「いつもの自分とは違う」と感じたら――若年性認知症の実態と支援

若年性認知症とは?

 

認知症は“物忘れ”という症状を起こす病気全体の総称であり、原因となる疾患は後述するようにさまざまである。認知症は年齢を重ねるとともに発症しやすくなるので、一般的には高齢者に多いが、年齢が若くても認知症になることがあり、65歳未満で発症した場合には「若年性認知症」とされる。

 

高齢者であっても若年者であっても、病気としては同じであり、医学的には大きな違いはないが、「若年性認知症」と名前をつけて区別するのは、この世代が働き盛りであり、家庭や社会で重要な役割を担っているので、病気によって支障が出ると、本人や家族だけでなく、社会的な影響が大きいからである。

 

本人や配偶者が現役世代なので、認知症になると仕事に支障が生じ、結果的に失職して、経済的に困難な状況に陥ることになる。また、子供が成人していない場合には、親の病気が子どもに与える心理的影響が大きく、教育、就職、結婚などの人生設計が変わることにもなりかねない。

 

さらに、この世代では、本人や配偶者の親の介護などが重なることもあり、そのような場合には、介護の負担がさらに大きくなる。介護が配偶者に限られることが多いので、配偶者も仕事が十分にできにくくなり、身体的にも精神的にも、また経済的にも大きな負担を強いられることになる。

 

 

若年性認知症の実態

 

平成21年3月、厚生労働省の研究班から発表された調査結果によると、全国の若年性認知症の人数は約37,800人であり、人口10万人当たりでは47.6人であった。65歳以上の認知症高齢者は、平成25年の発表では約460万人あるいはそれ以上ともいわれているので、それに比べればかなり少ない。

 

男性は人口10万人当たり57.9人、女性は36.7人と、男性の方が女性より多い。これ以前に行われた若年性認知症の調査(平成6年から7年)では、18歳以上65歳未満の認知症は約26,000人だったので、10年余で約1.5倍に増えたことになる。これは単純に若年性認知症の人数が増えたのか、あるいは医療機関を受診し、的確に診断される人が増えたのかは不明であるが、いくつかの要因が重なっていると考えられる。

 

若年性認知症の発症年齢は、平均すると51.3歳であり、50歳未満で発症した人の割合は約3割であった。認知症の重症度は、軽度(職業や社会生活には支障があるが、日常生活はほぼ自立)、中等度(自立生活は困難で、見守りあるいは介助が必要)、重度(日常生活動作全体にわたり、介助が必要)の3段階に分けると、それぞれ3分の1ずつであった。

 

愛知県で行った調査で把握された1,092人では、重度が41.4%と最も多く、次いで中等度が35.1%、軽度はわずか15.8%であった。若年性認知症というと、映画やテレビのドキュメンタリー番組などからは、元気で体力があるというイメージがあり、なんとなく軽度の人が多いと考えがちだが、実際にはそうではない。

 

基本的な日常生活動作(ADL)、すなわち、歩行、食事、排泄、入浴、着脱衣について、ほぼ自立している人は食事以外では半数以下であり、特に排泄、入浴、着脱衣では、全介助を必要とする人が3分の1以上を占めており、介護者の負担が大きいことがわかった。愛知県の調査でもほぼ同様の結果であり、若年発症の認知症は必ずしも軽度ではなく、むしろ介助を要する人が多いと言える。

 

 

原因となる疾患

 

日本の若年性認知症では、図1に示すように、脳卒中(脳梗塞や脳出血)が原因である血管性認知症の割合が多く、約40%であった。若年性認知症は男性に多いこと、脳血管障害が男性に多いことなどからこのような結果になったと考えられている。

 

 

図1

図1.若年性認知症原因疾患内訳

 

 

血管性認知症のタイプとしては、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血が多く、高齢者の血管性認知症の原因は脳動脈硬化症による多発脳梗塞が多いのに比べ、若年性認知症に特徴的である。

 

