地域と共生する持続可能な地熱発電――変わりつつある「進展する世界と停滞する日本」

火の玉の地球

 

地球は半径6370kmのほぼ球体に近い惑星である。その中心部の温度は約6000℃、そして、その体積の99%は1000℃以上で、100℃以下の部分はわずか0.1%程度と推定されている。地球内部の温度分布がおおよそ知られていることから、地球内部に貯えられている熱量は1031ジュール程度と評価できる。この数値は莫大で実感が伴わないが、以下のように説明することができる。

 

地球内部は高温で、地表は10℃程度の低温であり、地球内部からは常に熱が伝導的に流出している。広大な地球表面からはたえず平均70mW/m2の熱(地殻熱流量と呼ばれる)が放出されているが、地殻熱流量によって地球内部の熱を放出し尽くすのには数10億年がかかる。すなわち、地球内部にはそれほどまでに莫大な熱エネルギーが貯えられている。太陽だけでなく、地球も火の玉なのである。

 

本小論では、地熱発電のしくみ、世界と日本における地熱発電の進展の対比、そして、3.11以降のわが国の地熱発電を取り囲む潮流等を中心に、地熱発電をめぐる最近の事情を紹介したい。

 

 

熱水系によってマグマの熱が利用できる

 

さて、地球内部には莫大な熱エネルギーが存在していることを前節で示したが、残念ながら、現在の人類は、数1000kmの深さはおろか10kmの深さにある熱も取り出すことはできない。現在利用できる熱は地下数km以内、多くの場合、地下1~3km以内のものである。そして、火山およびその近傍に限られている。

 

火山の地下数~10数kmにはマグマと呼ばれる溶融した岩石が存在している。このマグマは噴火によって地上に溶岩等を噴出させるが、それは数10万年と言われる火山の寿命の中での一瞬の現象であり、火山は、その寿命の大部分の期間においてはしずしずと熱伝導的に熱を周囲、とくに上方に放出している。この地殻熱流量によって地球表面全体から放出される熱は、火山噴火に比べて数10倍も大きい。

 

一方、雨水が地下に浸透しマグマからの熱に温められると、膨張し軽くなって、今度は上昇を始める。この上昇した熱水の一部はそのまま地表に放出され、温泉となるものもあるが、多くは地表に放出されるのではなく、地熱貯留層と言って、水を貯めやすい地下の部分に留まる。地熱貯留層はヤカンの中に熱い水が貯まっているような3次元的な広がりを持つものではなく、薄く伸び広がった2次元的な構造をしており、畳が熱い水を吸っているようなものである。この2次元的な構造の実体は、岩石の破砕が進んだ断層である。言い換えると、熱い水を含んだ断層が地熱貯留層である。したがって、地上から、地熱貯留層を各種の探査法を駆使して発見し、ここにボーリングし、蒸気や熱水を取り出して、発電等に利用することになる。

 

以上のような地下の熱と水の流れのシステムを熱水系と言う。この熱水系の存在によって、地下数kmにあるマグマの熱をわれわれが利用できるのである。

 

 

4つの地熱エネルギー利用

 

前節で、地下深部の熱を地表近くにもたらす熱水系について紹介したが、ここでは、熱水系によって地表近くに運ばれた熱水・蒸気の利用、すなわち地熱エネルギーの利用について考えてみることにする。

 

地熱エネルギーは、実に多様であり、これは風力エネルギーと比較すると良く理解できる。風力エネルギーは、風の運動エネルギーを風車に伝え、風車の回転により発電機を回し、電気を発生するという簡単なプロセスである。しかし、地熱エネルギーでは、多くの場合、熱を運ぶ媒体は熱水あるいは蒸気であり、場合によっては、マグマあるいは高温岩体と呼ばれるような熱源そのものが媒体になることもある。温度も数10℃のものから1000℃を超えるものまで実に多様であり、発電のプロセスもさまざまである。

 

以上のように多様な地熱エネルギーは、たとえば、地下に存在する時の温度によって分類することが可能である。(1)超高温地熱(400℃程度以上1200℃程度まで)、(2)高温地熱(200℃程度~350℃程度)、(3)低・中温地熱(数10℃~百数10℃)、(4)地中熱(常温)である。

 

(1)超高温地熱とは、火山の下にあるマグマあるいはマグマによって加熱された高温岩体が持つ熱である。マグマの熱利用は極めてチャレンジングなテーマであるが、現在は基礎的研究の段階で、これが実用化されるまでには数10年は必要とされるであろう。

 

一方の高温岩体の熱は、そこに複数のボーリングを行い、一方のボーリング坑から冷たい水を注入し、高温岩体内で熱交換し、温められた熱水あるいは蒸気を別のボーリング坑から取り出し、発電等に利用する。このような手法は高温岩体発電と呼ばれ、1990年代には、それが実現可能であるとの研究が米国、日本、欧州で実施された。しかし高温を得るために深いボーリング坑が必要である(お金がかかる)とか、高圧水を使って熱交換用の岩体を破砕する際に誘発される地震への対応、熱交換用の水が周囲に流出し、熱交換を長期間継続するためには多量の水を必要とする等、実用化するための課題が多く、現在、引き続いて研究開発が行われている。

 

(2)高温地熱とは、地熱地域地下に熱水あるいは蒸気として貯えられているもので、ボーリングによって取り出し、主に発電に利用するものである。詳細は後に説明する。

 

(3)中・低温地熱とは、数10℃~百数10℃程度の熱水である。発電ではなく、熱水を熱として利用するものであり、直接利用とも呼ばれる。熱水の温度に応じて、多様な利用法がある。高温であれば、木材乾燥、さらに温度が下がると、温室栽培、入浴、魚の養殖等多様である。

 

この直接利用は、地域の産物の付加価値を高めるのに利用でき、地域ごとにいろいろな創意工夫ができる。地熱エネルギーを地域の資源と見た場合、直接利用はとくに地域に貢献する可能性が高く、重要な分野と考えられる。

 

なお、近年、高温の熱水で、低沸点媒体(アンモニア水、ペンタン等)を加熱して、それらの蒸気を作り、それでタービンを回して発電するというバイナリー発電が大きく展開しつつある。とくに、100℃前後の温泉水を熱源として使い発電を行う「温泉バイナリー発電」の導入が進みつつある。従来、高温の温泉水は、何らかの方法で冷まして浴用に使っていたが、低沸点媒体の加熱で温度の下がった温泉水を浴用に使うことができ、エネルギーの有効利用にもなる。

 

(4)地中熱利用とは、地下10数m以深の地温は年間を通じてほぼ一定(たとえば、東京では地下50m深では約18℃で年間ほぼ一定)であるが、夏の平均気温は28℃程度、一方、冬の平均気温は8℃程度であり、地中と地表面との温度差を利用して、夏には冷房、冬には暖房に使うというものである。たとえば、冬の場合、地下の坑井中に入れたパイプに熱抽出用の媒体を流し、地下から熱を抽出する。ただし、それだけでは必要な温度が得られない場合が多く、ヒートポンプを使い、昇温している。このようなことから、地中熱利用ヒートポンプシステムと呼ばれることが多い。

 

 

 

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