人はなぜ美容整形をするのか

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美容整形の禁忌と普及

 

古代インド、ローマ時代にも記録が残っているほど、整形手術は古くから行われている。とはいえ、長期間にわたって(特に美容目的の)整形手術に対する抵抗感は強かった。医学には健康な体にメスを入れることへのタブーがある上、麻酔や外科技術現在ほど発達していなかったし、そもそも身体は「神」や「王」や「親」から与えられたものであって、個人が勝手に手を加えるのはいけないこととみなされていたからである。

 

美容整形が普及して行くのは、エリザベス・ハイケンによると、第1次世界大戦と第2次世界大戦の間である。第1次大戦のころ、戦争で傷ついた兵士の顔や体を治療することが広がり(まだ美容整形への風当たりは強い)、それが第2次大戦にいたる時期には外見を大切にする風潮が強まってきた。そこで医者は、身体の美醜をある種の「病気」にすり替える論理――心理学者アドラーが唱えた「劣等感」という概念――に飛びついたのだという。

 

劣等感学説は、特に1920年代のアメリカで専門家にも素人にも行きわたっていたメジャーな概念である。劣等感とはもともと精神の問題であったはずなのだが、その原因を肉体の問題に帰することで、劣等感を治してやるためには肉体を変えてあげる必要があるという論理が構築されることになる。外見における美/醜という軸を、健康/病気という軸にすり替えることで、美容整形への「正当な」理由となっていったわけである。

 

現在では、多くの美容目的の外科的措置が行われている。ピッツ-テイラーによると2005年のアメリカ合衆国では、200万件近い美容整形手術(1984年の4倍以上にのぼる)と、800万件を超える美容医療(=プチ整形などと呼ばれることもある、メスを使わず注射やレーザー、薬剤の塗布などでなされる美容のための医療的処置)がある。日本でも、実数を把握するのは困難だが、筆者の2011年男女800名に対する調査では、メスをともなう美容整形は8人、美容医療は28人が受けており、女性だけでいえば6.8%が何らかの美容的な医療措置を経験している。

 

 

整形の理由

 

かように普及してきた美容整形であるが、そもそも人はなぜそれを受けるのだろうか。一般的には、「劣等感があるからじゃないの?」あるいは「異性にもてたいからでしょ?」などと言われ、予想されているが、先行研究ではおおよそ三つの視点が考えられる。

 

一つには「心的な問題に起因するもの」ととらえる場合。その場合、例えば、美容整形は「自己嫌悪症候群」(ブラム)として、あるいは、「リストカットと同じような、代理による自己切断」(ジェフェリーズ)として考えられる。

 

もう一つは、「社会(男性社会)によって押し付けられる規範に合わせるもの」としてとらえる場合。まさに「美の神話」(ウルフ)として、「美しくあるべき」あるいは「人並み(普通)であるべき」という規範を内面化した結果、美容整形を受けるととらえるわけである。ここでは美容整形は「社会に伝播する女性美の典型に合わせる」(バルサモ)「社会的幻想によって煽られている」(ボルド)行為となるだろう。

 

もう一つの見方として、単に社会規範に煽られているわけではなく、むしろ「美容整形を通じて、自分のアイデンティティを再構築する(*1)」(ギムリン、デービス)のだという議論もある。自分の体を自分で変えていくことで、己のアイデンティティを作っていくのだ、という見方である。

 

(*1)「アイデンティティを再構築する仮説」についての検討も著者は行っているが、ここでは割愛する。谷本(2012)参照。

 

こうしてみると、一般的な美容整形理由の予想は、学術的な議論の視点とまったく無縁というわけではないことが分かる。特に「社会によって押し付けられる規範」という視点とは重なり合っているようだ。「劣等感があるからじゃないの?」という予測は、「人並み(普通)であるべき」という押し付けられた規範が前提となっている(同時に、心的な問題としてとらえる視点とも重なりあっているかもしれない)。また「もてたいからじゃないの?」という予測は、「美しくあるべき」という規範が前提されている(美しい方がもてるという前提も必要であるが)。

 

そこで、整形の理由として、「人並みであるべし」規範と関わっている(1)「劣等感仮説」と、「美しくあるべし」規範と関わっている(2)「もてたい仮説」について検討していきたい。

 

 

調査と分析:「自己満足」「自分が心地よくあるため」

 

筆者は、2003年~2011年にかけて、計2165名に対するアンケート、および整形経験者と医師に対するインタビュー32名分を実施し、整形を希望する理由を探っている(*2)。

 

(*2)アンケートは、プレ調査として03年486(男性212、女性274)および04年114(男性41名、女性63名)、 本調査として05年765(男性354、女性408、不明3)、および2011年800名(男性400、女性400)に対して行っている。

 

下記グラフは、本調査2005年、2011年における「美容整形をしたい理由」の結果である。2005年では「自己満足のため」が最も多く、2011年の調査でも「自分が心地よくあるため」が最も多い。

 

 

2005年 整形したい理由(%)

2005年 整形したい理由(%)

 

 

2011年 美容整形・美容医療を受けたい理由(%)

2011年 美容整形・美容医療を受けたい理由(%)

 

 

結論から言うと、(1)「劣等感」と(2)「もてたい」という理由もあることにはあるが、多数派とは言えない。「動機の語彙」としては、別の理由が主流なのである。2005年の調査では「自己満足」、2011年の調査では「自分の心地よさのため」という理由が多く、いずれにせよ「自分の満足のため」であることが強調されていると分かる。自己満足という表現は、インタビューでも多く聞かれた。

 

 

「ほんま自己満足なんですよ。わー(二重まぶたに)なってるって。自分だけの満足。キレイになったからでもなく、ただ嬉しい。」

 

「たぶん本当に自分でしか分からない程度の差なんです。」

 

(筆者の「周りの人に変わったと思われたいかどうか」という問いに対して)「別に人にどう言われたから嬉しいとかよりも、自分自身が嬉しかったので。本当に。人には気づかれたら気づかれたらで、良くなったんだなと思うし、気づかれなかったら別に何も思わないし、ぐらいの感じですね」

 

 

よって、美容整形の動機として「自己の満足のため」という言い方が多くなされていると分かる。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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