ひきこもりの2030年問題 ――「孤族の国」を考える(5)

親の死の対策とその限界

 

この破綻に向けてひきこもりを抱える家庭で行われているのは、子供の国民年金の保険料も親が支払うということである。つまり、自分たち親が死んでも国民年金で子供が生きていけるように、ということである。

 

とはいえ、この対策は万全ではない

 

 

(1)子供が年金の受給年齢になる前に親が死ぬケース

(2)年金という経済的保証だけで生きて行けるのか

(3)国民年金をかけていないケース

 

 

まず第1に、子どもが年金受給資格をえる65歳にいたるまでに、親が死んでしまう場合である。国民年金の保険料を払っていても、両親が死んだ時点で支払えなくなる。国民年金は保険料の納付が25年以上なければ受給資格がえられない。保険料を払っても受給できなくなるケースがでてくることが考えられる。

 

第2の問題。親は、ひきこもっている子供の食事をはじめ身の回りの世話をしている。親がいるからこそ、数十年間社会経験がなく、他者とコミュニケーションをしていなくても生きていくことができるのである。このような者が突然、孤立すれば、何ができるだろうか。

 

長期間ひきこもっていて、その後社会復帰をした人にしばしば会うことがあるが、ひきこもりから抜け出した直後にはすぐに社会生活を送る力はない。人にもよるが、うまくいって、5年程度は回復に必要である。すぐに社会適応ができるならば、そもそも何十年もひきこもっていないだろう。年金受給資格を得たからといって、その手続きや、窓口に行くことを期待するのは難しい。

 

第3の問題。親がひきこもりの子供の年金の掛金を払っているケースも多いが、親の生活が苦しく、子供の年金の掛金を払う余裕のない家庭は少なからず存在している。そういった場合には、親が亡くなれば経済的基盤すら失うことになる。

 

社会生活を送る力もなく、経済的基盤も失ってしまうことが想定される最悪のケースである。しかも、現状では、どこの家庭にひきこもり状態の者がいるのかということを行政も社会も把握していない。隣近所のことがわかる地方ではひきこもりを近所の人が把握をしているかもしれない。しかし、隣に誰が住んでいるかわからない都会では、家族以外誰も知らず、ひきこもり状態を続けている者がいる。その人たちがどこにいるのかということを行政も社会も知ることができないのだ。

 

 

本格的な社会問題化は20年後

 

さきほどのシミレーションでだしたケースは70年代に不登校であった、ひきこもり第一世代の先頭である。グラフからもわかるように数としてはそれほど多くない。しかし、70年代よりも80年代、さらに90年代と不登校の子供たちは増えている。つまり、本格的にこういった問題が起こるのは、80年代や90年代に不登校になり、そのままひきこもり続けているグループなのだ。

 

これらのグループが60代になったとき、つまり、2030年あたりに、大きな社会問題として浮かび上がってくると想定される。

 

ひきこもりとは、学校に行けない問題や就労できない問題としてとらえられてきた。しかし、高齢化と親の死という要因を抱え込むことによって、近い将来に新しい局面を迎えるのである。

 

 

推薦図書

 

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時事問題のエッセイ集。ひきこもり以外にもさまざまな問題をとり上げている。斎藤は「本書では、『ひきこもり』をはじめとする、若者の非社会性問題を論ずることに最も多くを割いている。私の専門ということもあるが、この分野に照準するとき、現代社会の諸問題が最もリアルにみえてくると実感しているからだ。」と述べている。斎藤の言うように、「ひきこもり」という視点からは、教育、就労、医療といった社会のさまざまな問題点を切り取ることができる。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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