自然エネルギーネットワークの展開 ―― 環境エネルギー社会への想像力と実践(5)

前回は、地域自然エネルギーコミュニティ形成のカギを探りました。自然エネルギーへの取り組みが地域に根づくには、核となる民間組織とチェンジ・エージェントによる地域の人びととのコミュニケーションが重要であり、また、さまざまな関係者がプロセスに参加し、取り組みの趣旨と内容を理解した上で進めていくことが重要であることがわかりました。

 

一方、ここまでみてきたように、地域で自然エネルギーに取り組むには政策・ビジネス・ファイナンス・コミュニティといった幅広い領域について専門的な知識が求められるため、地域のなかだけで取り組むにはどうしても限界があります。そのため、各地の自然エネルギーコミュニティは、自発的に、あるいは制度的に相互の取り組みについての知識・情報を共有するためのネットワークを必要とします。

今回は、どのように自然エネルギーのネットワークが形成されているのかをみていきましょう。(※本稿では「ネットワーク」を送電網などの物理的なネットワークではなく、 知識や情報などを共有する人的・組織的な「つながり」の意味で使用します。)

 

 

自然エネルギー政策の国際ネットワーク


急速に普及が進む世界の自然エネルギーは、さまざまな機関や組織の政策提言活動によって支援されています。図1は、そのような世界の自然エネルギー関連機関と活動の関係を示したものです。

 

 

図1. 自然エネルギー政策の国際ネットワーク 出典:Suding & Lempp (2007) をもとに筆者による加筆

図1. 自然エネルギー政策の国際ネットワーク
出典:Suding & Lempp (2007) をもとに筆者による加筆

 

 

このなかで重要な役割を果たしているネットワークが、「21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク (REN21, Renewable Energy Policy Network for 21st Century) 」です。REN21は、政府機関、国際機関、NGO、産業界、地方自治体、研究機関などによって構成されるマルチステークホルダーのネットワークであり、理事会には、Hans-Joergen Koch氏(デンマークエネルギー庁副長官)、Li Junfeng氏(中国再生可能エネルギー産業協会会長)、Adnan Amin氏(国際再生可能エネルギー機関事務局長)、Steve Sawyer氏(世界風力エネルギー評議会事務局長)など、世界の自然エネルギー業界のキーパーソンが数多く参加しています。(日本からは唯一、環境エネルギー政策研究所所長飯田哲也が理事会に参加しています。)REN21は、「自然エネルギー世界白書」の年次発行や「自然エネルギー国際会議」の企画・運営、「自然エネルギー・インタラクティブ・マップ」のような支援ツールの開発などをおこなっており、主に知識・情報の側面から世界の自然エネルギーの普及を支援しています。

REN21の成り立ちと展開は、自然エネルギーの国際ネットワークの歴史的文脈を理解する上で非常に重要です。1990年代に欧州のいくつかの国が先行して普及を拡大してきましたが、世界的に自然エネルギーが国際政治のアジェンダに上ったのは2002年のヨハネスブルク・サミットがはじめてでした。このときは交渉が決裂し、世界に共通の自然エネルギー導入目標を設定することはできませんでしたが、欧州での普及拡大を背景に、当時のドイツ首相ゲルハルト・シュレーダー氏は2年後に自然エネルギーに特化した国際会議を開催することを宣言しました。それが2004年にドイツのボンで開催された「自然エネルギー国際会議2004」であり、事実上、この会議が国際的な自然エネルギー政策推進の幕開けとなりました。会議は「政治宣言」と「国際行動プログラム」を採択して成功し、その後、国際的な自然エネルギー推進の機運を継続させるべく、関係者のネットワークとしてREN21が生まれました。そして、REN21による企画・運営によって、自然エネルギー国際会議は翌年以降、北京(BIREC 2005)、ワシントン(WIREC 2008)、デリー(DIREC 2010)へとつながっていきました。

こうしたREN21の成り立ちと展開のなかで、世界のさまざまな分野のキーパーソンが各地の政策や取り組みに関する知識・情報をやりとりする「関係」が構築され、そこから後述するような「地域自然エネルギーネットワーク」へとつながる事例も現れています。

 

 

国際ネットワークの拡大と自然エネルギー財団


2000年代中盤に萌芽が生まれた自然エネルギーの国際ネットワークは、2009年に「国際再生可能エネルギー機関(IRENA, International Renewable Energy Agency)」が発足したことで、新たな段階に入りました。自然エネルギーに特化して普及を推進する国際機関の必要性は、すでに1990年代からドイツ連邦議会議員の故ヘルマン・シェア氏によって構想されていましたが、紆余曲折を経て、多数の途上国・新興国を含む75カ国の参加を得て、UAEのアブダビを本拠地として、正式にIRENAが発足しました(現在148カ国が署名、84が批准)。IRENAの発足により、それまで「一部の先進国が先行して取り組んでいるに過ぎない」と認識されていた自然エネルギーが、国際政治の重要アジェンダとして明確に位置づけられ、先進国・新興国・途上国が一体となって推進する自然エネルギー関係機関の連携が新たに生まれつつあります。具体的には、各自然エネルギーの産業協会(世界風力エネルギー協会(WWEA)、世界バイオエネルギー協会(WBA)、国際水力発電協会(IHA)、国際太陽エネルギー学会(ISES)、国際地熱協会(IGA)が連携して、自然エネルギー連合(REN Alliance)を形成し、2009年末のコペンハーゲン気候変動会議COP15でIRENAとの共同メッセージを発信するなどの動きがありました。

一方で、日本はこうした世界の自然エネルギーネットワークの潮流に完全に乗り遅れました。本連載の第1回で述べたように、日本は政治的メッセージとして高い目標値を掲げることもできず、また、普及のための効果的な制度設計にも失敗してきたため、国際社会に対して意義ある政策知識の貢献がまったくできないまま2000年代を過ごしてきました。その結果、日本はこれまで他国から期待を受けることはまったくといっていいほどありませんでした。

しかし、孫正義氏のイニシアティブで先日設立された「自然エネルギー財団(JREF, Japan Renewable Energy Foundation)」は、これまでの閉塞した日本の自然エネルギー政策・市場に新たな機運とネットワークをもたらす可能性があります。理事長に元スウェーデン・エネルギー庁長官のトーマス・コバリエル氏が就任したことはもちろんのこと、9月12日におこなわれた設立イベントおよび13・14日の自然エネルギー専門家会議では、図1のネットワーク上の主要なキーパーソンが多数来日し、国内外の知識・経験についての率直な交流がおこなわれています(前回述べたサムソ島のソーレン・ハーマンセン氏も参加)。国際的な視野をもつ自然エネルギー財団の始動を受け、世界の自然エネルギー関連機関は東アジアの自然エネルギーネットワークのハブとなる自然エネルギー財団に大きな期待を寄せています。

 

シノドスの運営について

 

シノドスは日本の言論をよりよくすることを目指し、共感してくださるみなさまのご支援で運営されています。コンテンツをより充実させるために、みなさまのご協力が必要です。ぜひシノドスのサポーターをご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「対話/ダイアローグから見た精神医学」植村太郎(12月16日16時~18時)

 

 

無題

 

vol.233 公正な社会を切り開く 

 

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

 

vol.232 芸術にいざなう 

 

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.233 特集:公正な社会を切り開く

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」