外国人の受け入れと処遇をめぐって――出入国管理政策と社会統合政策

日本では争点とならない外国人に関わる政策

 

前稿(加藤 2017)では、(1)日本における外国人(外国籍の人に加え、元外国籍で現在は日本国籍に帰化した人や、いわゆるダブル(ハーフ)の子どもなど外国に由来する人々も含む)は近年増加の一途を辿っていること、(2)とくに労働の世界における「外国人依存度」が高まっており、私たちの日常生活は外国人による労働と無関係でいることがますます困難になってきていること、(3)将来的には日本の総人口に占める外国人の割合が欧米諸国並みになると見込まれていること、などを示した。

 

現在の欧米諸国に目を向ければ、増加する定住外国人や難民等の扱いについて、治安維持や自国民の就業機会の確保、社会保障費の負担等の側面から、近年実施された国政選挙では、外国人に関わる政策が主要な争点となっている。他方で、2017年10月に行われた日本の衆議院議員総選挙では、まったくといってよいほど争点にはならなかった。日本の総人口に占める外国人の割合が2%程度であり、外国人の増加や定住化に伴い求められる施策が遠い将来のこととしか認識されていないことが、その背景にあると考えられる。

 

加えて、争点となり得ていない要因には、日本政府が外国人の新規受け入れ等について、「国民的コンセンサスを踏まえながら検討する」という方針を示しているものの、「国民的コンセンサス」を形成するにあたって、具体的に何を議論し、何を合意形成すべきかについては十分に示しているとは言い難いこともあると考える。

 

そこで本稿では、私たちがこのテーマについて、今後どのような議論を行い、どのような取り組みを政策的に推し進めていく必要があるかについて、(1)出入国管理政策(外国人の受け入れに関する入り口の議論)と、(2)社会統合政策(すでに日本で生活をしている外国人に関する受け入れ後の議論)、2つの政策的視座から論点を提示したい。

 

 

1.入り口の議論:出入国管理政策について

 

1-1「中技能の外国人」向けの在留資格新設

 

前稿(加藤2017)では、日本で働く外国人労働者108万人(2016年10月末)のうち、就労を目的とした在留資格を付与され働いているのは全体の18.5%にとどまっており、本来は就労が主目的ではない外国人(留学生、技能実習生等)が大きな割合を占めているという在留資格制度の歪みを指摘した。

 

こうした歪みを発展的に解消するために、現在の在留資格制度では対応し切れていない、(高度外国人材ではない)「中技能の外国人」向けの在留資格の新設に向けた議論が求められる。

 

図表1には、技術・技能レベルと対応する外国人労働者(在留資格)の概念を整理した。現在でも、就労を主目的とはせずに入国・滞在が認められた外国人には、中技能の業務に従事し、企業内で基幹的な役割を果たしている人が含まれると考えられる。こうした外国人を労働者として正面から受け入れるための要件を整備し、クリアした人には在留資格を付与する制度を構築することの検討を始めるべきである。

 

 

図表1 技術・技能レベルと対応する外国人労働者(在留資格)のイメージ

図表1

(資料)佐藤(2017)を参考に、筆者作成。

本図はあくまで、技術・技能レベルと外国人労働者の関係を模式的・視覚的に示すことに主眼においているため、細部については正確性を欠く部分があることをご了承願いたい。

 

 

現在、愛知県では国家戦略特区の枠組みで、人材ニーズの高い産業かつ日本人を採用できない分野における「中技能の外国人」に対して、「産業人材」という在留資格を新設・付与し、当該外国人を受け入れるという先行的な提案をしている。

 

弊社の調査では、愛知県内の中小製造企業の約6割で、実際に生産工程の技能工レベルを想定する「産業人材」を受け入れるニーズがあることが明らかになっている(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2017)。

 

 

図表2 「中技能の外国人」の受け入れに対する企業評価

図表2

(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2017)「製造業の生産工程における人材不足と愛知県「外国人雇用特区」検討に関するアンケート調査」(上記設問は.愛知県が提案する「外国人雇用特区」制度に対する評価についての回答結果)

