福島第一原発の廃炉はどうなっているのか?

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周辺地域の人々の生活

 

開沼 また、オフサイト(福島第一原発の周辺地域)の環境に目を向けることも重要です。例えば、一度は「ここに生活する人は全員避難しろ」という話になった福島第一原発周辺の地域について、現在、24時間切り取ってみると、そこではどれくらいの人数が拠点を置いて生活をしているのでしょうか。

 

Q7 2016年2月現在、福島第一原発周辺の避難指示を経験した地域に何人の生活(居住&仕事)している?

 

A7 約3万人

 

それなりの規模に意外と思うかもしれません。現在、全国には約1700の市区町村があります。その中で3万人規模というのは上から700位台くらい。それなりの人口規模の生活圏が既にそこにはあるわけです。避難から帰還してきた地元住民の方々も年々増えており、福島第一原発から20kmほど離れたところにある広野町、楢葉町、川内村では4579人(2015年末時点)が居住を再開しました。おそらく今年から数年かけて一万人に近づいてくるのではないかと考えられます。

 

 

『福島第一原発廃炉図鑑』262ページ

出典:『福島第一原発廃炉図鑑』262ページ

 

では、先程は働いている方の被ばく量について触れましたが、周辺地域で生活する人の被ばく量はどれくらいでしょうか。

 

Q8 楢葉町に帰還した人が1年間で追加被ばくする線量(推定値)の平均値は?

 

A8 0.70mSv

 

これは、避難指示解除前の数字です。日本に暮らすと私たちは年平均、2.1mSvの被ばくをしています。大雑把に言えば、そのくらいの値に0.7mSv追加して被ばくしている、というイメージを持てばいいです。ただ、この2.1mSvという数字は世界的に見れば低めで、世界を見れば、この数倍、あるいはそれ以上、自然に被ばくをしている人は多くいます。今の時点で避難指示が解除されている地域についてはこれくらいの数字になっているとご理解いただければと思います。

 

ただ、直近の政府方針によれば、今後は「帰還困難区域」と呼ばれる、より線量の高い地域の避難指示が解除されていく予定です。そうなると、世界的に見ても特異な線量の中で暮らす人も出て来ることは事実です。精神的・身体的な影響については、これまでとはまた違ったケアの仕方を社会的に用意することが必要になるでしょう。冷静に議論していく必要があります。

 

オフサイトについては「誰も戻りたがらない、人が住むべきではない地域」「3.11以降なにも変わらない風景が広がっている」などと紋切り型な語られ方をさんざんされてきました。実際はそんなことはなく、多くの人がそこで生活をしています。

 

たとえば元々5500人ほどの住民規模だった広野町には、現時点で住民票ベースで半分ほどの人しか帰還していません。ところが、水道使用量を街全体でみてみると5000〜6000人ほどの人が生活していることが分かります。おかしな話です。しかし、そこに行けば、その裏事情にすぐに気づきます。

 

つまり、残りの半分は廃炉や除染の作業員の方がここで暮らしているわけです。先程、廃炉の現場で働く方の朝がとても早いという話をしましたが、その意味で、できるだけ福島第一原発に近いところで暮らしたいという人もいて、そういう人がここにいます。

 

最後に2016年春までに分かっている、事故収束に関する国家予算の概数をみていくと、廃炉に2兆円、賠償に7.1兆円、除染・中間貯蔵に3.6兆円、合計で12.7兆円ほどになります。賠償は支払いの動きがピークを過ぎつつあります。

 

一方、除染は今後、線量が高く手付かずだった帰還困難区域や、除染が難しい山林に手がつけられることになりますが一定の予算の増加があるでしょう。廃炉も今後の技術開発の必要性等に応じて状況は変わります。

 

 

オンサイト/オフサイトを歩く

 

粥川 はじめまして。ライターで編集者の粥川準二と申します。この「廃炉図鑑」の製作にも少し協力させていただきました。

 

僕自身は放射能関係のデータはそれなりに知っていたつもりでしたが、本書を読んで改めてオンサイトやオフサイトの現場を把握することができました。どこからでも読める構成になっているので、ニュースで気になったことがあればパッと調べばれるのが良いですよね。文字通り「図鑑」ということで写真やイラストも多く、必要な情報がとてもコンパクトにまとめられているなと感じました。

