2016.04.23

学校・病院で必ず役立つ『LGBTサポートブック』

はた ちさこ、藤井ひろみ、桂木祥子、原ミナ汰、藥師実芳

社会 #LGBTサポートブック

さまざまな生きづらさを抱えているLGBT当事者、ことに青少年期の当事者が適切なサポートやケアを受けられるよう、学校教育関係者と医療従事者にとって欠かせない情報を凝縮した『LGBTサポートブック』(保育社)が出版された。適切に対応することの必要性は認識していても、きちんとした知識をどこから得たらいいのかがわからないという人のために、看護・医療・教育の専門家、研究者、当事者、理解者・支援者たちが共同執筆した本書より、いくつかのQ&Aを転載し内容を紹介する。(シノドス編集部)

Part1 LGBTの基礎知識

Q LGBTとはどういう意味ですか?

A レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取ってLGBTといいます。性の多様性を表す言葉です。(桂木祥子)

レズビアンは女性を性愛の対象とする女性、ゲイは男性を性愛の対象とする男性、バイセクシュアルは異性も同性も性愛の対象とする人、もしくは好きになるのに性別が重要ではない人をいいます。LGBとは、好きな対象の話で、これを「性的指向」といいます。異性を性愛の対象とすることも性的指向のひとつです。

よく、ゲイはみな女性的な「オネエ」だと思われがちですが、そうではありません。その人がゲイかどうか、見た目からはわかりません。レズビアンやバイセクシュアルも同様です。

トランスジェンダーは、生まれたときに割り振られた性別とは違う性別を生きようとする人です。日本では、生まれたときの外性器の形状で性別が決められます。そのとき決められた性別に多大な違和感を感じ、自分は異なる性別だと感じています。このように、自分自身の性別をどう思っているかを「性自認」といいます。

性のことをわかりやすく考えるために、性を4つの指標に分解してみましょう(図)。

図 4つの指標

QA1-1図

身体の性とは、外性器や内性器、染色体などを指します。性表現は、服装や仕草などです。それぞれグラデーションになっています。この4つの指標に則ると、トランスジェンダー(注1)は、心の性と身体の性とが一致しない人となります。身体が反対の性別だと感じる人もいれば、男性90%・女性10%だと思う人もいます。また中性だと思ったり、女性ではない何かだと思ったり、さまざまです。

(注1)生まれたときに男性の場合はMTF(Male to Female)、生まれたときに女性の場合はFTM(Female to Male)といわれます。また、反対の性や男・女に規定されない性としてMTX、FTXと表現することもあります。単にXジェンダーという場合もあり、MTX、FTXと同意のときもあれば、性別役割にとらわれたくない人という意味で自認している場合もあります。「X」は日本にみられる用語で、他の文化圏ではあまりみられません。

気をつけなければならない点は、見かけが男性であっても、自分のことを男性だと思っていないことがあるということです。また、どのような性別を好きかは、性自認を決定する要素にはなりません。トランスジェンダーで同性愛者の人もいれば、異性が性愛の対象である人もいます。ご自身をこの図で表すとすれば、どこに丸をつけるでしょうか? 身体はどんな特徴をもっていますか? 服装はどんなものを好みますか?

女性の特徴とされている特徴もあれば、男性の特徴とされていることもあるかもしれません。そもそも、自分の染色体を知っているでしょうか。当然、そうだと思っていても、実は典型的な男性の染色体XY、もしくは女性の染色体XXでないこともあります。端に◯をつける人ばかりではないことにお気づきでしょう。異性愛の人も、4つの軸の◯は人それぞれ違うところにつくでしょう。同様に、LGBも、◯がつく箇所は人それぞれです。

人の性はとても多様です。LGBTでは自分の性を言い表せないのでQ(queerもしくはquestioner)としLGBTQ(注2)とすることもあります。また、性的な感情を抱かない人をAセクシュアルということもあります。恋愛や性的な話で友だちと盛り上がる時期には、とても居心地の悪い思いを抱くことがあります。ほかにもさまざまな表現があります。

(注2)昨今、国際的には「SOGIE」(Sexual orientation[性的指向]、gender identity[性自認]、expression[表現])が使われています。

このように、自分の性愛の対象や性別をどう思っているかは人それぞれで、聞かなければわかりません。聞いても、本人にもわからないことがあります。男女に分かれたこの社会で、性別違和感があることや異性愛以外であることに自ら気づき、認めることは、ときに困難です。重要なのは、相手の性別を決めつけずに会話することです。彼もしくは彼女はとは言わず、名前を言うのもひとつの方法です。その名前も、相手の呼んでほしい名前で言うのがよいでしょう。

彼は、彼女かもしれません。恋人や結婚についての会話も、相手は異性ではないかもしれませんし、また関心のない人かもしれないことも想定しておくとよいでしょう。

Q LGBTと話すとき、どのようなことに気を配るとよいのでしょうか?