(注)対象企業:愛知県内企業1,000社程度、外国人雇用が多い業種(食料品製造業、プラスチック製品製造業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業、輸送用機械器具製造業)、従業員300名以下

回収数:135社、調査年月:2016年9月

 

 

今後、本格的に「中技能の外国人」の受け入れを進めるには、技能レベル、受け入れの対象分野、受け入れ人数の設定、日本語能力、在留付与期間、家族の帯同、職場変更の自由、受け入れ企業の義務などが主な論点となり、それぞれの要件をどう設定するかがポイントになる(図表3)。

 

 

図表3 「中技能の外国人」の受け入れにあたっての主な論点

加藤

(資料)筆者作成。

 

 

このなかでは、「どのようにして『中技能を有する』と認定するか」という技能レベルがとくに重要な論点になるが、たとえば愛知県の提案では、国家検定である技能検定3級以上を一つの目安としている。現在、技能検定の一部職種は、アジア諸国で検定試験が実施され始めており、こうした動きを広げることで日本の技能検定取得者の裾野が拡大し、「中技能の外国人」の母集団形成につながるとも考えられる。

 

 

1-2「中技能の外国人」の在留資格付与・受け入れにより期待されること

 

「中技能の外国人」に在留資格を与え、労働者として正面から受け入れることで期待されることは多い。

 

まず、「中技能の外国人」の人材要件を精緻にすることで、これまで曖昧に使用されてきた「高度外国人材」や「専門的・技術的分野の外国人」、「いわゆる単純労働者」という表現や定義の見直し・明確化が期待される。

 

自由民主党(2016)が示している基本的考え方では、「いわゆる単純労働者」という用語の使用は不適切であり整理が必要であることや、何が「専門的・技術的分野」なのか判然としていないことが言及されており、そうした問題意識と「中技能の外国人」対象の在留資格創設は通底している。

 

さらに、技能実習制度に関わる課題の改善も期待される。技能実習生を誠実に受け入れている企業からは、「一定の技能や日本語能力を有する実習生が、実習期間終了に伴い帰国せざるを得ず、企業側にも実習生本人にも教育費用や機会の損失となっている」という声がしばしば聞かれる。

 

こうしたなかで、中技能の在留資格が新設されれば、継続して(元)技能実習生を雇用したい企業と、「国際貢献・技能移転」という(表向きの)目的のために帰国しなければならない技能実習制度との間に齟齬が生じることになり、技能実習制度自体の見直しが促される可能性もある。

 

中小企業側にとっては人材育成が無駄にならず、安定的に労働力を確保でき、外国人側も将来設計を立てながら、安心して働き、生活できる制度づくりの契機となることを期待したい。

 

 

1-3 韓国が始めた取り組み:「外国人熟練技能人材ポイント制」(2017年8月から)

 

「中技能の外国人」の受け入れにあたっては、韓国が2017年8月から開始した「外国人熟練技能人材ポイント制」が参考になる。

 

日本や韓国を含め多くの諸外国において「高度人材ポイント制」(注1)はすでに運用されているが、日本と同じく少子高齢化・労働力不足の課題を抱える韓国では、新たに「中度人材ポイント制」とでも呼べる制度の導入を決めた。

 

(注1)年収、年齢、学歴、語学力等を階層化してポイントを決め、その合計点が一定点数以上に達した外国人には優遇措置を与える制度。1967年にカナダが開始し、日本では2012年から、韓国では2010年から実施している。

 

そもそも韓国では日本と異なり、非熟練労働に従事する外国人の受け入れを法律で定め、雇用許可制として実施している(雇用許可制に関する最新の詳細は佐野(2017)等を参照)。

 

