「カジノ法案」成立――ギャンブル依存の実態と対策

ギャンブルに対する複合的な欲求

 

荻上 実際にギャンブル依存に当てはまる方とはどのような方なのでしょうか。

 

佐藤 アメリカの精神医学学会出版のマニュアルには、ギャンブル関連の問題を抱える方の診断項目が、比較的わかりやすく記載されています。日本でも頻繁に使われている代表的な診断表です。こちらでは全9項目の内、4項目以上当てはまる場合をギャンブル依存の傾向があると考えます。以下の項目です。

 

1.興奮を得たいがために掛け金の額を増やしてギャンブルをする欲求。

2.ギャンブルをするのを中断したりまたは中止したりすると落ち着かなくなる。またはイラつく。

3.ギャンブルをするのを制限する、減らす、または中断するなどの努力を繰り返し、成功しなかったことがある

4.しばしばギャンブルに心を奪われている。

5.たとえば無気力、罪悪感、抑うつなどの気分の時にギャンブルをすることが多い。

6.ギャンブルで金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い。

7.ギャンブルへののめり込みを隠すために嘘をつく。

8.ギャンブルのために重要な人間関係、仕事、教育または職業の機会を危険にさらし、または失ったことがある。

9.ギャンブルによって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む。

 

荻上 田中さんは依存症当時のことを振り返ると、いくつ当てはまりますか。

 

田中 9個全部あてはまります(笑)。

 

荻上 ギャンブル依存を隠すために嘘をついたりしたんですか。

 

田中 つきました。ギャンブルに行ってないように振舞ったり、「借金まではしないよねー」なんて言ってるけど、実際は借金だらけだったり。家族にも、同じくギャンブル依存だった夫を除けば一切話さなかったです。

 

荻上 逆に依存症になっていたご家族に嘘をつかれたことはありますか。

 

田中 しょっちゅうでした。例えば祖父などは、買い物に行くと言ってパチンコに行っている。病院に行くと言って帰ってこない。頻繁にありましたよ。

 

荻上 ギャンブルで仕事や人間関係に悪影響を出したことも?

 

田中 ええ。夜中までギャンブルをしてて、朝起きれず嘘をついて会社をさぼったり。大きなレースなど我慢できず、風邪だと嘘をついたりもしました。

 

荻上 レース前は楽しみにしているんですか。どちらかというと不安感なのでしょうか。

 

田中 自分の中でも、行ってはいけないと自制する気持ちと、それでもスリルや興奮感が我慢できない気持で引き裂かれるような思いでした。お金を儲けるよりも、スリル感や現実逃避のような感じで没頭していたと思います。

 

 

佐藤氏

佐藤氏

 

荻上 実際に逃避の感覚を持って相談に来られる方は多いのですか。

 

佐藤 そうした方もいらっしゃいます。しかしたずねてみると、患者さんごとに理由はかなり異なります。お金が欲しかったと言う方は多いのですが、当然これだけお金の問題を抱えている状態で、お金が欲しくてギャンブルをしていたというは理論的に矛盾しているわけです。よくよく聞いてみると、スリルや予想を当てる推理欲求、現実逃避、「勝つまで終われない」など、さまざまな本来の目的が浮かび上がってきます。

 

多くの方に共通するのが、上記のような目的を“同時に複数”求めている点です。しかしギャンブル依存の方の多くは、自分が何を求めてギャンブルをしているのか、ほとんど自覚していません。結果として、使うつもりのなかったお金を無自覚のままギャンブルにつぎ込んでしまうということが起こります。

 

荻上 不安感の有無に関わらずギャンブル依存になる可能性がある、それぞれ理由は異なるということでしょうか。

 

佐藤 そうですね。自身が求めているものが自覚できると、対応策も「ただガマンするだけ」ではないことが理解してもらえるようになります。余暇の過ごし方などは、とても重要です。日常生活でストレスを抱えやすい人、ギャンブル以外の趣味の少ない人などは、リスクが高いと思います。多趣味な方だと、自分の状況を客観的に「危ない」と思った時点で、他の趣味に切り替て依存を回避できる可能性が上がります。ギャンブルに複数求めている目的(欲求)の一部ずつを他の行動(趣味)に置き変えていくと、抵抗感なく問題が軽減していく方もいらっしゃいます。

 

荻上 リスナーからはカジノに限らず、パチンコなどの現在のギャンブルに関連した依存症についても議論すべきだという声が届いています。国会でも議論はまだカジノ依存に限定されている印象がありますが、カジノと他のギャンブルと、依存のしやすさに違いはあるのですか。

 

田中 私見ですが、競馬などでは他人の掛け金はわかりません。しかしカジノだと周囲の人の掛け金がわかる。そのせいで煽られてしまい、どんどん掛け金が上がったり、金銭感覚が狂ってしまう部分があるかと思います。また、カジノだとセレブでおしゃれなイメージがあり、ハードルが低い。これまで競艇場などには入りにくい印象を持っていた女性のギャンブラーが増えるのではと考えています。結果、依存症になる人も増加するのではと危惧しています。

 

 

ギャンブル依存への社会の理解が不可欠

 

荻上 これまで国はギャンブル依存の方への支援を行ってきたのですか。

 

田中 国からの支援はほとんどありません。これには複合的な要因があります。ひとつには、競馬は農林水産省、競艇は国土交通省と、管轄省庁がばらばらだったことがあげられます。これにより一貫した対策が取れなかった。また、公営競技は推進と規制を同じ省庁が担当しています。これでは規制自体、そもそも無理があります。

