2013.01.10

風俗嬢の『社会復帰』は可能か?

セックスワーク・サミット2012

社会 #GROW AS PEOPLE#ホワイトハンズ#セックスワーク#性風俗#売春#セックスワーク・サミット#赤谷まりえ

セックスワークは悲惨かつ劣悪な「裏社会」という通俗的なイメージをもとに「社会復帰の必要性」を問われることが多い。しかしセックスワーカーは本当に、社会復帰を望んでいるのか。社会はセックスワーカーが復帰するに値する社会なのか。「セックスワークの社会化」をキーワードに開催されているセックスワーク・サミット2012。当事者の声が聞こえづらいなかで、外部の支援者・代弁者は何ができるのか。支援現場のリアリティや課題、展望を語りあった。(構成/金子昂)

風俗嬢の「社会復帰」は可能か

赤谷 皆さんこんにちは。セックスワーク・サミット2012にご参加いただきありがとうございます。本日司会を務めさせていただきます、編集ライターの赤谷まりえです。本日は「風俗嬢の『社会復帰』は可能か? ―― 風俗嬢の『社会復帰支援』の可能性を考える」というテーマで、セックスワーカーの「社会復帰」について考えていきたいと思います。

主催のホワイトハンズが掲げる、本日の会の趣旨説明を申し上げます。

性風俗の世界に従事する大半の女性は、さまざまな事情で家庭や学校といった「表社会」からはじき出された結果、セックスワークという悲惨かつ劣悪な「裏社会」のもとで自らの体を切り売りし、継続性と将来性の乏しい働き方をしていると考えられがちです。

そういった通俗的なイメージから「救済しなくてはいけない」「社会復帰せよ」と、ありがちな救済論が出てくるわけですが、救済論的発想および現状認識は本当に正しいのでしょうか。セックスワーカーは「反社会」という社会にいるほうが、居心地のよさを感じているのではないでしょうか。

非常に不安定、かつ刹那的なかたちではありますが、性風俗や売買春は精神的、経済的な「救済システム」になっている側面は否めません。社会に絶望した人間に「社会に復帰せよ」と語るのであれば、その「救済システム」に変わるオルタナティブなシステムをわたしたちの社会が用意する必要があります。はたしてそれは可能なのでしょうか。そして、この問いはどのように考えるべきなのでしょう。

本日は、支援現場のリアリティや課題展望を語っていただきたく思い、夜の世界で働く女性を支援する2つの団体の方に来ていただきました。風俗嬢の社会復帰は可能か、そもそも社会復帰すべきか否か、そしてわたしたちが向かうべきセックスワーク3.0の世界 ―― セックスワークの社会化を実現するためのヒントを、皆さんと考えていきたいと思っています。

説明が長くなりましたが、最初に主催者のあいさつとして、一般社団法人ホワイトハンズ代表理事の坂爪真吾さん、お願いします。

坂爪 こんにちは、ホワイトハンズ代表理事の坂爪です。

セックスワーク・サミットは、これからのセックスワーク(性風俗労働、売春労働)のあり方、進むべき方向性を議論するサミットです。サミットのキーワードは、「セックスワークの社会化」。社会化とは、分かりやすく言えば、「日常生活のなかで、誰もが当たり前に利用でき、働くことのできる仕事にする」という意味です。

セックスワークを「関わった人の大半が不幸になる」「一生消えないスティグマ(負の烙印)になる」世界から、「関わった人すべてが幸せになる」「そもそもスティグマにならない」世界に変えるための仕組みを、セックスワークの当事者・支援者を交えて徹底的に議論します。

本サミットでは、飛田新地やソープランドといった昔ながらの本番系サービスの世界を「セックスワーク1.0」、1980年代以降に増加した、店舗型ヘルスやデリヘルなどの非本番系サービスの世界を「セックスワーク2.0」、重度身体障害者への射精介助などの、健全で社会性のある性サービスの世界を「セックスワーク3.0」と定義しています。

