犯罪加害者家族の孤立を防ぐために

世代間にわたって続く差別

 

WOHが最も多く受理した事件は殺人である(図2参照)。まさにメディアスクラム(集団的過熱取材)の最中にある相談では、加害者家族を一時的避難所に誘導したケースもある。DVや虐待事例とは異なり、加害者家族として利用できる「シェルター」は存在しないことから個人のネットワークを頼るほかなく、すべてのケースに対応できるわけではない。

 

一方で、事件からすでに数十年が経過している事件の家族からも数多く相談が寄せられている。

 

相談者Dさん(50代・女性)の父親は、殺人事件で無期懲役の判決を受けすでに刑務所内で死亡している。Dさんの夫は両親を早くに亡くしていたことから、結婚にあたって父親の事件は問題とならなかった。現在、娘が地元の名士の息子と交際しており、先方の両親が、結婚を考えてか、こちらの家族の状況を気にかけているという。娘の結婚にあたって、祖父の事件が障害にならないか悩みの種である。

 

インターネットの普及により不特定多数の人々が情報にアクセス可能となった現代、加害者家族であることが公になる恐怖は常につきまとう。重大事件の場合、事件の影響は世代間にわたって及ぶこともある。

 

WOHでは、加害者家族を「自ら犯罪や不法行為を行った行為者ではないが、行為者と親族または親密な関係にあったという事実から、行為者同様に非難や差別に晒されている人々」と定義している。いじめ事件やハラスメントなど民事事件として処理されるケース、事件化しなかったトラブルなどが「その他」に含まれており、対象者を犯罪者の家族に限定しているわけではない(図2参照)。近年、学校でのいじめを苦に被害者が自死するケースが頻発し、メディアでも大きく取り上げられた。報道では加害生徒の氏名は伏せられたものの、加害生徒の写真や家族の情報がインターネットで暴露され、保護者の中には転居を余儀なくされた人々も存在している。

 

 

photo2-2

 

 

 

加害者家族の責任とは何か

 

子どもや配偶者が逮捕された芸能人の謝罪会見は絶えることがない。一般人でも芸能人でも加害者家族がコメントを求められるのは、たいてい報道が過熱する逮捕前後である。この時期に、事件の詳細が家族に伝わっているケースはそう多くはないはずだ。家族に面会が許可されたとしても、事件の話をすることはできないことになっている。つまり、なぜ事件が起きたのか、事件に家族はどう関係しているのか明らかになっていない状況で、家族は誰に何を謝るのだろうか。実際、被疑者が容疑を否認しているにもかかわらず、家族が謝罪をしているという矛盾も起きているのだ。こうした謝罪は、あくまで「世間」を騒がせたことに対する形式的な謝罪と解するしかない。

 

犯罪が起きると、加害者家族は「親の育て方が悪かった」「家族なのになぜ気がつかなかったのか」と一様に家族の中から犯罪者を出した結果を非難されるが、加害者家族に責任があるのか否か、その責任とは何か、事件そのものを分析しなくては導くことができない。

 

加害者家族が問われうる責任を整理すると、法的責任と道義的責任に大別される。法的責任とは刑事責任と民事責任である。日本では、明治時代まで、家から犯罪者を出した場合、家族に連帯責任を科す「縁座」という制度が存在したが、現代では、犯罪に加担していなければ、犯罪者と家族であるということを理由に刑事責任を問われることはない。

 

未成年者が罪を犯した場合、保護者の中には損害賠償責任を負う立場の加害者家族も存在する。損害賠償責任は被害者に対して負うものであり、支払いの完了によって終了する。責任の範囲や期間が明確なこれらの法的責任に比べて加害者家族が悩むのは、道義的責任である。

 

相談者Eさん(60代・女性)の息子は、薬物使用中の運転による事故で相手が死亡し、危険運転致死傷罪で実刑判決を受け刑務所に服役している。息子は大学受験に失敗してから家出をし、生活が荒れていた最中の事故だった。息子は事件当時の生活を、「受験に失敗した両親のショックが大きすぎて、気まずくて家にいられなかった」と話した。Eさんには心当たりがあった。夫は教育に厳しく、有名大学でなければ学費は出さないと言い、息子のプレッシャーは相当大きかったと思われた。

 

