外国人の受け入れと処遇をめぐって――出入国管理政策と社会統合政策

2.受け入れ後の議論:社会統合政策について

 

日本にはすでに300万人近い外国に由来をもつ人々が暮らし、今後も増加が見込まれている。外国人の受け入れ局面にとどまらず、受け入れた後の生活環境の整備等を含め、本格的に国を挙げた社会統合政策に取り組む必要がある。

 

改めて確認をすれば、社会統合政策とは、外国人の日本社会への「同化」政策ではない。外国人の権利を保障するとともに外国人に義務も果たしてもらうこと、また、外国人の文化的多様性を維持するとともに、日本社会・地域社会の構成員としての責任も分担してもらうことを目指す政策である(井口2015)。

 

日本の現状は、外国人の定住・永住化が進む一方で、国として十分な社会統合政策が行われていない面で、1980年代の欧州諸国の状況に類似している。このままの状態が続くと、その後の欧州諸国のように受け入れ社会と外国人との間で摩擦や軋轢が生じる懸念も指摘されている(井口2011)。

 

ここでは、これらの指摘や諸外国がこれまで直面してきた課題等を踏まえ、実効的な社会統合政策を進めるにあたって、国/地域(地方自治体)/一般市民の各々の視点から、とくに検討すべき論点や求められる取り組みを提示したい。

 

 

2-1 国として:外国人の処遇に関する基本法の制定

 

第一に、国の取り組みとして、外国人の処遇に関する基本法の制定が必要だと考える。日本の現状は、出入国管理及び難民認定法はあるものの、社会統合の文脈では、各地方自治体における多文化共生施策に関わるガイドラインである「地域における多文化共生推進プラン」(総務省、2006年)の策定・通知にとどまっている。

 

国外に目を向ければ、出入国管理に関する法律とは別に、国として外国人の処遇や統合に関する法律や規則を制定している諸外国はある。ふたたび韓国の例をあげれば、韓国は、総人口に占める外国人割合は欧米諸国ほど高くなく、英語以外の主要一言語でのコミュニケーションが成立する点で日本と類似した状況にある。

 

そのなかで、在韓外国人の処遇に関する基本法(在韓外国人処遇基本法:2007年)や、国際結婚家庭への支援策の基盤となる法律(多文化家族支援法:2008年)を制定し、さらに出入国管理法内にも社会統合に関する条文を追加する(第39条~第41条:2012年)など、社会統合政策の展開に向けて法律的根拠を整えてきている。

 

これらの根拠法にもとづき、韓国では、全国200箇所以上に公営の「多文化家族支援センター」を設置(2017年10月末時点で218箇所:行政から委託)し、また、5年毎の「外国人政策基本計画」策定につなげている(2017年10月の1ヵ月間、「第3次外国人政策基本計画(2018-2022)」策定に向け、HPや支援センターで意見投書コーナーを設置して、政策対象となる外国人住民からの意見収集・パブリックコメントを行っていた)。

 

日本では、2016年に外国人に対する不当な差別的言動のない社会の実現を基本理念とした、いわゆるヘイトスピーチ解消法が成立した。しかし、今後も増加が見込まれる外国人を対象とする諸政策を行うためには、これにとどまらず、根拠法となりうる基本法の制定もしくは、入管法に一つの独立した章として社会統合に関する規定を盛り込み、政府として諸政策を統合的に立案・実行できる体制を整えることが必要だと考える。

 

条文中には、外国人に関する政策を専門に扱う会議体や機関の設置、日本語支援や子どもの教育、医療や福祉支援、差別防止や人権擁護に関する規定等を盛り込むことを求めたい。

 

 

2-2 地域(地方自治体)として:外国人が多くない自治体も巻き込んだ地域間連携

 

第二に、上述した国側の基本法制定と並行し、これまで外国人があまり多くなかった地域も巻き込んだ地域間の自治体連携、情報共有体制の構築・強化が必要だと考える。

 

