貧困の「現場」から見た生活保護

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守備範囲の広すぎる生活保護=社会の困難さの縮図

 

私たちにとって生活保護は遠い存在の制度なのだろうか。ここでは視点を変えて考えてみたい。そもそも誰しも望んで生活困窮に陥る人はいない。多くの人の生活を支えているのは「収入」だ。では、「収入」はどうやって担保されるのだろうか。大きく分けて「仕事(雇用)」「家族などからの扶養」「年金や手当などの制度」「資産収入」の4つであろう。

 

それらは生活を維持するための「土台」と言える。では、その土台がなくなった時、我々はどうしたらいいのだろうか。

 

 

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あなたが主に「仕事(雇用)」によって生活を支えていたとしよう。もし、あなたが何らかの理由で仕事をなくしたらどうなるか。もちろん、すぐさま再就職を目指して頑張ることだろう。再就職までの期間については「制度(失業給付)」を使ったり、家族や配偶者の扶養を頼ったり、貯蓄などの資産を崩してやりくりする必要がある。

 

すぐに仕事が決まれば安心だ。すぐに元の生活に戻れる。しかし、なかなか仕事が決まらないとどうなるか。失業給付だって切れてしまうし、家族だっていつまでも養ってはくれない。資産だって使えばなくなってしまう。これらの「土台」は長期的に支え続けることは、なかなか難しい場合が多い。

 

最初は気長に仕事を探せばいいと思っていたあなたも、なかなか決まらないと焦りだす。夜不安になって眠れなくなるかもしれないし、家族に養ってもらっている場合は家族と喧嘩してしまうかもしれない。また、お金に困って借金をしてしまったり、家賃を滞納してアパートを出て行かざるを得なくなるかもしれない。

 

そうこうしているうちに、いつの間にか大事な「土台」が弱くなり、崩れて、あなた自身を生活困窮に陥らせる「リスク」が日に日に高まっていく。ただ、これはあくまで「土台」が最初からある人の話。もともと「土台」が弱い、小さいと、そもそもの支えがうすい。

 

非正規雇用で社会保険に入れていない、低所得で普段からなかなか貯蓄ができていない、DVや虐待を受けていて・もしくは受けたことがあり家族に援助を求められない、もともと病気や障がいがある……。その人の状態によって、周りの状況・環境によって、その「土台」の大きさはまちまちだ。

 

また、「制度」も不完全だ。ILOの2009年の報告書によると日本の失業給付のカバー率は2006年時点で23%に留まる(http://www.ilo.org/public/english/bureau/inst/download/tackling.pdf 41ページ)。つまり、失業した際に、失業給付を受けられる人は23%しかいないということだ。すなわち、4人に3人の人は、失業した際に公的な制度である「失業給付(雇用保険)」が使えないという事をあらわす。

 

また、有効求人倍率は現在0.82で、正社員の有効求人倍率は0.44である(一般職業紹介状況:平成24年6月分→http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002g3h9.html)。厳しい経済情勢の中で、相変わらず雇用をめぐる状況はよくない。また、実際に求人が出ている職に関しても、違法な就業形態や就労環境を強いるところも散見される。それらの要因は、安定した雇用による「収入」という確かな「土台」から遠ざけてしまう大きなリスク要因となる。

 

また、これらは「仕事(雇用)」だけの話ではない。現在、国民年金のみに加入し、満額・滞納なしで納めた方が受給できる年金額は1か月約7万円である。また、障害基礎年金は1級の方であっても、同じく満額・滞納なしで1か月に約8万円である。これでは、「最低生活=生活保護基準」を下回ってしまう。彼らが最終的に生活を支えるすべは「生活保護」しかない。

 

また、国民健康保険に関しても(必ずしも生活困窮者ではないにしろ)、滞納している方が2009年度で約442万世帯にのぼり、事実上無保険状態の被保険者資格証明書交付世帯は、同じく2009年度で約31万世帯におよぶ。(厚生労働省「平成21年度国民健康保険(市町村)の財政状況等について」:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000011vw8-att/2r98520000011vxy.pdf

 

住所不定の方が無保険である場合が多いことを考えると、実際に「国民皆保険」と言われる日本で「無保険状態」の人はもっとたくさんいることになる。生活困窮し、保険料が支払えず、保険料が払えないことによって「無保険」になり、結果として体調が悪くなっても「医療」にかかれない。そして、重篤な状態になって救急搬送されて「医療扶助」を受ける。そういった状況になってもおかしくない。

 

また、生活保護の手前のセーフティネットとして作られた「第二のセーフティネット」と呼ばれる「住宅手当」「求職者支援制度」「総合支援資金貸付」「臨時特例つなぎ資金」などの制度も、期限があったり貸付であったりと、問題点が多い。(第二のセーフティネットについてはまた別の機会に論考したい)

 

このように、本来、「最後のセーフティネット」である生活保護の手前で機能すべき他の社会保障制度が、実際に「困っている人々」に対してカバーできていない。生活保護がその本来の目的以上に「結果的に」カバーしなければならない「守備範囲」があまりにも広すぎる、ということが言える。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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