「自己責任だ」と説教しても、貧困問題は解決しない

過程を丁寧に

 

柏木 そう考えると病気に対する正しい知識も必要ですよね。窓口にきた方が「全般性不安障害と統合失調型人格障害と解離性障害を患ってまして……」みたいに病名をズラズラっと並べたら、自分だったら聞いたこともない病気の方にどうやって接していけばいいんだろうってすごく焦ってしまうと思うんです。

 

大西 『健康で文化的な最低限度の生活』の1巻にもありましたね。

 

柏木 制度もいっぱいあるし、正直な話、福祉事務所によって対応もバラバラですよね。「大丈夫ですよ」って言ってあげたいんだけど、言えない。そういう時って大西さんはどうしているんですか。

 

大西 今は少しずつ知識も経験も積み重なってきましたからだいたいの予想はつくようになりました。でも、最初からそういうわけにはいけません。最初から自分も分からない前提で、「一緒に聞きに行く?」みたいな話をしていました。

 

柏木 ああ、一緒に考えるんだ。それはいいですね。

 

大西 ホームレス支援もそうですが、ちゃんとやろうするとかなりハードルが高い。制度のことをはじめ覚えることもいっぱいあるし、つながりみたいなのも必要。だから、次の世代が育たないのかもしれません。

 

だから、ぼくは「素人」であることを大事にしているんです。目の前に「お腹が痛い」と困っている人がいたら、「病院にいく?」って声をかけるとか。一般の常識レベルからはじめるのが必要だと思っています。

 

今になったら詳しくなっちゃうので「幻聴が聞こえるんだね。じゃあこの病気だね」と決めつけがちです。「引越ししたいって言うけど、厳しい交渉になるだろうな」とか。でも、それって自分の脳内で話しているだけで本人と話していないんです。そういう専門的なジャッジはお医者さんがやることだし、役所の方たちがやることだし、ケースワーカーなど制度を運用する人が判断することです。

 

ぼくたちの仕事は、その人がなにをやりたいのか聞くことです。制度上難しいと思っても、「ダメです」とぼくたちが言うことには意味がないと思っています。やっぱり、「無理」って言われ続けると疲れちゃうでしょう。制度上どうしても制限をつける必要があるから仕方ないんだけれども、ぼくらまでそれをいう必要はない。もちろん、無理なことを「できる」と言うことはしませんが、「難しいかもしれないけれども聞いてみようか」が大事なのではないかと思っています。

 

柏木 すごくよく分かります。でも、その「話を聞く」というだけのことが、本当に難しいんですよね。

 

ある人が「引っ越したい」と言った時に、「無理だと思うよ」と返せば、その会話はそこで終わってしまう。「ああ、ここでも無理なんだな」って。しかも、「もっとこうしないと」と気が付いたら説教したりして。でも、もしかしたらその先に他の思いや言葉があるかもしれない。

 

たとえば、施設をしょっちゅう脱走する人っていますよね。「そんな脱走なんかしていたら、役所の信用が下がるから、いつまでたってもアパートに入れないよ」って傍から見ていると言いたくなるじゃないですか。アパート入居の能力が無いと思われてしまいますからね。

 

もうちょっと我慢したら……って支援の側は思うわけでしょ。そこで、「なんで脱走したのか」と責めずに聞くのは難しい。

 

大西 「なんで出たの」って聞くとだいたい「合わなかった」って言うんです。そこで、「みんな合わないけど我慢してるよ」と叱っても意味が無い。

 

「なにか嫌なことあったの?」「同部屋の人と上手くいかなかったの?」と角度を変えて聞いてみると、お金せびられたとか、たかられたとか。その人自身に発達障害があり周りと衝突しやすかったり。「出てけ」と言われていないのに「出てけ」って声が聞こえていて、統合失調症の症状だったとか、そういう問題が出てくることもあります。

 

やっぱり、相談されると立場が上になってしまいますよね。説教したくなる。同級生が会社やめても「なんでやめたの」「我慢できなかったの?」「そんな上司文句言えばいいじゃん」とか、励ましているようで、でもそれは上からの指導なんですよね。それって対等じゃない。

 

相談にくる方や、困窮されている人のなかにはずっと説教されてきた人も多い。何かの理由があって、仕事が出来ないから困窮している。それなのに出来ないことだけを見て責めても問題は解決しません。みんなに責められている人をこれ以上、ぼくたちが責めても仕方ない。ぼく自身が、学生時代「もっとちゃんとしなさい」と怒られ続けられたのかもしれませんが(笑)。

 

結果をみて判断して説教するのは簡単です。なぜそうなったのか。過程を丁寧にみていかないといけない。説教をして自己満足しても、その人の問題解決につながらない、貧困問題も解決しないんです。

 

 

onishi1

 

 

「自己責任」ってどうおもいますか?

