歴史の証言者たち ―― 日本の『制度』をささえた人びと(3) 堀利和~憲政史上初の、盲人の国会議員~

 (*本稿では、現在「差別用語」とされている表現を、資料・記録の記述に即し、変更をせずに使用しています)

 

瞼を閉じて、右手をもらったばかりの名刺の上にかざす。

「堀利和(ほり としかず)」と印刷してある文字のうえに、点字の突起。

 

 

―― このポツポツ、堀さんの『堀』はどの部分が『堀』なんですか

 

全盲の翁に、目が見えるものが赤子のような質問をする。堀さんは、まるで「見えている」かのように、机の上に置いた名刺の、その紙の上のさらに小さな突起を指さしながら、解説して下さる。

「これだよ、この2つかたまっているのが。ここが『ホ』・『リ』」

 

―― ん? どこですか?

 

「『ズ』が難しいんです。単なる50音は1マスでいいんだけど、濁音は、2マスぶんを使います」

 

 

―― 2マスですか。すみません、どれのことですか。

人差し指の先端に全神経を集中して、その「ボツボツ」を撫でてみた。日本点字は「音」だから、構造的なイメージを頭にもてば、「見える」わたしでも少しくらいは読み取れるのではないのかと思っていた。ところが、触って突起の位置を認識することが、全くできない。

 

「はは、わからないでしょ」

 

 

―― これは、、、、。ぜんぜん、わからないです。

 

いくら点字の構造を懇切丁寧に説明されても、わたしは点字を「見ないとわからない」のだ。触ってみて、触覚のみで突起の位置を認識することは、想像していたよりはるかに難しい。

しようもなく、点字の上に、ボールペンでメモを書き込んだ。

 

 

―― いつか「触って読める」ように、なるんでしょうか?

 

「今、まだ20代でしょう? それだったら、3か月あれば読めるようになります」

 

―― 触れば触るほど、自信がなくなってきました。

 

「触覚が点字を覚えるうちは、大丈夫。40代くらいになるとやっぱり、最低半年くらいはかかるかなあ。「指の感覚で読む」わけだから、年齢とともに感覚が鈍ってくる傾向はありますよ。中途で失明して覚えるのは、なかなか大変かもしれないね」

 

目をつぶって、ふたたび堀さんの名刺を指でなぞってみた。公共の場所のエレベーターには最近は大抵ついている、「上」や「下」くらいは練習すれば読めるかもしれない。が、それ以上は神業であるようにしか思えない。1段32マスを人差し指でなぞって、突起を構造として頭の中で展開し、言語に変換する。

 

「こういうのはいやな言い方ですが、頭のいい人やとても熱心な人は、点字を「書く」のは覚えますよ。点字は構造ですから」

「でもね、「読む」のは指の腹の感覚だからね。頭がいいとか悪いとかは関係ないですね」

 

「わたしだってね、まったく光が見えなくなるまでは、弱視(ロービジョン)のうちは、点字は『目で読んでた』んだから」

点字は、「目で読む」ものだったとは。

 

目が見える者にとって「全盲」とは、神秘的なまでに重い障害のように思える。

 

 

 

 

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