2014.05.13

リベンジポルノの削除と処罰――法規制の現状と新法の方向性

清水陽平 法律事務所アルシエン 共同代表パートナー

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2月27日、「リベンジポルノへの対応策を検討する特命委員会」の初会合が開かれたということが報じられました。

そもそもリベンジポルノという言葉を知らない人もいるかもしれません。リベンジポルノとは、恋人や配偶者との関係が破たんした際、腹いせに、交際中に撮影したわいせつな写真・動画などを、もっぱらインターネット上に公開することを指す言葉です。

リベンジポルノは、昨年10月に起こった三鷹女子高生事件で一気に注目を浴びることになりました。これまでもインターネット上に元恋人のわいせつ画像を公開するという事例はありましたが、この事件が注目された理由はいくつかあると思います。

まず、被害者が女優の卵だったという被害者の属性が挙げられます。次に、被害者がわいせつ画像・動画を公開されただけではなく、殺害されてしまったという衝撃的な結末となってしまったという点。さらに、折しも、10月1日、ときを同じくして米国カリフォルニア州においてリベンジポルノ法が施行されたことが挙げられるでしょう。

被害の実例

私は弁護士としてネット中傷対策などの案件を多く手がけていることから、リベンジポルノ絡みの相談を受けることがあります。この手の相談は最近増えたという感触はなく、数年前から継続的に存在しています。

たとえば、出会い系サイトで知り合った人物に下着姿や半裸の写真を送信していたものの、しばらく連絡をとらないようになったところ、その写真をネット掲示板に掲載されてしまったという事例。交際を申し込まれたが断ったところ、自分の写真と裸の画像をコラージュされた画像をネット掲示板に多数投稿されたという事例。交際終了後に半裸の写真や就寝中の写真を当時やり取りしていたメール、氏名や住所もネット掲示板に投稿されたという事例などがあります。

相談に来られる方は20代後半から30代後半くらいの方までが多いように感じます。報道を見る限り10代の被害も相当程度ありそうですが、10代の方が弁護士に頼もうという意識を持つことは少ないと思われるため、ほとんど10代からの相談はないのではないかと想像しています。

現行法下ではどのような罪になるのか

日本には、米国カリフォルニア州のようなリベンジポルノ法といったものがあるわけではありません。そのため、リベンジポルノに対する法整備を進めようという議論が起こり、冒頭でも紹介したように、「リベンジポルノへの対応策を検討する特命委員会」によって議論が進められています。

しかし、そもそもリベンジポルノに対する法整備は本当に必要なのでしょうか? 現行法を使って取り締まることはできないのでしょうか? そこでまずは現時点においてどのような対応を取れるのかを説明したいと思います。

■わいせつ物公然陳列罪

まず思いつくのは、わいせつ物公然陳列罪(刑法175条1項)です。この罪には、2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金という法定刑が定められています。

一見すると、リベンジポルノはこれで全て取り締まることができるのではないかとも思えるかもしれません。しかし、「わいせつ」といえるには、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義に反する」ことが必要とされ、少なくとも現在の日本においては、性器が写り込んでいるといった事情がなければ、これに当たりません。

リベンジポルノでは、たとえば胸の画像が公開されているとか、性交していることはうかがえるものの性器は写っていないというケースも多かろうと思われ、本罪はリベンジポルノに対し万能ではありません。

■児童買春・児童ポルノ禁止法違反

被写体が18歳未満の場合、その画像等が、性交等をしているなど、性欲を興奮させ又は刺激するものであれば、児童ポルノ公然陳列罪(同法7条4号)に当たります。この罪は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金と定められています。

一見するとわいせつ物公然陳列罪と類似しているように思われますが、この罪は児童の権利を擁護する目的の法であるため、必ずしも性器が写り込んでいなくても、性欲を興奮させ又は刺激するものであれば成立し得ます。そのため、18歳未満の者が被害者であれば、適用範囲は比較的広いといえます。