さて、セックスワーク・サミット2012は、4月の福岡・中洲から始まりまして、新宿・歌舞伎町、札幌、京都といった、全国各地で開催してまいりました。本日の歌舞伎町2回目が、年内最後の会となります。

全国各地をまわって、わたしがもっとも強く感じたことは「当事者の不在」です。こうしたサミットを開催しても、会場に来て下さるのは、ソープやハコヘルなどで働き、それなりに稼ぐことのできている一部のエリートワーカーのみで、大多数を占めるデリヘル嬢やホテヘル嬢、ピンサロ嬢は、まず来てくれません。

では、どのような方が来て下さるのかというと、「セックスワーカーを代弁したい」「支援したい」と思っている人が、主に参加してくださっている、というのが現状です。

セックスワークに関する議論の特徴として、風俗店や、そこで働く風俗嬢の実態が見えづらいがゆえに、代弁者がイメージ先行で議論してしまっている点があげられます。とはいえ、代弁者による議論が、必ずしも悪であるとは言えません。

セックスワーカーは、そもそも、自分が当事者であると思っていないことが多く、当事者意識を持っていないために、夜の世界の労働環境を整える、という発想が、なかなかでてこないんです。であるならば、内部の当事者ではなく、外部の支援者・代弁者が、問題を少しでも良い方向に引っ張っていくことが、セックスワークの問題系を解決していく上での、現実的な解だと思います。

本日は、短い時間ではありますが、風俗嬢の「社会復帰支援」の現場で活躍されているゲストの方のお話を聞いて、実態の見えづらいセックスワークの世界をどのように理解し、どのように当事者を支援していけばよいかを、考えたいと思っています。それでは、最初にガールズケア代表、株式会社オフィスキング取締役である中山美里さんにお話いただきたいと思います。中山さん、よろしくお願いします。

ウェブサイト・ガールズケアとは

中山 こんにちは、中山美里です。まずは自己紹介をします。

わたしは16歳から夜遊びを始めて、援助交際やヌードショーを行うクラブで働いているうちに、なぜかライターになっていました。いまは編集プロダクション・オフィスキングを、元男優の夫と経営しています。夫婦ともに夜の世界にどっぷり浸かって生きているわけです。

ガールズケアは、ライターをしているあいだに出会った20歳くらいの女の子がきっかけで立ち上げました。とても可愛い女の子なのですが、小学生のときに壮絶ないじめにあって精神的に参ってしまい、北海道にある本番もできるピンサロに中学生のころから働いていたようです。その後お店で「東京でAV女優になれば、タレントや女優になれる」とスカウトされたことをきっかけに上京したものの、もちろんタレントにも女優にもなれず、超狭い風俗店の寮に10万払って生活を送ることになりました。それでも彼女はまだアイドルになれると信じて働いています。

彼女はアスペルガーのような症状も見られましたし、鬱傾向もありました。知能的な問題があるのかもしれません。健康保険も銀行口座も持っていないし、そもそも健康保険の存在も知らなければ、銀行がなにをする場所なのかもわかっていませんでした。彼女に必要なのは、行政の支援であり、生活保護であり、生活を立て直すために親身に相談を受けてくれる人でしょう。

彼女は稀なケースではありません。その後、同じような女の子とたくさん出会ってきました。彼女たちのために出来るかぎりのことはしたいけれど、わたしにも生活がありますから限界があります。そこで彼女たちと繋がりながら情報を発信していくコミュニティを設けようと思い、風俗嬢やAV女優、キャバ嬢などに役立つ記事を掲載するウェブマガジン・ガールズケアを見切り発車で始めました。

