高レベル放射性廃棄物と世代間倫理

処分方法のディレンマ

 

このように、高レベル放射性廃棄物の処分方法をめぐっては、「負担の世代間公正」と「選択権・決定権の世代間公正」のどちらを優先すべきかという点でディレンマが存在する。

 

将来世代に負担を残さないことをめざして廃棄物を埋めてしまえば、廃棄物のリスクに対処する機会やその手法についての選択権・決定権を将来世代に残すことはできない。一方、将来世代に選択権・決定権を残そうとして地上管理を続けるならば、将来世代に管理の負担やそれにともなうリスクを強いることになってしまう。

 

どちらを優先しても、将来世代に何がしかの迷惑をかけてしまうのであり、十全なかたちで世代間公正を実現できないのである。

 

 

不確実性・柔軟性・漸進的最適化

 

このディレンマのなかで、私たちにどのような意思決定が可能だろうか。ここで重要になるのが、不確実性とそれに対処するために求められる柔軟性についての認識である。イギリスの技術論者コリングリッジが指摘するように、人間の知性、情報収集力、分析能力は、自分たちが思っている以上に貧弱であり、意思決定はいつでも現実に裏切られる可能性がある。

 

このような不確実性が支配する状況で、後戻りや修正がきかない「柔軟性の低い」技術を導入してしまうと、想定外の未来が到来した時に適切に対処できず、大きな代償を払うことになってしまう。そうならないためには、後戻りや修正の可能性を持つ柔軟な技術を、小さな意思決定を着実に積み重ねながら、また、多様な意見に耳を傾けながら、運用していったほうがよい。

 

このことは高レベル放射性廃棄物の問題にそのまま当てはまる。この廃棄物の将来の状態、実際の影響、それについての将来世代の評価などについて、現時点で確実な予測などできるはずがない。それなのに、長期にわたる処分方法を確定し、柔軟な対応ができない状況を作ってしまったら、その意思決定が失敗だったとわかっても後戻りができないし、不測の事態に対応するための選択肢も制限されてしまう。

 

このことで将来世代の選択権・決定権が侵害されるだけでなく、無用な負担やリスクがもたらされるかもしれない。そうならないためには、将来起こりうる想定外の事態に備えてできるだけ柔軟に対応できる体制を整え、漸進的に事態を好転させていく方が、致命的な失敗をおかす可能性が少ないという意味で、よりよい方針だと考えられるのである。

 

 

回収可能性を担保した地層処分

 

以上の方針に照らした場合、地層処分には柔軟性の点で懸念がある。廃棄物を埋めて処分場を閉鎖してしまえば、後戻りができず、その時点から廃棄物処分についての他のオプションがほとんど意味を持たなくなるからだ。この場合、将来世代が柔軟な対応とる余地はほぼなくなってしまう。

 

もっとも、こうした懸念を払拭すべく、現在では地層処分の計画に可逆性と回収可能性が組み込まれている(「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」(平成27年5月22日閣議決定))。簡単に言えば、これは地層処分場を建設し、そこに廃棄物を置いておくのだが、いつでも取り出せるようにまだ蓋はせず、監視を続けるという方法である。

 

ここでは十全な世代間公正の実現をあきらめ、未来の不確実性に備えて、将来世代に柔軟な対応の可能性と選択権・決定権を残すという次善の策が講じられていると言える。

 

 

有力な選択肢としての地上管理

 

もっとも、柔軟な対応の可能性を重視するのであれば、地上管理も有力な選択肢である。地層処分場を閉鎖して最終処分を完結させれば、将来世代の柔軟な対応の可能性を著しく狭めることになる。それゆえ、地層処分技術の安全性・確実性が、「柔軟性の維持」という方針を無視できる程度にまで高まらない限り、最終処分を完結させるべきではない。

 

この厳しい基準をクリアできる時期がすぐに来るのかどうか、これもまた不確実だ。この不確かな見通しの中で、地下に巨大な構造物を建造するために、資金と労力を投入すべきかどうかは慎重に検討する必要がある。

 

