東京スカイツリーから展望する人口減少時代の「未来都市」像

雨のスカイツリー開業と「時空を圧縮したランドスケープ」

 

2012年5月22日に「東京スカイツリー」が開業して、1ヵ月半以上が経過した。

 

その開業の日、強い雨風がこの新参タワーの展望塔としての門出に文字通り水を差す中、誘致決定以来の7年間の地元民としてのコミットを元にした著書『東京スカイツリー論』を上梓したばかりだった筆者は、事業者サイドが公表していた事前情報を元に書いた自著での叙述と実際の体験性との違いがどうなっているかを我が身で確かめるべく、初めて付帯施設「東京スカイツリータウン」の敷地に足を踏み入れ、そして地上高350メートルに位置する第一展望台「天望デッキ」へと上った。

 

ちょうど夕暮れ時、ようやく雨も小降りになって雲間からの視界が改善しはじめ、だんだん夜景らしきものが立ち現れてきた頃合い。とりわけ筆者が気になっていたのは、西から南にかけての方角に、化政期の浮世絵師・鍬形恵斎が描いた江戸の鳥瞰図「江戸一目図屏風」のレプリカが置かれ、現実の眺望と見比べることができるようになっている趣向の出来映えであった(※写真1)。というのは、それは新タワーの“発注者”たる放送事業者サイドの有識者検討委員会が新タワー候補地を墨田区に選んだ時点から掲げられてきた「時空を超えたランドスケープ」というコンセプトを、最も直截に表現する仕掛けでもあるからだ。

 

 

写真1 「江戸一目図屏風」の置かれた開業当日の「天望デッキ」

写真1 「江戸一目図屏風」の置かれた開業当日の「天望デッキ」

 

 

もともと筆者は、墨田区で行われてきた過去の大規模開発が、江戸期以来の風情を遺すとされる下町の風情や共同性を台無しにする方向にしか作用してこなかったことに、住民としてずっと憤然たる思いを抱いてきた。そのため、地デジ化というテレビメディアの技術更新にともなうこの電波塔の建設計画を、20世紀までのモダニスティックな開発主義の価値観を一変させ、むしろ都市や建築に地域の歴史文化や自然性を恢復していくような転換点として、新タワーのシンボル性を構想してほしいという提言を事業者や行政に提出してきたりもした。

この土地に多少なりとも理解や愛着がある者なら誰もが抱くだろう、そんなありふれた願いは、江戸文化や日本の伝統技術の継承を大きく打ち出した新タワーのデザインコンセプトや演出設計の中に、結果的には考えうる最大限に近い水準で採り入れられた。例えば、地震によって倒壊したことがないとされる浅草寺などの五重塔と同様、外力に対して中央の心柱と周囲の塔体がある程度独立に動くことで揺れを抑制する柔構造の採用や、「粋」(※写真2)「雅」(※写真3)をモチーフにしたライティングデザインなど、「日本」「江戸」「下町」のテーマ性が、下品なジャポニズムにならない範囲で、かなりの洗練度でフィーチャーされているとは思う。

 

 

写真2 ライトアップ「粋」

写真2 ライトアップ「粋」

写真3 「雅」

写真3 「雅」

そうした意味から、展望台の眺望などという現代にあっては凡庸きわまりないアトラクションに、江戸を幻視する想像力を重ね合わそうとする一種のAR(Augmeted Reality:拡張現実)的な考え方には少なからず共感できるものがあったし、何かしら特別の感慨があってほしいなという期待があったのである。

 

ただ、残念ながら一目図屏風の構図に近い都心方面への夜景は、高層ビルなど変化に富んだ光源から遠いこともあって、あまり面白いものではなかった(※写真4)。かわりに天望デッキからの眺望の特色になっていたのは、真北の方角で荒川放水路と合流する隅田川の流域が、まるで地図を見るように見事に把捉できること。その際、ちょうど川面に浮かぶ屋形船と相まって、川沿いを走る首都高速6号線の高架灯が、流路の曲線を彩ってなかなか美しく思えてしまう光景には、筆者としてはかなり複雑な気持ちにさせられた。なぜなら地上からの目線では、高度成長期に東京中の河川をコンクリートで覆い隠すように築かれた首都高とスーパー堤防の存在は、かつての景勝地としての大川端の風情をぶち壊しにする最大の元凶に他ならない代物であるからだ。

 

 

写真4 「天望デッキ」都心方面への眺望

写真4 「天望デッキ」都心方面への眺望

 

 

その意味で、東京タワーの全高をも上回る天望デッキからの超越的なランドスケープには、徳川幕府による最初期の埋め立て事業から近代以降の震戦災からの復興、東京オリンピック時の都市改造やバブル経済期の臨海副都心開発に至るまで、隅田川以西のかつて江戸と呼ばれた市域の空間と時間が、強引に圧縮しながらフラットに均したような皮肉な形態で、確かに包摂されていたと言えるだろう。

 

 

 

シノドスのサポーターになっていただけませんか?

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「スノーデンと監視社会の現在」塚越健司

 

 

無題

 

vol.230 日常の語りに耳を澄ます 

・荒井浩道氏インタビュー「隠された物語を紡ぎだす――『支援しない支援』としてのナラティヴ・アプローチ」

・【アメリカ白人至上主義 Q&A】浜本隆三(解説)「白人至上主義と秘密結社――K.K.K.の盛衰にみるトランプ現象」

・【今月のポジ出し!】吉川浩満「フィルターバブルを破る一番簡単な方法」

 

vol.229 平和への道を再考する 

・伊藤剛氏インタビュー「戦争を身近に捉えるために」

・【国際連合 Q&A】清水奈名子(解説)「21世紀、国連の展望を再考する」

・【あの事件・あの出来事を振り返る】桃井治郎「テロリズムに抗する思想――アルジェリア人質事件に学ぶ」

・末近 浩太「学び直しの5冊<中東>」

1 2 3 4 5
シノドス国際社会動向研究所

vol.230 特集:日常の語りに耳を澄ます

・荒井浩道氏インタビュー「隠された物語を紡ぎだす――『支援しない支援』としてのナラティヴ・アプローチ」

・【アメリカ白人至上主義 Q&A】浜本隆三(解説)「白人至上主義と秘密結社――K.K.K.の盛衰にみるトランプ現象」

・【今月のポジ出し!】吉川浩満「フィルターバブルを破る一番簡単な方法」