まだ続く「知ろうとすること。」

そこでお子さんを測定しようという話になりました。先ほどお話しをしたホールボディーカウンターは、鉄の箱のなかに2分間立ってなさいという装置ですが、元々は原発の作業員用に作られたものなので、小さな子どもを測ることを想定していません。とくに赤ちゃんにじっと立ってなさいというのは無理ですね。それで私たちは、「この子は小さすぎるのでお母さんを測りましょう、お母さんから検出されなければ赤ちゃんだけが内部被ばくしていることはありません」と言ったのですが、お母さん方はやはり「子どもを測って下さい」と要望されました。 

 

そこで子どもを測る装置を作らなければいけないな、と思ったのが2013年の春です。

 

 

 

 

この写真の装置は寝て測ります。外から飛んでくるガンマ線が、体から出たガンマ線に紛れないように、周りをしっかりと鉄で囲みます。普通のホールボディーカウンターは鉄の遮へいを4t、検出器を2つ、測定時間は2分ですが、ベビースキャンは6t、4つ、4分にしました。その結果、検出限界は全身で30ベクレル、通常の10倍の精度を達成しています。測定器としてはこれで完成形です。ただ、ご覧になってお分かりの通り、この鉄の箱には絶対子ども入れたくないと親御さんは思うわけです。

 

それで山中俊二先生という工業デザイナーに、ツイッターのダイレクトメッセージで「こういうのを作りたいのですが、デザイナーとしてプロジェクトに加わって下さいますか」とお願いいたしました。

 

 

 

 

 

青山のデザインスタジオで、実寸のモデルを木で作りました。近所のお子さんに来ていただいて、本当に4分間おとなしく寝ていられるか実験をしました。最初は上を向いて寝るかと思ったら、うつぶせになるのです。押入れのなかに入り込む感覚と近いのでしょう。iPad でアニメなどを見せておくと、4分経っても出てきませんでした。これは上手くいくのではないかと思い、実機を作りました。 

 

 

 

 

1号機は郡山市の東にある平田村の病院に入れました。完成品が6tもあるので、病院の床が抜けないように鉄板の状態で運び入れ、現場で組み立てました。6t の鉄は、山中先生がデザインして下さったソフトなカーボンファイバーで包まれています。なかに高さが調整できるベッドがあり、iPad も置いてあります。お母さんが子どもをベッドの上に乗せると、お母さんは子どもを見ることができて、子どもはお母さんを見ることも、iPadでアニメを見ることもできます。現在、福島県内で福島第一原発を取り囲むように、平田村、南相馬市、いわき市に設置してあります。 

 

2014年に3台設置した後、2700人以上測りましたが、1人も放射性セシウムが検出されませんでした。私はこれも論文にしました。現在では1万人以上測っておりますが、まだ一人も検出されていません。

 

 

 

 

この検査をするにあたって、親御さんに「お宅では、どういう食べ物を食べて、どういうお水を飲んで、避難経験はどんなだったか」ということを問診票で伺っています。その結果を南相馬市と三春町で比較しました。 

 

南相馬では、2014年の段階で、「水道水は飲まない」「福島のお米は絶対食べない」「福島の野菜は食べない」と、どれも嫌だという方が約6割おられました。三春町では、全部嫌だという方は4%しかいませんでした。ここは郡山市に近く、兼業農家が多い町ですけれども、多くの方がすでに事故前と同じような生活をしておられます。もちろん、南相馬のように食べ物に注意していても、三春町のようにあまり注意をしていなくても、内部被ばくが無いことに変わりはないのですが、家庭のリスク認知にはものすごく大きな地域差があるのです。この地域差の原因がなぜなのかは、分かっていません。 

 

南相馬市では、「福島のお米は絶対に食べない」と言っておられた方の割合は75%くらいだったのですが、2016年度に入ってから減ってきました。この意識変化の原因についても、今研究をしているところです。 

 

次は外部被ばくの話です。2011年の段階で、様々な自治体が外部被ばく量を測定するガラスバッジを小中学生や妊婦の方々に配りました。ガラスバッジは、病院に行くと放射線技師の方々が胸につけているものです。

 

 

 

 

このグラフは2011年の福島市、南相馬市、郡山市でのガラスバッジによる測定結果です。横軸の最大は年間10ミリシーベルトです。赤い点線は年間1ミリシーベルトで、長期的に被ばくをこれ以下にするという政府の目標になります。2011年の秋の段階で、福島県内の子どもと妊婦さんの約半分は1ミリシーベルト以下でした。年間10ミリシーベルトを超えるような方は皆無でした。ちなみに避難を解除する条件は年間20ミリシーベルトです。

 

 

 

 

 

福島市の平均値は、2011年から2016年まで減り続けています。2011年が平均で1ミリシーベルトぐらいでしたが、最近は平均で0.1ミリシーベルトぐらいになりました。主な理由は自然減です。セシウム134の半減期が2年なので、それが物理的に減ってきたことが一番大きな理由です。 

 

このように、外部被ばくも多くの方が思っているよりは実際は少なく、この5年で着実に減少しています。ただし、内部被ばくはほとんど0なので、それと比べると若干高くなります。 

 

ガラスバッジは3ヶ月つけっぱなしにして、その間の外部被ばく積算線量を測るものですが、最近私たちが福島県内で使っているのは「Dシャトル」という電子式の線量計です。これは1時間ごとの線量が内部のメモリーに書き込まれていき、それをコンピューターにつなぐと、「何月何日何時に0.何マイクロシーベルト」と読み出すことができます。 