GIRLS CARE;http://www.girlscare.org/

見切り発車ですから、トラブルつづきで大変です。最初、風俗で働いている女の子に「ITに興味があってプログラムも書けるしイラストレーターも使える」と言われたのでサイトの開設をお願いしたらパソコンを持ってないと言い出して(笑)。「うわー、信用できねー!」と思いつつもパソコンを貸してみたら、ちゃんとロゴを作ってくれました。ただし、彼女はその後、わたしのパソコンと共にいなくなってしまって。「これはハードルが高いなあ」と思いながら、なんとかつづけていこうとしているのが現状です。

中山美里氏

目標は繋がりあうこと

さて、風俗嬢の社会復帰は可能か、そして復帰とは何かということですが、一概に言えないというのがわたしの考えです。風俗嬢にも個人的な背景がたくさんあります。なぜこの世界で働くようになったのか、働きたくて働いているのか、それとも嫌々やっているのか。要因はさまざまです。

社会復帰が必要なのかどうかわからない人もいますし、復帰することで負担が増えてしまう場合だってあるでしょう。ですから、ガールズケアは社会復帰を目標にしているのではなく、風俗嬢同士が繋がりあって発信していくことを目標に活動をつづけています。

議題をいただいているので、いくつかお答えしたいと思います。まずはセックスワーカーと障害者の関係についてですが、たしかに夜の世界で働く人のなかには、発達障害や精神障害を抱えている女性がいます。本来であれば福祉の支援を受けるべきなのでしょうが、彼女たちは何の支援も受けずに働いているケースが多く見られる。そして、そういう女の子たちが、たとえばAVのハードな撮影に出演していることが頻繁にあるように思います。

ハードな撮影によって怪我を負う子もいれば、病気になってしまう子もいる。でも最初にお話した女の子のように、それでもアイドルになることを夢見ているんです。わたしも初めは冗談だと思っていたのですが、彼女たちはどうやら本気のようです。そういう世界があることを知っていただけると幸いです。

次に、支援団体の先行事例とわたしたちの活動内容との比較についてお話します。今までの支援団体の多くは、性病の危険性や予防などの情報発信に留まっていました。わたしたちの活動は、性病にかぎらず、いろいろな情報を発信しています。

たとえば、風俗業界も不景気の煽りを受けて、稼げない仕事になっていて、1ヵ月フルで働いても20万円しか稼げない世界になっています。風俗は年を取れば収入が減りますから、稼げるあいだに稼がなくてはいけません。そこで、現役のセックスワーカーに風俗で稼ぐことをテーマにしたコラムを連載していただいています。

他にも、風俗嬢のなかにはどの業界でも立派に活躍できるだろう女の子がいろいろな成り行きでこの世界に従事しています。そこで風俗嬢の転職をテーマにしたコラムも、同じく現役のセックスワーカーに連載をしてもらっています。

わたしたちの活動はなかなか実績が見えにくいものですし、繋がりあって発信するといっても、内輪の繋がりになっているのが正直なところではありますが、そのあたりが先行事例との違いだと思っています。

最後に、社会復帰支援の困難性についてですが、先ほどもお話したように、いろいろな背景の風俗嬢があっていろいろな理由で働いているわけですから、どのような社会復帰のための支援が望ましいか一概には言えません。だからこそ、相互支援・扶助のかたちで、風俗嬢同士が繋がって、さらには行政と繋がっていくことで、何か新しい道が見えてくるのではないかと思っています。

今夏、キャバクラ嬢の私物を販売している会社から、コスメを開発・販売をする会社の設立を持ちかけられ、12月半ばから後半にオープンすることになりました。ガールズケアと連動しながら、新しいかたちでの活動も出来るのではないかと思っていますので、注目いただければと思います。

一般社団法人GROW AS PEOPLEとは

赤谷 ありがとうございました。では次に、一般社団法人GROW AS PEOPLE代表理事の角間惇一郎さんにお話いただきます。よろしくお願いします。

角間 こんにちは。今日はわたしたちGROW AS PEOPLEがどのような活動をやっているかをお話したいと思います。GROW AS PEOPLEは埼玉県越谷市を拠点に、2010年10月から活動を始めました。現在、正式なスタッフはわたしを含めて3人。活動の際に、話を聞かせてくれる女性が約180名います。