 

本の感想はこれくらいにして、ここからは先ほどの開沼さんのお話を補足するような形で、福島を訪問したときの写真とともにお話していきたいと思います。

 

まず、オフサイトです。これは去年の8月に開沼さんのガイドで福島県の楢葉町を訪れたときの写真です。楢葉町はこの後2015年9月に避難解除されました。

 

 

 

2015年8月10日、楢葉町 (写真:粥川氏提供)

2015年8月10日、楢葉町
(写真:粥川氏提供)

 

この時点で楢葉町役場の前にはこのような仮設商店街ができており、作業員の方をはじめ多くの方が行き来している様子が伺えました。

 

新しく進出する民間企業もあり、身近なところでいうと何軒かコンビニができていました(最近はオンサイトにできているようです)。これは浪江町役場前のローソンで、2014年の8月に開店したそうです。

 

 

 

ローソンの浪江役場前店(この時の営業時間は午前7時〜午後6時) (写真:粥川氏提供)

ローソンの浪江役場前店(この時の営業時間は午前7時〜午後6時)
(写真:粥川氏提供)

 

また、周辺の除染作業もなされているようでした。

 

 2015年8月10日、富岡町 (写真:粥川氏提供)

2015年8月10日、富岡町
(写真:粥川氏提供)

 

これは富岡町で撮影した、被ばく線量の記録です。他にもオフサイトにはたくさんのモニタリングポストがあり、リアルタイムの空間線量を知ることができます。ここでは一時間あたり0.28マイクロシーベルトと記されていました。除染目標基準の年間追加被ばく線量である1ミリシーベルトまであと一息というところだったと思います。

 

次に、オンサイトの方も簡単に見ていきたいと思います。私は開沼さんと一緒に今年の2月にオンサイトに行ってきました。

 

 

出典:『福島第一原発廃炉図鑑』176ページ

出典:『福島第一原発廃炉図鑑』176ページ

 

廃炉の作業員というと、多くの方がイメージするのは全身を覆うタイプのカバーオールの防護服かもしれません。これは一番リスクの高いところに入る時だけです。誤解してほしくないのは、オンサイトのすべてのエリアでこのような防備をしなければいけないのではありません。構内の8割くらいでは一般服での作業が可能のようです(「廃炉図鑑」、176頁参照)。

 

 

福島第一原発の(左)2号機、(右)3号機

福島第一原発の(左)2号機、(右)3号機

 

1〜4号機の中で事故前の姿をとどめているのは2号機です。水素爆発は免れたものの、内部の圧力容器が破損し核燃料が溶け落ちてしまっているようです。今後は燃料取り出しのために上部の解体が予定されているとのことでした。その他、1号機、3号機においても燃料取り出し向けた作業が始められているということでした。(4号機は燃料取り出し完了)。

 

 

粥川氏

粥川氏

 

 

責任追及か、課題解決か

 

粥川 こうした福島の現状認識といったときに、私はいつもネット上の反応などを見ていて感じることがあります。福島に限らず、STAP細胞や環境ホルモンの議論などでも同じようなことが言えるかもしれません。

 

それは「情報が隠蔽されているんだ」「ちゃんと公開しろ」というような責任追及を優先する人々と、課題解決のための現状認識を進めようとする人々との間にすれ違いが起きているのではないか、ということです。

 

ここで問題なのは、責任追及ばかりを優先すると課題解決のための事実関係が軽視されてしまう恐れがあるということ。逆に言えば責任追及を疎かにすると、それに我慢できない人も出てくるのだと思います。

 

開沼 ご指摘の点、非常に重要です。福島では誤情報による混乱、デマ・差別の問題など「二次被害」と呼ぶべき問題が具体的に起こり、その被害は深刻化しています。

 

福島に関する諸問題の解決を遠ざける背景に、「事故検証・問題解決」と「事故責任の追及」とを混同し、特に後者の側に立つならば、事実の誇張、極端な解釈、デマも差別も許されるという態度で議論を意図的に混乱させる者がいまも存在することは間違いありません。「事故検証・問題の解決」と「事故責任の追及」とを明確に区分けしながら議論を進めなければいけません。