 

2015年の夏に、フランスに「Dシャトル」を送りました。そして、フランスの高校生がこれをつけて福島にやってきました。そのときのデータをお見せします。

 

 

 

 

 

彼らがまだパリにいて、日本に向けて出発する前に線量が上がったピークがあります。これはパリのシャルルドゴール空港での手荷物検査で、首からぶら下げた線量計を手荷物のなかに入れて検査した際に、線量計だけがX線で被ばくした数値です。

 

次のピークはグラフからはみ出すほど高くなっていますが、飛行機のなかです。上空では宇宙線が強く、それによって非常に高い線量になります。そして東京に着きました。東京にいる間にまた大きなピークがあります。これはフランス大使館がレセプションに招待してくれたときで、大使館に入るときの手荷物検査です。よく見ると2人、低い人がいますね。これは線量計をポケットのなかなどに入れていて、手荷物検査をバイパスしちゃったのでしょう。 

 

翌日は、津波の跡を見たいとの希望があり、バスに乗り、原発の南10キロに位置する富岡に行きました。2015年は避難解除されておらず、日中は立ち入りできますが、夜は立ち入りできない場所です。津波で被害を受け地震で壊れた家が、まだ放置されていました。津波で破壊されたJR の富岡駅は、このときは撤去されていました。そこに1時間ほど立っていたときがグラフでピークになっている部分です。その後、彼らは福島市に行き、福島高校の生徒の家にホームステイをしています。 

 

このグラフから、パリも東京も福島市も、外部被ばくはほとんど変わらないことが分かります。これは同じ人が同じ線量計を持ってずっと動いているので、バイアスのないデータです。

 

福島高校の生徒はこのDシャトルを使って、自分たちの置かれた状況をより良く理解をしたいと考えました。そこで、高校生一人一人がどれだけ外部被ばくしているのか、福島県内、日本各地、世界各地で比較するプロジェクトを立ち上げたのです。その結果をまとめて学術論文にしました。 

 

論文はイギリスの「ジャーナル・オブ・ラジオロジカルプロテクション」という専門誌に書きましたが、最初の2ページには233人の名前がアルファベット順に並んでいます。そのうち216人がこのプロジェクトに協力をしてくれた世界の高校生です。日本人、フランス、ポーランド人、そしてベラルーシ人もいます。この論文はWebで全文をダウンロードできるようになっており、これまでに約10万回ダウンロードされました。その結果が次の図です。

 

 

 

 

 

高校生にはDシャトルを2週間持ってもらい、その間の線量を1年分の線量に換算しました。これは原発事故による放射線だけではなく、自然放射能も含んだ年間推定値になります。福島県内の6つの高校(7~12)、福島県外の6つの高校(1~6)を見て頂くと、あまり変わりません。右側にフランスの3つの地域、ベラルーシの2つの高校の合計、ポーランドの約10の高校の合計の結果を示しています。

 

今回参加した地域は、どこも約1ミリシーベルト内外で、福島が突出して高いのではないことが分かります。一番高かったのは、フランスのコルシカ島にあるバスティアで、ここは高い自然放射能を含む花崗岩がある地域です。

 

このように福島の外部被ばくも内部被ばくも、あまり大きな問題ではないのです。 

 

大きな問題何かというと、実はこちらです。

 

 

 

 

 

この表は福島県立医大が2011年度から毎年やっている「こころの健康調査」の結果です。対象者は原発に近い避難区域の大人で、「現在の放射線被ばくで次世代以降の人(将来生まれてくる自分の子や孫など)への健康影響がどのくらい起こると思いますか」という質問に対する回答です。可能性が高い、あるいは可能性があると答えた人が、最近の調査で約38%でした。最初の調査では60%でしたので若干減っていますが、それでも驚くべき高い数字であり、とても心配な数字です。

 

『知ろうとすること。』にも書きましたが、「私は子どもを産めるのでしょうか」と福島の子どもが言ったときに、私であれば、躊躇せずに「大丈夫だ」と言い切ります。言いきれる理由は、広島・長崎の原爆で生き残った方々、その子孫の方々の調査が継続的に行われ、遺伝的影響がないことがすでに分かっているからです。 

 

福島の被ばくは、原爆の被ばくに比べれば遥かに低いので、そのことを心配する必要はないことを、NHK の番組でも最近話しました。こうした遺伝影響への不安を克服するには、放射線教育をきちんとしなければいけないと思っています。 

 

最後にまとめると、福島県の方々の内部被ばくは非常に低いです。それから、外部被ばくも1ミリシーベルト/年を超える方はまれになりつつあります。福島市では外部被ばくは約0.1ミリシーベルト/年です。しかし、そのことは国の内外でも福島の住民にも、十分に納得されているとは言い難く、とくに子どもの内部被ばくに対する心配は非常に根強いものがあります。被ばくそのものよりも、じつは社会的な問題、心理的な問題の方がはるかに大きいのです。 

 

とくに「若い世代が子どもを産めるのか」と心配する必要はありません。福島の子どもたちがそのことをしっかりと理解をする、そのためには、アクティブラーニングをして自分が置かれている状況をしっかり把握し、それを外に向けて自ら伝えられるようになる必要があると考えております。

 

本記事は「Fact Check 福島」からの転載です。ぜひ「Fact Check 福島」もご覧ください。

 

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