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Q こんなときどう対応する? 「就職は希望の性別でしたいという相談がありました」

A 本人の意思を尊重し、支援してください。より本人らしく働ける環境をどう実現するか、一緒に考えてください。(藥師実芳)

 

就職活動はLGBTにとって困りやすいことのひとつです。トランスジェンダーの約69%、同性愛者や両性愛者の約40%が、求職時にセクシュアリティに由来した困難を感じているといわれています(注3)。

 

(注3)こころの性が男/女に二分できないトランスジェンダー。男と女の中間である中性・どちらにも属する両性、どちらにも属さない無性など、自認はさまざまです

 

2016年3月に大学を卒業する就職希望者は44万人を超えるといわれており2)、そのうち国内人口の約7.6%とされるLGBTの新卒就活生は3万人以上と想定できます3)。セクシュアリティは第三者が見た目だけで判断することはできず、また、特に職場でのカミングアウトは困難であることから、「見えないし言えない」LGBTは「いない」とされてしまいやすく、職場や就労における人権課題から抜け落ちやすいのが現状です。しかし、日本の全就業者数が約6,379万人であることから考えて4)、LGBTの就業者数は480万人を超えると推定されます。

 

実際に働いているLGBTの声については、「LGBT就活」のサイト(http://www.lgbtcareer.org)の、LGBT社会人のインタビューをご覧ください。

 

LGBTが就職活動を始める際に直面する壁は大きく二つあります。一つ目はジェンダーの壁です。就職活動においては、スーツや靴、バッグ、髪型、マナー、エントリーシートの男女欄など、男女に分かれていることがたくさんあります。特にXジェンダー注)の場合、そもそも男性・女性で分けられること自体が、働きづらさにつながる場合も少なくありません。

 

性同一性障害の場合、国内ではいくつかの要件を満たせば戸籍を望む性に変えることができますが、それには「20歳以上であること」「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」などの複数の要件があり、性別適合手術を受けるなどの条件を満たす必要があります。職場で扱われたい性別と、戸籍上の性別とが異なる性同一性障害の人は少なくなく、自分が性同一性障害であることと伝え、望む性別で就職活動をするか、伝えずに戸籍上の性別で就職活動をするか、戸惑うことも少なくありません。

 

こうした状況はありますが、同時に、性同一性障害の人の働き方も少しずつ多様化しています。生まれたときの戸籍の性別で働いている人、生まれたときの戸籍のままに望む性別で働いている人、望む性別に戸籍を変更し働いている人など、さまざまなかたちがあります。

 

二つ目の壁は、カミングアウトの壁です。LGBTが見た目ではわからないのと同様に、アライ(理解者)も見た目で判断することはできません。そのため、セクシュアリティに関して困っていることを相談したくても、相手から差別的な対応を受けることを恐れ、自立就労支援機関でカミングアウトができないケースがあります。自分の状況を適切に伝えることができないため、適切な支援を受けることもできません。

 

また、就職を希望する企業・職場へカミングアウトをしないことで、志望動機や今までに取り組んだことを正直に話せなかったり、働き始めてからも職場でのセクシュアリティに関する心配などについて相談できないといったことが、働きづらさやメンタルヘルスの悪化、離職などにつながる場合もあります。

 

LGBTの就活生の相談を受ける際に大切なことは、「戸籍の性別以外で働けるわけがない」「カミングアウトをしたら就職先は見つからない」などと決めつけず、本人の希望を聞いた上で、それがどのように実行できるのか、ともに考えていただくことです。また、必要に応じて、LGBTに関する電話相談や、支援団体を紹介していただければと思います。

 

引用・参考文献

1)特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ,国際基督教大学ジェンダー研究センター.LGBTに関する職場環境アンケート調査2015.

2)厚生労働省.平成27年度「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」.

3)電通ダイバーシティーラボ.LGBT調査2015.

4)総務省統計局.労働力調査(基本集計)平成27年(2015年)11月分結果.

 

 

ほかにも、こんな疑問に答えます

 自分はLGBTだと自覚するのは何歳ごろでしょうか?

 LGBTの児童・生徒に特有の悩みとはどんなものでしょうか? どのような行動やサインをキャッチすべきでしょうか?

 いじめを受けていると思われる児童・生徒を、どのように支援すべきでしょうか?

