立憲君主制の国、日本――カイザーの体制を崩壊させなかったほうが・・・

「国家元首」としての天皇

 

戦後70年を経過した現代のわれわれが誤解しがちなのは、この象徴天皇制下の「天皇」の位置づけについてである。現在の憲法では、天皇は「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」とされている。それでは「象徴」とはいったい何なのか。

 

これについては、戦後の憲法学の世界でも様々な議論が展開されてきたが、ここでは外国が天皇をどのように見ているかを解説しよう。結論を先に述べてしまえば、天皇は「国家元首(Head of State)」に相当する。

 

この点では、イギリス女王やヨーロッパの君主たちと同様であり、現在の立憲君主たちは事実上の「政府の首長(Head of Government)」をときの首相(内閣総理大臣)に委ねている。そして彼ら君主たちの役割は、現行憲法下の天皇のそれと同じく、内閣総理大臣の任命や大臣の任免、外国大使の接受や国会の召集といった「国事行為」を務めることにあり、また様々な行事を主催し、全国を行幸される「公的行為」にも現れている。

 

たしかに、日本国憲法には天皇を「国家元首」と表記はしていない。しかし天皇が公式に海外を訪問する際には「国賓」として赴かれるのであり、各国はそれぞれの宮殿や大統領官邸で晩餐会を開いて歓迎する。実際に日々の政治を取り仕切っている首相は「国賓」にはなれず、あくまでも「公賓」の資格でしか公式での海外訪問はできない。

 

逆に、日本を訪れる国賓を正式に歓迎する宴(うたげ)は、総理官邸で催される晩餐会ではなく、天皇が主催する「宮中晩餐会」である。英語で表現すれば、天皇が国賓として海外を訪れるのは「State Visit」であり、その天皇を海外で歓迎したり、天皇が海外からの国賓を遇する宮中晩餐会は「State Banquet」と表現される。まさに「国(State)が国を接遇する」という意味なわけである。

 

現在の明仁天皇も、皇太子時代から数えてじつに65年にも及ぶ長い海外訪問歴をお持ちである。その端緒は、1953年6月に行われたイギリスのエリザベス2世女王の戴冠式へのご出席であった。爾来、皇太子時代には22回の渡航でのべ66ヵ国を、1989年に天皇に即位されてからは20回の渡航でのべ47ヵ国を歴訪されてきた。

 

その47ヵ国のすべてで、それが公式な訪問である場合には、「国賓」として接遇され、君主や大統領から一般の国民に至るまで、多くの人々と接してこられたのである。

 

 

象徴天皇制を再考するときに

 

その明仁天皇が満82歳にして、在位27年を超えられ、2016年8月8日の午後3時に、テレビを通じて「象徴天皇としてのお務めについての天皇陛下のおことば」を放映されたことは、読者の記憶にも新しいことだろう。

 

上記のとおり、「国際親善(皇室による海外訪問や外国からの賓客の接遇は「外交」とは呼ばない)」ひとつをとってみても、この翌年(2017年2~3月)のヴェトナム、タイのご訪問に至るまで、長年にわたり世界中の人々と親交を重ねられてきた。さらに日々のご公務も80歳を過ぎたご高齢には負担が重くなってきている。

 

「おことば」の2~3年前に、明仁天皇とは半世紀以上ものお付き合いのあるオランダのベアトリクス女王(2013年4月退位)、ベルギーのアルベール2世国王(同年7月退位)、スペインのフアン・カルロス1世国王(2014年6月退位)が、次々と「生前退位」され、次代に譲られたことも影響しているかもしれない。

 

来年4月末には明仁天皇も退位され、5月1日から日本は新天皇とともに門出を迎える。これを機に「戦後日本にとって象徴天皇制とは何だったのか」を考えるとともに、「立憲君主制国家としての現代日本」の持つ意味についても、われわれはもう一度真剣に、考え直す時期にさしかかっているのではないだろうか。

 

立憲君主制の現在: 日本人は「象徴天皇」を維持できるか (新潮選書)

立憲君主制の現在: 日本人は「象徴天皇」を維持できるか (新潮選書)書籍

作者君塚 直隆

発行新潮社

発売日2018年2月23日

カテゴリー単行本(ソフトカバー)

ページ数304

ISBN4106038234

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