A まずは相手や自分のことをどのように呼ぶか、適切な言葉を使いましょう。(はた ちさこ)

最近、テレビなどでよく「オネエ」という言葉が使われています。それについてあなたはどのように感じていますか? これは女性的なしゃべり方や仕草をする男性に対して向けられる言葉であるようです。ご本人が自分のことを「オネエ」だというのは問題ありませんが、他人が誰かを指してそう言うのは要注意です。

日本にはまだ「男は男らしく、女は女らしく」という価値観が残っているため、男らしくない、女らしくないというのは相手を侮辱する(あるいはけなす、批判する)ために使われる表現です。「オネエ」という言葉は、男性と認識されている人が「女らしい」状態であるときに使われているわけですから、誰かが他者に向けてこの言葉を使うとき、多かれ少なかれ、相手を蔑む気持ちが含まれています。

そもそも「オネエ」と呼ばれる人の性自認(自分の性別がどういったものであるか)を、呼んでいる側の人は正しく理解しているのでしょうか? トランスジェンダーの性自認は人によってそれぞれ違います。自分は女性であると認識している人を「オネエ」と呼ぶのは失礼なことです。トランスジェンダーやゲイ男性を十把一絡げにして「オネエ」と呼ぶ安易さ、そこに他者を尊重する心があるとは思えません。

このように、言葉というのは正しい意味を理解した上で用いるのでなければ、人を傷つけてしまう可能性があります。また同じ言葉であっても、誰が使うかによっても意味や価値が変わってしまうものです。近頃はさすがに「ホモ」という言葉を使う人はあまりいませんが、かつて男性同性愛者を侮蔑するのに使われることが多かったため、当事者以外がこの言葉を使うのは要注意です。「ゲイ」という呼称を用いるのがよいでしょう。

なお、欧米では男性だけでなく女性同性愛者のことも「ゲイ」と呼ぶことがあります。日本では女性同性愛者を「レズビアン」と呼ぶのが一般的ですが、「レズ」と省略するのは「ホモ」と同じく侮蔑的なニュアンスが含まれてしまうので、使わないようにしてください。当事者のあいだでは「ビアン」という言葉がよく使われていますが、これも当事者以外が安易に使用するのはあまりよいことではありません。両性愛者(バイセクシュアル)を「バイ」と省略することについて違和感を覚える当事者は少ないようですが、初めてバイセクシュアルの人と話すときには、どのように表現すればよいか、「バイ」と省略してもよいか、相手にたずねてみるといいかもしれません。

一方、LGBT当事者でない人をどういう言葉で表現するかについては、「ストレート」もしくは「ヘテロセクシュアル」(「ヘテロ」と省略することもあります)を使用するのが最善です。「普通」や「ノーマル」は「異常でない」=「LGBTは異常」と言っていることになるので、避けるべきです。

また新しく「アライ」という言葉が日本でも使われはじめています。「アライ」とは、LGBTを支援するLGBT当事者ではない人を表す言葉です。アメリカなどでは多くの著名人が「アライ」であることを表明しています。自分が「アライ」であることを表明しながら接すると、LGBT当事者は安心感や心地よさを持つと思います。

ほかにも、こんな疑問に答えます

 LGBTはどれくらいいるのでしょうか? どこにいるのでしょうか?

 性的指向とはなんですか? 子どもには関係のない話なのでは?

 同性愛と性同一性障害の違いがわかりません。

Part2 学校・教育関係スタッフが知っておくべき知識

Q LGBであるという相談を受けました。どのように対応したらよいでしょうか?