 

柏木 貧困に陥った人と常日頃接しているひとって少ない。だから、多くの読者は「自業自得じゃないか」と言う。でも、本人にとっては不遇な状況だったりする。大西さんは、そういう「自己責任論」ってどうおもいますか。

 

大西 ぼくは、自業自得じゃない要素を持っていない人って少ないと思うんですよ。みんなが思い描くような、「完全潔白な困窮者」っていない。

 

柏木 自業自得の部分もあると?

 

大西 でも、それって当然ですよね。誰だって、「もっと勉強していればよかった」とか「あの時、就活頑張っていたらもっといい企業に入れたかも」「あの人と結婚しておけば……」って人生の選択に失敗はつきものです。自己責任って言いだしはじめたら、誰も反論できません。

 

柏木 そうですね。人間ってそんなもんですからね。

 

大西 助けを求める人に対しては、粗さがしをしてしまう。でも、そうやって粗さがしをすることで、自分は不正をただした気持ちになるかもしれないけれど、貧困問題、ホームレス問題は解決しないんですよね。自分自身の考えや感情とは別に、解決する道を模索するのは実はすごく勇気のいることだとおもいます。僕も説教したくなっちゃう気持ちになることはありますし。

 

ただ、生活保護制度は努力の成果、結果や過程は問わず、単純に一定程度困っていたら必要な支援を支給する制度です。『健康で文化的最低限度の生活』の中でも、昔は年収2000万円なのに、生活保護を受けている人がでてきます。「なんで貯金してなかったの」っていう視点は入らない。いま困っているから保護を受けられるんです。そういった、感情や価値観、情緒的な判断が入らない、ということは実はすごく重要なんだと思います。

 

「自己責任」って言うのは、最強の言い訳ワードなんです。その一言で見ないようにできる。「自己責任」と言われて言い返せる人なんてほとんどいません。自分自身の生活が100%高潔な人はいないと思うので。

 

柏木 言われてみれば、本当にそうですね。

 

大西さんの本に、暴力団の方の話が出てきますよね。あとちょっとで、ってところで、寂しくなって昔の兄貴の誘いにのってしまう。もうちょっと頑張れば……って思っちゃうわけです。あれも、本人の自己責任でしょって言ってしまえばおしまいなんだけど、更正したい気持ちも絶対本当なんだよね。

 

大西 そうなんですよ。更正したい。でも、「自分らしく生きたい」ってみんなおもっている。だれだってそんな感情はありますよね。

 

ちなみに、柏木さんは、ぼくたちからするとカウンターの向こうにいる福祉の生活課の取材も行っています。取材の中で感じられたことはありますか?

 

柏木 若い人の方が、偏見が大きい印象をうけました。やっぱり自分たちは頑張って安定した仕事を得たと。でも、なんで頑張っていない人にお金をあげなきゃいけないのと感じている。でも、年を取るにつれ、「人生いろいろ」って分かっていく。

 

大西 若者の方が、貧困にリアリティがあるのかと思っていました。

 

柏木 もちろん、ケースワーカーさんはきちんと教育を受けているので、一般の人よりは勉強しています。それでも、入ってすぐのワーカーさんは「なんでお金がないのにスマホ持っているの」と言う。でも、だんだんスマホがないと仕事ができない状況が分かってきます。外から非合理に見えても、きちんと見ていけば、それぞれの行動にはきちんと理由と合理性があるんです。

 

大西 よくわかります。この本でも言いたかったんですが、誰かが悪いってことじゃないんですよ。困っているその人が悪いとか、その人に対してうまく支援できない行政が悪いって話じゃない。それぞれが一生懸命やっているんだけど、うまくつながらない。

 

柏木 実際はそんな感じなんでしょうね。いろんなところですれ違ったり衝突が起きたりしているけど、誰もが完璧ではないし、誰もが一所懸命やっている。

 

大西 だからこそ、ぼくたちのような「素人」が間に入る意味があるのかなっておもいます。それでも、上手くいかないことの方が多いんですけどね。

 

柏木 うんうん。よくわかります。大西さんの『すぐそばにある「貧困」』はその上手く行かなさを含めたリアリティを描いているから、貧困を身近に感じられる。

 

大西 ありがとうございます。貧困を「すぐそば」に感じられるような本になっていると思うので、ぜひ読者のみなさんも手にとってみてください。

 

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

・打浪文子「知的障害のある人たちと「ことば」」

・照山絢子「発達障害を文化人類学する」
・野口晃菜「こうすれば「インクルーシブ教育」はもっとよくなる」
・戸谷洋志「トランスヒューマニズムと責任ある想像力」
・濵田江里子「「社会への投資」から考える日本の雇用と社会保障制度」
・山本章子「学びなおしの5冊 「沖縄」とは何か――空間と時間から問いなおす」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(6)――設立準備期、郵政民営化選挙後」