再スタートする「新しい公共」は、企業家精神を活用できるか 

「新しい公共」推進会議の開催

 

去る2010年10月27日、政府の「新しい公共」推進会議(http://www5.cao.go.jp/npc/suishin.html)が開催された。同会議は鳩山前首相が開催した「『新しい公共』円卓会議」の後継組織にあたる。

 

「『新しい公共』円卓会議」は、NPOや社会起業家といった民間主体の力を活用した公共部門の刷新を企図したものであった。だが残念ながら、社会部門の刷新よりも、産業や生活を直撃する喫緊の経済危機が表面化するといった不運が重なったこともあり、現時点では「刷新」と呼べるほどの具体的成果はみられない。

 

今回の再スタートによって巻き返しが期待されるが、政治変動やソーシャルセクターに対する前政権とのスタンスの違いのなか、当初の勢いが消沈しつつある感は否めない。

 

 

イギリス「第三の道」の戦略

 

社会起業家やその他の民間主体の力を借りて、セーフティネットを構築しようとした社会民主主義の立場は、「古き良き時代」を懐かしむウェットな心性から生まれたものではなかった。

 

たとえば、イギリスの「第三の道」の場合も、当時の新しい労働党政権が、企業家精神に富んだ新しい主体を支援し、資本主義経済を踏まえつつ協働するという構図であったことを確認しておく必要があるだろう。

 

当時のイギリスは、福祉国家化と、その反動ともいえる新自由主義政策を揺れ動いた結果、使用可能な資源の限界と、社会問題の複雑化・多様化の板挟みに苦しめられていた。そして、一部の基礎的なインフラとセーフティネット構築を除いた分野では、政府よりも民間主体が企業家精神を発揮してセーフティネット構築を担ったほうが、効果的かつ迅速に対応できるという見解をもつにいたった。また、彼らの企業家精神にもとづく、創意工夫に富んだ施策も期待できた。

 

それゆえ、そのような分野については、政府は民間主体が活動しやすい「機会の平等」の実現と環境整備、資金投入、評価を担うプラットフォームの役割に徹するという方針を取ったのであった。

 

 

次つぎと現れる若き社会起業家たち

 

政府と民間主体との協働は、現実の政治的環境と社会問題解決の双方を睨んで登場したもので、政府、起業家、住民三者のメリットが勘案されたものであった。このことは、仕切り直しとなった「新しい公共」のなかでも意識される必要があるだろう。

 

そこで鍵となってくるのは、社会問題を解決するとともに、それを支える収益を生み出す革新的な事業モデルを考案し、そして事業体を生み出すために試行錯誤を繰り返す、企業家精神とその醸成過程の所在である。

 

日本では、IPO(新規株式公開)市場、リスクマネーの投入、いずれも冷え込んでいる。開廃業率は逆転し、「今の会社に一生勤めよう」と考えている新入社員数が6年連続上昇、過去最高の57.4%を記録した(公益財団法人日本生産性本部「2010年度 新入社員の意識調査」)。起業を取り巻く環境は厳しく、欧米では当たり前の、各教育過程における「起業家教育」のプログラムも乏しい。

 

しかし、昨今、20代、30代の社会起業家の登場を耳にする機会が増している。

 

NPO法人フローレンスやNPO法人カタリバといった、日本を代表する著名な社会的企業のほかにも、大手印刷企業と協力しながら、環境問題とその解決策を考えるきっかけをつくる合同会社マイアース・プロジェクト(http://myearth.ne.jp/)、脱引きこもり支援を行うNPO法人「育て上げ」ネット(http://www.sodateage.net/)、日本人に対する高品質な英語サービスを提供しながら、フィリピンにおける雇用創出を手掛ける株式会社ワクワーク・イングリッシュ(http://wwenglish.jp/)など、枚挙にいとまがない。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.278 

・山本貴光+吉川浩満「人間とは衝動に流されるものである」
・熊坂元大「培養肉――クリーンミートあるいは現代のプロメテウス的産物」
・伊藤隆太「進化政治学と政治学の科学的発展――社会科学の進化論的パラダイムシフト」
・鈴木公啓「ひとはなぜ装うのか?」
・平井和也「新型コロナウイルスの世界経済への影響」
・石川義正「ミソジニーの「あがない」──現代日本「動物」文学案内(3)」