都市計画道路に「見直し」が求められる理由――財政支出・住民投票・順応的管理

財政負担が住民投票のメインテーマになっている

 

2000年以降の「街づくりに関する住民投票」(市町村合併関連を除く)の事例を丹念に調査している大滝優介氏は、「迷惑施設」に関する住民投票と、「財政負担」に関する住民投票を区別する。

 

住民投票というと、産廃処理施設や原発のような「迷惑施設」を排除するための手段として用いられるような印象もあるが、実際には「街づくりに関する住民投票」の大多数は、市役所の改築や大型公共施設の建設の際の「財政負担」に関する住民投票であり、2010年以降は特にそれが増えている(11件中9件が財政負担を主要な問題にしている)ことが示される。

 

また大滝氏は、住民投票を(1)政策を中止に追い込むことを目的とした「抵抗型」、(2)自治体の長や議会が自らの目的を達成するために行う「利用型」、(3)ニーズの低い政策を中止させ、ニーズの高い別の政策を行わせることを目的とした「政策優先順位是正型」に分類したうえで、一般には迷惑施設と「抵抗型」が結びつき、財政負担と「政策優先順位是正型」が結びつくが、そこに「利用型」が巧妙に組み込まれてきたことを説得的に記している。

 

そのうえで、近年では財政負担に関する住民投票が増えているのに伴って、「政策優先順位是正型」が増えているが、その背景には「不要な政策に多額の資金が支出されることで、社会保障や福祉サービスの質が低下することへの懸念」があるとする(大滝優介「街づくりにおける住民投票――2000年以降の事例からみる住民による多数決のあり方に関する考察」早稲田大学大学院法学研究科に提出された修士論文より。なおこの論文は「小平都市計画道路に住民の意思を反映させる会」のブログのリンク先からダウンロードできるhttp://wp.me/p2NeTa-1E0)。

 

 

東京都の都市計画道路に関する財政支出もチェックされるべき

 

以上の大滝氏の論文からは、財政負担を問題視し、政策優先順位の是正を求める訴えが、近年の街づくりに関する住民投票のメインテーマになっていることが読み取れる。少し前ならば、これは財政規模の小さい市町村での話であり、財政規模の大きな東京都では問題にならないテーマと見なされたかもしれない。しかし最近では、東京都の財政支出が立て続けに問題視されている。新国立競技場の建設費もそうだし、舛添氏の出張費等もそうだ。これらが問題視されるのであれば、都市計画道路に対する財政支出についてもきちんとチェックされ、見直すべき部分は見直されるべきであろう。

 

さらに、都市計画道路は、その費用の約50%が国からの補助金で賄われていることも忘れてはならない。東京都のような財政的に余裕のある自治体の都市計画道路建設にも、国債残高1000兆円を超えた国の予算が投じられ続けているのである。

 

 

都市計画道路の見直しは全国で進んでいる

 

実際のところ、国としては、適時・適切な都市計画道路の見直しを推奨しているのである(国交省第8版都市計画運用指針http://www.mlit.go.jp/common/001134570.pdf)。

 

しかし、今年3月に公表された東京都の都市計画の整備方針(第四次事業化計画)では、総延長3207kmの東京都の都市計画道路のうち、2013年度末までに62%が完成したとして、新たに320路線、226kmを向こう10年に整備する「優先整備路線」に選定する一方で、都市計画道路の見直し候補は9路線、約4.9kmと極めて消極的なものとなっている(http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/kiban/tokyo/iken_kohyo.html)。

 

それに対して、東京に次ぐ大都市である大阪府や、東京近郊の埼玉県、千葉県、神奈川県という近隣の県や市町村では、都市計画道路の見直しガイドラインをつくり、積極的かつ継続的な見直しを行っている。

 

大阪府のホームページによると、「人口減少や少子高齢化などの社会経済情勢の変化に伴って、今後は効率的・効果的な選択と集中により質的充実を図っていく必要性」が高まっており、「都市計画決定後長期にわたり事業着手がなされていないものについて、計画の必要性、事業の実現性を再検証し、計画の「存続」「変更」「廃止」の方向性を決定するための基本的な考え方」を示し、「平成23年度から未着手の231路線、延長約470kmを対象に関係市町と協議を実施し、廃止・存続等の方向性を整理し、平成26年8月までに24市4町において、97路線、延長約170kmを廃止」したという(http://www.pref.osaka.lg.jp/sokei/tokeidourominaoshi/index.html)。

