2020.06.22

人口減少時代の住宅選び――新築から中古へ、持ち家から賃貸へ

吉永明弘 環境倫理学

社会

「どんな住まいがエコなのか」(要約)

 

2014年に『都市の環境倫理』を刊行してから、環境倫理学のなかで都市問題を主に研究してきた。その間、一貫して「都市は集住と公共交通の利用によってエコに暮らせる地域である」と主張している。それに付随して、エコな住宅の形態について考察した論考「どんな住まいがエコなのか――「都市の環境倫理」再論」をシノドスに発表した(https://synodos.jp/society/18874)。そこでは戸建て住宅よりも集合住宅のほうがエコな住宅であることを、いくつかの論者の議論を引用しながら述べた。そのなかで、産廃Gメンとして名を馳せた千葉県職員の石渡正佳氏の「エコハウス」に関する主張を紹介した。

石渡氏は、巨大な建築のほうが環境性能が良いと言う。体積が大きくなればなるほど、表面積の割合が小さくなっていく。住宅の表面積が小さければ、資材も少なくて済むし、エアコンの電力も節約できる。それに対して、低層の戸建て住宅をたくさんつくった場合、住宅の表面積の割合が増え、それゆえに資材とエアコンの使用量がかさむことになる。現在の日本ではエコハウスと称して低層戸建て住宅をたくさんつくっている。これはエコとはいえない。本当のエコハウスは集合住宅なのだ、というのが石渡氏の主張である。

ここから私は都市に集合住宅をつくって住むことの環境上のメリットを主張したのだが、だからといってタワーマンションのような高層集合住宅こそが唯一解だと言いたいわけではない。中層のテラスハウス(長屋)の建設やシェアハウスの推進という選択肢がありうるからだ。このあたりは都市のビジョンの問題になってくるだろう。

他方で石渡氏は、いわゆる「田舎暮らし」でもエコになりうることを示唆している。昔ながらの大家族居住の大屋根建築(いわゆる古民家)であれば、居住空間当たりの表面積が小さく、さらには茅葺き屋根なので断熱効果が抜群に良いという。これは近年盛んになっている古民家の保存と利用を後押しする見解といえよう。

「人口減少社会」なのに「住宅過剰社会」

結局のところ、前回「どんな住まいがエコなのか」で述べたのは、郊外に低層戸建て住宅を新たにたくさんつくることはエコの点から見て最悪だ、ということに尽きる(「郊外」に住むことのデメリットは、自動車依存になるということだ。公共交通の整備された都市のほうが資源節約的である)。この論点はあまり話題になっていない。むしろ近年では、「人口減少社会」に突入して空き家が増加しているのに新規の住宅建設がやまないという点について、多くの研究者が問題視している。

例えば野澤千絵『老いる家 崩れる街――住宅過剰社会の末路』(講談社現代新書、2016年)では、「世帯数を大幅に超えた住宅がすでにあり、空き家が右肩上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼畑的に広げながら、住宅を大量につくり続ける社会」を「住宅過剰社会」と呼んでいる(3頁)。ちなみにここで印象的な「焼畑的」という表現について、著者は「伝統農法としての焼畑ではなく、収奪的に森林を焼き、無計画に開墾を繰り返す営利目的の農法」という断り書きを入れている(10頁)。実際、郊外の住宅地開発のようすを見ると、この意味での焼畑的という表現が妙にしっくりくる。

「住宅過剰社会」という問題意識は、メディアでも共有されているようだ。2019年12月27日の日本経済新聞朝刊の一面トップは、「人口減時代に居住地拡大:増加面積、10年で大阪府の規模」という記事だった。記事によると、「日本経済新聞が直近の国政調査を分析したところ、郊外の宅地開発が止まらず、2015年までの10年間で大阪府に匹敵する面積の居住地域が生まれたことがわかった。かたや都心部では空き家増加などで人口密度が薄まっている。無秩序な都市拡散を防がなくては、行政コストは膨れ上がる」(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO53865730X21C19A2MM8000/)。

同記事には、「新たな居住区面積の上位15自治体」として、上から、つくば市、長岡市、いわき市、浜松市、宇都宮市、鉾田市、石巻市、新潟市、岡山市、宮崎市、北杜市、宮古島市、二本松市、神戸市、上越市の名前が記されている(なお、つくば市、長岡市、浜松市など7つの市はコンパクトシティー計画を持つという)。

この記事から、多くの都市でスプロール化が止まっていないということが分かる。しかも人口減少により中心部では空き家が増加している。この問題を考えるにあたって、記事では神戸大学の砂原庸介教授のコメントが紹介されている。ここで砂原氏は「中古住宅の流通が重要」として新築中心の政策からの転換を訴えている。

