ヘイトクライムの報道が、しんどい理由――オーランド襲撃事件をめぐって

報道は、差別をどう扱えるのか

 

過去の研究から、ラッセル氏は、他にも「どうやって起きたことを乗り越えるか」について、いくつかのヒントを提供している。ざっと紹介をすると、

 

・ムーブメントを長い目でみよう

このように恐怖に満ちた瞬間は過去にもあり、これによって平等を求める運動が失敗したとか、すべて終わってしまったということではない。また、事件の加害者のことを、その人が属しているスティグマ化された集団(たとえばムスリムや有色人種など)の代表とみなしたいという誘惑にはあらがおう。

 

・なにかをしよう

なにもしないでいるよりは、なにかをしたほうがマシ。LGBTの歴史について調べたり、LGBTでいてよかったことを10個考えてみたり、仲間と集まって事件のことを話してみたり、LGBTの団体でボランティアをしたりしよう。

 

・アライ(支援者)の存在に注目しよう

攻撃を受けると私たちは排他的になり、自分たちを傷つける可能性のある人を遠ざけようとする。しかし、差別的な人々のことを考えるのと同じぐらいには、非当事者で仲間になってくれる人達のことも気にかけよう。

 

などといったことだ。ここでLGBTと書いている部分は、障害者や、その他のマイノリティ集団に置き換えても通用すると思う。全文は、筆者のブログに掲載しているので、ご興味のある方はぜひご覧いただきたい。(http://blog.livedoor.jp/mameta69/archives/52002845.html

 

その中で、ひとつドキッとさせられたのは、彼女が「自分たちのコミュニティへの否定的なメッセージは、その辺にあふれていることに注目しよう」と書いていたことだ。

 

今回のオーランド銃撃事件を、日本の大手メディアは、当初「ナイトクラブで起きた銃撃」と報じた。過激派組織ISの関連が疑われたものの事件が単独犯によるものだったことがわかると、アメリカの銃社会の闇に話題はうつり、この事件がクリントンとトランプのどちらの票につながるのか、という報道に変わっていった。

 

「だれも悼んでないし、だれも悲しんでいない。」

 

事件のあった翌々日、青森でバーを開いているレズビアンの友人が、電話で嘆いていた。

 

「はっきりしたんだよ。私たちが悼まないと、だれも悼まない。この日本でいま、自分たちが話しているようなこと自体が、社会の中でまったく想定されていない。このニュースは1か月もたてば、すっかり忘れられてしまうだろう。だから、私たちが覚えていて、悲しまないといけないんだ。」

 

まず、この日本にも、「どんな理由でも殺してはいけない」「銃は怖い」などで済まされないような恐怖を味わっている人がいることが想定されていなかった。LGBTの人たちの存在抜きで、いろいろと語られること自体が、「LGBTなんて身近にはいない。どこか私たちの外部にいる存在なのだ」という日頃のよくあるメッセージの再演のように思われた。

 

事件の加害者が同性愛者だったかもしれないことをもって、ヘイトクライムではなかった可能性があると報じたメディアもあった。歴史をひもとけば、LGBTに対するヘイトクライムの少なくないものが、同性愛傾向にある犯人によるものだったことは、すぐに分かるはずだった。自分とそっくりな人間が、自分が死んでも認めたくないようなグループに所属しているとき、ヘイトクライムは起きてきたのだ。なぜ、そのような報道になるのか、不勉強ぶりに歯がゆい思いがした。

 

どんな人がどんな思いで、そこにいたのか。どうやって生きて、なにを愛した人だったのか。そして、今ここで、彼らのことを覚えている私たちは、今なにを感じていて、なにを愛しているのか。LGBTや、障害者や、外国人や、宗教、民族によるちがいを原因とした暴力は、私たちのコミュニティで、どのように体験されてきたのか。

 

結局のところ、それが社会の中できちんと分かち合えないことが差別の構図であって、ヘイトクライムがうまれた温床だ。だから、私たちはヘイトクライムをどう語り、伝えていくのかを、自分たち自身で振り返るところから始めなくてはいけないのだと思う。

 

マスメディアによる報道だけでは、どうにも忘れられそうなことを、本稿では書いてみた。オーランドの事件だけでなく、相模原での障害者殺傷事件など、悲しいニュースは跡をたたない。

 

みなさんにとっては、ヘイトクライムとは、どのような出来事なのだろうか。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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