外国人の処遇に関する基本法が存在しない裏返しでもあるが、日本では法務省による(出)入国管理を通過した後、外国人の社会統合政策を主として担う中央官庁が存在しない。そのため、日本語教育や教育現場・医療現場での対応等、外国人が日本で暮らす上での必要な支援は、地域社会にほぼ一任されてきた。だが、受け入れる地域側には各種資源(人、費用、情報、決定権等)が不足しており、十分な対応ができない事態が発生してきている。

 

たとえば、地域の日本語教室や外国人支援団体では、有志のボランティアや不安定な就労形態の人々に大きく依存している。文化庁「日本語教育実態調査」によれば、2016年の日本語教師数は約38,000人で、このうちボランティアが58.1%、非常勤講師が29.7%と、この2つで約9割に達し、常勤講師は1割強にとどまっている。

 

これまでは、群馬県太田市や静岡県浜松市などを中心に「外国人集住都市会議」の開催などを通して、外国人集住地域間のつながりは形成されてきた。だが、近年外国人が全国各地で増加傾向にあり、従来の集住地域以外にも外国人住民と向き合う必要が生じる自治体が今後増えることが予測されている。

 

こうしたなかで、外国人の社会統合を現実に進めていくためには、これまで外国人があまり住んでいなかった地域も巻き込みながら、前線に立つ(立たざるを得ない)地域が連帯して国に対して法制定・制度改正の働きかけや、地域間の情報共有を進めることが求められる。

 

具体的な施策としては、これまで外国人集住地域が試行錯誤しながらも培ってきた取り組みの紹介や、そこでの工夫・苦労の共有、これまでの取り組みの効果検証、外国人割合ステージ別に求められる対応策の整理などが考えられる。国内他地域でのトライアンドエラーを無駄にしないことが重要であり、自治体職員を集めた情報交換の機会の設置や、自治体向けポータルサイトの拡充・情報の一元化の推進なども効果的と考える。

 

実際、外国人支援の取り組みにバラツキがみられる、東京都内のある隣接した自治体間において、今年度から各自治体担当者が集まる連絡会議を設置し、当該分野の取り組みで先行する自治体がリードする形で、情報交換やノウハウ・資源の共有等、行政区域を越えた広域連携を模索し始めているところも出てきている。

 

 

2-3 一般市民として:外国人の日本語習得等にかかる社会的費用負担への合意形成

 

第三に、一般市民としては、外国人の社会統合(とくに日本語習得の支援等)を進める上で発生する社会的費用負担に関する合意形成が必要だと考える。

 

日本で暮らす外国人にとって大きな壁になっているのが日本語習得である。だが、現在まで一部の支援機関によるサポートを除き、国として外国人に日本語習得を課すカリキュラムなどは存在しない。一方で諸外国には、ホスト国の公用語習得を目的とした国家単位での施策を行う国は少なくない(図表5参照)。

 

たとえばドイツでは、今後1年以上の滞在許可を有する外国人、またはすでに18ヵ月以上の滞在許可を有する外国人に対して、ドイツ語(600時間)とドイツの法律・歴史・文化等(60時間)を学ぶ「統合講習」(計660時間)の受講を法律で定めている。

 

これにより、ドイツ政府はドイツ語能力とドイツでの生活の基礎知識を持つことが、社会参加の必要条件であることを外国人に対して明示している(松岡 2017)。統合講習の運用にあたって、教育機関・教師・教材などは、ドイツ政府が規定・監督し質的保証を図っており、公費および一部自己負担で運用している(滞在法第43~45条にもとづく)。

 

 

図表5 諸外国の外国人住民向けの言語学習制度

図表5

(資料)自治体国際化協会(2012)、労働政策研究・研修機構(2015)などを参照し、筆者作成。

 

 

外国人がホスト国の公用語を習得する効果として、外国籍や外国にルーツをもつ子どもの進学機会拡大や貧困の阻止(社会保障費の削減等)、現地語による情報収集能力の醸成や就業機会の拡大(生活の安定、納税者の増加)、治安の維持(社会の安定)、地域社会への参画(支えられる側から支える側へ)などが期待される。重要なのは、これらの効果は受け入れ側住民にとってもメリットになるということである。

 

こうした事例や効果を踏まえ、日本でも日本語習得を外国人の自助努力とせず、その教育費用等の負担の在り方について検討すべきと考える。日本語ができない外国人を放置してしまうことは、社会的コストを結果的に肥大化させる要因にもなり得る。

