なぜ外国人技能実習生は自ら働きすぎるのか――過重労働をめぐる日本との構造的な違い

あるフィリピン人技能実習生の死から考える

 

電通の女性社員の自殺が労災認定されたニュースをきっかけに、長時間労働の問題が注目を集めている。そんな中、2014年に心不全で亡くなったフィリピン人の外国人技能実習生が過労死認定されるというニュースが流れた。

 

外国人技能実習生制度を「現代の奴隷制度」と非難する論調はかねてより根強くあったものの、このニュースを受けて「企業名を明かすべきだ」「日本の長時間労働文化の犠牲者だ」という指摘が数多く見受けられた。しかし、現場の実情を熟知した上で企業や制度を批判している人はそう多くないのではないか。

 

かつて、私は外国人技能実習生制度に基づく機関に関わっていた。技能実習生に関わる団体設立の申請や関係機関との折衝、外国人技能実習生候補数百名の海外現地面接もした。

 

現場を見ると、「長時間労働を課した企業名を明かして、当該企業をつるし上げる」ということだけでは技能実習生制度の課題点は改められないばかりか、実習生にとっての弊害すら生じるのではないかと思える。じつは、技能実習生自身が長時間労働を強く希望する場合が多いのだ。入国したばかりであっても、ほとんどの実習生は「残業」という単語を知っていて、法令関係講習の際にも、「残業」の項目を伝えるときにはとても真剣にメモを取る。彼らがそれほど「残業」にこだわる理由はやがてわかった。

 

海外に目を向ければ、Brexitやトランプの数々の発言からも窺えるように、移民や外国人労働者の問題は、現代社会でつねに議題になる大きな問題だ。しかし、日本においては外国人労働者の問題についてあまり議論されることがない。身近な外国人労働者がどのような背景や立場で働いているのか、意識して学ぶ人もそれほど多くはないはずだ。

 

本稿では、外国人技能実習生制度の現状と、長時間労働を含む構造的課題を明らかにするとともに、「アジアの先進国であることとはどういうことなのか」を考えてみたい。

 

 

アジアの若者が日本で働くための狭き門

 

 

日本で外国人が働けるカテゴリーは5つある。2015年度、日本に在留して働く90.8万人のうち、大学教授やコックなどの特別に熟練した技術によって招聘された外国人が16.7万人である。そのうち10年以上継続して在留した永住者や、日系人などの定住者を併せると36.7万人。定住者は職種を限定せずに働くことができるが、外国人が正式な手続きを踏んで定住権を得ることは簡単ではない。また、19.2万人が日本の大学に通学しながら非正規のアルバイトをしている。そして、外国人技能実習生は16.8万人である。その他、ワーキングホリデーなど、厳密には労働ではない活動をする外国人も1.3万人が在留している。(厚労省ホームページ内資料より)

 

つまり、海外から招聘されるほど特別熟練したスキルのない外国の若者が日本で働くためには、正規雇用ではない学生アルバイトをのぞくと、技能実習生になるしかないということになる。外国人にとって日本で働く門は非常に狭いということがわかる。

 

 

「教育」と「労働」の狭間で

 

厚生労働省HPより引用

厚生労働省HPより引用

 

 

外国人技能実習生制度の目的は「技能等を開発途上国へ移転し、その国の人材育成を目的とした国際協力・国際貢献」であり、これは制度がはじまってから今まで変わっていない。つまり、制度の目的はあくまでも出稼ぎ労働ではなく、海外への技能移転を目的とした教育ということになる。

 

今日の制度の原型は、1993年の「外国人研修制度」に遡る。研修生は入国後一定期間、おもに座学によって技能の基礎知識を学び、移行試験を経て各企業で実習をするものの、当時の研修生たちの在留資格は、現在のワーキングホリデーなどと同じ「特定活動」であり、労働者ではなかった。そのため労働関係法令が適用されなかった。「勉強のために実習させてやっている」という解釈から、実質的に労働者として働きながらも法的保護の対象にならず、最低賃金や残業手当を支払われないなどの問題が多く起きた。

 

このような外国人研修生の実態を改善すべく、2010年7月に法改正が行われた。このとき創設されたのが、「技能実習(1号、2号)」という新たな在留資格である。これ以降、制度を利用して実務に就く外国人は「研修生」ではなく「技能実習生」と呼ばれるようになった。在留資格「技能実習(1号、2号)」は、「理念上はあくまでも教育を受けるために来日しているが、事実上労働関係法令が適用される労働者」という特殊な資格である。

 

このように技能実習生の「教育と労働」という二面性を保つため、技能実習生を企業が雇用する際には、最長3年間の在留期限や74種類の職種制限などの特別なルールがある。これらのルールを監視するために、法務省、外務省、経産省などの関係5省は共管で公益財団法人JITCOを設立した。

 

 

日本の人手不足を支える技能実習生

 

外国人技能実習生受入れ可能業種一覧:厚生労働省HPより引用

外国人技能実習生受入れ可能業種一覧:厚生労働省HPより引用

 

 

技能実習生の受入れ形態は2種類あるが、うち96.1%は団体監理型といわれるタイプである。事業協同組合などの国内受入れ団体が、海外の送出し機関と契約して外国人実習生を受け入れ、職業紹介事業の一環として各企業に実習生を紹介し、実習生は各企業と雇用契約を結ぶ。企業が海外の契約企業などの職員を受け入れて実習を行う、企業単独型は4%に満たない。

 

つまり、外国人技能実習制度に関わる機関は4つということになる。まず、海外で実習生候補を募集して日本語などの基礎的な教育を施し、日本に送り出す「送出し機関」。そしてその実習生の雇用先を募集して実習生を受け入れ、日本での教育や実習生の生活などの監理をする「監理団体」、実習生を雇用する企業は「実習実施機関」と呼ばれ、前述の「JITCO」は国内での受け入れや実習実施の状況を監視・指導する。

 

これらの機関の中で、公費で運営されているのはJITCOのみである。実習実施機関は日本の労働関係法令に基づいた賃金を実習生に支払うと同時に、監理団体に管理費として毎月一定金額を支払い、監理団体はその中から送出し機関に毎月一定金額を支払う。その他、監理団体職員が実習生の現地面接をするための渡航費用や、実習生が入国する前に現地送出し機関が日本語などの基礎教育をするための費用、実習生の往復の渡航費用、実習生が入国した直後1か月の生活費や監理団体での座学教育費用なども、すべて原則として実習実施機関が負担するケースが多い。

 

このように大きな負担をしてでも技能実習生を受け入れている業種は、農業、婦人服縫製工、溶接工が突出して多い。いずれも若い人手が不足していたり、体力的に負担の大きな仕事であったりといったものだ。

 

 

3年で貧困を断ち切るという覚悟

 

ここで、今年公開された日本の過労死白書を見てみると、過労死ラインといわれる月80時間以上の時間外労働が多い業種は「情報通信業」と「学術研究、専門・技術サービス業」の2種をあわせて85%を占めている。日本人が過労死するほど長時間労働をする文化的特徴は、とくにこの2職種において顕著だということだ。技能実習生が多く雇用されている農業や繊維工、金属工といった業種の間で、とくに長時間労働文化が蔓延しているというデータは出ていない。

 

つまり、通常であれば過労死するほど長時間労働を強いられない業種において、技能実習生だけが長時間労働をしている可能性が見えてくる。しかし、これは必ずしも技能実習制度に関してよく言われるような「技能実習生を奴隷扱いしている」ということではない。この状況には2つの背景がある。【次ページにつづく】

 

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