この雇用許可制等で入国した外国人を対象に、根幹産業(鋳造、金型、溶接、塑性加工、表面処理、熱処理の6つの技術を活用して事業を営む業種)または農林畜産漁業において、産業分野熟練度、学歴、年齢、韓国語能力などを点数化する。そして、一定点数以上に達した場合は、「熟練技能人材」という新たな在留資格を付与し、安定して継続的に韓国国内で当該分野に勤務できるように制度化した(注2)。非熟練から熟練労働者へ移行する際の仕組みを制度化し、人材確保や産業全体の活性化が目指されている。

 

(注2)なお、雇用許可制での滞在期間は原則3年、事業主の申し出があれば1年10ヵ月の延長可能。さらに、延長後6ヵ月経過後の再入国も認められているが、再入国は受け入れ人数全体の1割程度にとどまる(日本弁護士連合会人権擁護委員会 2017)。

 

韓国法務部の資料にもとづき、「外国人熟練技能人材ポイント制」の制度概要をまとめたものが図表4である。制度の対象は、直近10年以内に4年以上雇用許可制等で入国し、韓国国内で誠実に就業している外国人である。加点項目は「必須項目」と「選択項目」で構成される一方、法令違反がある場合の「減点項目」も設定し、社会的負担を抑えることも目指されている。

 

 

図表4 「外国人熟練技能人材ポイント制」概要

図表4

(資料)韓国法務部資料に基づき筆者作成。

(注)関係省庁の協議を行いながら、2017年末までに最大300人規模でのモデル事業を実施。モデル事業評価の結果を反映して、2018年から本格的に実施する予定。

 

 

「中技能」に関する特徴がよくわかる項目をみると、たとえば「学歴」について、各国で運用される高度外国人材向けのポイント制では、博士号取得者が最高点のケースが多い。だが、韓国の「外国人熟練技能人材ポイント制」では学士号取得者が最高点で、高卒者もポイントの対象となる。また、「韓国語能力」も、高度外国人材のようにネイティブレベルまでは求めず、意思疎通が可能な中級レベルを最高点としている。

 

「技能レベル(産業分野熟練度)」については、年収基準か取得している国家技能資格レベルのいずれかで測ることになっている。ここでも「中度」であるため、国家技能資格制度の最高等級である「技術士」ではなく、その下の「技士」を有していると最高点が付与される仕組みになっている。

 

こうしてポイント化することにより、国外的には外国人の受け入れにあたる公平性を、国内的には受け入れる外国人の審査基準の透明性を担保し、外国人の量と質を制御しているというシグナリング効果が期待されている(注3)。

 

(注3)ただし、ポイント制には、上述した「透明性」に加え、「柔軟性」(=受け入れ国政府の裁量で、ポイント制度の項目や配点基準を変更して、受け入れ人数を調整することができること)の2つの特徴がある。ポイント制度は、受け入れ政府にとって、裁量を保持したまま、受け入れの正当性を能力主義的観点から根拠づけることができる、使い勝手のよい政策ツールとなり得るため、運用面でのチェックは重要となる(明石2015)。

 

翻って日本に目を向ければ、特例の時限措置や国家戦略特区において、建設業、造船業、家事労働、農業といった分野で、一定の技能を有する外国人労働者の受け入れを行っているが、在留資格は新設せず(「特定活動」として対応)、また、受け入れ要件も各業種に紐付く管轄省庁ごとに設定され、政府として統一的な対応はとられていないのが実態である。

 

また、韓国のこうした動きについて、制度面ではなく、産業を支える人材の確保という面からみれば、今後少子高齢化・労働力不足が深刻化するなかで(とくに東アジアでは顕著)、高度外国人材のみならず、「中技能の外国人」をいかに自国に惹きつけるかという競争が世界的に始まりつつあるといえる。

 

門戸を開放すれば外国人が大量に押し寄せてくるかのようなイメージを私たちは抱きがちだが、働く場所・生活する場所として、現在の日本の制度・待遇が果たしてどれほど魅力的なものなのかを考えなければならない。時機を逸することのないよう、対応を急ぐべきである。【次ページにつづく】

 

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