「ホモ」「オカマ」「レズ」などの言葉を口にする児童・生徒に対して、どのように対応したらいいでしょうか? etc.

 

 

Part3 医療・看護スタッフが知っておくべき知識

 

Q 家族ではない、同性のパートナーから診察に同席したいと言われたときの対応は?

A 患者が望む場合、患者にとって真のキーパーソンを治療やケアに巻き込むことは大切です。(藤井ひろみ)

 

LGBTなどセクシュアルマイノリティにとって、自分と共通する経験をしている他のLGBTの存在はとても重要です。特にカミングアウトが難しい状況では、LGBTであるということを理解している友人や仲間、パートナーなど限られた親密な関係の中でしか安心できないということもあります。患者にとって、診察が必要になるときとは非日常であり、安心できるLGBTの友人やパートナーに付き添ってもらいたいと思うこともあるでしょう。

 

しかし同時に診療情報は個人情報であるため、血縁者であれ婚姻関係にある者であれ、家族であろうと同性パートナーであろうと、患者自身の同意なく、同席や診療情報の開示をすべきではありません。逆に、患者が望む場合は、血縁、婚姻を超えて、医療者側が家族と認定してこなかった他人であっても、同席を認める必要があります。

 

この背景として、LGBTに限らずすべての人にとって、家族背景は複雑化しており、またDVの場合のように、親密な関係にある者であっても、診療情報を含めた患者の個人情報を明かしてはいけない事例もあり得ます。患者の治療や回復に貢献できる本当のキーパーソンは誰か、医療者が個別に判断しなければならないのです。

 

患者自身がカミングアウトしたり、同性を「パートナー」であると明かして同席を求めたりする場合だけでなく、パートナーであるかどうかは言わず、「この人」に同席してほしいと伝えられる場合もあります。その場合には、第一に患者の希望は叶えられる、ということを明確に伝えた上で、第二に、診療情報は患者自身の大切な個人情報であること、その情報を「この人」と共有することが患者の健康の回復にとって大事なのかどうかを、患者自身に考えてもらうよう促すことも、医療者の役割だといえます。

 

そして、患者自身が同席を自己決定した場合には、二人の関係を詮索せず、患者が伝えてくるそのまま――例えば、「友人」「家族のような人」「身の回りの世話をしてくれる人」「一緒に聞いてもらったほうがいい人」――を受け入れ、その言葉を使います。

 

また、インフォームドコンセントの場面に同性パートナーなどが同席した場合に医療者側に望まれる対応は、まず患者に説明を行って質問などがないか聞き、その次に同席者にも質問がないかどうかを確認する、という流れが重要です。こうした手順を踏むことで、患者優先(client centered)の姿勢と、患者が重要だからこそ、患者にとっての重要他者が、患者の病状を理解し治療に必要なサポートができるように質問を受け付ける、という医療者側の姿勢を示すことになります。またパートナーが患者の病状を理解し有効なサポートができるようにすることは、治療効果を最大限引き出すためにも、必要なケアの一環となります。

 

なによりLGBTの患者にとって、医療が必要となる人生の危機に、安心できる仲間やパートナーが協力してくれることは、大きな力になります。また、LGBTであることを隠したり、明らかにしようとしても否定的な態度をとられてきた経験を持つLGBTにとっては、仲間やパートナーを尊重されることが自分自身を大事にされるのと同じくらい重い意味を持つことがあります。患者を大事にするということは、患者が持つ社会的関係を大事にすることでもあるのです。

 

一方、意識のない患者の同性パートナーから、診察に同席したいと言われた場合は、同性パートナーがカミングアウトしてまで同席を望まれたという事実をまず受け止めます。具体的には、患者の意思確認ができれば同性パートナーは異性パートナーなどと同様に、同席が可能なことを伝えます。しかし本人の意思確認ができない場合は、二人の関係性を確認する方法があるかについて尋ねます。ただし、この質問をする場合は、パートナーが重篤な状態に陥っている人を相手にしているのだということを、常に念頭に置き、共感を示しながら聞くことが重要です。

 

同性カップルの関係性を公的に示すものは、現在のところ、公正証書か一部の自治体の証明書などです。しかしそのような証明書類を発行されている人は非常に少なく、あっても書面を常に持ち歩いている人はほとんどいないでしょう。そこで、問診をしたり生活実態を聞くことになります。その場合も、同性パートナーであるかどうかを確認するためにだけ聞くのではなく、患者の普段の状態を聞くことがケアに役立つ、という視点を持って聞くことが重要です。

 

患者にとってベストなケアを実現したいという思いを持って、「患者にとって重要であろうあなたを、私たちも大事にしたいと思っています」「患者を大事に思うからこそ、確認しようとしているのです」ということを伝えていきましょう。

 

 

Q 患者さんがLGBTだとわかったとき、対応するスタッフの性別はどうすればよいでしょうか?