A LGBであるということは性的指向のカミングアウトです。カミングアウトの基本構造を理解した上で、適切な情報やサポートを提供しましょう。(原ミナ汰)

自分の性的指向を打ち明ける「カミングアウト」(自己開示)は、決して一様ではありません。その意図や目的は、ミクロ・メゾ・マクロ、それぞれの領域によって大きく異なります。

ミクロ領域でのカミングアウト:アイデンティティを受け止める

主に「等身大の自分を知ってほしい」という動機で行われる、個別の自己開示です。打ち明ける相手が教師や医療者でも、そこに親しみがあり、「ありのままを受けとめてほしい」との想いがあれば、これに該当します。そんなときは、平常心で素直に反応すれば十分で、特に助言はいりません。「そうだったのか、ちっとも知らなかった。君のことがまたひとつわかったよ」「教えてもらってよかった」「自分のことがよくわかっているね」など、まずは投げられたボールをしっかりと受け止めましょう。

●にわか勉強では遅すぎる

日頃からLGBに馴染みがないと、必要以上にうろたえて、「嘘だろ? 冗談だよな?」「信じられない!」などと相手の言動を茶化したり、「身近にそんな人はいなかった」とつい言い訳したりしますが、こうした反応は信頼感を損なう原因となります。備えあれば憂いなし。急な自己開示に慌てないよう、旧い情報は更新し、性的指向に関する基礎知識を周囲の人とあらかじめ共有しておきましょう。

●先回りしない

十分なインテークができるまでは、憶測や役割や固定観念は横に置いて、一個人として本人の話を傾聴しましょう。「僕、ゲイなんです」と聞いて、早速HIV感染予防の話をしたが、本人はただの片想いで、空振りに終わった、なんてこともあります。

●ゲイは女っぽくて、レズビアンは男っぽい?

世間では「ゲイ」というと皆オネエ、という印象が強いようですが、それは異性愛文化の思い込みにすぎません。実際、男性的な男性同士、女性的な女性同士のカップルはたくさんいます。誰を好きになるか、と自分の性別感覚をどう表現するかは、必ずしも「男女の組み合わせ」と連動していません。

メゾ領域でのカミングアウト:現状の改善や不都合の是正

性的指向への偏見や、それに起因する差別に悩み、なんとかしたいと、所属する集団や組織に対して「LGBであること」を表明する場合です。この場合の自己開示の目的は信頼関係づくりというより、現状改善や不都合の是正、介入の要請なのです。よくあるメゾ領域の悩みを以下に挙げます。

●「人と違う自分」への不安や自責・自傷:まずは孤立の解消を

「よく思い切って話してくれたね」とねぎらうことが大事です。そして、「同性に心惹かれる人は、結構大勢いるんだよ」など、「独りではない」ことを情報提供しましょう。必要なら医療につなぎますが、丸投げはせず、連絡を取り続けましょう。本人が行ける場所を増やすことが大切です。地域の社会資源を一緒に調べたり、役に立つサイトの情報提供も重要です。

●カミングアウトすべきか否かの相談

本人が自己開示したいなら、たとえ傷つく怖れがあっても口止めはせず見守りましょう。代わりに、傷が深くならなくて済む方法(例:身近に味方を三人作る、カミングアウトの予行演習をする、など)をいくつか提案し、問題が起きたらいつでも仕切り直しできることを伝え、サポートします。

●同性との恋愛や性関係の悩み

恋バナが語れるサイトや、集まりを紹介します。また、ストーキングやデートDVをされている/している場合は、ストーキングもDVも性別問わず起きること、物理的距離をとることを伝え、性感染症、特にHIV感染予防の大切さも伝えましょう。先生自身がスクールカウンセラーおよび学内の理解ある教員に相談しチーム体制をとる必要があります。

●拒絶や暴力

打ち明けたら家族に拒絶された、複数の同級生からいじめに遭っている、などの場合はどう対応すべきでしょうか。メゾ領域で個人が集団や組織に物申すと、社会で居場所を失うリスクが増大します。そのため、この領域でのサポートは一対一では難しく、支援者も孤立しがちです。

対策として、三名一組のチーム対応を基本とし、うち一人が必ずミクロ領域で本人のケアを担当、二人目がメゾ領域で空間や人間関係の調整役となり、三人目がマクロ(制度や指導要領の改善、法律的対応)を担当すると、うまく回ります。そのためには、問題が生ずる前に研修を重ね、LGBに柔軟に対応できる人たちを集め、役割のシミュレーションをしておきましょう。

マクロ領域でのカミングアウト

性的指向への偏見やそれに起因する差別に悩み、なんとかしたいと、メディアや不特定多数の集う場所で「LGBであること」を表明し、制度や法律の制定や改正に取り組むことです。この自己開示の目的は社会啓発と、不都合な規則や法律の改正です。