日本では新築・持家という選択が「制度」化されている

この砂原氏の主張をきちんと理解するには、氏の著書『新築がお好きですか?――日本における住宅と政治』(ミネルヴァ書房、2018年)を読む必要がある。砂原氏によると、日本では新築住宅を持家として取得するという選択が「制度」化されており、賃貸住宅に住み続けるという選択は「制度」からの逸脱として実質的に制裁を受けることになるという。ここでの「制度」とは個人の自由な選択の範囲と、逸脱した選択を行った場合の制裁などを定めたもので、法律から習慣までを広く含むものとされている(14-15頁)。つまり日本では新築・持家を選択することが有利であり、中古住宅・賃貸を選択することが不利になるような法的・社会的・経済的なしくみができあがっているということだ。

この本では、そのような制度がいかに成立していったのかが緻密に論じられる。そのなかで、日本では政府が中古住宅・賃貸を支援するどころか、むしろ新築・持家の取得を助長するような役割を果たしてきたことが示される。本の終盤では、空き家の増加と、災害による住宅の被害に対応するためには、政府の積極的な介入が必要だが、持家社会においてはそれが困難であることが指摘される。読んでいくうちに、日本の新築・持家取得の選好や、郊外の住宅地開発の流れは容易には変えられないと思えてくる。

しかし著者は最後に、「政府が人口減少という変化を捉えて、これまでとは異なる人々の行動を促すような政策を適切に行うことができれば、『制度』は変わるかもしれない」と言う(223頁)。その政策とは、新築住宅の建設を抑制し、中古住宅市場を育成するために、「少なくとも短期的には今よりも新築住宅を購入する費用を高めて、他方で中古住宅や賃貸住宅にかかる費用をより低くする」ような政策である(225頁)。ここまで見てくると、先に紹介した新聞記事のなかで、砂原氏が「中古住宅の流通が重要」とコメントしたことがよく理解できる。

 

 

都市がゴミになるのを防ぐために

実はこのような中古住宅市場の育成という提案は、先に紹介した石渡氏によってすでになされていた。石渡氏は2005年に『スクラップエコノミー』(日経BP社)という本を刊行している。書名からは分かりづらいが、この本のメインテーマは都市と住宅である。産業廃棄物問題に長く取り組んできた石渡氏の目からは、現代日本の都市と住宅が巨大な廃棄物に見える。「他の廃棄物が、『都市から生み出される廃棄物』だとすれば、建築系廃棄物は『都市それ自体の廃棄物』であると言える」(49頁)。「日本人1人当たりのゴミ発生量は、1日約1キログラム、1年間に約400キログラムになる。80年間で32トンである。……実は、戸建て住宅の重さは、ちょうど一生分のゴミの量と同じ30~50トンである。住宅を一度でも解体したことがある人は、一生分のゴミを一度に出したことになるのだ」(50頁)。

石渡氏によれば、現在のように25年で家を建て替えることは、文字通り住宅をゴミにしている。それに対して、「私たちが、イギリス並みに住宅をいまより3倍長く使うようになれば、建設系廃棄物の発生量は3分の1になり、不法投棄をやろうにも捨てるものがなくなってしまうに違いない」(50頁)。近年では日本でも「100年住宅」ということが言われているが、「人は100年生きないのだし、少子化で子供が親の家を住み継いでくれるかどうかわからないのだから、100年住宅を実現するには、住宅を中古市場で流通させることがどうしても必要である」(98頁)。

そして住宅を長持ちさせることは、住宅の資産価値を守り、結果的に都市を持続可能なものにする。「都市のサステイナビリティは、古代人が考えていたような帝国の永遠性からではなく、住宅と都市の価値の持続性から積み重ねていかなければならない。個人の住宅の資産価値が保全されることによって、その総体としての都市の価値が保全され、経済の持続性や資源の持続性につながり、それが都市の記憶として、ひいては歴史として永遠に引き継がれていくのである」(92頁)。これは都市がスクラップになっていく現状に対抗して石渡氏が示した「持続可能な都市」のビジョンといえる。

災害に強い都市をつくるために

以上のように、砂原氏による「中古住宅市場の育成」という提案は、石渡氏によって建築廃棄物問題という角度からすでに論じられていた。そして『スクラップエコノミー』の刊行から15年、中古住宅市場は育成されず、「住宅過剰社会」が続いたことになる。

15年たって変わったのは、砂原氏も言及している空き家の増加と防災が、住宅や都市を語る上で必須のテーマになったことある。東日本大震災はもとより、近年の台風被害などを見ても、災害リスクを考えずに住宅や都市を語ることはできなくなっている。

東日本大震災のあとに、石渡氏は毎日新聞(2012年9月25日朝刊10面オピニオン欄)に、「被災平地の有効な活用を」という文章を寄稿している。その一部を引用する。

「津波に耐力のない低層住宅の再建を規制し、低層階を非居住スペースにした中高層建築で沿岸市街地をリデザインすれば、平地の有効な活用と安全な居住を両立できるのではないか、と考えている。建築物は大きいほうが居住空間当たり表面積が小さく空調効率が高くなるので、低層住宅よりもスマートシティー(エネルギー自立型環境都市)を実現しやすく、土地利用率が高まって公共空地を生み出せるトリプルメリットがある」。

