「社会を変える」ということ 

社会起業家として病児保育の問題解決に取り組む、NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏。一方、社会活動家として貧困問題をはじめ、2012年7月に大阪で立ち上げた「AIBO(あいぼう)」等で市民活動の仕掛人として活躍する湯浅誠氏。それぞれの立場から見た「社会を変えるための方法」とは何か。(司会/荻上チキ、構成/宮崎直子)

 

 

オルタナティブを提示する

 

荻上 最近若手世代を中心にして、民間の力で世の中を変えていこうという動きが広まってきています。それはもちろん、「民間の力だけで変える」という意味ではありません。自分たちでできることをまずはやり、必要に応じて自治体や国に要望する、そうしたアプローチの活動が重視されているということですね。

 

しかし、実際に国を動かそうとすると、具体的に様々な壁が現れたりするもの。民間で研究や活動を行った上で、「次の一歩」を踏み出す時には、それ相応の「戦い方」を身につける必要があると思います。

 

湯浅誠さんと駒崎弘樹さん、お二人は活動のアプローチは異なりますが、社会を変える活動を行なっている中で、それぞれがここ数年でお感じになった「壁」などには、共通点も多くあると思います。そこで、特にこれから社会を変えようとしている後輩たちに対して、同じ轍を踏ませないための教訓のようなものを、本日はじっくり伺いたいと思います。

 

湯浅 年内いっぱいの期間限定ですが、7月から大阪でも活動を始めました。私は一度内閣府参与を務めそこで見えてきた風景があるので、その成果を反映させたいと考えていて、大阪でやろうとしていることは今までのやり方とは違っています。これまでやってきた相談活動やアドボカシーというよりも、市民一人ひとりが声を出し、いろいろな調整を引き受けながら、具体策を提示していく、そうしたことがどうすれば可能なのかを、活動しながら考えていきたい。

 

駒崎 民主主義的なプロセスの中に、市民を包摂していくということですか?

 

湯浅 そうですね。社会運動を一緒にやりながら、説得していくための作法を身につけていきたいと思っています。例えば、大阪・毎日放送のラジオ番組『たね蒔きジャーナル』の放送打ち切り問題で、それに反対した人たちがネット署名を行いました。でも、私としては、MBS(毎日放送)に理解してもらわないとしょうがないので、今後番組を存続するために、彼らを説得する方法を考えるわけです。

 

みんなで出した答えは、「出演者は全員無料で出演し経費を浮かせる」「市民がスポンサーとなり寄付によって番組を支える」というもの。MBS経営陣はけしからん! ではなく、自分たちがお金も出して支えますというふうに取り組んでみた。

 

ガチンコの対立路線で行くんじゃなくて、自分たちが本当に存続させたいと思うのであれば、そのためのオルタナティブを提示していく方法もあるんじゃないかと。放っておくとどうしてもガチガチになっていきますから。

 

駒崎 たとえば「お前は原発に屈したのか!」みたいな感じになっていきますよね。

 

湯浅 ただ、理解してもらうのはなかなか難しいです。最初に誰を説得するかが肝心です。それから布陣を作ってMBSと意見交換していく中で、お互いにwin-winでメリットがある提案なんだということを、一生懸命説きながらやっているという感じです。

 

「市民運動の外圧に屈するのか」という捉え方をMBSにされると、そのレベルで判断されてしまうと絶対ダメ。それでも厳しい結果が出そうなんですけど、少しずつやりながら浸透させていくしかないですよね(※9月28日に番組は打ち切られました)。

 

 

決意性だけでは続かない

 

荻上 駒崎さんが代表理事を務めるNPO法人フローレンスでは、インターンシップを受け入れられたり、社会起業家業界の人材育成に貢献されていますね。今の社会起業家業界の、人材面での課題はなんだと感じていますか?

 

駒崎 そうですね。学生インターンの育成はずっとやっています。私たちの業界では、様々な社会起業家支援の中間団体がありますが、「お前の想いは本物なのか」みたいな精神主義が跋扈しちゃっていて、けっこう危機感を持っています。

 

湯浅 体育会系なの?

 

駒崎 体育会系というよりは、中間支援団体に関わっている元運動家・活動家のノリの人たちがメンターみたいな感じでやっていると、どうしてもイデオロギー性が強くなっちゃうんです。

 

現実には、「自分は何々をしたい」という意欲だけではだめで、事業として回すためには資金繰りのことも知らないと潰れてしまうし、どうしても現実路線にならざるをえないんですよね。そういった、NPOの現実みたいなものと折り合いながら、やりながら気づくこともあるよね、という手練手管を伝えるために個人的には後輩の起業相談・経営相談にのったりして、地道な育成をやっていこうかな、と思い始めています。

 

ただ、活動家といっても、湯浅さんのようにプラグマティストとして活動されている方にはシンパシーを感じています。私も政府に少し関わっていましたが、その中でやっぱり構造を変えなきゃダメな部分もあるよね、事業やりながらも構造を変えるための運動をかぶせなきゃいけないよね、ということを痛感しました。

 

「活動家」という言葉を使うと左翼みたいな感じになりますが、「政府と対話を行うコミュニケーター」のような領域を自分としても、湯浅さんの背中を見ながら切り開いていきたいですね。

 

湯浅 昔は、決意性の問題というのがありました。あることに参加するために、お前はどこまで本気でやる気があるのかということを「決意性」と呼んでいた。それを最初から前面に出して、ハードルを高くして、さあ飛び越えてこいというようなメッセージを送る文化があった。でも今はそうじゃなくて、やっていくプロセスの中でいろんなことを見出していく。あとから付いてくる側面に重点を置いている。

 

最初から高い決意性を持っていると逆に続かないんですね。NPO法人「もやい」にもいろんなボランティアの人が集まってきますが、強い使命感を強調して来た人が、自分のイメージと違うとわかると、一ヶ月も経たないうちに辞めてしまうということはよくある。それよりもむしろ、よくわからないけど「とりあえず来てみました」みたいな人のほうが、やっていくうちにだんだん面白くなって続く。だから、最初に高い決意性を設定するのは、今の人たちには効果的ではないと思うんですね。

 

では、何をもってしてスタートを切ればいいのか。一人ひとりの希望に沿いながら伴走型でやっていくほどの時間も割けないし、決意性でなければ、どういうプログラムで人を育てていけばいいのか、悩ましいところです。

 

駒崎 東京で社会起業家育成を長い間行なってきたNPO「ETIC.」を中心に行われている手法としては、ビジネスプランコンテストや社会起業塾などがあります。それらに書面で応募してもらい、面接などの選抜工程を踏まえて、それなりの水準に達している人達を育成するプログラム。

 

湯浅 行われるのは審査だけですか?

 

駒崎 ETIC.の例だと、まず審査を行い、そこから半年間の研修などがあり、月一回メンターとセッションし、必要とされるプロフェッショナリティーを注ぎ込んでいく。

 

湯浅 プログラムとして行われるというよりは、メンターの裁量如何で、個々の教育として行われる感じですか?

 

駒崎 そういう部分は大きいですね。ただ、一人のプログラムオフィサーで支えるか、複数人で支えるかなど、アレンジはいくつもあると思います。いずれにせよ、そういう形でこれから出てくる芽を育てる試みがいま広まっています。

 

 

湯浅誠氏

湯浅誠氏

 

 

 

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