地層処分場を建造して廃棄物を設置したものの、最終処分を完結させる条件が整わず、監視を続けるのであれば、実質的な管理負担は地上管理とほとんど違いがない。建造してしまった後に、別の有望な処分技術や利用法が開発されたとしたら、最終処分場が不要になり、投入した資金や労力が無駄になる可能性もある。そうだとしたら、まずは地上管理を継続し、地層処分場建設のための資金はそのまま将来世代に引き継ぐ方が合理的な選択だと考えられるのである。

 

 

持続的熟議

 

もちろん、不確実性のただなかにいる私たちには、今の時点で回収可能性を担保した地層処分と地上管理の、どちらがよりよい選択かをすぐに結論づけることは難しい。そのためには安全性や管理のしやすさ、すぐに最終処分に踏み切ることができることを優先するのか、地層処分場が不要になる可能性を重視するのかといったことについて、綿密な検討が必要である。

 

その検討は多様な利害や価値観を持つ人々による熟議というかたちで行われる必要がある。これはまず、処分場や貯蔵施設を受け入れる可能性のある地域の人々の権利を不当に侵害しないよう、その人々の声を決定に反映させるために重要である。また、多様な立場から意見が提示され、それらが批判的に検討されれば、意思決定につきもののバイアスが修正され、より公正な結論に達する可能性も高まる。

 

そして、高レベル放射性廃棄物のリスクが長期的に持続する以上、この熟議は世代をまたいで継続しなければならない。一つの世代が行う予測には自ずと限界がある。リスクに対してより適切に対応するには、それぞれの世代が、前の世代の意思決定を自明視するのではなく、新しい状況の変化を踏まえて短・中・長期的な見通しをそのつど立て直し、必要な場合には、前の世代の施策を修正したり、後戻りさせたり、全面的に改定したりしながら、よりよい対処の仕方を探りあてていかなければならない。

 

 

長期的リスクに対処するための世代間倫理

 

以上で見たように、高レベル放射性廃棄物がもたらすような長期的リスクに対処するには、世代間公正という理念を掲げるだけでは十分ではなく、それが実現できない時の次善の方針をも考慮に入れた世代間倫理が必要である。それは次のような序列を持った原理として定式化することができる。

 

第一原理

 

・リスクは各世代間で公正に分配されなければならない。この原理は、それが十全に遵守されえない場合でも、目指すべき理念として堅持されなければならない。(世代間公正原理)

 

第二原理

 

  • 第一原理を十全なかたちで遵守できない場合に限り、時間的に持続する共同体へのリスクを最小化する最適な方法が追求されなければならない(最適化原理)。
  •  
  • 最適化のプロセスならびにそこで選択される対処方法は、強力な確証がない限り、将来の意思決定をできるだけ制約せず、可逆性および修正可能性をできるだけ担保したものでなければならない(漸進性原理)。

 

注意すべきなのは、第一原理(世代間公正)から第二原理(漸進的最適化)への方針転換がなされたとしても、第一原理が効力を失ったわけではないということである。漸進的最適化という方針は、世代間公正を十全に実現できない状況において、できる限りそれを実現するための方針として採用される。方針転換後も第一原理は目指すべき理想として堅持されているのである。

 

また、第二原理への方針転換は、第一原理の実現がどうしても不可能な時の窮余の策なのだから、安易な方針転換は厳に慎まなければならない。そのゆえ、第二原理への方針転換には厳しい条件が課せられるべきである。

 

例えば、第一原理があらゆる手段を講じても達成不可能であることを論証し、このような状況をもたらした過去の意思決定の失敗を公に認め、新しい方針のもとでの問題解決が今後の社会全体にとってより有益であることを論証する、といったことがなされなければ、第二原理への方針転換は許容すべきではない。

 

こうした諸条件が満たされずに方針転換がなされれば、リスクを発生させた世代の責任を曖昧にし、将来世代への負担の押しつけを「仕方のないこと」としてなし崩し的に許容するという非倫理的な状況が出来する。高レベル放射性廃棄物がもたらした教訓、すなわち「将来世代に配慮して行為すべし」という教訓を噛み締めて、私たちはこうした非倫理的な状況を生み出さないよう努めなければならない。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

未来の環境倫理学: 災後から未来を語るメソッド

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作者吉永 明弘, 福永 真弓

発行勁草書房

発売日2018年4月3日

カテゴリー単行本

ページ数186

ISBN4326603054

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