ビットコインをめぐる共同幻想と同床異夢

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仮想通貨としてのビットコイン

 

さて、以上をふまえて、ビットコインについて考えてみよう。ビットコインの特徴は、細かい技術的な部分を端折ると、一般的には次のようなものであるとされる。

 

 

(1)発行者が存在しないこと

一般的な仮想通貨と異なり、ビットコインは誰かが発行するものではなく、所定の法則に従った数列を見つけることによって「採掘」される。「採掘」は誰でもできるが、「採掘」には膨大な計算が必要であり、その困難さが発行量が増すごとに増大していくため、現状では素人が手を出せるものではなくなっている。

 

(2)発行量の上限が理論的に決まっていること

「採掘」が誰でもでき、発行量のコントロールは行われていないが、ビットコインの「採掘」による発行量の上限は2100万ビットコインと理論的に決まっている。また上記のように「採掘」の困難さがどんどん上がっていくので、乱発によるハイパーインフレーションの懸念はない。

 

(3)P2Pで管理されていること

ビットコインはその「採掘」から取引の認証までがP2Pで行われており、国や企業の関与を受けずに取引ができる。どこかに特定の管理者がいるわけではなく、デジタルデータであることから、一見複製や偽造が簡単に行えそうなイメージもあるが、取引履歴(ブロックチェーン)をユーザー間で共有しているため、そうした偽装を行うことは容易ではない。

 

(4)国境に縛られず安いコストで送金できること

(少なくとも現在の日本では)法令などによる制約を受けず、どの国でもネットがつながっていれば送ることができ、銀行などを通す場合と比べ、送金の手数料が圧倒的に安くすむ。

 

 

こうした「利点」を強調し、ビットコインを「インターネット時代の革新的な通貨」としてもてはやす人が少なからずいる。供給量に上限があり、供給が政府の意向などによって左右されないことなどもあって、ビットコインを金になぞらえる人もいる。

 

 

「【経済快説】ビットコインに前向きな適応を 日本円と併存できる仕組み作り」(ZAKZAK2014年3月6日)

http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20140305/ecn1403051748009-n1.htm

筆者の理解では、ビットコインは、通貨としての「金(きん)」を理想化してデジタル空間に作り出したようなものと思える。金は、新たに作ることが不可能で、埋蔵量に限りがあると考えられている。その希少価値と伝統的経緯から、中央銀行の準備資産としても保有されていて、通貨の側面を持つ。

 

 

実際、ビットコインを作った人々も、「採掘」という表現を使うなど、金をイメージしていたふしがある。一方で、さまざまな問題点があるとして批判する人も少なくない。例として、ノーベル賞を受賞した経済学者ポール・クルーグマンが「新たな金本位制だ」と批判したコラムを挙げておく。

 

 

Golden Cyberfetters (The New York Times 2011.09.07

http://krugman.blogs.nytimes.com/2011/09/07/golden-cyberfetters/

In effect, Bitcoin has created its own private gold standard world, in which the money supply is fixed rather than subject to increase via the printing press.

 

 

肯定的にみる前者の経済評論家・山崎元氏の主張は、金のように希少で価値ある存在になっているというものであるのに対し、クルーグマンの批判は、金本位制のようにマネーサプライがコントロールできずその価値が乱高下するために貨幣としての機能を果たしていない、というものである。ビットコインを同じ「金」になぞらえ、その供給制約に着目しながらも両者がまったく異なる評価につながっているのは興味深い。

 

 

ビットコインの問題点

 

上記のクルーグマンによる批判以外にも、ビットコインについては少なからぬ欠点が指摘され、実際、問題が発生している。代表的なものを列挙すると次のようになる。

 

 

(1)価格の変動が激しい

ビットコインの価格は短期間に大幅な高騰や暴落を繰り返している。価値の安定性を欠くことは、通貨としては問題がある。上記のクルーグマンのコラムは、価格の変動が大きいため、ビットコインは使われずに死蔵され、取引を媒介するという貨幣の機能を果たしていない、と指摘している。

 

 

「仮想通貨「ビットコイン」、人気急上昇で価値高騰」(AFP2013年4月11日)

http://www.afpbb.com/articles/-/2938295

 

