所得や学歴で健康状態にも格差が?!――誰にでも起こりうる「健康格差」の実態とは

無意識で健康に過ごせるコミュニティづくりを

 

荻上 こんなメールもいただいています。

 

「いろいろなご家族と付き合う中で、低所得の家庭では安くて量と満足感がある食事を優先するためか、インスタント食品や、油っぽく味の濃い料理などをよく食べている印象があり、肥満の傾向が多く見られました」

 

肥満と健康格差には関係があるのでしょうか。

 

近藤 国際的に、所得階層の低い方に肥満が多い傾向が認められています。近年日本でもこうした調査行われ、同様の報告がされています。

 

荻上 アメリカなどでは以前から食生活と健康の関係が指摘されていました。ようやく日本でもこうした研究が進んできたということでしょうか。

 

近藤 日本社会は平等だというある種の思い込みがありました。調査する時に、所得や学歴尋ねることを快く思わない人が一定数存在し、日本における健康格差の研究がなかなか進まない部分がある。しかし政策として健康格差の問題に対処していくためには、正確な情報が必要です。社会に、その必要性の理解が広まり協力が得られる世論が広がっていくことが、健康格差対策には必要です。

 

荻上 最近では貧困や健康格差を、倹約の努力により対応できるとする論調もありました。健康的な食事や生活を管理する能力そのものが、健康格差の要因のひとつと解釈できるのでしょうか。

 

近藤 特に子どものうちは、何が健康的な食事なのか知識がありません。育てられた環境の中で、食に対する理解を深めていく。だからこそ、食育などを通じて、子どもに健康によい食事を教える取り組みも進んでいます。外で食事をする機会がないと、自分の家の食事に野菜が少ないことにも気づかない。いつもスーパーで買ったお惣菜で済ましていたら、料理の仕方もわからない。結果自分も同じような食生活を送り、健康的な食生活が身につかず、悪循環に陥ります。

 

荻上 子どもが家庭環境の中で学ぶ生活習慣が、大人になった後に実践する生活習慣に多大な影響があるのですね。こうしたことを踏まえると、所得の格差の是正だけでは、健康格差の改善には不十分な気もします。

 

近藤 今まで所得がなかった人がお金だけ得ても、それを有効に使う方法がわからず、必ずしも健康には繋がりません。単にお金を与えるのではなく、健康的に生きるために必要なノウハウや必要なものそのものを、直接提供するべきだという議論があります。

 

近藤氏

近藤氏

 

荻上 一方で、受益者としての自覚を持たせ、自立を促すために、多少なりとも金銭を支払うことが必要だとの意見もありますが。

 

近藤 子どもの医療費の自己負担をなくしたら受診が2割増えたというデータがあります。自己負担があると受診抑制が生まれることを示唆しています。子どもの医療費負担を減らす制度として、当初は償還制度と言って、窓口で一旦支払い、手続きをすると後で返金される制度を実施したある自治体では、あまり受診率が上がらなかった。後に現物支給型、つまり窓口での一時的な支払いもなしにしたら、効果的に受診率が上がったんです。直接的な支援の有用性を示しているでしょう。

 

荻上 健康格差是正のための対策については何が重要だと思われますか。

 

近藤 健康意識の低い方は普段から生活習慣が悪く健康診断にも行かず、病気になりやすくなるというサイクルがあります。東京の足立区では、健康に良い地域づくりをして、本人が、特別に意識や努力をしなくても健康な生活ができる環境を整えることに力を入れているそうです。こうした対策はとても重要だと思います。

 

足立区の例では、居酒屋でお通しに野菜が出てくるお店が増えいています。意識して野菜を頼んだものではないが、お腹も空いているのでとりあえず食べる。野菜を先に食べることで糖尿病の血糖上昇を抑えられるという報告があります。大変うまい取り組みですね。

 

荻上 市町村単位では取り組みが始まっていますが、限界があるようにも思います。社会全体の健康格差を是正していくための、国家レベルでの取り組みに関してはいかがですか。

 

近藤 私は、健康格差問題は時限爆弾だと思っています。今はまだ目に見えてはいませんが、貧困児童や非正規雇用者の増加、未婚率の上昇、学費の高さを理由にした教育の断念などの現象が日本中で増えています。こうした人々は将来病気にかかりやすい人たちです。したがって今後、医療費や介護費、場合によっては生活保護費も含めて、より多くの予算が必要になることが予想されます。

 

こうした問題は健康格差だけでなく、少子高齢化や人口減少の問題とも密接に関わっています。誰でもが安心して暮らしていける社会かどうか、健康格差はひとつの目安になる。健康格差がない社会を目指すことで、より多くの人が暮らしやすい社会づくりに繋がっていくでしょう。

 

荻上 個々人での対策や、意識の持ち方といった点ではいかがですか。

 

近藤 一番は社会に参加することです。多くの人と関わりを持つこと、笑うことなどが健康維持には効果的です。低所得でも、こうしたことが出来ている人は健康に暮らしているというデータも出ています。健康には心理的なストレスも大きく関わっていることもわかっていますので、ストレスを感じない居場所や活動を見つけて参加する。たいしたお金もかけず、誰でも出来ることなので、ぜひ実践して欲しいと思います。

 

もちろんこれだけでは限界がありますから、所得の再分配といった政策的な取り組みを社会に求めていくことも大切な取り組みになるでしょう。

 

荻上 虐待や貧困の問題では、現状を放置することで将来起こりうる税収の損失を試算して、早急に投資すべきだと指摘する声もあります。健康格差にも同じような側面があるのでしょうか。

 

近藤 共通の問題ですね。イギリスやアメリカでは、子どもたちへの投資こそが、実は経済的にも最も効率のよい投資だと考えられています。特に0~5歳の間は教育格差への影響が大きい上、対策の効果が大きい時期とされており、就学前教育として充実した対策が行われています。

 

最近は日本でもボランティアが無料塾を開催し、塾へ行く余裕のない家庭の子どもを教えたり、子ども食堂など市民コミュニティが主体となる取り組みが進んでいます。こうした活動が広まると同時に、政策として、生まれた家庭の環境で決まってしまわないような仕組みを構築することが重要です。すべての子どものスタートラインは、しっかり保障する社会になって欲しいと思います。

 

荻上 現行の政策や体制の見直しも含め、社会的に健康格差を埋めていく意識を作っていきたいですね。近藤さん、ありがとうございました。

 

 

Session-22banner

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.273 

・山本貴光「語学は裏切らない――言語を学び直す5冊」
・片岡栄美「趣味の社会学――文化・階層・ジェンダー」
・栗田佳泰「リベラリズムと憲法の現在(いま)と未来」
・渡邉琢「介助者の当事者研究のきざし」
・松田太希「あらためて、暴力の社会哲学へ――暴力性への自覚から生まれる希望」
・穂鷹知美「スイスの職業教育――中卒ではじまる職業訓練と高等教育の役割」