わたしたちが提供するサービスの受益者は「21世紀のマーメイド」です。夜の世界で働く女性たちは足が欲しくて大きなリスクをとってしまった人魚姫のように、生きていくために大きなリスク ―― 夜の世界の仕事を選択せざるを得ず、その結果、自分たちの声を失ってしまい、立場を明かして相談ができなくなっている。わたしたちは彼女たちの声に耳を傾け、相談にのりたいと思って活動をしています。

お店の数と平均在籍人数からざっくり計算した数字となりますが、夜の世界で働いている女性は最低でも29万人以上います。20歳から40歳手前までと設定した場合、100人中2人となる。

しかし、そもそも夜の世界とは何か。たとえば一回だけ働いた女の子は夜の世界で働いていると言えるのでしょうか。また夜の世界の仕事のみで生きている人と、半々で生きている人、どこからどこまでが該当するのか、定義がありません。ですからわたしたちが計算した人数が多いか少ないかは気にしないでください。そのくらいの女性が働いていると思っていただければ結構です。

「夜の世界」という定義がないがゆえに、見えてこない問題がたくさんあります。たとえば、公務員の場合、調査を行えば、世帯人数や収入を調べることができますが、夜の世界で働く女性の場合、アンケートを取りたくても、窓口もなければ、回答を拒まれてしまうことも多い。突然「夜の世界で働いたことがありますか?」と聞かれたら、残念ながら多くの人は失礼だと思ってしまいますし、仮にそうだとしても正直回答してくれるとはかぎりません。

そのため、マクロの視点でみた実態は把握できていません。今日は、少なくともわたしたちが調査した結果をまとめてみて見えてきた問題をお話したいと思います。

GROW AS PEOPLE;http://growaspeople.org/

「40歳の壁」を飛び越える

現在、GROW AS PEOPLEは「40歳の壁」という問題を設定して活動しています。夜の世界は健康であればつづけることはできますが、40歳を超えると今までと同じペースで働くのがしんどくなってガクンと収入が落ちます。どうしても40歳が定年になってしまう。女性の平均寿命は85歳くらい。人生の半分で、それまで実績をあげてきた仕事ができなくなってしまう。これが「40歳の壁」です。

GROW AS PEOPLEはスタッフ3名の小さな団体です。本当はすべての年齢層をケアしたいと思っていますが、団体の規模を考えたら不可能です。一方、40歳の壁が差し迫っている人たちが、壁を超えられるようにお手伝いする力も、残念ながらわたしたちにはまだありません。

アンケートを取ると、18歳のときは、受け入れられなかった学校や社会と違って歓迎してくれるこの世界を楽しんでいたけれど、25歳くらいから、「このままでいいのだろうか」と危機感を抱くようになるようです。そこで、いまは25歳から34歳をターゲットに、「40歳の壁」を飛び越えるための助走をお手伝いしているところです。

角間惇一郎氏

GROW AS PEOPLEの活動

具体的な活動内容についてお話しますと、大きくわけて「Crejyoプロジェクト」「夜の世界“後”のハローワーク」「夜の世界のwikipedia(仮)」「リバースシェアハウス」と4つの事業を行っています。

「夜の世界のwikipedia」は、先ほどもお話したように、夜の世界は現状把握が非常に困難で、統計が取りづらくなっていますから、より正確な情報を得るために、女性たちの声を集めて、まとめて、社会でシェアする試みです。

また「リバースシェアハウスの活動」ですが、夜の世界で働く女性はお金を稼ぐ術はある一方で社会的信用がありません。一人暮らしをしたくても、不動産屋に断られてしまう。生活基盤を得られず、ホテルや漫画喫茶を行き来すると体力的にも精神的にもつらい。そこでGROW AS PEOPLEを立ち上げる前は「まちたみ」という町づくりのNPOで活動していたこともあって、その縁で越谷市にある放置物件を借りて期間限定のシェアハウスを運営し始めました。