これは、脳血管障害の危険因子である高血圧や糖尿病などの生活習慣病に対して高齢者の知識や意識が高まり、予防や治療が適切に行われるようになったためと考えられている。

 

一方、高齢者に多いアルツハイマー病は、若年性認知症では全体の約4分の1程度であった。その他、頭部外傷やアルコール性認知症などが多く、原因疾患が多様であることも若年性認知症の特徴である。

 

また、男性では血管性認知症、アルツハイマー病、頭部外傷の順に多く、女性ではアルツハイマー病が最も多く、次いで血管性認知症、3番目は前頭側頭型認知症とレビー小体型認知症であり、頭部外傷の割合は男性の3分の1以下であった。アルツハイマー病は年齢に関わらず女性に多いので、このような男女差が出ると考えられている。

 

 

老年期認知症との違い

 

若年性認知症は、65歳以上で発症する老年期認知症と、医学的にはほぼ同じであるが、いくつかの特徴がみられる。すなわち、

 

1) 発症年齢が若い

2) 男性に多い

3) 異常であることには気がつくが、認知症と思わず受診が遅れる

4) 初発症状が認知症に特有でなく、診断しにくい

5) 経過が急速である

6) 認知症の行動・心理症状(BPSD)が目立つと考えられている

7)経済的な問題が大きい

8) 主介護者が配偶者である場合が多い

9) 親の介護などと重なり、重複介護となることがある

10) 子供の教育・結婚など家庭内での課題が多い

 

ことである。

 

 

<医学的な観点>

 

疾患という観点からみた若年性認知症は、第一に発症年齢が若いことである。平均の発症年齢は先に述べたように50歳代であり、まさに働き盛りに発症することになる。

 

進行が早く、経過が急速であるとされているが、客観的なデータはなく、必ずしもそうとは限らない。早期に発見できれば、適切な治療や対応ができることは他の疾患や高齢者の認知症と同じである。しかし、個人的な経験では、若年発症の認知症は、早期から失語などの高次脳機能障害が出やすいと感じている。

 

女性より男性に多いことも高齢者とは異なる特徴であり、そのために仕事に関することをはじめ、次に述べるようなさまざまな課題が生じる。近年、女性の社会進出が目覚ましくなってきているが、現在、若年性認知症に罹患している世代では、主として男性が働いている家庭が多いので、一家の大黒柱が病気になり、収入が減ったり、無くなったりすれば、大きな影響が出る。

 

物忘れによる仕事のミスや家事が下手になったことについては、本人や家族は「いつもの自分とは違う」、「どうも調子がおかしい」ことには気がつくが、 高齢者の場合と違って、これらの症状の原因が認知症であるとは思いつかず、受診が遅れることもある。

 

また、認知症特有の症状がみられない場合には、認知症とは関係の少ない診療科を受診して、診断が遅れる可能性がある。発症から診断がつくまでにかかる時間は高齢者より長い場合が多く、時にはいくつかの医療機関を経て、やっと診断されたという例もある。

 

しばしば、うつ病と診断され、薬が有効と聞くと、そのように信じてしまうこともあり、女性であれば年齢的にも更年期障害と診断され、治療を受けていた例もみられる。医療関係者の間でも、まだ十分に知られているとは言えず、職場での対応や、経済的支援、心理的な支援が最も必要な時期に正しい診断がなされていないのが現状である。

 

 

<BPSDは高齢者より現れやすいか>

 

認知症の人の介護では、中核となる認知機能の低下だけでなく、認知症の行動と心理症状、いわゆるBPSDの有無や内容、程度が大きく影響する。

 

若年性認知症ではBPSDが多いのかとか、BPSDが強く現れやすいのかという疑問が生じるが、BPSDの出現頻度は、若年性認知症全体では認知症高齢者と同じくらいで、約3分の2である。

 

内容的には少し違いがあり、高齢者では無関心やうつが多いのに比べ、若年性認知症では興奮が最も多く、体力があることから見かけ上強く出ているように感じられる。

 

