稿を最後まで読んでくださった皆さんが「やさしい日本語」で災害時情報を知らせる意義を理解くださり、近い将来、私たちとの協働に参加してくださることを願って話を終えることにします。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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