 

福島の問題に関しては、ジャーナリズムが誤報を、アカデミズムがニセ科学をいまでも産み出し続けています。『福島第一原発廃炉図鑑』の中でも、様々な形でその点について具体的な言及をしました。

 

そのような不健全な状態になった背景には、適当なことを言う少数者が大手を振って歩ける特異な言論環境が存在します。それはいかなるものか。誰かが福島の問題に言及した瞬間、「それは責任追及になっているのか?」という踏み絵を踏まされ、少しでも「責任追及」に不利になりそうな内容が含まれた瞬間、お前は敵である、社会的悪だと吊るし上げられる。

 

本来の、科学的な合理性や、そこに生きながら何らかの課題を抱えて困っている人にとって意味あることなのかという倫理性の問題ではなく、イデオロギーにもとづいた擬似的な「倫理」の問題に回収されてしまう。自らが正義の側に立っているという責任追及の快楽に酔いしれる特殊な人に議論が独占され、その中で、事実を事実として見ようという人ほど福島のことを議論しなくなってしまうわけです。

 

いま必要な議論は何か。整理するために、「事故検証・問題の解決」と「事故責任の追及」という軸の他に、もう一つ「上から・外から現場感覚を軽視する」か「下から・内から現場感覚を重視する」かという座標軸を設定する必要があります。

 

今の状況は、責任追及志向かつ現場感覚がない人々によるデマや差別的な表現が広がっているせいで、そこにある人々の生活や課題解決の知恵がないがしろにされている状況が固定化しています。

 

しかし、この縦横2本の軸で分けた時に「責任追及・現場感覚軽視」の象限の他に、3つの象限があります。責任追及と現場重視は両立するし、課題解決のために上から・外から大所高所にたった議論をすすめることももっと必要です。

 

私たちの課題は、これまで不足してきた残りの3つの象限を繋ぎ合わせ、健全な責任追及と課題解決に向けていくことだと思っています。

 

こうした議論の偏りがなぜ生まれるのか、なぜこれほどまで、福島に関する議論において、「インテリ」や「リベラル」と目されていた人が狂い、差別に加担し、疑義を呈する人や異論を持つ人に対して言論弾圧と言っても過言ではないような言動を続けるのか理解できない、という方もよくいらっしゃいます。背景には、マックス・ウェーバー的な意味での「魔術」的な世界観が蘇ってきていると考えています。

 

たとえば、近代以前は伝染病が流行ったり天災が起きたりすれば、「神の怒りをかった故のたたりだ」などと魔術的な説明がされてきました。宗教的なと言ってもいいでしょう。それが近代になると、その魔術・宗教的な観点からなされていた説明の役割を学問が塗り替えていきます。不条理を条理として科学の言葉で説明していく、そして合理的な課題解決の選択肢を用意してきた。これが「脱魔術化」のプロセスでした。

 

しかし今、魔術化が再びリターンしてきているように感じます。科学が高度になりすぎて、多くの人々が「委ねざるをえない」感を抱く。そして昨今のスピリチュアルブームなど、魔術化にもう一回振り子が戻っている。その中で、福島第一原発の事故は起きました。そして、福島をめぐる議論は非常に魔術的に処理されてきました。ここには二つのパニックがあると考えます。

 

一つは現場をマネジメントする側や専門家サイドが災害の中で、高度に発展した科学とそれが政治・社会に及ぼす影響を制御できなくなり、状況を正確に伝えることができなくなるなど対処不能な状態になっていったという「エリートパニック」です。

 

そしてもう一つが「モラルパニック」。SNSなどにおける責任追及中毒とも言えるような論争のなかで、魔女狩り的に、とにかく敵と悲劇をでっち上げながら徒党を汲むことで、自らの不安に蓋をしようとする。そのためにはどんなデタラメ話でも饒舌に語り続ける。

 

これら対立するようで、根底にあるものは通じている双子のパニックが存在し事態を混乱させてきた状況です。

 

この二つのパニックのなかで、先に述べたとおり、なされるべき議論が活性化されないままに来てしまったのではないでしょうか。冒頭に少しだけ触れた放射線忌避の問題はモラルパニックの最たる象徴ですし、廃炉の問題においてはエリートパニックから始まった不信感が状況をよりややこしくしていると思います。

