経営学者という職業

経営学者って何者?

 

初対面の方にお会いするとき、自分の専門を経営学というと、とくに他分野の研究者の場合、一瞬戸惑うような表情を浮かべる人が多い。経済学とか社会学とか、あるいは社会心理学ということであれば、なんとなくイメージできるが、経営学とは一体どんな分野なのだろう、という困惑がその表情からはみてとれる。

 

一方、ビジネスパーソンの方々に会う際には、このような困惑の表情はあまりみられないが、「ああ、それではウチの会社の経営をどうすればいいか教えてください」という(冗談交じりの)反応があったりする。経営学者と経営コンサルタントは、あまり区別されていないようだ。

 

実際のところ、経営学者というのは経済学者とも社会学者とも異なり、また経営コンサルタントとも異なる(と経営学者は思っている)。では、一体経営学者とは何をする人たちなのだろう? 経営学者のひとりであるわたしの視点から考えてみたい。

 

 

経営コンサルタントとの違い

 

ひとつの定義は、経営学者とは、企業あるいはその他の組織(非営利組織や政府機関も研究対象になりうる)の内外で発生するさまざまな現象について、そのような現象はなぜ発生し、またどのような影響を関係者や組織にもたらすのか、といったことを探求する人びとである、というものである。

 

たとえば、なぜある企業の製品開発がうまくいき、別な企業はうまくいかないのか、とか、企業が合併すると何が起こるのか、というようなことについて、インタビューを行ない、あるいはデータを集めて統計分析をすることで、答えを見つけ出そうとするのだ。

 

経営コンサルタントとの違いは、「なぜ(why)」の探求をより重視するところにある。経営コンサルタントは、ある経営上の問題について、実際どのように対応すればよいか、という疑問への答えを求められるために、「なぜ」よりも「どのように(how)」に重点をおく。

 

これに対して、経営学者は、たとえばある製品の開発の失敗とか、企業の合併のような現象が発生し、あるいはその現象がもたらす影響について、その仕組みやロジックを明らかにしようとするところに重点をおく。

 

もちろん、経営学者と経営コンサルタントがやっていることは、つながっているのだが、向いている方向性が異なるというわけだ。

 

 

経営学の独自性とは

 

しかし、これだけでは、経済学や社会学との違いがよく分からないだろう。上のような定義であれば、経営学という領域が独自のものとして存在する必然性はなく、経済学や社会学(あるいはその他の分野)の一部として、経営に関わる現象を検討すればよいだけのように思える。

 

にも関わらず、経済学や社会学とはまた異なるものとして、経営学は存在しているのである(少なくとも、世の中には経営学部・学科は経済学部・学科とは別に存在しており、経営学の学会も学術雑誌も存在している)。

 

しかも、ややこしいことに、経営学は研究のアプローチに関してはかなり自由であり、経済学のアプローチを使っても社会学のアプローチを使っても構わない。そうすると、たとえば「経済学のアプローチを使う経営学者」と経済学者とのあいだには、一体どのような差があるのだろう? 言い換えれば、経営学の独自性とは何なのだろうか?

 

これに対してはいくつかの答えがありうるが、おそらくもっとも重要な点は、経営学は先に述べた製品開発の失敗や企業合併のような、具体的な現象をターゲットとすることによって、個人の主観のような頭の中の(認識レベルの)問題と、より客観的な(観察可能な)企業の行動やその成果といったものをつなげて扱うことができる、という点であろう。

 

これは、現実の現象を理解するために「学問のつまみ食い」ができる、というような単純な話しではない。

 

 

 

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