A 可能な限り、本人の意思を尊重しましょう。(はた ちさこ)

 

LGBTか否かという情報がなく、単純に患者が10代~20代の女性だったとしましょう。その患者の胸部や陰部の処置や手当てを、わざわざ同世代の男性看護師に担当させますか? もちろん男性スタッフ以外、その場にいないのであればやむを得ないかもしれませんが、一般的には女性看護師が処置・手当てを担当すると思います。

 

デリケートな部分を他人にさらすことは、病気やケガで治療が必要だとわかっていても、たいへん恥ずかしいものです。特に10代~20代の若い人たちにとっては大きな問題です。若い人だけでなく、相手が自分の恋愛対象となるかもしれない範囲の人であれば、どんな世代のどんな立場の人であっても、恥ずかしいという気持ちは同じだと思います。恥じらう気持ちだけでなく、処置者が自分の身体に興味を持っていたらどうしよう?という不安や疑念を抱く場合もあります。

 

よく聞く話ですが、産婦人科医を選ぶポイントとして、女性医師であることを挙げる人も少なくありません。疑念ではなく、同じ悩みを共有できるという理由から同性の医師を選ぶ人もいますが、できるだけ気持ちの上での負担を軽減したいという思いがあるのは確かです。

 

次に患者がLGBTであるとわかった場合はどうでしょう? 異性愛者であれば同性よりも異性に対して強い羞恥心を持つように、同性愛者は異性よりも同性に対して強く羞恥心を持つ場合があります。レズビアン女性であれば、女性看護師にデリケートな部分を触れられるよりは、男性看護師に処置されるほうが気楽だと考える場合があるかもしれません。ゲイ男性も同じです。必ずしもそうであるとは言えませんが、そういう逆転現象の可能性があるということを意識しておいてください。

 

またトランスジェンダーの性的指向は、単純ではなくいろんなパターンがあります。同じ悩みや思いを共有でき、精神的な負担が減ると感じる対象が男性であったり女性であったり、人によってさまざまです。トランスジェンダーである患者の外見などによる先入観を捨てて、当事者の気持ちを理解するよう努めてください。

 

特に動くことのできない重症患者は、医療スタッフが身体の隅々まであらゆる処置を施すわけですから、患者がLGBTであるとわかった時点で本人に、どの性の看護師に処置を任せたいか確認する必要があると思います。患者にとって、誰に自分の身体を任せるかというのは非常に重要なことです。特定のスタッフを選ぶことが不可能でも、スタッフの性別を選ぶことができれば、精神的負担をいくらか減らすことはできると思います。これまでも患者が「一般的な異性愛者」であるという前提でスタッフを割り当てていたと思います。そこに少しLGBTの患者の存在を組み込んでください。

 

それと同時に、スタッフの中にもまたLGBTが一定数いるということを想定しておく必要があります。管理者によって「女性看護師」「男性看護師」と当たり前のように考えられ、患者からもそのように思われているスタッフにも性自認や、異性愛者であると決めつけられることに違和感を持つ人がいる可能性はあります。患者に接するスタッフを性別によって選択的に配置する場合には「医療スタッフにもLGBT患者と共通の悩みを持つ人がいるかもしれない。その場合は相談して」というメッセージを付け加えると、LGBTのスタッフの働きやすさも増します。ひいては質の良い医療の実践につながるので、患者やスタッフがLGBTである場合には、どういう体制で臨むかよく話し合いましょう。

 

 

ほかにも、こんな疑問に答えます

 LGBTの患者に出会ったことがないのですが、対策は必要でしょうか?

 見た目の性別と、戸籍上の性別が明らかに異なる患者さんにどう対応すべきでしょうか?

 診察券の性別を希望する性別にしてほしいと言われたのですが。

 法律上つながりのない同性パートナーに病状説明をしてもよいでしょうか? etc.

 

 

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