いったんマクロ領域でカミングアウトすると、後戻りするのは難しいとされていますが、対話ができる関係であれば事前に知り準備することができます。メゾ領域での訴えがうまく通らず、直訴に出る場合もあります。学校でも、先生がLGBであることを表明して出版したり、中学生が顔を出してメディアに登場したりしています。卒業式や修学旅行中にカミングアウトしたら、同級生から暴力を受けて学校に通えなくなった、しかしそれを契機にオリエンテーションや教員研修が始まった、などの例もあり、現代のネット社会では、そのインパクトはさらに増大しています。

Q こんなときどう対応する? 「就職は希望の性別でしたいという相談がありました」

A 本人の意思を尊重し、支援してください。より本人らしく働ける環境をどう実現するか、一緒に考えてください。(藥師実芳)

就職活動はLGBTにとって困りやすいことのひとつです。トランスジェンダーの約69%、同性愛者や両性愛者の約40%が、求職時にセクシュアリティに由来した困難を感じているといわれています(注3)。

(注3)こころの性が男/女に二分できないトランスジェンダー。男と女の中間である中性・どちらにも属する両性、どちらにも属さない無性など、自認はさまざまです

2016年3月に大学を卒業する就職希望者は44万人を超えるといわれており2)、そのうち国内人口の約7.6%とされるLGBTの新卒就活生は3万人以上と想定できます3)。セクシュアリティは第三者が見た目だけで判断することはできず、また、特に職場でのカミングアウトは困難であることから、「見えないし言えない」LGBTは「いない」とされてしまいやすく、職場や就労における人権課題から抜け落ちやすいのが現状です。しかし、日本の全就業者数が約6,379万人であることから考えて4)、LGBTの就業者数は480万人を超えると推定されます。

実際に働いているLGBTの声については、「LGBT就活」のサイト(http://www.lgbtcareer.org)の、LGBT社会人のインタビューをご覧ください。

LGBTが就職活動を始める際に直面する壁は大きく二つあります。一つ目はジェンダーの壁です。就職活動においては、スーツや靴、バッグ、髪型、マナー、エントリーシートの男女欄など、男女に分かれていることがたくさんあります。特にXジェンダー注)の場合、そもそも男性・女性で分けられること自体が、働きづらさにつながる場合も少なくありません。

性同一性障害の場合、国内ではいくつかの要件を満たせば戸籍を望む性に変えることができますが、それには「20歳以上であること」「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」などの複数の要件があり、性別適合手術を受けるなどの条件を満たす必要があります。職場で扱われたい性別と、戸籍上の性別とが異なる性同一性障害の人は少なくなく、自分が性同一性障害であることと伝え、望む性別で就職活動をするか、伝えずに戸籍上の性別で就職活動をするか、戸惑うことも少なくありません。

こうした状況はありますが、同時に、性同一性障害の人の働き方も少しずつ多様化しています。生まれたときの戸籍の性別で働いている人、生まれたときの戸籍のままに望む性別で働いている人、望む性別に戸籍を変更し働いている人など、さまざまなかたちがあります。

二つ目の壁は、カミングアウトの壁です。LGBTが見た目ではわからないのと同様に、アライ(理解者)も見た目で判断することはできません。そのため、セクシュアリティに関して困っていることを相談したくても、相手から差別的な対応を受けることを恐れ、自立就労支援機関でカミングアウトができないケースがあります。自分の状況を適切に伝えることができないため、適切な支援を受けることもできません。

また、就職を希望する企業・職場へカミングアウトをしないことで、志望動機や今までに取り組んだことを正直に話せなかったり、働き始めてからも職場でのセクシュアリティに関する心配などについて相談できないといったことが、働きづらさやメンタルヘルスの悪化、離職などにつながる場合もあります。

LGBTの就活生の相談を受ける際に大切なことは、「戸籍の性別以外で働けるわけがない」「カミングアウトをしたら就職先は見つからない」などと決めつけず、本人の希望を聞いた上で、それがどのように実行できるのか、ともに考えていただくことです。また、必要に応じて、LGBTに関する電話相談や、支援団体を紹介していただければと思います。

引用・参考文献

1)特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ,国際基督教大学ジェンダー研究センター.LGBTに関する職場環境アンケート調査2015.

2)厚生労働省.平成27年度「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」.

3)電通ダイバーシティーラボ.LGBT調査2015.

4)総務省統計局.労働力調査(基本集計)平成27年(2015年)11月分結果.