 

加えて日本は自己責任論が強く、何かあっても人に言えない雰囲気があります。カミングアウトする事で仕事をクビになる不安など、依存症の人やその家族は問題を抱え込んでしまうことが多い。結果としてギャンブル依存への社会の理解も進まず、対策も遅れていると思います。

 

荻上 当事者団体や医療支援に対する国の支援はあるのですか。

 

佐藤 精神科医療機関では、既存の医療制度を活用した形で、ギャンブルの問題への対応は可能ではあります。ギャンブルにより経済的破綻した方は、生活保護制度を利用することもあります。とはいえ、国からギャンブルの問題に特化した支援はありません。支援制度の見直しは必要だと考えます。

 

荻上 自治体レベルでの支援はいかがですか。

 

佐藤 そもそもギャンブル問題に理解のある地域資源に、かなり大きな格差があります。自治体によっては、関連機関でどんなサービスが受けられるのか、しっかり把握しており、ギャンブル依存の問題を抱えた人へ適切な支援への結びつけが行われているところもあります。10年前と比較しても、全国的に状況はずっとよくなっていると思います。しかし、支援体制が十分に整っていない自治体が多いことも否めません。

 

荻上 当事者団体としては国や自治体にどんな支援をして欲しいとお考えですか。

 

田中 1番はギャンブル依存が病気と認識され、相談しやすい環境をつくるための啓発活動に力を入れていただきたいです。たとえば依存症の話をする際、多くが「アルコール・薬物等」と言われます。物質依存への啓発には繋がる一方、ギャンブルなどの行為に対する依存については取りこぼされています。「等」の中にギャンブルが入ると思いつきません。私自身、以前はギャンブル依存者を支援するための医療機関や相談所があると知りませんでした。啓発活動には予防教育が必要です。小学校でギャンブル依存に関する問題を取り上げたり、関連する研究への助成、実態調査などをしっかり行っていただきたいです。

 

依存症の人がギャンブルをやめるのは大変なことです。私の場合、4年もの期間苦しみながらも、自助グループのサポートでどうにかやめることができました。依存症の改善には支援が重要です。こうした団体や医療機関への援助も進むといいと思います。

 

荻上 ギャンブル依存から脱するためには、一切ギャンブルをしなくなることが必要なのでしょうか。

 

佐藤 私自身はそうしたこだわりを持っていません。家族に連れられて来院した方が受診を通して次第に考えを変えてやめていく場合もあります。「やめるために病院へ」というよりは、お金を使い込んでしまったり、なんとなく自制が利かなくなっている違和感に対する気軽な相談所のつもりでやっています。

 

近年海外では、これまでの「やめる」か「依存」かの二極的なものではなく、ハーム・リダクション(Harm Reduction)という「害を減らす」ことを目的とした支援が行われています。日本でもこうした目線での議論ははじまっていて、より柔軟な支援へ繋がるのではと期待しています。

 

荻上 海外でのギャンブル依存への対策にはどのようなものがあるんですか。

 

佐藤 問題がある人に対応できる資源については、国内にある自助グループ、リハビリ施設など、諸外国においても大きくは変わらないと思います。ただ、ギャンブルは国ごとに種類や規制の度合いが異なり、各国での実情にあった対応が必要になります。したがって支援の状況も異なる。一概に言うのは難しいです。

 

荻上 各国の対策からヒントを得て、国内でも状況にあった支援体制を築くことが必要ということですね。田中さんは海外のギャンブル依存対策にどのような印象をお持ちですか。

 

田中 どこの国も子どもを守ることに力を入れている印象があります。シンガポールでは、トトのようなくじもギャンブルとされていて、購入のため子どもを連れて並ぶことすら禁止されています。広告も自国内の子どもの目に触れないように設置場所に規制がかけられている国が多い。

 

逆に日本は公営ギャンブルで家族イベントなど開催したり、敷地内に遊び場を作ったり、子連れを狙ったものが多い。子どものころからギャンブルなじむための環境づくりを推進しています。実際、仲間内では幼少期に親に連れられてギャンブルに行っていた話しを多く聞きますし、こうした環境下ではリスクが高まると懸念しています。

 

荻上 リスナーからは、本来違法であるはずのギャンブルが、政府が執り行うと合法になることへの疑問や、反対にギャンブル全てを悪とするような議論は単純すぎるという指摘もきています。

 

田中 違法だから全部なくす、というのは難しいと思います。現状で言えば、ギャンブルを認めてしまった以上、せめて依存症への対策は万全に行って欲しいと思っています。

 

荻上 買い物依存、ネット依存などがあるからといって、ネットや買い物を規制すべきかといえば、それは別問題ですからね。それと同様、ギャンブル自体の議論と、依存症の議論を切り分ける必要があるということでしょう。

 

田中 線引きは必要だと思っていますし、私自身はギャンブル産業の是非と依存症の問題は切り離して考えています。

 

荻上 佐藤さんはいかがですか。

 

佐藤 ギャンブルの是非もですが、何よりこれを機会に、こうした支援対策に関する議論が自由闊達に行える環境が広がっていけばいいと思っています。

 

荻上 カジノを認めるならば、懸念への対策をしっかり固めることが重要ということですね。さらにいえば、従来のギャンブルの論点整理、そして他の依存症も含めた総合対策が求められると思います。田中さん、佐藤さん、本日はどうもありがとうございました。

 

 

 

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