Eさんは、「成人した息子が起こした事で、親の責任は終わっていると言われればそうですが、それで終わりにはできないんです」と話す。Eさんは、息子が出所後、社会復帰できるように、自宅から5時間以上かかる刑務所に毎月面会に行っている。そして、決して余裕があるわけではない生活の中から毎月一定の金額を遺族に振り込み、月命日に事故現場で手を合わせることを欠かしたことはない。謝罪をしたからといって被害者に許されるわけではなく、許されるために謝罪をしているわけではない。こうした一定の贖罪行為は、人としての責任を果たせていないという加害者家族の罪責感を和らげることに繋がっている。「自分が犯した罪ではないのだから、あなたに責任はない」と言って終わらせることは簡単であるが、消し去ることができない道義的責任とどう向き合うのか、絶対的な答えなど存在しない問題を共に考えていくこともまた、加害者家族支援において重要な課題である。

 

家族としての責任の有無やその内容は、事件との関わりや加害者との関係に拠ってさまざまである。事件発覚から判決確定まで、加害者家族との長期的な関わりの中で徐々に見えてくることも現実的には多いのだ。事件報道が盛り上がる捜査段階では、その判断材料が十分揃っていないことが多い。逮捕報道に伴ってしばしば議論となる、事件の分析を欠いた家族の責任論からは、社会的な教訓を見出すことはできないだろう。

 

 

日本の加害者家族支援の目指すところ

 

イギリスやアメリカなどの欧米諸国では、身内が事件を起こした経験を持つ加害者家族自らが声を上げて活動する土壌がある。子どもを対象とした支援、人種的マイノリティの加害者家族支援、薬物事犯に特化した加害者家族支援など、実にさまざまな支援団体が多数存在している。一方、アジア諸国では、韓国と台湾が、子どもの貧困問題に取り組んできたソーシャルワーカーが中心となり、受刑者の子どもたちに焦点を当てた支援に取り組んでいる。社会に点在する加害者家族にアクセスすることは難しく、刑務所との連携によって受刑者家族の状況を把握することが可能となることから、世界的に「受刑者」の家族を中心とした支援が目立つ。

 

日本のように、直接、加害者家族から相談を受け、捜査の早い段階から介入している組織はそう多くはない。

 

しかし、支援のニーズが高いのは、判決確定後よりも捜査段階である。家族の中でも同居人であればなおさらのこと、捜査や報道に巻き込まれる可能性が高い。報道や捜査による組織的な圧力を受けるのは捜査段階であり、事件が起きた衝撃に加え、緊張による精神的ストレスが最も高くなる時期である。こうした状況を放置せず、事件発生直後から判決確定後まで、必要な情報提供や傍聴への同行、心理的支援など状況に応じて継続的な支援が行われることが、加害者家族の自殺を防ぎ、加害者の更生の役割を担う力を引き出す。欧米諸国の加害者家族支援が市民の理解を得て発展を遂げてきた理由として、家族が支えられることが犯罪者の更生の受け皿を維持し、再犯防止につながることが実証されてきたことが挙げられる。

 

家族支援による再犯防止効果は、WOHの取り組みの中でも生まれている。住まいや仕事も失い、自らの日常生活が困難になるほど追いつめられるようであれば、家族の更生の支え手どころではない。責任のない子どもたちは保護され、一定の責任を負う家族であっても、その責任を果たすことができるように導くのが社会の役割であり、誹謗中傷や嫌がらせなど加害者家族に対する行き過ぎた制裁は、一時の応報感情を満たすだけであって、いかなる社会的利益も生み出さない。

 

加害者家族からの相談は、日々、途絶えることなく続いている。これまで加害者家族という存在に、焦点が当てられる機会は少なかったが、日々、犯罪の数だけ身近で生まれているのが現実である。誰にも起こりうる問題として社会が受け止め、加害者家族に向けられる眼差しが穏やかなものになっていくことが、生きづらさに苦しむ加害者家族に最も必要なことである。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください。

 

シノドスの運営について

 

シノドスは日本の言論をよりよくすることを目指し、共感してくださるみなさまのご支援で運営されています。コンテンツをより充実させるために、みなさまのご協力が必要です。ぜひシノドスのサポーターをご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「対話/ダイアローグから見た精神医学」植村太郎(12月16日16時~18時)

 

 

無題

 

vol.233 公正な社会を切り開く 

 

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

 

vol.232 芸術にいざなう 

 

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.233 特集:公正な社会を切り開く

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」