 

ほかにも、こんな疑問に答えます

 自分はLGBTだと自覚するのは何歳ごろでしょうか?

 LGBTの児童・生徒に特有の悩みとはどんなものでしょうか? どのような行動やサインをキャッチすべきでしょうか?

 いじめを受けていると思われる児童・生徒を、どのように支援すべきでしょうか?

「ホモ」「オカマ」「レズ」などの言葉を口にする児童・生徒に対して、どのように対応したらいいでしょうか? etc.

Part3 医療・看護スタッフが知っておくべき知識

Q 家族ではない、同性のパートナーから診察に同席したいと言われたときの対応は?

A 患者が望む場合、患者にとって真のキーパーソンを治療やケアに巻き込むことは大切です。(藤井ひろみ)

LGBTなどセクシュアルマイノリティにとって、自分と共通する経験をしている他のLGBTの存在はとても重要です。特にカミングアウトが難しい状況では、LGBTであるということを理解している友人や仲間、パートナーなど限られた親密な関係の中でしか安心できないということもあります。患者にとって、診察が必要になるときとは非日常であり、安心できるLGBTの友人やパートナーに付き添ってもらいたいと思うこともあるでしょう。

しかし同時に診療情報は個人情報であるため、血縁者であれ婚姻関係にある者であれ、家族であろうと同性パートナーであろうと、患者自身の同意なく、同席や診療情報の開示をすべきではありません。逆に、患者が望む場合は、血縁、婚姻を超えて、医療者側が家族と認定してこなかった他人であっても、同席を認める必要があります。

この背景として、LGBTに限らずすべての人にとって、家族背景は複雑化しており、またDVの場合のように、親密な関係にある者であっても、診療情報を含めた患者の個人情報を明かしてはいけない事例もあり得ます。患者の治療や回復に貢献できる本当のキーパーソンは誰か、医療者が個別に判断しなければならないのです。

患者自身がカミングアウトしたり、同性を「パートナー」であると明かして同席を求めたりする場合だけでなく、パートナーであるかどうかは言わず、「この人」に同席してほしいと伝えられる場合もあります。その場合には、第一に患者の希望は叶えられる、ということを明確に伝えた上で、第二に、診療情報は患者自身の大切な個人情報であること、その情報を「この人」と共有することが患者の健康の回復にとって大事なのかどうかを、患者自身に考えてもらうよう促すことも、医療者の役割だといえます。

そして、患者自身が同席を自己決定した場合には、二人の関係を詮索せず、患者が伝えてくるそのまま――例えば、「友人」「家族のような人」「身の回りの世話をしてくれる人」「一緒に聞いてもらったほうがいい人」――を受け入れ、その言葉を使います。

また、インフォームドコンセントの場面に同性パートナーなどが同席した場合に医療者側に望まれる対応は、まず患者に説明を行って質問などがないか聞き、その次に同席者にも質問がないかどうかを確認する、という流れが重要です。こうした手順を踏むことで、患者優先(client centered)の姿勢と、患者が重要だからこそ、患者にとっての重要他者が、患者の病状を理解し治療に必要なサポートができるように質問を受け付ける、という医療者側の姿勢を示すことになります。またパートナーが患者の病状を理解し有効なサポートができるようにすることは、治療効果を最大限引き出すためにも、必要なケアの一環となります。

なによりLGBTの患者にとって、医療が必要となる人生の危機に、安心できる仲間やパートナーが協力してくれることは、大きな力になります。また、LGBTであることを隠したり、明らかにしようとしても否定的な態度をとられてきた経験を持つLGBTにとっては、仲間やパートナーを尊重されることが自分自身を大事にされるのと同じくらい重い意味を持つことがあります。患者を大事にするということは、患者が持つ社会的関係を大事にすることでもあるのです。

一方、意識のない患者の同性パートナーから、診察に同席したいと言われた場合は、同性パートナーがカミングアウトしてまで同席を望まれたという事実をまず受け止めます。具体的には、患者の意思確認ができれば同性パートナーは異性パートナーなどと同様に、同席が可能なことを伝えます。しかし本人の意思確認ができない場合は、二人の関係性を確認する方法があるかについて尋ねます。ただし、この質問をする場合は、パートナーが重篤な状態に陥っている人を相手にしているのだということを、常に念頭に置き、共感を示しながら聞くことが重要です。

同性カップルの関係性を公的に示すものは、現在のところ、公正証書か一部の自治体の証明書などです。しかしそのような証明書類を発行されている人は非常に少なく、あっても書面を常に持ち歩いている人はほとんどいないでしょう。そこで、問診をしたり生活実態を聞くことになります。その場合も、同性パートナーであるかどうかを確認するためにだけ聞くのではなく、患者の普段の状態を聞くことがケアに役立つ、という視点を持って聞くことが重要です。

患者にとってベストなケアを実現したいという思いを持って、「患者にとって重要であろうあなたを、私たちも大事にしたいと思っています」「患者を大事に思うからこそ、確認しようとしているのです」ということを伝えていきましょう。

Q 患者さんがLGBTだとわかったとき、対応するスタッフの性別はどうすればよいでしょうか?

