リスクと無駄とコスト

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8月が終わった。この夏心配された電力不足問題については、少なくともこれまでのところ、懸念されたような深刻なトラブルは発生していない。今もまだ残暑は厳しいので安心はできないが、突発的な大停電や、それを避けるための計画停電のような事態に陥るおそれは次第に低くなってきているといってもいいだろう。4月にこのシノドスジャーナルで、「この夏猛暑にならないように祈ろう」といったようなことを書いたが、祈りが通じたかどうかは別として、起きてほしくないと願った事態が発生しなかったことはたいへん喜ばしい。「この夏を乗り切るために私たちがすべき10のこと

 

もちろんこれは、企業や家庭など各所における節電努力があってのことだ。特に、余力が厳しいとされていた関西電力管内では、「家庭用が約11%、オフィスビル、商業施設などの業務用が約11%、工場などの産業用が約12%と、いずれも目標の10%を上回った」という。これまでなかなか難しいとされていた家庭における節電が、業務用とほぼ同等の水準にまで達したことは、人々の意識が高まったという意味で特筆に値しよう。

 

 

「関電、計画停電回避へ 夏の節電10%減を達成」(日本経済新聞2012年8月23日)

http://www.nikkei.com/article/DGXDASDF23009_T20C12A8MM0000/

 

関西電力は23日、今夏(7月2日~8月17日)の昼間ピークの電力需要が、猛暑だった2010年夏に比べて約11%(約310万キロワット)減少したと発表した。家庭を中心に節電が浸透、関電管内の今夏の節電目標である「10%以上」を達成しており、需給逼迫を想定して実施準備を進めてきた計画停電は回避できる見通しだ。

 

 

とはいえ同時に、企業セクターにおける節電努力が昨年に引き続き行われ、同時に電力会社による安定供給に向けた努力が功を奏したという部分があることも忘れてはならない。もちろんその中には、関西電力における大飯原子力発電所3、4号機の再稼働が、電力需給の安定化に貢献した部分も含まれる。

 

一部には、電力は足りたではないか、不足するといっていたのはウソだったのだ、といった主張もあるようだが、これは結果論にすぎない。確かに、電力需要のピーク時とされる8月を通じて、各電力会社の電力供給力は少なくとも数%、典型的には10%以上の余力を残していた。しかしこれは、気温の推移にせよ、火力その他の発電所の稼働状況にせよ、事態が悪くない方向に推移したというだけの話であって、そうでない状況に陥るおそれはあった。

 

 

「今夏の節電目標、ほぼ達成 中・西日本の6電力管内」(朝日新聞2012年9月5日)

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012071890094758.html

 

関西電力など中・西日本の6電力管内で、この夏の節電目標がほぼ達成されたことが4日、わかった。節電が進んだため、関電大飯原発(福井県おおい町)を再稼働しなくても中・西日本全体では電力に余裕があり、今夏の再稼働が必要だったかが改めて問われる。

 

 

大飯原発の再稼働に際しては、そうしないと電力不足に陥るおそれがあるという理由が挙げられた。だから、「実は電力は足りていた」との主張が出るのは、そう言えば原発再稼働の正当性を失わせることができると考えてのことだろう。しかし、そもそも私たちの社会は、電力の安定供給が続くことを前提としてできあがっており、本当に足りなくなった場合の影響はきわめて大きい。電力供給にある程度の余力を持たせようとするのは当然だ。たとえば、「防潮堤の高さは過去に起きた津波の高さ程度で充分だ」と言われたら、海辺に住む誰もが「それで大丈夫なのか」と不安に駆られるだろう。それと同じ理屈だ。結果として電力は足りたから、再稼働は必要なかったという理屈は、居酒屋談義ならともかく、まっとうな場に持ち出す主張としては合理性を欠く。

 

こうした議論をみるにつけ、個人的には暗澹たる思いを新たにせざるを得ない。「結果的に電力は足りたではないか」という主張は、そのロジックにおいて、「これまで大きな事故が起こったことはないからさしたる危険はないのだ」という主張とまったく同じだからだ。原子力発電所のリスクを大きく見積もる人はえてして電力不足がもたらすリスクを軽くみる。もちろん、その逆もしかりで、原発再稼働に対して前向きな意見の人の中には、原発が今も抱えるリスク、特に「次」の大地震への備えがまだ充分とはいえないというリスクを軽くみる傾向があるように思われる。

 

 

「大飯・志賀原発、断層再調査へ 活断層なら停止・廃炉」(朝日新聞2012年7月18日)

http://www.asahi.com/politics/update/0717/TKY201207170765.html

 

関西電力大飯原発(福井県)の敷地内を走る断層が活断層である可能性が指摘されている問題について、経済産業省原子力安全・保安院は17日、専門家会合を開き、断層の再調査を関電に指示する方針を固めた。定期検査で停止中の北陸電力志賀(しか)原発1号機(石川県)も、原子炉建屋直下の断層が活断層である可能性が高く、北陸電に再調査を指示する方針。

 

 

「原発、断層ずれても運転可能に 保安院が新基準導入へ」(共同通信2012年8月28日)

http://www.47news.jp/CN/201208/CN2012082801002324.html

 

原発直下に地盤をずらす「断層」があっても原発の運転を一律に禁止せず、継続の可能性を残す新たな安全評価基準の導入を、経済産業省原子力安全・保安院が検討していることが28日、分かった。

 

 

「伊方・志賀原発:活断層連動時も「耐震問題ない」」(毎日新聞2012年8月29日)

http://mainichi.jp/select/news/20120829k0000m040121000c.html

 

原発周辺にある複数の活断層が連動して動いた場合に揺れが従来想定を超える四国電力伊方(愛媛県)、北陸電力志賀(石川)の2原発について、両電力は28日、原子炉など重要施設の耐震安全性に問題はないと経済産業省原子力安全・保安院の専門家会合に報告した。会合で異論は出ず、保安院は近く了承する方針。

 

 

どちらの立場も、自分の意見にとって都合のよい主張をつまみ食いして、異なる意見の人をやりこめようとしているだけのようにみえる。本来、どちらか一方がすべて正しいという類の問題ではないにもかかわらずだ。このような状況のままでは、私たちが国全体として、大事な意思決定をするための準備ができているとはとてもいえない。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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