さらに攻撃性、妄想も少なくなく、これらの陽性症状は、無関心やうつなどの陰性症状に比べて、家族や介護者の負担の大きな要因になるだけでなく、施設入所や入院のきっかけになると考えられる。

 

 

<家庭的な観点>

 

働き盛りで病気になり、休職や退職を余儀なくされる若年性認知症は、すでに退職した後の年代で発症する高齢者とは違い、経済的な問題が大きくなる。本人や配偶者の生活はもちろん、子供の教育にもお金が必要であり、さらに医療費や介護にかかる費用も少なくない。また、若年性認知症の場合は、主介護者は、ほとんどといっていいほど配偶者に集中している。

 

高齢者の場合は子ども世代、つまり、息子や娘、その配偶者が主介護者であって、本人の配偶者はどちらかといえば、従属的な役割である場合が多いが、若年性認知症の世代では、子供がまだ若かったり、幼い場合もあり、配偶者が介護を一手に引き受けることになる。

 

さらに、本人や配偶者の親世代の介護が重なると、時に重複介護となることもある。配偶者の介護と親の介護が重なり、その上、家事や育児もこなさなければならない状況になってしまう。

 

若年性認知症の家庭では、本人だけでなく、介護者となる配偶者も介護のために仕事を減らしたり、場合によっては退職を余儀なくされる。そのため、ますます経済的に困難な状況が深まり、介護の疲れ、病気や将来への不安など、本人も介護者も大きな負担を強いられることになる。

 

 

<社会的な観点>

 

定年という形で退職し、社会の第一線から退いた高齢者とは異なり、若年性認知症の人は、病気によりやむなく退職することになる。これは本人にとって不本意な退職であり、働く場を失ってしまうと、経済的な面の不利益ばかりでなく、社会から取り残された気持ちになり、自分自身の存在意義をも失ってしまうことになりかねない。

 

初期の段階であれば、体力も十分にあり、認知機能が低下していても、何らかのサポートがあればできることが多く、仕事をしたいと希望する人もいる。このような社会復帰への願望は高齢者に比べ、若年者ではより強いと考えられる。

 

働き盛りで、社会的にも重要な役割を果たしている人が、病気により退職したり、家庭での役割を全うできなくなることは、社会にとっても大きな損失である。

 

しかし、経済的な理由で何とか仕事を継続していたが、最終的には退職となった若年性認知症の人に話を聞くと、「(後から振り返って)仕事をしているときはつらかった、十分に仕事ができないし、何をしていいのかわからず、周りに迷惑をかけていると思うといたたまれなかった。でも妻子のことを考えて我慢していた、辞めてほっとした」と述べた。

 

このように、必ずしも仕事を続けたい人ばかりではないので、本人の意向や家庭の事情をよく理解する必要がある。

 

 

認知症介護研究・研修大府センターの取り組み

 

認知症介護研究・研修大府センター(大府センター)では、平成18年度から、若年性認知症の社会的支援をテーマに、愛知県における実態調査、「若年認知症ハンドブック」の作成(これは内容を充実させて、『本人・家族のための若年性認知症サポートブック』として平成22年に出版)、産業医への就労の実態調査、本人・家族の交流会の立ち上げ、福祉的就労の支援、若年性認知症デイケアモデル事業など、さまざまな事業に取り組み、成果をあげてきた。

 

厚生労働省では、平成20年7月、「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」をまとめ、認知症対策の5つの柱を掲げ、若年性認知症対策もその1つに挙げられた。その短期的対策の1つが、全国で1か所の若年性認知症相談窓口の設置であり、平成21年10月1日に大府センターに開設された。

 

また、平成24年6月には、厚生労働省認知症対策検討プロジェクトチームによる「今後の認知症施策の方向性について」が出され、これに基づいた平成25年度からの「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」では、若年性認知症施策の強化が大きな柱の1つに挙げられ、平成27年度1月に出された認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)でも、若年性認知症施策の強化が取り上げられている。

 

以下に、大府センターで行ってきた事業の中から、いくつかを紹介する。【次ページに続く】

 

 

 

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