貧困の「現場」から見た生活保護

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申請主義と実施機関

 

生活保護は原則として「申請」をしなければ利用することが出来ない。救急搬送などの緊急を要するような状態を除いて、たとえ、家も所持金もないなどの、誰がどう見ても生活保護が必要な状態(要保護状態)にある方でも、自身の意思において申請する必要がある。逆に言えば、自らの意思で「申請」しないと利用できないということでもある。

 

生活保護の申請の意思が決まったら「福祉事務所」に申請する。福祉事務所は全国に1237ヶ所あり、住まいがある方はその自治体の福祉事務所に、住まいがなく住所不定の方は、現在いる地域の福祉事務所に「申請」する。後者を「現在地保護」と呼ぶ。

 

福祉事務所は、生活保護の「申請」に関して、それを「受理」しなければならないと定められていて、受理した後に原則14日以内(最長30日以内)に、生活保護の要否を決定し、文書で伝える必要がある。

 

また、8つの扶助により多岐にわたる最低生活を保障しているが、各基準や各扶助の上限額など、一人ひとりまたは世帯ごとに状況が異なり、制度自体も複雑であると同時に、実施機関である福祉事務所が担うべき事務作業は膨大である。厚生労働省は福祉事務所の職員の標準数を、被保護世帯(生活保護の世帯)80世帯につき1人としているが、実際は1人で120世帯以上を担当しているケースワーカー(生活保護の担当職員)も多い。

 

生活保護制度は、このように問題点はあるものの、年齢・性別・世帯構成別・状況別・所在地域別の差異に配慮しながら、ある程度公平になるように最低生活を設定し、全国的にセーフティネットを張り巡らせている。そして、実際に現在、約210万人の方の生活を文字通り「最後のセーフティネット」として支えている。

 

 

裁量という聖域

 

さて、生活保護制度について少しだけ触れるつもりが長くなってしまった。いまご紹介したことは制度全体の本当に一部にしか過ぎない。生活保護制度は社会の変化とともに、他の法律や制度の変遷とともに、常に解釈と実際の運用を積み重ねてきた。

 

先ほどから制度の説明の際に何度も「必要最小限の範囲で」という言葉を使ってきた。では、これは誰がどのように判断するのだろうか。実は、生活保護自体もそうだなのだが、各扶助の各項目についても、基本的に要否(支給を認めるか認めないか)を判定するのは福祉事務所である。もちろん、各基準に照らし合わせて判断をするわけだが、一人ひとりによって違う状況、背景、環境の中で一律に線引きをすることはできない。

 

そもそもの生活保護の目的は、「生活に困窮した方が生活に困らないように保護して、自立を助長すること」である。すなわち、保護するだけでなく「自立を助長する」ことが求められる。よって、「自立につながる」という判断を福祉事務所がすれば、本来は認められないものも認められる場合がある。例えば、過疎地における車という「資産」の保有は、生活に不可欠なため認められるといったことだ。

 

こういった福祉事務所側の「裁量権」の問題があり、福祉事務所によって裁量として「認めてくれるのか」「認めてくれないのか」の違いが出てしまう場合がある。(もちろんその場合は不服審査請求という手段を用いることが出来るが、法律家や支援者のサポートを受けないと難しい場合も多く、泣き寝入りしてしまうことが多い)。

 

そしていまだに、福祉事務所によっては、生活保護の申請を窓口で受理しないなどの「水際作戦」と呼ばれる違法な対応をする場合もある。また、生活保護行政も生活保護利用者も、生活に困っている人々も、多かれ少なかれ、この間の生活保護をめぐる動きに巻き込まれている。

 

ここからは、私が実際に出会った「困っている人々」を通じて、生活保護制度の運用の実態に触れていきたい。ただし以下は相談にいらした何人かの話を修正・組み合わせたもので、実在する個人の例ではない。しかし、現場において決して少なくない事例の組み合わせである。それについてはご了承願いたい。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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