 

そうした事態を未然に防ぐため、中長期視点に立ち、現時点から一定の公費(税金)を投入することにどれほど合意形成できるかがポイントになる。日本語習得にとどまらず、外国人の社会統合を目的とした公費の使い方について、国や地方自治体(行政)任せではなく、受け入れ側住民となる、私たち一般市民一人ひとりが考えなければならない。

 

2017年10月に弊社が実施した、日本国籍を有する一般市民向けアンケート調査では、外国人が日本の法律や生活習慣を覚えたり、日本語を学んだりするときの費用負担の在り方について尋ねた(図表6)。その結果、「公費(税金)と、一部外国人自身に負担してもらうとよい」がもっとも多い5割弱、「公費(税金)と、外国人を受け入れている企業で負担を分け合うとよい」が3割強と続いている。「外国人も納税しているため、すべて公費(税金)で対応するとよい」も3割程度存在している。

 

 

図表6 外国人住民が日本語学習等を行うための費用負担の在り方(3つまで回答可)

図表6

(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「外国人とともにある地域づくりに関する調査」(2017年10月実施、調査結果詳細は今後公表予定)

(注)日本国籍を有する東京都民600名、愛知県民600名、秋田県民300名、長崎県民300名、計1,800名を対象にしたインターネット調査。外国人に期待することとして、「日本の法律や生活習慣を覚える」、「日本語を学ぶ」に選択した回答者への設問。

 

この調査結果からは、外国人の日本語学習等に関わる社会的費用負担の在り方を議論する一定の素地が、日本においてすでにできているともいえるだろう。「公的にはとくに何もせず、外国人自身の努力やボランティアに任せればよい」という回答がもっとも低い1割未満にとどまっていることからも、一定の公費を投入した支援体制の構築が求められていると考えられる。

 

 

3.上記を一つの突破口として

 

外国人に関わる政策(とくに社会統合政策)は、各種政策(教育、医療・福祉、産業、雇用・労働、防災等々)を横断するテーマであり、本稿の内容は、数あるなかのいくつかに過ぎない。

 

本稿で試みに提示した上記の論点を一つの突破口として、今後外国人の受け入れやその後の処遇に関わる議論が広がっていくことが望まれる。

 

 

参考文献

・明石純一, 2015, 「国境を越える人材――その誘致をめぐる葛藤」五十嵐泰正・明石純一編『「グローバル人材」をめぐる政策と現実』明石書店: 92-105.

・文化庁, 2017, 「平成28年度 国内の日本語教育の概要」.

・井口泰, 2011, 『世代間利害の経済学』八千代出版.

・井口泰, 2015, 「東アジア経済統合下の外国人労働者受入れ政策」社会政策学会編『社会政策』7(2): 9-26.

・自治体国際化協会, 2012, 「海外における在住外国人の言語学習制度」『自治体国際化フォーラム』(272): 2-16.

・自由民主党, 2016, 「『共生の時代』に向けた外国人労働者受入れの基本的考え方」.

・加藤真, 2017, 「日本における外国人に関する実態と将来像-『これまで』と『これから』の整理-」SYNODOS.

・松岡洋子, 2017, 「社会を支える外国人移住者と受入れ社会とのコミュニケーション構築――多文化社会の持続可能性を支える仕組み」宮崎里司・杉野俊子編著『グローバル化と言語政策――サスティナブルな共生社会・言語教育の構築に向けて』明石書店: 32-47.

・日本弁護士連合会人権擁護委員会, 2017, 「韓国の『外国人雇用許可制度』に関する現地調査報告」.

・労働政策研究・研修機構, 2015, 「諸外国における外国人受け入れ制度の概要と影響をめぐる各種議論に関する調査」.

・佐野孝治, 2017, 「韓国の『雇用許可制』にみる日本へのインプリケーション」日本政策金融公庫編『日本政策金融公庫論集』36: 77-90.

・佐藤由利子, 2017, 「移民・難民政策の入口としての留学生政策」移民政策学会2017年度年次大会シンポジウム発表資料.

 

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