夜の世界で働いている女の子は、一般の人たちと少し距離を置くため、悩み事がある場合は同じ世界の女の子に相談をします。とはいえ一週間で20万円稼げる子もいる世界ですから、周囲の子と話しているうちに金銭感覚がマヒしてしまう。そのまま「40歳の壁」にぶつかると、就職も厳しいですし、貯金もほとんどない。4人に1人に子どもがいて、その子も夜の世界に入るようになる。「夜の世界“後”のハローワーク」はこの悪循環を終わらせるために、相談相手の不足と金銭感覚のマヒの解消を目指すプログラムです。

皆さんは、給料をもらったら、何にいくら使うか割り振ると思いますが、彼女たちの多くは、遊んでお金がなくなったら、働いて稼ぐ生活を繰り返しているので、自分の月収を把握していません。その金銭感覚を是正しなくちゃいけない。

そこで、お店と連携をして、自分が一ヵ月にどのくらい稼いでいるのかを知ってもらい、さらにレシートを全部残してもらって、どのくらい使っているのか把握してもらっています。無駄があるなら無駄を削り、貯金をし、余裕がでてきたら、連携している他の団体のもとに連れて行く。結果的に、社会参加の機会を増やすことでやりたいことが見つかればと思っています。

夜の世界で働く女性たちは、救済すべき対象として見られることを嫌がります。彼女たちにとって、福祉やケアはダサいことなんですね。そのため夜のハローワークを始めてもあまり人が集まりませんでした。彼女たちは、可愛かったり、イケてたり、素敵なものに集まるんです。じつは、夜のハローワークを始めたときも、あまり人は集まりませんでした。

わたしはもともとゼネコンや設計事務所で働いていたこともあり、GROW AS PEOPLE以外にも個人的に空間デザインなどの仕事を受けていました。ただ活動が忙しくなるにつれて、なかなかその方面の仕事をさばききれなくなってしまった。どうしたものかと思い、周りにたくさんいる女の子に手伝ってもらったんです。

早速、ある不動産会社の事務所を女の子にデザインしてもらったら、ふざけ半分でハンモックを吊るしたり、サーフボードを立てかけたり、いろいろなアイディアを持ち出してくれた。しかもそれをクライアントが気に入ってくれたんです。女の子も自分のアイディアが受け入れられて喜んでいて。そこから、女の子のしんどい経験や可愛い感性を使って、よりよい社会づくりに貢献してもらおうと思い、「Crejyoプロジェクト」を始めました。このプロジェクトに参加を希望する女の子が増加しています。やはり可愛いことをやれば女の子も集まってくれるんです。

泡となって消えないように

最後に、いただいている議題についてお話します。

まず「障害者とセックスワーカーの関係」ですが、残念ながらわたしたちの調査ではまだ把握できていません。ただ思うのは、お店も女の子を選ぶ権利がありますから、精神疾患を持っていそうな女の子を入れないこともあるでしょう。そういった子がセーフティーネットとして夜の世界に入ってくるというのはないのではないか、というのがわたしの実感です。

「先行事例とGROW AS PEOPLEの違い」としてあげられるのは、救済者や支援者の関係ではなく、身内として見ているという点でしょうか。先ほどもお話したように、彼女たちは支援される側として見られたくないと思っている。わたしたちも別に彼女たちを救済すべき対象だとは考えていません。わたしたちは「福祉」ではなく、可愛いことをやる団体なんです。それもあってわたしたちの事務所は鍵を掛けずに出入り自由にしているのですが、女の子たちのアイロンで一杯になってしまっています(笑)。

