「生活保護通報条例」に反論する 

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「生活保護利用者」への通報

 

いわゆる生活保護の「不正受給」と呼ばれるものの実態を見てみると、その内訳としては稼働収入や年金などの「収入の申告漏れ」や「過少申告」が約9割を占めている。(厚生労働省「生活保護の現状等について」21ページ:http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001dmw0-att/2r9852000001do56.pdf

 

そして、その中身に関しては、たとえば高校生のアルバイト代の申告漏れなどの「意図せずに起きた申告漏れ」や、精神疾患や軽度な知的障害などによって、収入申告の仕組みをきちんと理解できていない事例なども多い(悪質な事例は少ない)。

 

同様に「不正受給発見の契機」を見てみると、福祉事務所の「調査・照会」により発覚した割合が約9割となっている。稼働収入や年金等の収入の申告漏れに関しては、実際は金融機関や徴税担当の部署などとの連携によってきちんと「調査・照会」ができれば発見することができる。なので、こういった「不正受給」を減らしていくためには、その担い手である福祉事務所の担当職員の増加や専門性の向上が一番効果的な方法だ。

 

ちなみに「通報・投書」による不正受給の発見は6.4%となっている。実際に「通報・投書」があった場合に、現状でどの程度調査しているのかは不明だが、福祉事務所の職員に聞くと、有象無象の情報も多いと言う。

 

当たり前だが、どの世帯が生活保護を利用中であるかは他の住民に分かりようがないし、「あの世帯は生活保護に違いないし不正受給しているだろう」といった憶測や印象で「通報」するしかないのが現状だ。それはパチンコ等のギャンブルによって浪費している「受給者」も同じだ。どの世帯が生活保護利用者であるか分からない現状で市民が「通報」というのはバカげているだろう。

 

小野市は「推進員」として警察官OBなどを2名配置して、市民からの「通報」を受けたら「調査」をおこなうとしている。これはどの程度実効的なのだろうか。

 

厚労省は社会福祉法にもとづき、担当職員(ケースワーカー)の設置に関する「標準数」を生活保護世帯80世帯に1人と設定している。先述したように小野市の生活保護世帯は120世帯なので、現在小野市の担当職員(ケースワーカー)は最低2名ということになる(1人当たり60世帯は全国的には手厚いと言える)。新たに配置する「推進員」の2名の枠を、市民からの不透明な「通報」による調査ではなく、生活支援の専門職採用に使うのであれば、倍の人員になり、より実効的で包括的な体制を組むことができる。「生活保護利用者」への支援という観点からはどちらがより有効だろうかは自明だ。

 

 

「一人親家庭(シングルマザー/ファザー)」への通報

 

児童扶養手当は、収入などの要件によって「一人親家庭(シングルマザー/ファザー)」が給付を受けることができる制度で、小野市では420世帯が受給している。「一人親家庭(シングルマザー/ファザー)」は、子どもを育てながら働かなければならないという困難さもあり、相対的貧困率が50%を超えていて(全世帯では16%)、生活困窮に陥っている世帯が多い。また、社会的な偏見もあり、地域のなかで生きづらさを抱えていらっしゃる場合もある。

 

そして、子どもがいることもあり「一人親家庭(シングルマザー/ファザー)」であることは地域の中出、普段の生活のなかで、一般的に周囲の人に把握されている(児童扶養手当を受給しているかは別にして)。であれば当然「生活保護利用者」と違って「通報」されやすい。

 

「○○君のお父さんは毎日パチンコに行っている」「○○さんのお母さんのところに最近男性が出入りしている(パートナーができた)」みたいな地域の「怪情報」が飛び交うことが予測される。それを一々真に受けて調査をするのだろうか。

 

そういった風潮は何だか戦前の「隣組」や「村八分」の文化のような閉塞的な相互監視と親和性を感じるし、社会のなかでの排除的な雰囲気を醸成しかねない。また実効性としても、本来必要な支援は「通報」ではなく、地域で子育てしやすい環境づくりや、就労支援などの具体的な提案だろう。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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