 

こうして科学が無効化されていく。そして無効化され魔術的な言葉で語られ、イデオロギー化されてしまう。そのイデオロギーに少なからず含まれる陰謀論と終末論の傾向、グラデーションはあるにせよ、その極論を端的に言うならば「福島は汚染され、そこに生きる人は皆病気になりバタバタと死んでいく。その汚れているはずの福島が復興してしまうと自分たちの理想が成立しないことになって困ってしまう」という傾向をどう乗り越えていくのかが大きな問題だと思います。

 

 

福島を語ること

 

開沼 ここで、会場に来てくださっていた共著者の吉川彰浩さんにもお話をお聞きしたいと思います。吉川さんは、東京電力に14年間勤めており、事故前から福島第一原発、第二原発で働いていました。そしてあの時に帰還困難区域に居住していた住民でもあり、今も避難生活をされています。現在は退職され、廃炉の現状を伝える活動をされています。

 

吉川 ご紹介ありがとうございます。今日はお客さんの一人として来たので、何も準備していないのですが、お二人のお話を聞いていて感じたことだけお話ししたいと思います。

 

私は福島第一原発で働いていた経験があります。この本を作った経緯は、「そこで暮らす人間として、より良い未来のために今何ができるか」を考えたからです。しかし、事故を起こした責任追及ばかりが取り上げられてしまうと、放射性廃棄物の量の課題、廃炉の技術的な課題がおざなりになってしまいます。

 

やはり、いくらアカデミックに解き明かそうとしても、そこに当事者がいなければズレた見方になってしまうんだなと感じました。何か一つに突出して語られていくことは、まさに問題の渦中にある人たちにとっては非常に重苦しい机上の空論に聞こえるのです。

 

そして、現地で暮らしている住民の立場から一つ言います。私は地域を語るときに、いろんな視点を持ってもらいたいと思います。

 

津波で大きく壊れた家や、震災から何も変わっていない風景――オフサイトを訪れる多くの方はそうしたところを写真に撮っていきます。他にもいろいろな景色がある中で、悪意がなくとも敢えてそこを選んでしまうわけです。私は、福島で撮られてきた写真を見てもそれが全てだと思わないで欲しいです。また、自分の家の写真が知らないところで共有されているとどんな気持ちになるのか考えてみて欲しいです。住んでいる人々からすると、そこは生活の場であり思い出の場所なんです。

 

「震災の遺産として瓦礫を残そう」なんて話も聞きますが、私たちは壊れた家は直して、新しい街を作っていきます。だから、写真を撮る側の方ももう少し配慮ができればいいし、地域の人も撮っちゃいけない理由をちゃんと伝えなければいけないと思います。

 

私も被災者の一人として、時々面倒くさいことを言ってしまうときがあります。「地域の人の思いを知ってほしい」ということを言ったつもりが、相手を傷つけてしまったり。でも本音のお話をすると、震災から5年が経って訪れる人も少なくなり、なんとなく人恋しい気分なんです。だから是非、福島に遊びに来てほしいと思います。

 

 

吉川氏

吉川氏

 

 

開沼 こちら側もアップデートされていく最新の情報にアクセスできる環境を作っていく、あるいは「福島に来ていいんだよ、語っていいんだよ」という雰囲気を作っていく必要がありますね。

 

「委ねざるをえない感」を解消していく、その受け皿をつくっていくために、私たちは民間・独立の調査研究プロジェクトを始めました。この本だけでは伝わらないところや最新の情報を発信していけるよう、福島第一原発内部の状況や関係者の言葉、周辺地域で暮らす人々の現状を記録映像として残していこうというプロジェクトです。

 

現在、その資金調達のためクラウドファウンディング(下記リンク)を行っています。10月19日までです。廃炉の現状を誰でも分かりやすい形で伝え、そこに関わっていく機会をつくることを目指して、今後も取り組んでいこうと思います。

 

「福島第一原発のいまを調査して世界に伝えたい! 世界初、民間・独立の調査研究プロジェクトがその実態を記録し発信する」

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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