 

また、埼玉県のホームページによると、「埼玉県においても本格的な人口減少・超高齢社会の到来が迫っていることから、こうした社会情勢を踏まえ」、「平成19年度以降は、見直し路線について、住民の皆様の御理解をいただきながら、都市計画の変更手続きを進め、平成24年度までに46路線、約51kmの廃止、10路線の線形又は幅員変更を完了」したという(http://www.pref.saitama.lg.jp/a1102/toshikeikakudouronominaoshi/)。

 

千葉市のホームページには、「本市では、151路線、約402kmの都市計画道路が決定されており、その内の約7割が整備完了していますが、整備が完了していない路線(未整備路線)については、決定後20年以上経過しており、社会経済情勢等の変化に応じた見直しが必要となっています」とあり、平成25年度の項目には次のような記載がある。

 

 

「長期未着手となっていた約96kmの都市計画道路のうち、約37kmの都市計画道路を廃止、または変更する見直し素案を平成24年12月に公表しました。この素案に寄せられた市民意見や要望、隣接市との協議・調整の結果をもとに、廃止・変更としていた約37kmのうち約15kmを「都市計画道路の見直しを再検討する路線」とし、残りの約22kmの路線は廃止を前提とした「都市計画道路の廃止対象路線」として、手続きを進めてまいります」(https://www.city.chiba.jp/toshi/toshi/keikaku/tetsuduki/tokeidouminaoshi.html)。      

 

 

ここで注目したいのは、「社会経済情勢の変化に伴って」、「社会情勢を踏まえ」、「社会経済情勢等の変化に応じた」という文言である。先にもふれたように、小平の都市計画道路の問題点の一つは、それが50年前に作られた計画であったことだ。その当時の社会情勢(高度経済成長、人口増加)は、現在とは全く異なっている。大阪府、埼玉県、千葉市は、その点をきちんと認識して見直しに着手している。少し前の話になるが、1999年に北海道で行われた「時のアセスメント」(時代の変化を踏まえた施策の再評価)によって、「道道士幌然別湖線」(士幌高原道路)の建設中止が決定されたという例もある(http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/gkk/toki/tokiindex.htm)。

 

このように、自治体が社会情勢の変化に応じて道路計画を見直すことは普通に行われている。その意味で、「小平都市計画道路に住民の意思を反映させる会」の主張は過激でも無茶でもなく、むしろ当然なされるべき種類の問題提起だったといえる。

 

 

都市計画道路にも「順応的管理」を適用しよう

 

最後に蛇足になるが、こうした「見直し」や「時のアセスメント」の主張を下支えしうるものとして、順応的管理(adaptive management)という考え方を紹介したい。これはもともとは保全生態学の用語であるが、自然と人間とのあるべきかかわり方という文脈で、環境倫理学でも話題にされている。

 

順応的管理とは「対象に不確実性を認めたうえで、政策の実行を順応的な方法で、また多様な利害関係者の参加のもとに実施しようとする新しい公的システム管理の方法」である。「順応的管理においては、管理や事業を一種の実験とみなす。計画は仮説、事業は実験ととらえられ、監視の結果によって仮説の検証が試みられる。その結果におうじて、新たな計画=仮説をたて、よりよい働きかけを行うべく、事業の「改善」がめざされる」(鷲谷いづみ『生態系を蘇らせる』より)。

 

このような順応的管理の考え方は、もちろん不確実性を伴う生態系の管理の方法ではあるが、都市計画道路のマネジメントにも適用できると思われる。不確実性があるのは「自然」だけでない。「社会情勢」や「都市環境」や「市民のニーズ」にも不確実性がある。東京都の都市計画道路は、その多くが1968年以前(旧都市計画法時代)に決定されたものであり、その当時の仮説、仮定、予測などに基づいている。いわば実験的性格がある。また当時の市民のニーズと現在の市民のニーズは同一のものとは言えない。だとすれば、ここにも順応的管理を適用して、半世紀前の計画を検証し、現状に即した見直しを考えるほうが理に適っていると思われる。

 

*本稿は、「小平3・2・8現地を歩く会」および「小平3・3・3号線 予定地を歩く会」資料に基づいている。資料と写真をご提供いただいた神尾直志さんに感謝申し上げる。歩く会については、ブログ「小平市で住民投票!」を参照(https://jumintohyo.wordpress.com/)。

 

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