ひきこもりの2030年問題 ――「孤族の国」を考える(5)

『朝日新聞』連載の「孤族の国」が話題を呼んでいる。連載では「ひきこもり」が孤族のひとつとして取り上げられていた。ひきこもりとは、家族以外の他者とコミュニケーションをとらない状態のことをいう。昨年、内閣府がおこなった調査では、ひきこもり状態の若者(15~39歳)が70万人程度存在していると報告されている。

 

今回とりあげたいのは、ひきこもりの2030年問題である。数十万人規模で存在しているひきこもりが10年後、20年後にどうなっていくのかという将来のことである。

 

ひきこもりの2030年問題という言葉をつくったのは精神科医の斎藤環だ。斎藤は著書のなかで、2030年問題を40代のひきこもりの多くが老齢年金受給年齢に達することによって起こる問題としている(斎藤環『ひきこもりから見た未来』)。

 

2030年問題をここではもう少し広く捉え、ひきこもりが高齢化することによって起こる諸問題として考えてみたい。

 

とくに注目したいのは「親の死」である。30代のひきこもりを抱えている親であれば、まだ生きている可能性が高い。しかし、60代のひきこもりの親は生きているとはかぎらない。2030年問題の大きな問題のひとつが「親の死」である。

 

 

不登校と長期欠席者の長期トレンド

 

「親の死」が2030年周辺で起こるというのは不登校の経年データから推測できる。残念ながら、ひきこもりの経年での統計データは存在してないため、別のデータで代用する必要がある。それが不登校の経年データである。

 

 

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表1にみられるように、ひきこもりの6~9割程度は不登校経験をもっている。不登校になって学校に行かず、そのまま社会との接点が切れ、ひきこもり状態になったというケースなどである。ひきこもりの大半は不登校から生まれる。したがって、不登校や長期欠席者の統計からひきこもりの経年の増減はある程度推測できるのである。

 

つぎに確認するのは、長期欠席者率の変化である。長期欠席者については戦後まもなくから文部科学省が統計をとっており、長期的な把握が可能である。図1が戦後からの中学校での長期欠席者のトレンドである。

 

 

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きれいなU字型の曲線になっている。戦後間もないころは経済的に厳しい家庭も多く、また医療の体制や技術がまだ整っていなかった。経済的理由、病気といった理由で、学校に行かない子供が多かった。

 

その後、高度経済成長を経て、経済的状態が改善し、医療体制・技術も進歩した。その結果、日本の子供のほとんどは登校するようになった。これが70年代である。しかし、その後、徐々に長期欠席者率が上がる。この主力になっているのが不登校なのである。

 

 

ひきこもりのシミレーション

 

ここでひとつのシミレーションをしよう。1975年に中学3年生で不登校であった子どもが、現在もひきこもり続けているというケースを想定する。このケースは1960年生まれ、1975年時点では15歳である。いまだにひきこもっているとすると、現在年齢は50歳になっている。

 

不登校の増加は70年を谷にして、80年年代、90年代と増えていく。グラフからは、このケースが不登校からひきこもりに移行した第一世代だと考えられる。教育や医療の臨床では50年代から不登校(学校恐怖症)の報告があったが、現象規模でみられ始めたのは70年代後半からである。

 

つぎにこのケースの親について考えてみる。子供を25歳で生んだと仮定すると、現在の親の年齢は50歳+25歳で75歳となる。日本の平均寿命は男性78歳、女性85歳なので、まだ平均寿命には達していない。少なくとも、父母のどちらかが生きているケースが多いと考えられる。

 

しかし、これは現時点の話であり、あと10年経つと事情が変わってくる。親の年齢が平均寿命をこえるのだ。つまり、高齢化したひきこもりの親が死ぬのである。

 

ひきこもりの多くは家族と共に暮らしている。ひきこもり生活を続けるのにそれほど多くの生活費がかかるわけではない。住む家や食費など固定費は家族が提供しており、社会関係がないので生活費はあまり必要ではない。2~3万あれば十分にひきこもり状態を維持することができるようである。

 

家族の負担で成り立っていたひきこもりという状態は、親の死によって破綻をするのである。

 

 

 

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