口コミとマーケティングの間

ネットビジネスが批判を浴びる事例が最近目立つようになってきている。これは社会におけるネットビジネスの存在感が高まってきていることのあらわれでもあるが、もちろん歓迎すべき事態でもない。昨年初頭に話題になっていたのは、グルーポンにまつわる、いわゆる「スカスカおせち」の問題だった。今の話題といえば、やらせ口コミということになろうか。飲食店のレビューサイト「食べログ」における仕込みレビューが叩かれたのをきっかけに始まったものだが、いまや批判の対象は、有名人ブログの商品推奨記事や、ソーシャルメディアを使ったキャンペーンなど、ネット上の口コミ全般に拡大しつつある。

 

 

【「食べログ」で順位操作】やらせ39業者を特定 飲食店が投稿依頼 人気サイト、提訴検討(時事通信2012年1月5日)

http://www.47news.jp/47topics/e/224257.php

飲食店の人気ランキングサイト「食べログ」が、好意的な口コミ投稿の掲載や順位の上昇を請け負う見返りに飲食店から金を受け取る「やらせ業者」にランキングを操作されている事例があることが4日、運営会社のカカクコム(東京)や飲食店関係者への取材で分かった。カカクコムは現時点でやらせ業者、39社を特定しており、田中実(たなか・みのる)社長は「今後は不正業者の業務停止を求めて提訴するなど断固とした措置をとりたい」としている。

 

 

「最高で250万円」という芸能人ブログ“広告”も ステマに業界危機感、健全化へ動く (1/2)(ITmediaニュース)

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1202/06/news056.html

「食べログ」から火がついた「ステルスマーケティング」問題。ステマと疑われての炎上を恐れ、ネット上でのマーケティング中止を検討する広告主が出てきている中、ステマ排除が広告業界の急務になっている。「Ameba」で1万人以上のタレントブログを運営、ブログマーケティングを手がけてきたサイバーエージェントは1月末、紹介する商品やサービスが提供されたものであると記事中に書く「関係性の明示」の徹底を決定した。

 

 

ステルスマーケティングを略した「ステマ」ということばは、最近のネット流行語ともなっている。短くて覚えやすいので、中には意味がよくわからないまま使っていると思しき事例や的外れな批判も少なからず見かけるから、今は実態以上に騒がれている要素もあるのだろうが、いずれにせよ、こうした行為に対する批判の声が上がっていることは事実だ。

 

 

「ステマ」はなぜ批判されるのか

 

ネット上の口コミを使ったステルスマーケティングが批判を浴びること自体は、日常感覚的レベルで理解できる。「口コミ」ということで、一般の利用者、ユーザーの「本音」があらわれているものと期待していたのに、それが金銭その他の報酬を目的に仕込まれたものだったので、騙されたと感じた、といったあたりが典型的なところだろう。実際、ネットで買い物をしたり、比較検討したりする際に、レビューサイトやブログなどのソーシャルメディア上の口コミを参考にする人は多い。

 

 

「消費に関する情報伝達(クチコミ)調査」(第一生命経済研究所2010年2月)

http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/news/news1002b.pdf

 

 

もちろん、ネット上の口コミがすべて一般の素人の本音の意見ばかりだから信用できると、皆が皆、本気で信じていたというわけではないだろう。ネット上に虚偽の情報や事実と異なる情報が少なからず流れていることは、以前からネットユーザーの間では半ば常識であったはずだ。しかし、現在のようなネット取引の普及は比較的最近のことであり、利用者数の増加にともなって、ネットの「常識」にうとい利用者も増えているだろう。「ウソをウソと見抜けない」人ばかりではなくなっているということだ。

 

一方、広告などと見分けのつきにくい情報の発信は、マスメディアからも数多く行われている。よく「マスメディアは広告を広告だとわかるように表示しているから問題ない」という人がいるが、実際には微妙なケースも珍しくないし(最近はやりの「戦略PR」なども、構図が知られれば今ならほぼまちがいなく「ステマ」との批判が起きるだろう)、マスメディアとソーシャルメディアを連動させたマーケティング手法も今では当たり前に行われている。実際、「やらせ」(実際にそうかどうかはともかく、世間がそう判断したもの)に対する社会的批判ということなら、記憶に新しい「韓流推し」問題も含め、マスメディアへ向けられたものも数多く発生している。ネット上の「ステマ」炎上を横目でにらみながら、内心穏やかではないマスメディア関係者も少なくないのではないか。

 

現在のところ、ネット上のこうした行為が即違法というわけではない。消費者庁は昨年10月に「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を公表したが、その内容は、もともとネットを想定していなかった現行景表法の規定をネット上のマーケティング活動にあてはめた場合に問題視されるべき点を整理したものだ。口コミサイトに関しては、当該口コミ情報の対象となった商品・サービスの内容または取引条件について、実際のものや競争相手よりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認されることのないようにする責務が事業者にあり、これに反すればペナルティを受けることとなる。しかし、味など主観的な評価によるものは「優良」や「有利」の認定は難しいし、そもそも基本的に、消費者による口コミ情報は、事業者からの情報発信を念頭においた景表法で定義される「表示」には該当しないから、景表法上の問題にはならない。

 

 

http://www.caa.go.jp/representation/pdf/111028premiums_1_1.pdf

 

 

一方、米国では、2009年12月にFTCが「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン(Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising)」 を公表している。広告主からブロガーに対して商品・サービスの無償での提供や記事掲載への対価の支払いがなされるなど、両者の間に「重大なつながり」があった場合、広告主の虚偽、あるいはミスリーディングな広告行為は、FTC法第5条で違法とされる「欺瞞的な行為又は慣行」に当たるとされる。この場合、広告主は同法に基づく法的責任を負う。事業者だけでなく、ブロガー等の個人も責任を問われる可能性があるというのがひとつのポイントだ。

 

 

「FTCが広告に関するガイドラインを改訂,ブロガーやクチコミ情報に影響」(ITPro – 2009年10月7日)

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20091007/338500/

 

 

昨今の「ステマ」批判を受けて、一部には、日本でも新たな法規制を、と唱える向きもあるようだが、筆者は、何でも法規制をすればいいという考えには与しない。こうした分野での規制は、厳密に規定すれば適用範囲の狭さから有効性を失い、幅広く規定すれば言論と産業の萎縮を招く。また、規制はえてして抜け道を生み、被害者の発生防止に有効でないだけでなく、警戒を怠るようになった消費者のさらなる脆弱化につながるという意味で有害ですらある。

 

 

 

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