外国人出稼ぎ労働者の受け入れ――改正入管法の問題点

技能実習制度の基本的問題点

 

今後は減少に転じると思われる留学生に対して、技能実習生は対象職種・作業も拡大され、実習期間も最長5年に延長されて、出身国の割合などの変動はあるにせよ、全体として当面は増加を続けることが予想される。しかし、この制度には、「国際貢献」の建前がほとんど(しかも当初から)有名無実化していることを別としても、上で簡単に触れたとおり、とくに労働者の保護の観点から看過できないいくつかの重大な問題点が内包されている。

 

第一に、送り出し側(ベトナムなど)と受け入れ側(日本)の双方において民間の人材ビジネスが何段階にも介在して収益している。その原資は結局、技能実習生やその家族からの収奪ないし搾取によって成り立っている。

 

右も左もわからない田舎の若者たちが、ブローカーに紹介されるままに現地の送り出し機関に入所し、言われるままの費用を支払って日本語などの教育を受けながら、日本から来る受け入れ団体(「監理団体」)や受け入れ企業の面接試験、実技試験を受けることになるが、送り出し機関に対して「顧客」の立場にある受け入れ側は往々にしてその送り出し機関からの採用の見返りに接待やキックバックを要求し、それらの費用は結局、技能実習生が送り出し機関に支払う経費に上乗せされることになる。

 

また、技能実習生が労働契約を締結して就労する受け入れ企業は、監理団体に毎月「監理費」を支払うなど、国内の労働者を雇用する場合に必要となる以外の出費もかさむことから、いきおいこれを技能実習生からの過度な搾取によって補填する方向に進みがちになる。ちなみに、韓国も、従前は日本の技能実習制度に倣って同様の制度を採用していたが、現在はいわゆる「雇用許可制度」をとり、民間人材ビジネスを介在させず、政府が前面に出て外国人労働者の受け入れを行なっている(外国人労働者を採用したい企業は、職安を通じて求人し、韓国人の採用に至らなかった場合に初めて外国人労働者とのマッチングを受けられる)。

 

第二に、転職の自由が制限されている。技能実習生の「前職」が多くの場合偽装されたものであることはすでに述べたとおりだが、「技能移転を通じた国際貢献」を旨とする外国人技能実習制度のもとで、技能実習生は入管に申告した職種に束縛され続け、途中から他の職種での実習に切り替えることは許されない。

 

また、受け入れ企業においては入管当局の審査を経て許可された「実習計画」に基づく「実習」を行なっている建前であるため、その受け入れ企業が倒産するなどよほどの事情がない限り、たとえ同職種であっても他の企業に移って就労することも許されないし、仮に許されたとしても、新しい職場が見つかるまでの間にアルバイトなどで生計の維持を計ることすら許されていないことはすでに述べたとおりである。

 

そのため、技能実習生の多くは、たとえ労働条件に不満があっても、「失踪」を余儀なくされる段階にいたるまでは、会社からのいじめや解雇・強制帰国などを危惧して黙って耐え忍んでいるのが実情である。ちなみに前出の韓国の「雇用許可制度」のもとでは外国人労働者には3度まで転職が許されている。

 

第三に、転居の自由が制限されている。通常、受け入れ企業が準備する宿舎に住むことになるが、職場に隣接していたりその敷地の内部に設置されたりしており、外部の社会からほとんど隔絶されて生活・就労している実習生が少なくない。このため、地域コミュニティーの一員として認知されにくく、生活面や会社との関係で何か問題が生じた場合でも外部に支援を求めることが困難である。また、家賃について明確な基準が存在しないため 、使用者が粗末な施設に大人数を押し込んで実費をはるかに超える高額な家賃や水光熱費を賃金から天引きし、それ自体から不当に収益しているケースが後を絶たない。

 

第四に、公的な支援体制が不十分である。たとえば受け入れ企業の倒産などにより失職した技能実習生に対して外国人技能実習機構(2017年、外国人技能実習法により設置)が提供する転職支援は、原則として、技能実習生の受け入れ企業に関する機構本部のデータベースの閲覧を許可する程度に止まっている。ましてや自己都合のかたちでの退職した技能実習生の再就職(実習)先の確保については、外国人技能実習機構の担当者が実情を理解している場合には監理団体の変更手続きなど側面からの支援はしてもらえる場合があるものの、外部の支援者(NPOなど)の協力なしには極めて難しいのが実情である。

 

