東京電力福島第一原発の何が問題だったのか ―― その行政手続きを考える

東京電力福島第一原発の事故の真相は、まだ十分に明らかになっていない。おそらく、これから少しずつ事実が明かされ、またその過程で、責任の所在も明確になっていくだろう。この問題との関連で、『週刊文春』の最新号(3月31日号)は、佐藤栄佐久(前福島県知事)氏のある証言を載せている。それによると、東京電力は、福島県の副知事を脅かしたことがある、というのである。

 

 

「あらゆる手段をもっても潰します」

 

 

2002年、福島県が「核燃料税引き上げに関する条例の改定案」を公表すると、東電の常務から福島県の副知事のもとに、このような電話があったという。

 

背後にあるストーリーは、こうである。国および電力会社は、原子力発電所の設置や安全管理をめぐって、受け入れ先となる地方の合意を得て、原発政策を進めなければならない。原発に対して批判的な知事がいると、事業そのものが滞ってしまう。そこで国および電力会社は、さまざまな手段を使って、知事や副知事に揺さぶりをかける、というわけである。

 

実際、佐藤栄佐久氏もまた、つくられた汚職事件によって、辞職に追い込まれてしまったという(現在、上告中とされる)。

 

佐藤栄佐久氏は、1939年生まれの政治家であり、東大法学部卒業後、日本青年会議所での活動を経て、1983年に参議院議員として初当選。1987年に大蔵政務次官、1988年に福島県知事に選出されると、以降、2006年までの約17年間を、福島県政に捧げてきた。県民から絶大な支持をえてきた氏は、原発その他の問題では「闘う知事」として名を馳せた。

 

その佐藤栄佐久氏が起訴された経緯については、自著の『知事抹殺』に詳しい(2009年に平凡社より刊行。現在絶版だが、原発事故を受けて増刷中とされる)。本書を読むと、原発行政の問題点が、さまざまな角度から見えてくる。以下では本書に依拠しながら、原発事故の背景について考えてみたい。

 

 

無責任の体制

 

1989年1月6日、東京電力福島第二原発の三号機は、手動で止められた。原子炉の冷却水再循環ポンプ内部に、最大30キロの重さの金属片が落下し、それらが原子炉内に流入するという事故が発生したためである。

 

ところが東京電力は、この事故を正月のあいだずっと隠しつづけた。また、その時点では異常を示す警報を鳴りっぱなしにして、7時間も原子炉を稼動していたという。この事件は、まず東京電力の本社に伝えられ、つづいて、通産省の資源エネルギー庁から福島県に伝えられ、最後に地元の富岡町に伝えられた。県や町は、原発事故に対して、何も権限がないことが露呈したのであった。

 

しかも事故後の経過説明で、東京電力の池亀亮原子力本部長(当時)は、「安全性が確認されれば、炉心に流入した座金が回収されなくても運転はありうる」と答えたという。この発言は、地元自治体や県議会の猛反対を呼び、住民と電力会社の信頼関係に、亀裂が走った。

 

こうした一連の事態に直面して、佐藤栄佐久知事(当時)は、ひとつの大きな教訓をえたという。すなわち、国は、安全政策について、何の主導権もとっていない。事故が起きても、国は電力会社の役員を呼びつけてマスコミの前で陳謝させるだけで、それ以上のことはしない。事故を教訓にして「防止策を考えよう」ということにはならない。すべては電力会社に任され、県も地元も、原発に対して口出しする権限がないのであった。

 

 

まるで阿片のような原発

 

1991年には、こんなことが起きた。東京電力福島第一原発の地元である双葉町の町議会は、原発増設の要望を議決した。双葉町は、すでに原発が二基あるおかげで、財政的には恵まれていたはずである。しかし30年から40年の単位で考えると、原発のある地域は、新たに原発をつくらなければ、財政的に厳しくなる。

 

双葉町はその後、2008年には、福島県内で財政状態がもっとも悪い自治体となっていた。新しい町長は、税金分以外無報酬という事態にまで追い込まれた。原発とはつまり、地元経済にとっては、麻薬のような効果をもっている。もっとつくらなければやっていけないという、原発依存症の自治を生み出してしまう。

 

 

答責性のない官僚制

 

1993年、東京電力は、福島県に次のようなお願いをした。東京電力福島第一原発の敷地内に大きなプールをつくって、その水のなかで、使用済みの燃料を一時的に保管したい、というのである。原子力発電の問題のひとつは、使用済みの燃料を処分する場所がない点にある。この問題をめぐって東京電力は、一時的な保管を福島県に求めてきた。

 

この要請に対して、当時の佐藤栄佐久知事は、通産省の担当課長に問い合わせ、「2010年から再処理工場が稼動するので、同年からは原発敷地内の使用済み燃料を運び出していきます」との確認をえた。そのうえで佐藤栄佐久知事は、使用済み燃料の一時的な保持を了承した。

 

ところが翌94年になると、国の原子力政策を決定する原子力委員会は、方針を変えてしまった。2010年までに処理するのではなく、「2010年ごろに、再処理に関する方針を決定する」という具合に、大きく政策を転換したのである。

 

佐藤栄佐久知事はこのとき、すぐに通産省の課長と連絡を取った。ところがその課長は、すでに異動していた。約束は「なかったこと」にされていた。国の役人には、顔がない。後で非難されても、人事異動を通じて、答責性を免れることができる。結果として国は、福島県をだましたことになった。

 

 

 

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