A 可能な限り、本人の意思を尊重しましょう。(はた ちさこ)

LGBTか否かという情報がなく、単純に患者が10代~20代の女性だったとしましょう。その患者の胸部や陰部の処置や手当てを、わざわざ同世代の男性看護師に担当させますか? もちろん男性スタッフ以外、その場にいないのであればやむを得ないかもしれませんが、一般的には女性看護師が処置・手当てを担当すると思います。

デリケートな部分を他人にさらすことは、病気やケガで治療が必要だとわかっていても、たいへん恥ずかしいものです。特に10代~20代の若い人たちにとっては大きな問題です。若い人だけでなく、相手が自分の恋愛対象となるかもしれない範囲の人であれば、どんな世代のどんな立場の人であっても、恥ずかしいという気持ちは同じだと思います。恥じらう気持ちだけでなく、処置者が自分の身体に興味を持っていたらどうしよう?という不安や疑念を抱く場合もあります。

よく聞く話ですが、産婦人科医を選ぶポイントとして、女性医師であることを挙げる人も少なくありません。疑念ではなく、同じ悩みを共有できるという理由から同性の医師を選ぶ人もいますが、できるだけ気持ちの上での負担を軽減したいという思いがあるのは確かです。

次に患者がLGBTであるとわかった場合はどうでしょう? 異性愛者であれば同性よりも異性に対して強い羞恥心を持つように、同性愛者は異性よりも同性に対して強く羞恥心を持つ場合があります。レズビアン女性であれば、女性看護師にデリケートな部分を触れられるよりは、男性看護師に処置されるほうが気楽だと考える場合があるかもしれません。ゲイ男性も同じです。必ずしもそうであるとは言えませんが、そういう逆転現象の可能性があるということを意識しておいてください。

またトランスジェンダーの性的指向は、単純ではなくいろんなパターンがあります。同じ悩みや思いを共有でき、精神的な負担が減ると感じる対象が男性であったり女性であったり、人によってさまざまです。トランスジェンダーである患者の外見などによる先入観を捨てて、当事者の気持ちを理解するよう努めてください。

特に動くことのできない重症患者は、医療スタッフが身体の隅々まであらゆる処置を施すわけですから、患者がLGBTであるとわかった時点で本人に、どの性の看護師に処置を任せたいか確認する必要があると思います。患者にとって、誰に自分の身体を任せるかというのは非常に重要なことです。特定のスタッフを選ぶことが不可能でも、スタッフの性別を選ぶことができれば、精神的負担をいくらか減らすことはできると思います。これまでも患者が「一般的な異性愛者」であるという前提でスタッフを割り当てていたと思います。そこに少しLGBTの患者の存在を組み込んでください。

それと同時に、スタッフの中にもまたLGBTが一定数いるということを想定しておく必要があります。管理者によって「女性看護師」「男性看護師」と当たり前のように考えられ、患者からもそのように思われているスタッフにも性自認や、異性愛者であると決めつけられることに違和感を持つ人がいる可能性はあります。患者に接するスタッフを性別によって選択的に配置する場合には「医療スタッフにもLGBT患者と共通の悩みを持つ人がいるかもしれない。その場合は相談して」というメッセージを付け加えると、LGBTのスタッフの働きやすさも増します。ひいては質の良い医療の実践につながるので、患者やスタッフがLGBTである場合には、どういう体制で臨むかよく話し合いましょう。

ほかにも、こんな疑問に答えます

 LGBTの患者に出会ったことがないのですが、対策は必要でしょうか?

 見た目の性別と、戸籍上の性別が明らかに異なる患者さんにどう対応すべきでしょうか?

 診察券の性別を希望する性別にしてほしいと言われたのですが。

 法律上つながりのない同性パートナーに病状説明をしてもよいでしょうか? etc.