また、一時避難のためのシェルターの提供も外国人技能実習機構の役割とされているが、常設の専用施設を準備しているわけではなく、協定を結んでいるホテルなどに空室があればその都度借り上げてくれるだけである。このように、避難場所についてもその後の就職先の確保についても、行政が十分な対応をできる体制にないことが、上で見た民間人材ビジネスによる搾取や転職・転居の自由の制限などともあいまって、技能実習生の緊急避難的、自力救済的な「失踪」が多発する原因の一つとなっている。

 

 

改正入管法の問題点

 

今般成立した改正入管難民法は、新設する「特定技能」の在留資格のもとで正面から外国人の単純労働者を受け入れようとするものであるが、その内容は上述した外国人技能実習制度に内在する諸問題を引き継ぐばかりか、労働者保護の観点からさらに状況を悪化させかねない、いわば「劣化コピー」である。

 

第一に、民間人材ビジネスに関しては、外国人技能実習制度における以上に参入が容易である。たとえば、外国人技能実習制度における「監理団体」が外国人技能実習法において従来の届出制から許可制に改められた経緯に学ぶことなく、これに対応する位置付けの「登録支援機関」を届出制とし、さらに「監理団体」については非営利団体であることが要件とされているのに対し「登録支援機関」にはそのような制限を課していない。実際、すでに農業と漁業について労働者派遣制度の適用を認める方針である旨が報じられている。また、ベトナムにおいては早くも既存の複数の送り出し機関が手数料6000ドルで希望者を募っており、日本の派遣会社の中にもすでに現地に進出を始めているところがある。

 

第二に、転職の自由については、これを保証すると喧伝されているが 、まやかしである。実際には、会社都合で退職しなければならなくなった場合に、受け入れ企業もしくは「登録支援機関」が再就職をサポートするというだけであって、自己都合退職の場合の特別なサポートは何も考えられていない。したがって、たとえば社長のセクハラに耐えかねた外国人労働者が身の危険を感じて転職先を探すような場合であっても、「支援計画」を備えた同職種の受け入れ企業を自力で探し出して交渉しなければならず、実際にはきわめて困難と思われる。

 

第三に、転居の自由については、日本で外国人が部屋や家を借りることの難しさは周知のとおりである。「特定技能」の外国人労働者については受け入れ企業が宿舎を用意しなくてもその委託を受けた「登録支援機関」が手配する宿舎に居住させることが可能であり、職場と住居が一体化している場合の多い外国人技能実習制度におけるよりも安全であると評価する余地はある。(なお、技能実習制度のもとでも受け入れ企業ではなく監理団体が宿舎を手配しているケースは少ないながら存在する。)

 

しかし、「特定技能」について労働者派遣制度が導入される動きなども勘案すると、その実際の運用には警戒が必要である。外国人労働者を自前の施設に抱え込んでそれぞれの職場に供給し、派遣料に加えて労働者の家賃などからも収益するという、ある種古典的な搾取構造のお膳立てとなる可能性も否定できないからである。

 

第四に、労働者に対する公的な支援体制の不足である。外国人技能実習制度における外国人技能実習機構以上に、労働者の労働、生活、福祉面などを全般的にサポートする組織が必要である。改正入管法は入国管理局を入国在留管理庁に格上げすることとしているが、法務省内部の組織改編だけで対応できる問題ではない。

 

「特定技能」制度は、外国人技能実習制度の存続を前提とし、外国人技能実習制度のもとで3年ないし5年を勤め上げた人物については技能試験および日本語試験を免除する制度となっている。また、上で見たとおり、「特定技能」制度の基本構造は、人権侵害的な制度として国際的に批判されている外国人技能実習制度と軌を一にするものである。これは結局、両制度の目的が一つであることを示唆している。すなわち、「アジアの若年労働者を使い捨てるための方便」である。現政権が繰り返す、「移民政策はとらない」、「家族の帯同、永住は認めない」 という言葉の意味も、有り体に言えばそういうことだろう。

 

外国人技能実習制度について、その問題点の検証も見直しも行わないまま、さらに屋上屋を架すかたちでこのような使い捨て型の外国人労働者政策を取り続けるとすれば、それらの外国人労働者に対する人権侵害の状況が拡大することや、日本人労働者の労働条件の維持向上がますます困難になることはもとより、近い将来、後継者を育成しないまま外国人労働者の存在に頼っている各産業の経営者たちが引退した時点、もしくは、外国人労働者がもはや日本を就労先として選んでくれなくなった時点で、この国からそれらの産業は消滅することになるだろう。

 

このような政策は、産業活性化のためのカンフルではなく、安楽死のためのモルヒネに他ならない。すでに改正入管法は可決成立してしまったが、外国人技能実習制度と合わせて廃止し、改めて、将来を見据えた、持続可能な外国人労働者政策・立法を根本から再考するべきだろう。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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