「架空通貨ビットコイン暴落 巨大化警戒、中国が禁止」(朝日新聞2013年12月21日)

http://www.asahi.com/articles/ASF0TKY201312200453.html

 

 

(2)闇取引に用いられる

ビットコインの「所有」や取引は、政府や銀行などの金融機関を通さずに行えることから、違法な物品の売買やマネーロンダリングなど、違法性のある取引に使われるおそれがある。実際、「闇のアマゾン」とも呼ばれ、FBIによって閉鎖、多額のビットコインが押収された売買サイト「シルクロード」での主要な販売品の中には違法薬物や銃などがあった。

 

 

「FBI、悪名高いオンライン闇市場Silk Roadの所有者を逮捕、サイトを閉鎖―麻薬、殺し屋募集など容疑続々」(TechCrunch2013年10月3日)

http://jp.techcrunch.com/2013/10/03/20131002fbi-seize-deep-web-marketplace-silk-road-arrest-owner/

 

 

(3)脆弱性がある

ビットコインはP2Pで取引を行うことができるが、実際にはビットコイン銀行とも呼べるような取引業者にビットコインを預けて取引を行う場合が少なくない。マウント・ゴックス社もこうした取引業者の1つであった。

 

こうした取引業者は、一般的な銀行などの金融機関とくらべてサイバー攻撃に対して脆弱であることが少なくなく、実際、サイバー攻撃によって顧客から預かったビットコインを引き出されてしまうケースが相次いでいる。取引の認証をP2Pで行うため、決済完了までに10分程度の時間を要し、この時間差を利用した不正行為が行われうることが判明している。

 

 

「ビットコインの不正な引き出し相次ぐ、別の取引所にも被害」(ITmedia2014年03月06日)

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1403/06/news040.html

 

 

取引業者のこうした脆弱性は、銀行が行っているようなセキュリティ対策をこれらの業者が行っていないことに起因し、銀行送金などと比べてビットコインによる送金が安価であることの理由ともなっている。

 

 

暴騰も暴落も防げない

 

ここで重要なのは、これらの問題点が、ビットコインの成り立ちそのもの、あるいはその利点と考えられている点そのものに起因しているということである。

 

たとえば、ビットコインの激しい価格変動を取り上げてみよう。これがマネーサプライのコントロール不在によるというのはクルーグマンの指摘通りであるが、これはビットコインの設計者あるいは信奉者にとって、ビットコインの価値を守るために有益だとして採用されたしくみだ。どこぞの政府のように通貨を乱発しないから価値が守られる、という発想であるが、これは通貨が市場で取引される資産でもあるという性質を理解していない考え方である。供給量に上限を設ければ、確かに乱発による価値の暴落は起きないが、それを求めて多くの資金が市場に注ぎ込まれれば当然のように価格は暴騰する。暴騰を防ぐことができなければ、その反作用としての暴落も防ぐことはできない。ビットコインに生じているのはまさにこれである。

 

現在、ビットコインは、理論上の供給総量である2100万BTCの約半分程度が「採掘」された状態であるが、仮にすべて「採掘」が終わったとして、これまた仮に1BTC=10万円で換算すると、最終的なビットコインの「時価総額」は2兆1000億円ということになる。一方、外国為替市場の取引高は1日当たり平均で500兆円超にも達する。株式市場でも、2013年の東証一部の国内株取引高は1日平均で2.6兆円であった。すなわち、資本市場の規模に比べて、ビットコインの総量はあまりに小さいのである。したがって、資本市場で流れている資金のほんの一部でも流入ないし流出すれば、簡単に大暴騰や大暴落を招く。ヘッジファンドなどがその気になれば、思うままに相場を操縦できるだろう。

 

もちろん、世界の通貨の中には、その発行総額がビットコインの時価総額とそう変わらない規模のものも少なからずあるが、これらの通貨の価値は、それぞれの国の中央銀行や、国際金融機関などによって守られているため、ビットコインで生じているような暴騰や暴落はそう簡単には起きない。一方、こうした制度的な保護策はビットコインには存在しないため、市場の「暴力」に直接さらされるのである。ビットコインの時価総額がさらに増大していけば、投機対象としての旨味が増すため、価格変動リスクは減少することなく、むしろ飛躍的に高まっていくのではないか。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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