地震保険制度を改革しよう

2011年3月11日午後2時46分ごろ発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、マグニチュード9.0という、1900年以降では世界で4番めにあたる規模であったらしい。もちろん日本では観測史上最大であり、その後発生し、いまもつづく原発事故の問題も含め、文字通り「未曾有の国難」といっても過言ではない。

 

報道で伝えられた被害の大きさにはことばもないが、まずは亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申しあげたい。また、当面の復旧のため、あるいは今後の復興へ向け、各所で奮闘しておられる方々もおられよう。頭が下がる思いだが、もちろん他人事などではない。今回の地震は被災規模も大きく、その範囲も広いが、社会や経済への直接間接の影響は当然ながらそれをこえて全国規模、かつ中長期的なものだ。皆がそれぞれできることで力を合わせたい。

 

いまはまだ非常時を抜けだしたとはとてもいえないが、やがて復興が中心的なテーマとなるときがこよう。そこで重要となる点がひとつある。こうした大規模災害への対策はもちろん国の責任だが、それらは基本的には非常時の対処やインフラの復旧であって、個人の財産に対する補償を直接その時点で国が行うことは、基本的にはできないということだ。

 

もちろん、被害者生活再建支援制度やその他類似の制度などによる支援金などもあるが、それらが目的とするのは文字通り生活再建の支援であって、財産補償ではない。端的にいえば、地震で失った家の再建や家財の調達は、そうした支援や融資など公的な支援を受けることはあったとしても、基本的には自己責任であり、まっていれば誰かが無料で建て直してくれたり買い揃えてくれたりする類のものではないということだ。

 

 

ふだんは忘れられる地震保険

 

その意味で重要なのがふだんからの備えであり、そのための主要なツールのひとつが地震保険だ。

 

地震保険は、あらかじめ保険料を支払って契約しておけば、地震や地震に起因する火災や津波などによって保険の対象となる家屋や家財などの資産に一定以上の損害を受けた場合に、保険金を支払ってくれる。支払われる保険金の額は、最高でも火災保険の保険金額(補償の限度額)の半額まで(建物は5,000万円、家財は1,000万円限度)という制約もあるが、上記の支援金などと比べて金額も大きく、地震後の生活再建には大きな助けとなろう。

 

とはいえ、地震保険はえてして、大きな地震が起きたときにしか話題にならず、しかも話題に上るときにはなんらかの批判的な色合いがつくことも少なくない。地震保険自体の保険料(契約時に支払う、いわば保険の代金)が高いとか、保障内容が充分ではないとかいう不満もあるが、「家の保険」としてしばしばいっしょくたにされる、家屋や家財の火災保険で、「地震もしくは噴火またはこれらによる津波」によって生じた火災などの損害が免責(保険金を支払わないこと)になっているということを知らない人がけっこういるという要素も大きい。

 

火災保険は、当然ながら、火災による損害を補償するものだが、地震によって発生した火災に対しては保険金を支払わない旨、約款に書かれている。しかしそのことを知らない人が必ずいて、地震のたびに「なぜ保険金を支払わない」といった批判が起きるのが常となっている。

 

そうした批判を受け、今の火災保険では、「地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災で建物が半焼以上、または家財が全焼した場合」に、保険金額の5%を地震火災費用保険金として支払うしくみになったのだが、これもいわば見舞金のようなものであり、地震による損害に対する補償ではない。地震による家屋や家財の損害をカバーするために地震保険が必要であることは基本的に変わりない。

 

もちろんこのことは、損保業界が過去数十年にわたり幾度となく周知をはかってきていて、次第に効果をあげてきているのだが、残念ながらまだ充分ではないということなのだろう。法的には、阪神大震災に起因する火災の損害に対して火災保険金を支払えとの訴訟が起き、最高裁で敗訴が確定している(平成15年12月9日 第三小法廷判決)のだが、同様の批判が起きるおそれはいまでも充分ある。今回も起きるかもしれない。

 

ちなみに、今回の地震に関しては3月16日、「生命保険と損害保険の大手各社は、東日本大震災で被災した保険契約者には『地震や津波の際には保険金などを支払わないこともある』という条件があっても、保険金を全額支払うことにした」との報道があった。

 

しかしこれは、生保の場合は死亡保険などの特約の「災害入院給付金」や災害時に死亡保険金に上乗せされる保険金、損保の場合は医療保険の「傷害入院保険金」のような、人の身体に関する保険(保険業界が「第三分野」と呼ぶ、損保と生保の双方が商品を販売している領域)についての話であり、火災保険で地震による損害に対し、(地震火災費用保険金以外に)保険金を支払うというものではない。

 

 

・「被災者に災害保険金全額支払い決定 生保・損保大手」(朝日新聞2011年3月16日)

http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103160306.html

 

 

特殊な一部の例外を除き、いまの地震保険は意図的にはずさないかぎり、火災保険に付帯して販売されるしくみになっている(原則付帯方式、ネット業界風にいえばいわゆるオプトアウト方式だ)のだが、2009年度末時点の付帯率(火災保険契約のうち地震保険が付帯されている比率)は46.5%にとどまる。

 

つまり、約半分の契約者は、契約時に「地震保険はいらない」という明示的な選択をしているわけだ。世帯普及率(全世帯のうち地震保険を契約している世帯の比率)でいうと、同じく2009年度末で23.0%ということになる。

 

最近は関心の高まりもあって付帯率は上昇基調にあるし(後記)、さまざまな機関が提供する火災共済にも類似の地震への補償もあるので、それらの契約者を加えれば、世帯普及率はもっと高いはずだが、それでも充分な状況とはいえないだろう。ちなみに、今回の東日本大震災で大きな被害を受けた県の地震保険付帯率をみてみると、宮城県66.9%、岩手県42.2%、福島県39.0%、青森県46.1%、茨城県41.5%、秋田県47.8%。山形県39.9%、新潟県48.9%、長野県33.9%といった具合で、けっこうばらつきがある(表1)。

 

 

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もちろん誰も、地震など起きないと思っているわけでもないし、地震などこわくないと思っているわけでもなかろう。付帯率の低さの背景には、保険料が高いという人々の意識がある。損害保険料率算定会(現損害保険料率算出機構)が1999年に行った「地震保険に関する消費者意識の調査」では、地震保険契約者、非契約者とも、地震保険料に対して「高い」あるいは「やや高い」と回答した者が過半数を占めており、とくに非契約者ではそれが約7割に上る。

 

一橋大学と野村総合研究所が2008年に行った「地震保険に関する消費者意識調査」では、持ち家世帯のなかでも年間所得500万円以下の層は明らかに地震保険付帯率が低くなっていて、保険料の負担感は所得階層によって異なることがうかがえる。また、「近い将来、あなたが住んでいる地域で大地震が起こると思いますか」という問いに対して、「起こらない」と思う人ほど付帯率が低くなることも明らかとなっており、主観的なリスク認識の差も、地震保険への態度に影響していることがわかる。

 

 

 

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