「社会復帰の困難性」であげられるのは、やはり「性」という文字は怖くて怪しいイメージがあるため、支援者が集まらないことですね。女性たちもあまり人に知られたくないと思っていますし、支援者が誰でもいいわけでもありません。

じつは初めは支援者集めとして、夜の世界のwikipediaを使って仕組み作りから始めようとしたのですが、それだけで疲れちゃって女の子に目がいかなくなっちゃいました。そこでGROW AS PEOPLEが可愛いことをしていると知っていただいて、参加してくれた女の子に、今度は支援者になってもらおうとスタンスを変えました。

冒頭で「21世紀のマーメイド」のお話をしましたが、人魚姫のように泡にならず、ずっときらきら輝いていて欲しいと思っています。今回このサミットに参加するにあたって、社会を変えること、セックスワーカーの人権など、いろいろなことを考えましたが、ぼくにはあわないと思いました。

今まで出会ってきた女の子はぼくにとって身内で、とにかく困っている。だったら「社会がうんぬん」ではなく、とにかく相談にのって、出来るかぎりのことをやりたい。彼女たちが泡にならないように、現場レベルで頑張っていきたいと思っています。

坂爪さんによる質問

赤谷 中山さん、角間さんありがとうございました。ここからは坂爪さんとわたしからお二人にいくつか質問をさせていただき、お答えいただければと思います。まずは坂爪さん、質問をよろしくお願いします。

坂爪 中山さんに質問です。「ガールズケア」の法人化は考えていましたか?  性に関する事業はNPO法人化が困難と聞きます。というのも、ホワイトハンズも創業から3年間、行政に対してNPO法人の設立申請を何度も行ったのですが、「事業内容が社会通念上、認められない」という理由で、すべて不認証になりました。これについては、いかがお考えでしょうか。

中山 NPOにはメンバーが4人必要なのですが、今までその4人が集まりませんでした。ここ半年はメンバーも固定しているので、法人化も可能だと思います。やはり性に関する事業の法人化は難しいので、わたしが六本木で働いた頃のお客さんに相談しながら法人化を目指している状態です。

坂爪 しっかり根回ししていますね。

中山 元ホステスですから(笑)。

坂爪 次の質問です。風俗嬢にお薦めする転職先はありますか。

中山 お話したように一言で「風俗嬢」と括れませんが、多いのは看護師から風俗嬢、風俗嬢から看護師という流れです。人の体に触れることに抵抗がないことと関係があるのかもしれませんが、エステシャンなども多いですね。もちろん人によりけりですが。

坂爪 ありがとうございます。つづいて角間さんに質問です。「福祉」ではなく「可愛い」が大事とのことですが、事業の規模を大きくすることを考えていますか。

角間 そうですね、大きくしていきたいです。「プロダクトレッド」って知っていますか?

坂爪 プロダクトレッド?

角間 Apple社のサイトを見ていただけるとわかりますが、iPhoneやiPodに1つ赤いデザインのものがあります。これは購入金額の一部が「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」に寄付されるんです。これはNikeやDellも取り組んでいます。ただ赤い色にするだけで、寄付が集まるんですね。

いま考えているのは、女の子がわたしたちのイベントに関わってくれたらシールを配布しようと思っています。「シールが何枚集まったか」「君のおかげで誰がきてくれたか」など、成果がわかれば、貢献度がわかって嬉しいでしょう。ディープなことをするよりもカジュアルなものを目指したいと思います。

坂爪 日本にはNPOが4万団体ほどあると言われていますが、性風俗に関する問題系に取り組んでいる団体は、残念ながらほぼゼロだと思います。この現状を変えるためのアイディアがあればお聞かせください。

角間 いま「NPOに参加すればどうにかなる」という淡い期待が世のなかにあると思います。SNSのプロフィール欄に参加しているNPOの名前を書く人をよくみかけるでしょう? それはエコや教育といった分野で活躍していた先人の成果によるものです。しかし性に関する活動はそうはいかない。やはりリスクがあるんです。だったら素敵でオシャレな活動にすればいい。もちろん本質的な部分がぶれてはいけませんが、性に対してかっこよく、素敵にやっていくことが大事だと思います。