■名誉毀損罪

人の社会的評価の低下をもたらす事実摘示をした場合に成立する罪(刑法230条1項)であり、法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金とされています。

名誉毀損というと、文書等で誹謗中傷された場合に成立するというイメージがあるかもしれませんが、画像等であっても人の社会的評価の低下をもたらせば成立する可能性があります。たとえば、性的な画像等を撮影させていたとなれば、「特殊な性癖を持っている」とか「性的にルーズ」といった形で社会的評価が低下させられたとして、名誉毀損が成立することになります。

■ストーカー規制法

ストーカー規制法では「その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと」(2条7号)や、「その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと」(2条8号)が規制されています。

これは、まさにリベンジポルノの問題に当てはまるものです。しかし、この罪は6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金とされており、それほど重いものではありません。

カリフォルニア州のリベンジポルノ法は?

ところで、米国カリフォルニア州のリベンジポルノ法はどのようなものかというと、報復目的でプライベートな画像等を流出させた場合に、禁錮6カ月 または 最高1000ドルの罰金刑を課すものです。ただ、撮影者と流出させた人物が一致している必要があるため、たとえば自分で撮影した写真を相手に送り、相手がそれを公開した場合は、この法律を適用できないようです。

ここまで見てきた日本の法律は、誰が撮影したのかという問題はそれほど気にする必要はありません。日本の法規制の方が実はカリフォルニア州のリベンジポルノ法よりも厳しいといえそうです。

犯罪としての法整備の方向性

このように考えてくると、リベンジポルノを処罰する法律を新たに作る必要は必ずしもないのではないか? という気もしてきます。軽犯罪法などではストーカーに対して十分な対応がとれなかったために、立法する必要性のあったストーカー規制法と、リベンジポルノでは状況が異なるように思われます。

しかし、ストーカー規制法の場合、法律ができたことによって「ストーカー」とはどういうものなのかという認知が一般に広がり、組織的な対応を取ることができるようになったという側面はあります。リベンジポルにおいても、「リベンジポルノを直接的に処罰する法律がある」という認知を広めることにより、リベンジポルノを抑制する効果が期待できたり、組織的な対応を取り得る体制を整える意味で、新法を作る意味があるのではないかと思います。

とくに、残念ながら、現状ではインターネット関連犯罪についての警察の知識、理解度は低いと言わざるを得ません。「不快なものであれば見なければよいだろう」と言われることがしばしばありますが、ここでの問題は自分が見て不快かどうかというよりも、「第三者がその画像を見たときに自分がどう思われるか」という問題であるということが理解されていません。

法整備がされることにより、この点の意識が、とくに年齢層が高い世代の方々にも浸透させる必要があるのではないかと思います。

現行法下でどうやって削除するのか

ところで、被害者は、犯人を処罰して欲しいという気持ちだけでなく、まず何より公開された画像等を削除したいと考えています。そこで次に、現行法上、削除についてどのような方法がとれるのかを解説します。

削除するための方法としては、大きく分けると「送信防止措置依頼」と「削除仮処分」という方法があります。

「削除仮処分」は裁判の一種ですが、通常の裁判よりも結論を早く出すことができます。裁判の話に入ると話がややこしくなるため、ここでは送信防止措置について説明したいと思います。

送信防止措置依頼は、プロバイダ責任制限法というガイドラインによって示されている削除依頼の方法です。聞き慣れない言葉でしょうから、簡単に解説します。「インターネット」に情報が公開されているということは、多くの人にその情報が送信されている状態であるということです。この送信状態を防止してしまえば、人びとが情報にアクセスすることができなくなる、つまり削除されるということです。送信防止措置依頼はその処置を依頼するものです。

続いて、具体的な依頼方法を見ていきましょう。

送信防止措置依頼の方法

リベンジポルノはネット掲示板などに投稿されることが多いと思われます。通常、ネット掲示板を自分が管理しているということはないでしょうから、当然、自由に削除をすることはできません。

