どんな住まいがエコなのか ――「都市の環境倫理」再論

日本の「エコ住宅」はエコではない ――石渡正佳

 

2013年5月に行われた講演のなかで、石渡正佳氏(産廃Gメンとして名を馳せた千葉県職員)は、建築家バックミンスター・フラーの理論に基づいて、現在の日本のエコ住宅を痛烈に批判した。その時の講演の要旨は、吉永明弘編『都市の環境倫理 資料集』[非売品]に掲載されている。以下では、その中から関連部分をさらに要約して引用する。

 

フラーの理論によると、住宅の環境性能は「資材の効率」と「空調の効率」にある。いかに少ない資材で家を建て、いかに少ないエネルギーで空調を稼働させるかにある。そのためには、居住空間あたりの表面積が小さい方がよいことになる。表面積が大きいと資材も必要だし、エアコンの能力も高くなければならない。そうすると、巨大な建築のほうが環境性能が良いことになる。体積が大きくなればなるほど、表面積の割合が小さくなっていくからである。そこから集合住宅のほうが環境性能が良いということが導かれる。

 

逆に、戸建て低層住宅は居住空間当たりの表面積が大きくなる。マンションなら、(角部屋以外の)各戸が外気に触れているのは1面だけであり、エアコンの設置は1台で済む。しかし戸建て住宅は5面が外気に触れており、表面積は5倍違うことなる。エアコンは5台必要かもしれない。さらに和風建築は窓が大きいのでエアコンの能力が高い必要がある。屋根に太陽光パネルを載せていても、日射効率は10%程度で10KWの能力を持っていても1KWしか発電しない。さらに低層住宅は密集するので、緑の少ない街ができあがる。自然の環境ができないため、風の来ない街になる。個々の住宅はエコを謳っているが、街としてみると最低の環境性能を持っている。これを部分最適化と全体最適化の矛盾という。

 

このように、石渡氏は、スマートシティを実現するには集合住宅を建てるべきなのに、現在の日本では戸建て住宅でそれを実現しようとしていることを批判し、そもそも日本の低層戸建て住宅はエコハウスどころか環境上は最低の建築物であると喝破している。

 

逆に、日本の伝統集落はエコだったと石渡氏は言う。大家族居住の大屋根建築は居住空間当たりの表面積が小さく、茅葺き屋根なので断熱効果が抜群に良いという。庇が大きいと遮光効果も高く、屋敷林に囲まれているので自然の冷気暖気の効果もある。これはフラーの理論によれば最も環境に良いつくりとされる。この議論からは、都市に集まって住むことだけがエコなのではなく、いわゆる「田舎暮らし」をした場合にも、伝統的な住まい方をきちんと継承できるのであればエコになる、ということが導かれるだろう。

 

 

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伝統的な日本建築こそが本当のエコ住宅である。

 

 

心がけではなく政策の問題

 

最後に付け加えたいのは、「エコな社会を実現するために都市の集合住宅に住む」ことや、「田舎暮らしをするにあたって伝統的な大型家屋に大勢で住む」ことを、個々人の行動に求めているわけではない、ということである。日本の環境倫理学の創始者である加藤尚武が言ったように、環境倫理学は「個人の心がけ」の改善を目指すものではなく、「システム論の領域に属するもので、環境問題を解決するための法律や制度などすべての取り決めの基礎的前提を明らかにする」ものだからである(加藤尚武『二十一世紀のエチカ』131頁)。

 

この点から、ウォーカーが、住宅のEFを減少させるには住宅の高密化を促進する政策が必要だと結論づけたことは重要である。問題は住宅政策のあり方なのだ。グレイザーによる「都市部の低層建築をつぶして高層ビルに建て替えるのをもっと容認すべき」という意見には留保が必要だが、「政府は、没個性的な郊外建て売り住宅を買うのに補助金を出したりせず、小さめの都市アパートに住むよう奨励すべきだ」というのはエコな政策提言といえよう。地方でも、エコ住宅という名の戸建て住宅の建設を推進するよりも、古民家や空きアパートの再生・活用に補助金を出したほうが、エコな政策となるだろう。

 

 

おわりに

 

本稿では、拙著『都市の環境倫理』で強調した都市の環境上の利点(公共交通の利用と集住)のうち、集住についてさらに考察していった。集住といっても、そのスタイルについてはさまざまな選択肢がある。都市計画の際に、高層建築を中心にするか低層建築を中心にするかは、環境負荷や土地利用効率の面では等価なので、その都市のあり方についての熟議の上で決定されるべきだというのが一応の結論である。

 

拙著に比べ、本稿ではエコ住宅や郊外戸建て住宅の問題性を強調した。近年では、さまざまな理由で地方移住を希望する人が増えており、地方も受け入れ態勢を整えている。それは地方の自然環境や社会環境を維持または改善することにつながるかもしれない。しかし、郊外に「エコタウン」を造成し、小型の戸建て住宅で「田舎」を埋め尽くすならば、地球環境にとっては最悪の結果になる。それを推進する政策はエコな政策ではない。これが本稿のもう一つの結論である。

 

(*ウォーカー論文に関しては、翻訳者佐藤綾子氏の援助を受けた。また、石渡正佳氏と和田喜彦氏には、講演会とインタビュー等でお世話になった。厚く御礼申し上げる。)

 

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vol.260 

・吉永明弘「都市に「原生自然」を残す――人新世の時代の環境倫理学」
・藤重博美「学び直しの5冊――「相対的な安全保障観」を鍛えるための読書術」
・赤木智弘「今月のポジだし――AIが支配する社会を待ち続けて」
・竹端寛「「実践の楽観主義」をもって、社会に風穴を開けていく」
・伊吹友秀「エンハンスメントの倫理」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(4)――東京財団退職後」
・加藤壮一郎「デンマーク社会住宅地区再開発におけるジェーン・ジェイコブス思想の展開」