石渡氏の主張は今も変わらない。参考までに、先日、石渡氏からいただいた私信(メール)を引用する(括弧書きは吉永による補足)。

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ご無沙汰しております。旧著〔『スクラップエコノミー』〕にご注目いただき、ありがとうございます。

今年〔2019年〕は台風被害が大きく、千葉県でも大きな被害がありました。災害のたびに、日本の持ち家政策、戸建て住宅政策は、転換の時期を逸したと悔しい思いがします。被災地の復興でも、災害に強い住宅は建設せず、相変わらず、木造二階建ての災害虚弱住宅が再築されます。

東北の津波被災地では、造成費に何百億円もかけて、住宅地を5~10メートルかさ上げし、その上に木造低層住宅や、一人暮らしの高齢者向けに昔の団地を思わせる5階程度の中層集合住宅を建設しました。住宅一戸あたりの土地造成費は数千万円にもなるでしょうが、これは住宅の価格には反映されません。私は、住宅地のかさ上げはせず、堤防もむやみに高くせず、津波でも流されない構造の高層住宅にして、3階以下には住まないようにすれば、無駄な土地造成費や堤防建設費はかからず、建物の不動産価値も高くなると、当時、論陣を張りましたが、戸建て住宅信仰を打破できませんでした。

東京では、江戸川や荒川の治水に何兆円もの予算をつけてきたので、今年の台風でも、多摩川が溢水した程度で、東京都内で大規模な浸水はありませんでしたが、絶対安全ということはなく、いつ大規模な浸水が起こるかはわかりません。全区が浸水想定エリアになっている江戸川区などでは、低層木造住宅の新築、建て替えを禁止し、低層階には住まない(低層階は店舗や公共スペースにする)高層住宅に住み替えていくべきなのです。住宅地をかさ上げするスーパー堤防に何兆円もかけるより、ずっと低予算で防災ができ、しかも、住宅価格が増価するし、空き家も増えませんし、公共空地も増えます。スーパー堤防に何兆円かけようと、戸建て住宅の価格は増価しないだけではなく、いずれ空き家になってしまうということが、どうしてわからないのでしょうか。

こうなってしまうのは、公共事業には補助金が付くが、個人資産形成には補助金が付かないという不文律があるからです。戸建てのエコ住宅(最近ではネットゼロエネハウス、ZEHと言います)には、500万円くらいの補助金がつくこともありますが、集合住宅には補助金がつきません。

(中略)

私の持論は、都市部や、災害虚弱地の住宅はすべて高層の賃貸住宅にし、賃貸住宅の所有権を証券化すること。その証券を住人自身が所有している場合は、持ち家とみなして相続税を減免すること。また、賃貸住宅の家賃は、所得税の家賃控除を認めることです。こうすると、住宅証券の利息収入で家賃を相殺でき、家賃控除があるので家賃分の所得税が還付されるというダブルインカムになります。会社から住宅手当の支給があれば、トリプルインカムになるかもしれません。この政策で賃貸住宅と、賃貸住宅の証券化をすすめれば、戸建て住宅の持ち家による資産形成政策は根本から転換します。さらに都市部や災害虚弱地の防災計画に合致する集合住宅には、補助金をも交付するようにすれば、台風、高潮、地震、津波、土砂災害などから戸建て住宅を守るための日本の防災は大きく転換し、あわせて不動産価値も増えると思うのです。

戸建て住宅から集合住宅に転換すれば、都市も住宅も防災性能が高まるので、公共の防災事業を減らせます。その財源を、住宅自体の防災性能や環境性能のほんとうの意味の向上、すなわち高層・集合・賃貸化のために使えます。戸建て住宅の耐用年数を25年とすれば、たった25年で可能な政策なのです。集合住宅の証券化と相続税の減免、所得税の家賃控除、防災計画に沿った集合住宅への補助金で、この政策は25年で実現できます。海辺に住んでいるのに海が見えない高さ10メートルの防潮堤も、千年かかると言われているスーパー堤防も、そのための何百兆円という予算も不要で、国土強靭化、国土保全を、国民個人の資産強靭化、資産保全に転換できます。

(以下略)

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ここからは石渡氏の「戸建てから集合住宅へ」という主張が空き家問題や防災を射程に入れても理に適っていることが分かる。またここには、砂原氏が提起した「新築・持ち家から中古・賃貸へ」という主張も含まれている。空き家増加、災害、都市のスプロール化に対する根本的な対策は、この流れを新しい「制度」にすることだと思われる。

プロフィール

吉永明弘環境倫理学

法政大学人間環境学部教授。専門は環境倫理学。著書『都市の環境倫理』(勁草書房、2014年)、『ブックガイド環境倫理』(勁草書房、2017年)。編著として『未来の環境倫理学』(勁草書房、2018年)、『環境倫理学(3STEPシリーズ)』(昭和堂、2020年)。最新の著作は『はじめて学ぶ環境倫理』(ちくまプリマ―新書、2021年)。

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