赤谷さんによる質問

赤谷 わたしからもいくつか質問をさせていただきます。

まず中山さんにお聞きしたいのですが、本日のお話のなかで中山さんは「セックスワーカーは一概に括ることはできない」と仰っていました。実際に、日本の性産業にはさまざまな職種のセックスワーカーがいると思います。中山さんはどんなセックスワーカーに関わっていこうと思っているのでしょうか。

中山 いわゆる「お酌をするだけのホステス」以外がターゲットです。でもキャバクラでも愛人派遣をやっていたり、ただのバーだけど援助交際の場になっているところもあるので、線引きは難しくて。だからとりあえず「ガールズ的な」とゆるく大きく括って考えています。

赤谷 ありがとうございます。つづいて角間さんにも同様の質問をします。GLOW AS PEOPLEは、どんなセックスワーカーをターゲットに考えていますか。

角間 基本的には派遣型のお店に勤務している女の子です。理由は簡単で、わたしがGLOW AS PEOPLEを始めるきっかけとなった方が、派遣型の風俗を経営されていたんです。それに派遣型なら比較的見えやすいので、活動がしやすいんです。あと店舗型に行くのは怖い(笑)。踏み込みが深ければ深いほどいろいろな問題は見えてくるのでしょうが、いまは把握している問題に対して、支援を提供するスタンスで活動をしているので、踏み込みの範囲をこのレベルにしています。それに店舗型を経験している派遣型の女の子や併用している子もいるので、店舗型の実態がまったく分かっていないわけでもありません。

赤谷 なるほど、ありがとうございます。

(この後、60分間、会場の参加者との質疑応答)

では最後に、ホワイトハンズの坂爪さんより終了の挨拶をお願いします。

坂爪 本日はどうもありがとうございました。おかげさまで数多くの方にお集まりいただき、大変有意義な議論ができたと思います。性風俗の現場はまだまだ見えにくく、多くの問題を抱えているでしょう。すべてを一気に解決することは不可能です。問題をしっかり定義し、細分化して、個別に支援していく必要があります。セックスワーク・サミットは、「風俗嬢の社会復帰支援」について来年以降も取り上げていきたいと思っていますので、ご注目いただければと思います。よろしくお願いいたします。

(2012年11月25日 歌舞伎町にて)

プロフィール

角間惇一郎GrowAsPeople代表

1983年新潟県生まれ。サラリーマン時代、週末のみ行なっていたまちづくりNPOでの活動中に偶然知ることとなった夜の世界で働く女性たちの存在について把握するため退職。2012年2月一般社団法人GrowAsPeople設立。同じようなしんどい立場の女性たちの視点と感性を活かした相談のしくみ、デザイン事業等に取り組んでいる。「ちょっとかわいく、ちょっとすてきにおもしろく」がテーマ。

この執筆者の記事

坂爪真吾ホワイトハンズ代表

1981年新潟県生まれ。東京大学文学部在学中に、性風俗産業の研究を行う過程で、「関わった人全員が、もれなく不幸になる」性風俗産業の問題を知る。同大卒業後、性に関するサービスを、「関わった人全員が、もれなく幸せになる」ものにするために起業。2008年、「障害者の性」問題を解決するための非営利組織・ホワイトハンズを設立した。現在は全国18都道府県でケアサービスを提供している。

この執筆者の記事

中山美里フリーライター

フリーライター。ガールズケア代表。編集プロダクション(株)オフィスキング取締役。

ガールズケアのメンバーがオリジナルコスメの開発やメルマガ執筆などで協力したネットのラブコスメなどのショップ「Love Beauty」がオープン。今後も、オリジナルコスメの開発や講座、メルマガなどで、協力して行っていく予定。

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