環境エネルギー社会への想像力と実践 ―― 自然エネルギー政策・市場の展開

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日本の自然エネルギー政策の失敗:新エネRPS

翻って、日本の自然エネルギー政策についても概観しておきましょう。日本は1990年代中盤からの電力市場自由化の議論を前段として、90年代後半から2000年代はじめにかけて、国レベルの自然エネルギー政策が経済産業省のもとで検討され、紆余曲折を経た後、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(通称:新エネRPS法)」を2002年に採用しています。

新エネRPS法は、電力供給量の一定割合を新エネルギーで賄うことを電力会社に義務づける制度です。前述の固定買取価格制が「買取価格を政治的に決定する」一方で、新エネRPS法は「買取枠を政治的に決定する」制度であり、いずれの制度においても高い導入目標値のもと、自然エネルギー技術毎の特性に合わせて細かく政策を微調整していくことが普及の要となります。

しかし、残念ながら新エネRPS法は当初2012年までに電力供給の1.35%、後の見直しの後2014年までに1.63%というきわめて低い目標値のもとで、本来すべきでない自然エネルギー技術間の競争を許してしまい、なおかつ電力会社の義務量達成手段には過度な柔軟性が与えられていたため、自然エネルギーの普及はむしろ抑制されてきました。

今後の中長期的な展望を考える上で、なぜ日本がこのような失敗に陥ってしまったのかを改めて検証しておくことが重要です。これについては、当時ドイツ型の固定買取価格制の法制化を目指した市民運動からの検証レポートを参照することをお勧めします。また、運動の中心的役割を担った「「自然エネルギー促進法」推進ネットワーク」の活動記録には、系統連系に関する議論も含め、今後ふたたび浮上するであろうさまざまな論点が網羅されているため、こちらも参照することをお勧めします。

 

 

失敗は繰り返されるか:日本版固定買取価格制

その後、2009年2月に経産省は家庭用太陽光発電の余剰電力に限定した、変則的な固定買取価格制の検討開始を急遽発表し、7月には「エネルギー供給構造高度化法」が成立しています。太陽光発電については、2005年に家庭用設置補助が打ち切られ、その後急速に市場が縮小したものの、この変則的な固定買取価格制と補助金の復活によって、2009年度の国内出荷は前年度2.9倍の54万kWという驚異的な成長を記録しています(表4)。制度としては不完全であるものの、この動き自体は、政策が市場の姿形を左右する「政策市場」という自然エネルギーの特徴を端的に表す良い事例としてみることができます。

 

 

表4. 太陽光発電設備国内出荷 データ: 太陽光発電協会

表4. 太陽光発電設備国内出荷
データ: 太陽光発電協会

そして、同年9月にはマニフェストに「全量固定買取価格制」を掲げた民主党への政権交代が実現し、プロジェクトチームによる制度の大枠の検討の後、経産省の新エネ部会買取制度小委員会で詳細制度設計が行われました。

詳細制度の検討では、電力会社や自然エネルギー事業者などの供給側と、産業界や消費者団体などの需要側の双方から委員が議論を行ったものの、その内容は自然エネルギーの普及を本格的に後押しするものではありませんでした。代表的なポイントとしては、太陽光・風力・小水力・バイオマス・地熱などの自然エネルギー技術はそれぞれ異なる技術特性をもっており、投資の規模も回収期間も異なり、それぞれの学習曲線を考慮した価格設定を行うのが、固定買取価格制の政策論としての原則であるにもかかわらず、太陽光を除く他の自然エネルギーを一律価格に設定するオプションが強調されていたことがあげられます。

このような検討内容に対して、ISEPはプレスリリース「「経産省全量買取制度オプション」のコメンタール ~「失われた10年の繰り返し」を避けるために ~」のなかで検討のバランスの悪さを指摘してきましたが、最終的にはパブリックコメントを経て、2011年2月18日に新エネ部会から「再生可能エネルギー全量買取制度における詳細制度設計について」買取制度小委員会報告書(案)が提出されました。パブリックコメントの結果を参照すると、「電力多消費型産業への何らかの負担軽減措置が必要」「電炉業の負担平準化への取り組みをもっと評価すべき」という意見が5,805件(全コメントの65%)送られていることから、費用負担の増大を嫌う産業界から猛烈なロビーイングがあったであろうことは想像に難くありません。

そして、この報告書にもとづいて、地震当日の3月11日、政府は「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」を閣議決定しています。

 

 

失敗から学ぶことができるか

菅首相は、3月29日の参院予算委員会で「日本は太陽光やバイオマスなどクリーンエネルギーにもかなり力を入れてきた。それらも合わせてどうエネルギー政策をとるか、改めて議論が必要だ」と日本のエネルギー政策の見直しを検討する考えを示しました。今後のエネルギー政策の見直しのなかで日本版固定買取価格制がどのように扱われていくのかについては、注意深く観察していく必要があります。まさに「政治主導」が問われる政策課題といえます。

また、同時に国民の「政治的意思」も問われていることも強調しておく必要があります。これまで国民の大多数は自らが利用するエネルギーについてほとんど考える機会もなく、特定の地域に負担を背負わせていることにも無自覚なまま、便利で快適な生活を享受してきました。しかし、今回の福島原発事故を受けて、もはや3.11以後の世界ではそのような生活のあり方は持続可能ではないということに多くの人が気づいたのではないでしょうか。

現場はいまだ予断を許さぬ状況がつづいており、長期化の様相を呈していますが、このような事故を二度と繰り返さず、次世代に良好な環境を引き継ぐためにも、将来の日本のエネルギーをどうするべきか、すべての国民が真剣に考え、これまでの失敗や他の国や地域の経験に学び、本当に持続可能なエネルギーと社会のあり方を選択していくときだと思います。

そのためには、単に政府に任せるのではなく、わたしたち自身が自然エネルギーを軸とする持続可能な環境エネルギー社会への想像力を養い、知識を身につけ、具体的にどのように自らの地域で実践していけばよいのか、手がかりを得ることが重要です。次回以降、自然エネルギーに関するビジネスモデル、ファイナンス、コミュニティ、ネットワーク、人材育成などのトピックについて議論していきたいと思います。

 

 

推薦図書


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現在、わたしが住むデンマークは1970年代の石油危機の際、原子力発電の導入をめぐって国民的議論が起こり、最終的にデンマーク国民は原子力のない未来を選択しました。そのような国民的議論の際に著者ヨアン・ノルゴー博士は、本書を通じて経済成長と豊かさの意味を世に問い、「豊かな低エネルギー社会」の像を提示しました。エネルギーの岐路に立つ現在の日本が本書から得る示唆はきわめて大きいかと思います。なお、その後、デンマークは代替エネルギーとして風力発電の導入を進め、現在では電力供給の20%ほどが風力発電で賄われており、大学院のデンマーク人の友人から「わたしの親戚も風車もっているよ!」といった話が聞けるほど、風力発電は身近なものとなっています。

 

 

 

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vol.266 

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