そのため、削除をするためにはサイト管理者、またはサイト運営会社(コンテンツプロバイダ)、あるいはサーバ管理会社(ホスティングプロバイダ)に削除を依頼していくことになります。なお、検索すると出てくる画像等を一気に削除したいというのが被害者の希望だと思いますが、それは残念ながら不可能です。削除するためには、あくまで掲載されているサイトごとに依頼していく必要があります。

送信防止措置依頼は、その書類を作成して郵送するのが一般的な方法です。書式については、こちら( http://www.isplaw.jp/p_form.pdf )を参照ください。

これを受け取ったプロバイダ等は、発信者(投稿者)に対して自主的に削除するかどうか、7日間の期間を定めて意見照会を行い、返信がなければ削除をするというのが通常の扱いです(ただし、内容を精査した上で削除相当かどうかを判断するところもあります。)。

この依頼によって削除してくれるところはそれなりにありますが、応じてくれないところもあります。その場合には、削除を求める裁判を申し立てていくしかありません。

LINEやメールで拡散された場合は?

ネット掲示板に投稿されてしまった場合は対応の余地がありますが、LINEやメールで拡散されてしまった場合はどうでしょうか。

この場合も送信防止措置依頼が使えるのではないか? と思う方も多いと思います。しかし、LINEやメールでは、インターネットを媒介するという点では同じですが、その画像等のデータは直接個人のスマートフォンやパソコン等に保存されることになるという点で、ネット掲示板に投稿されることとは大きく意味が異なります。

そのため、これを削除するためには、LINEやメールを受信した個々人に削除を依頼していくしか方法はないということになります。

削除についての法整備の方向性

削除は現状でもできるわけですが、プロバイダ等が削除するまでに、意見照会の期間として7日間が必要とされます。依頼者にとって、削除して欲しい情報が、7日間も放置されているのはつらい状況でしょう。

この点、インターネット選挙運動の解禁に伴うプロバイダ責任制限法が改正によって、選挙期間中の誹謗中傷等については意見照会期間が2日間とされたことが参考になります。つまり、リベンジポルノにおいても同じように、期間を短くすることにより削除を迅速にできるように整備し、それ以上の拡散を防止するべきでしょう。

他の問題として、たとえば海外サイトに公開された場合にどうするべきかという問題があります。海外サイトの場合、日本の法律をそのまま適用することが困難な場合が多く、英語で削除を依頼していく必要があるなど、ハードルは一気に高くなります。この点は、外国と条約等を締結して対処についての方向性を一致させる努力も必要になってくるのではないかと思います。

リベンジポルノ法はどうあるべきか

「リベンジポルノ法がどうあるべきか」ということに正解はないと思いますが、前述の通り、「ストーカー」と同じように、まずその概念を一般にも周知する必要があると思います。そのためには、リベンジポルノ法を作ることは一つの有効な手段になりえるのではないかと思います。

ただ、実際に立法をするとなると一般の方々が考えるよりも非常に多くの問題があることは知っていただきたいところです。

一般の方はたとえば、単純に以下の2点を押さえた内容にすればよいと考えるのではないかと思います。

・リベンジポルノをインターネット上に公開したり、拡散すれば処罰する。

・ネット掲示板リベンジポルノの削除義務を定める。

しかしたとえば、

・「復讐心」などを満たすことを目的としたものが「リベンジポルノ」であるならば、インターネット上にアップされた画像を単に共有したり拡散しただけの人は責任がないということになる。この点をどう処理するべきか。

・仮に目的にかかわらず処罰するということになると、たとえば誤って流出させてしまった場合や、事情を知らずに(あるいは、何も考えずに)拡散した人物も一律に処罰されることになるが、それでいいのか。とくに、画像だけではそれがリベンジポルノとして公開されたものなのか、そうでないのか、必ずしも区別がつくわけではないので、その危険はより大きい。

