「クールスポット」をつくろう

福島第一原子力発電所の事故は、収束へ向けた工程表が発表されはしたものの、次々といろいろなことが起きたりわかったりして、依然として人々の不安をかきたてている。懸念事項はいろいろあるが、大きな関心事のひとつになっているのは、放射性物質の拡散問題だろうか。

 

政府方針では、原発からおおむね同心円状に避難地域などが設定されているが、どうもそれでは実態にあわない、といった批判が出ている。この関係の情報は詳しくフォローしていないが、風や地形などの影響で、原発から比較的離れた場所でも放射線量の高い「ホットスポット」が発生するといった情報が、一部週刊誌やネットなどでは飛び交っていて、不安が広がっているようだ。

 

当局が充分に情報を開示していない、という不信が根強いのはわかる。実際のところどうなのか確たることは知らないが、深刻な不信をもたれること自体問題ではあるし、実際、開示を控えたり隠していたりしている部分もありそうな気はする。混乱しているなかで下手に情報を出したら、過剰に心配する人が出てきてかえって混乱を招くのではないかといった懸念もあるのかもしれないが、そういう人は何がどうあっても過剰に心配するので、情報を出さずに招く混乱を避けることが先決ではないかと思う。

 

一方で、電力不足による停電や節電の影響については、一時期ほどの切迫した関心事ではなくなってきているように思われるのは気のせいだろうか。もちろん状況はまだまだ不確実だが、一部の人たちが煽りたてていた大規模停電のリスクはそれほど大きくはないということのようだし、心配されていた計画停電も、企業や家庭における節電努力でカバーされることを前提として、基本的には必要ないということになっている。

 

ひょっとするといまは、「いまこそエネルギー大量消費型の日本人のライフスタイルを変えるべき時である」とか、「節電グッズの売れ行きが好調」といった、どちらかといえば「前向き」の取り上げられ方をされることの方が多いくらいかもしれない。

 

しかし、問題が去ったとはいえまい。むしろこれからはじまるところだ。いうまでもないが、一般的にいって夏は暑い。暑くなれば、熱中症にかかる人が増えることは避けられない。とくにこの夏は、昨年ほどではないにせよ、平年並みかそれより暑い夏になると予想されているようだ。そこへこの節電ブームでエアコン「自粛」の動きが広がると、がまんすればいいというレベルではすまなくなるおそれがある。

 

 

「今そこにある危機」

 

軽くみられがちだが、熱中症は恐ろしい健康障害だ。周りの温度に体が対応することができず、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節機能がうまく働かなくなったりして起きる。症状が軽ければ、水分をとったり休んだりすることで回復できるが、重くなれば命にかかわる。

 

実際、日本では毎年、熱中症で多くの方が亡くなっている。とくに昨年、つまり2010年は、統計を取りはじめた1898年以降もっとも暑い夏だったらしい。気象庁によると、昨年の6月から8月の全国平均気温は平年より1.64度高く、8月は各地で最高気温が35度を超える猛暑日が相次いだ。

 

この結果、消防庁によると、5月31日から9月12日までの間に、熱中症で医療機関に搬送された人は5万4,386人。搬送時に重症だった人は1,824人で、搬送直後に死亡が確認されたのは170人だったそうだ。一方、厚生労働省「人口動態統計月報」(平成22年9月)は、2010年7~9月に熱中症で死亡した人数を1,648人としている。2007年の同期間には842人、2008年は530人、2009年は187人が亡くなったとのこと。

 

要するに、昨年は平年より暑く、熱中症の発生件数もかなり多かったというわけだが、仮に平年並みだったとしても決して少ない数ではない。しかも、この人数は、トレンドとしては近年増加傾向にある。比較のためにあげると、昨年1年間に交通事故で亡くなった方は4,863人で、この数字は年々減りつづけている。熱中症の方は3ヶ月間の数字であることを考えれば、これは少なくとも、交通事故に匹敵する程度には重大な問題だという認識が必要ではないかと思う。

 

2011年5月25日に発表された、6~8月の3ヶ月予報によれば、関東甲信越地方では、平年並みかそれより高い気温となる確率が6、7月は80%、8月は70%となっている。東北地方では6、7月が70%、8月が60%だ。昨年ほどではないかもしれないが、それなりに暑い夏になりそうだ。となれば、熱中症に対してはふだん以上の警戒をしておかなければならない。何せ、今年は「節電の夏」だからだ。

 

福島第一原発の事故を受け、今や各地の原発に厳しい目が向けられるようになっている。運転休止中のものは運転再開のめどがたたず、浜岡のように運転中でも停止となったものがある。事情はどうあれ、電力需要が年間のピークを迎えようというこの時期に原発の多くが使えないというのは、やはり痛い。不足分は火力その他でカバーできるとする意見もあり、専門外なのでそれを否定する材料を持ちあわせているわけではないが、常識的に考えて、電力需給のピークを迎えるにあたり、「そんな装備で大丈夫か」と聞かれて「大丈夫だ。問題ない」と胸を張れる状況ではさすがにないだろうと思う。

 

苦しい電力需給をなんとか切り抜けようと、官民各所で節電の取り組みが行われ、提唱されている。たとえば、資源エネルギー庁が出している「家庭の節電対策メニュー」というパンフレットには、「夏の日中(14時頃)には、在宅世帯は平均で約1,200Wの電力を消費しており、そのうちエアコンが約半分を占めています」とある。この「約半分」というのは、オフィスビルでも店舗でもそう大きくは変わらないようだ。つまり、電力需要が1日のなかで、そして年間でもピークとなる夏の昼間のエアコンの電力消費をどのように抑えるかは、否が応でも節電対策の「目玉」にならざるをえないということだ。

 

いくつかの資料をみるかぎり、エアコンに関しては、「室内温度を28度にする」というのがおおむね共通の指針となっている。熱中症予防の観点から「室温が28度を超えないようにする」とされていることと呼応するものだろう。

 

当然ながらこれは、人がいる場所での室温を指しているわけだが、よほどきちんと設計された空間でもない限り、室内の全体にわたって、一定の室温を保つことは難しい。実際には、エアコンの設定温度で調節することになるだろう。最近の機種では、さまざまなしくみできめ細かい室温調節が可能なものもあるが、必ずしもそういう機種ばかりでもないし、フィルタが詰まって効率が低下している場合もあるだろう。そもそも調節といっても限界がある。設定温度と室内温度にある程度のずれが生じることは避けられまい。

 

 

 

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vol.2019.4.15 

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