なぜ外国人技能実習生は自ら働きすぎるのか――過重労働をめぐる日本との構造的な違い

まず1つ目は、技能実習生の本国での収入が日本に比べて非常に低いという点だ。実習生送出し国は、中国、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国である。近年、中国の収入や物価の上昇が報じられることが多かったが、大半の実習生の出身地である農村部における平均年収は8~10万円と言われる。

 

私が関わったインドネシアの実習生が面接時に教えてくれた年収は2万円が最高で、5000円という者も少なくなかった。日本の最低賃金は2016年度もっとも低い都道府県で時給714円。この賃金で1日8時間、週5日勤務した場合の年収は137万円で、これは実習生が本国で10年、国によっては60年以上かけて稼ぐ金額になる。

 

実習生候補に志望動機を聞くと、自分自身が土地を買って農業をしたいという他に、「結婚して子供ができたら、教育を受けさせて都会できちんとした職に就かせたい。貧しさは自分の代で終わりにしたい」と答えることも多い。現地に行くと、農村部の多くの人々は自分で土地を持たず雇用されて農作業をし、わずかな現金収入で生活をしている。子供に高等教育を受けさせる余裕がない家庭も多く、高等教育を受けずに都市部で就職をすることは難しい。

 

現在多くのアジアの若者はこうした世代間の貧困の連鎖に苦しんでいる。実習生やその家族にとって、日本で3年間に稼ぐ金はその連鎖を断ち切れるかもしれない大きな希望となる。さらに、土日祝日や夜間の残業は割増賃金になるという法律を基礎教育の際に知った実習生にとって、「土日祝日、夜間の残業は多くできるのか」ということは大きな関心事だ。企業に配属される前の講習の際、実習生からは「残業代は割増になるというのは本当か」「自分が雇用される企業ではどれくらい残業ができるのか」という質問が必ずあがる。

 

実際に実習が始まってからも、「他の県にいる実習生はもっと残業をさせてもらっている。自分はなぜもっと残業をさせてもらえないのか」と詰問されたことも何度もあった。実際に残業の有無で実習生間の月給に倍以上の差が出ることもあるため、実習生にとっては大きな問題だ。

 

2つ目の背景として、実習生があらかじめ送出し機関に多額の金を支払っている実態がある。表向き、実習生が送出し機関に保証金を支払うことは法律で禁じられている。しかし、実際は日本渡航前の講習費用などの名目で、ほとんどの実習生は送出し機関にあらかじめかなりの額を支払っている。

 

表に出てこない海外機関の内輪での費用なので統計データはないが、私が聞き取った範囲では日本円で30万円前後であることが多かった。聞き取り対象者の本国はインドネシアとベトナムだったので、前述のとおり年収の平均値を1万円とすれば約30年分の収入になる。彼らはこのお金を親族や村の住民に借りて、日本でもらう賃金の大半を送金しながら返済している。

 

これも実習生が執拗なほどに残業にこだわる大きな理由の1つだ。本国の賃金ベースでは到底返済できないほどの多額の借金を抱えて来日しているため、仮に体調を崩しても途中で帰国するわけにもいかず、多くの実習生はケガや病気すら隠したがる。これも過労死につながる深刻な問題だ。

 

前述のJITCOの監視や指導が届くのは国内の機関に限られているため、海外の送出し機関が実習生から費用を徴収することを直接咎めることはできない。また、送出し機関を運営しているのは中国を除いて多くが元政治家や大臣であり、日本との国際関係を鑑みて厳しい措置を求めにくいという事情もあるだろう。

 

こういった事情から、企業側に残業の希望を出し続けている実習生が多い。企業側はむしろ実習生の厳しい事情を知っているからこそ、無理に仕事を作ってでも夜間に作業をさせているケースすらある。

自分自身や家族、村の仲間の将来のためにと渡航して働く実習生の過労死は痛ましく、なんとしてでも防がなければならないことだ。ただ、日本人を半強制的に長時間労働させて過労死に追いやるという日本の企業に蔓延する長時間労働文化の弊害と、自ら長時間労働を買って出なければならない外国人技能実習生の背景にある構造的問題とは、このように文脈が違う。

 

両者を同じ俎上に乗せて、問題が目に見えやすい受け入れ企業のみを槍玉にあげ、「過労死を出した企業名を公表せよ」「日本の長時間労働文化が技能実習生にも被害を及ぼした」と非難するのはいささか性急に過ぎるのではないか。

 

 

アジアの先進国として技能実習生を知る

 

外国人技能実習生の労働環境は決して恵まれたものではない。居住空間1つとっても、日本人労働者と違って実習生の住居は企業が用意することとされているため、経営に余裕がない企業に紹介されると、狭い空間に何人もが同居させられるような問題も起こっている。日本人労働者以上に嵩む様々な福利厚生費用に関して特別な税制上の優遇措置があるわけでもない。

 

「実習生も企業も苦しいならば実習生制度なんて廃止してしまえばいい」という意見もたびたび目にする。しかし、農業や婦人服の縫製など、自身と家族の将来を賭して決死の姿勢で働く実習生がいてこそ成立している業種が、われわれの社会の一端を支えていることも目を背けてはならない事実である。

 

今後さらに技能実習の業種として「介護」が加わる見通しだ。若い人材が慢性的に不足している介護業界で技能実習生が活躍することが期待されるが、同時に彼らが背負っているものや構造的課題についてもより広く深い議論をする必要があるだろう。

 

戦後復興から驚くべき経済成長を遂げた日本は、いまや経済が停滞し、世帯間格差が広がっているとはいえ、依然アジアにおいては有数の富裕国であり続けている。アジアの若者が貧困から脱するために日本で収入を得たいと望めば、今のところは事実上技能実習生になるしかない。

 

であるならば、彼らが実習期間を無事に過ごし、日本で先進的な技術を学んで、正当な労働対価をもって貧困の連鎖を断ち切り、本国で人生のリスタートを切れるようなサポート体制が望まれる。いたずらに受け入れ企業を批判して孤立させるのではなく、制度の健全化とともに実習生に対する福利厚生を充実させられるような仕組みを作ることも、アジアにおける先進国に生きるわれわれの責務であるともいえるのではないだろうか。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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