・削除を義務化するとすれば、リベンジポルノかどうかは画像だけで一概に分かるわけではないため、無関係な画像まで削除される可能性がある。

……といった問題点が出てきます。

そして、この点は、憲法上の要請である罪刑法定主義や、表現の自由を制限する場合の明白性の原則といったものに抵触しかねないため、安易に定めれば違憲無効になる可能性もあります。

このようなことを考えていくと、リベンジポルノについて明記したうえで法定刑を現行よりも重くするとか、削除するまでの期間を短くするといった対応をしていくしかないのではないかと思います。

もっとも、法律で定めるとなると問題はありますが、ガイドラインをより整備していくことで実務上対応するということも一つの方法です。たとえば、海外サイトに画像が公開されてしまった場合、その画像が公開されている海外サイトには日本からは接続することができないように、インターネット接続プロバイダ全体に働きかける仕組みがあれば、実質的な被害を減らすことができます。このような仕組みを実務上考案していく必要があるのではないかと思います。

被害を拡散しないためにするべきことは

リベンジポルノの被害に遭わないためにはどうすればよいのか? という質問をしばしば受けるのですが、そのような写真・動画を撮影しないということに尽きます。リベンジポルノを行う人は、犯罪に当たるかもしれないと認識しながらも、恨みを晴らすためにあえて行っているという側面があるのかもしれません。その場合、法整備をしたからといって必ずしも対応しきれるものではなくなります。

寝ている間に勝手に撮影されたとか、隠し撮りをされていたというケースもあり得るとは思いますが、交際しているからといって安易に撮影することがないようにすることが何より防止になります。

ところで、いわゆる「デジタルネイティブ」と呼ばれる若年層ほどスマートフォンやタブレットといった電子機器を使いこなしていますが、実はスマートフォンやタブレットだけを使っている層は、相対的にネットリテラシーが低いという統計データがあります(「平成25年度 青少年のインターネット・リテラシー指標等」参照)。

たとえば、Twitterは本人が非公開設定をしないかぎり、原則としてそのツイートが公開されています。しかし普段は仲間内だけでやりとりをしているため、世界中に公開されているという意識が薄れ、いわばメールなどの連絡ツールと同じものであると誤解している例をよく目にします。

このような意識のまま、公開されたくない画像・動画が安易に公開されている例もあるのではないかと思います。このようなことを防ぐためには、インターネット・リテラシー教育をすることも必要となるでしょう。そして、そうした教育は、スマートフォンやタブレットを買い与えている親・家庭こそがするべきなのではないでしょうか。

その際は、「拡散することも犯罪になり得る」ということをきちんと教える必要があると思います。本当によくある誤解なのですが、「自分が最初に公開したわけではなく、公開されている情報を拡散しただけ」というのは、法的には通りません。拡散する行為も、自らわいせつ物を公然と陳列したり、他人の名誉を毀損したりするものと評価することができるため、最初に公開した行為と同じように処罰される危険があるのです。

この点をきちんと教育することができれば、安易な拡散行為に荷担する人物も減り、被害の拡大防止にも寄与するのではないかと思っています。

サムネイル「Broken Heart Grunge」Nicolas Raymond

https://www.flickr.com/photos/80497449@N04/10011881004/

プロフィール

清水陽平法律事務所アルシエン 共同代表パートナー

インターネット上の誹謗中傷対策や炎上対策などを数多く扱う。2014年1月にはTwitter に対する開示請求、2014年8月にはFacebookに対する開示請求で、それぞれ日本初となる事案を担当。

2007年弁護士登録(旧60期)。東京弁護士会所属。2010年11月に法律事務所アルシエンを開設。

インターネット問題に関するメディアでのコメント多数。『企業を守る ネット炎上対応の実務』(学陽書房、単著、近刊)、『ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務――発信者情報開示請求と削除請求』(新日本法規出版、共著、近刊)などの著書がある。

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