いろいろな性を手話で表現したい――『いろいろな性、いろいろな生き方』

セクシュアルマイノリティ(性的少数者)は13人に1人いると言われています。30人のクラスに2人はいる計算ですが、小学校の教科書には「思春期になると、みんな異性を好きになります」と書かれています。そんな状況のなか、多様な性を子ども達に伝えるため、LGBT当事者を中心にしたインタビューを掲載した絵本『いろいろな性、いろいろな生きかた』(渡辺大輔監修、ポプラ社)が上梓されました。

 

本記事では、手話でLGBTを表現する山本芙由美さん、セクシュアルマイノリティの子どもを学校で支えるために教師になった眞野豊さん、ありのままの性で働きたいと就職活動をした中島潤さんへのインタビューを紹介します。(文:永山多恵子、写真:清水久美子、ページデザイン:まる工房 正木かおり)

 

 

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耳が聞こえないろう者の人たちにも、いろいろな性があります。山本芙由美さんは、そんな人たちが自由に悩みを語りあい、のびのびと暮らせる社会を目指して活動しています。

 

 

好きになる性は、なんでもあり

 

芙由美さんは、生まれつき耳が聞こえません。ずっと女性に興味がありましたが、今は、同じろう者の諒さんと結婚し、パートナーとして支えあって暮らしています。

 

諒さんは、女の体で生まれ、心の性は男という人でした。そのため、体の性別を変える手術をして、戸籍の性を男に変える手続きをし、法律上も男性になっています。

 

「わたしの場合、好きになる相手の性は、なんでもありなんですね(笑)」

 

今は、しあわせに暮らしているふたりですが、諒さんの性を変える手続きのとき、思いがけずいやな対応を受けることになりました。

 

 

いろいろな性をあらわす手話がない

 

「日本の手話では、男女を区別して表現することが多い。たとえば、名前のあとに親指を立てれば男、小指を立てれば女をあらわします。諒さんは、手術を受けて体も男になったのに、手話通訳者が、彼の名前を呼ぶとき、女をあらわす小指を立てたんです」

 

そのとき、芙由美さんも諒さんも、いやな気持ちになりました。それと同時に、いろんな性があることを、手話でどう表現したらよいかと、考えるようになったそうです。

 

 

LGBTのなかにも、ろう者はいる

 

「わたしたちが活動をはじめるまでは、LGBTの集まりで手話通訳者がつくことは少なく、ろう者はなかなか情報を得られませんでした。また、サポート団体は電話相談が多いのですが、ろう者は電話ができません。LGBTのなかにも、ろう者がいる。ろう者のなかにもLGBTがいる。どちらの人たちにも、偏見をなくし、理解を広めていく必要があると感じました」

 

 

自分の性を表現する手話を

 

直接相手に話すことができても、自分の性のことを人に伝えるのは、たいへんなこと。ろう者は、筆談や、手話、通訳者を通しての会話になるので、うまく理解してもらえないのではないか、という不安が、なおさら大きくあります。

 

「どう表現すればいいかわからず、差別的な表現をしてしまう人もいます。まずはLGBTをあらわす手話をつくり、広めることがたいせつなんです。

 

 

反響をよんだサポートブック

 

しだいに活動がいそがしくなった芙由美さんは、それまでの仕事をやめ、活動に専念します。

 

2014年3月には、全国大会の成果をまとめた「ろうLGBTサポートブック」を完成させます。このサポートブックには、LGBTに関する手話用語をはじめ、役に立つ情報がたくさんのっています。

 

「ろうLGBTの人だけでなく、手話通訳者の団体や、一般のろう者など、いろんな立場の人からたくさんの反響がありました」

 

「手話を教えてほしい」「力になってほしい」そんな声が多く寄せられ、立ちあげたのが「Deaf-LGBT-Center」(ろうLGBTセンターという意味)です。サポートブックを出して、わずか2か月後のことでした。

 

 

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みんなで、新しい手話を決めていく

 

「Deaf-LGBT-Center」では、手話通訳養成講座のなかで、女性と男性だけでなく、いろいろな性がある、ということを伝える講演や研修をしています。また、LGBTに関する手話の開発もおこなっています。

 

「手話は、ろうLGBTの当事者で集まり、ひとつひとつ相談しながら決めていきます。差別や偏見をなくし、ちがいを認めあえる社会にしていくために、当事者のわたしも、どんどん意見をいっていこうと思います」

 

 

自分だから、できること

 

「ろう者にはろう者の習慣がある。正しいLGBTの知識を伝えるためには、ろう者の価値観にあわせた伝えかたをしなければいけません。ろうとLGBT、このふたつの当事者のわたしだから、できることがあると思います」

 

「みんなに正しい知識を身につけてほしい」と強く願う芙由美さん。そのために、今、アメリカでろうLGBT支援の勉強をしています。

 

 

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ろうとLGBT、ふたつのマイノリティ(少数者)だからこそ、できることをやっていきたい。写真は、アメリカ留学に出発する前日、夫の諒さんと。

 

 

LGBT手話教室

 

●LGBT手話教室その1

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L(レズビアン):小指を立て胸に当てる。小指を立てる形は、女性をあらわす。

G(ゲイ):親指を立て胸に当てる。親指を立てる形は、男性をあらわす。

B(バイセクシュアル):親指と小指を立てて胸に当てる。親指と小指を立てる形は、男性と女性をあらわす。

T(トランスジェンダー):人差し指と中指を立てて、指を開きながら胸の前でクルッとひねる。

 

 

●LGBT手話教室その2

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LGBT 左手で「L」の文字をつくり、右手の親指と人差し指を立てて、右手をヒラヒラさせながら左手からはなしていく。【次ページにつづく】

 

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