2018.04.26

ドイツを通して我が国の外国人介護士を考える

結城康博 社会保障論 / 社会福祉学

福祉 #介護#ドイツ#難民支援#外国人介護士

はじめに

周知のとおり日本の介護現場は、人材不足が顕著となり深刻な状況である。とくに、雇用状態が良好であるため、さらなる人材不足が加速化しており、介護施設ではニーズがあるものの、入居者への対応がかなわずベットを空けた状態となっているケースが珍しくない。

そこで、大きな期待が寄せられているのが外国人介護士の採用である。これまでEPA(経済連携協定:Economic Partnership Agreement)による外国人介護士受け入れ実績はあったものの少数の枠組みであった。しかし、2017年11月1日の「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習法)の施行によって、外国人技能実習制度の対象職種に介護職種が追加された。これによって多くの外国人介護士が日本で働く可能性が高くなる。

その意味で、日本よりも先行して介護保険制度を実施しているドイツの現場を視察することで、筆者は外国人介護士の雇用において何らかのヒントが得られるのではないかとリサーチしている。ドイツも深刻な介護士不足にあり、外国人介護士の雇用を積極的に推し進めている状況だからだ。

もっとも、今回で10回目の訪独とはいえ(2018年2月18日~2月24日)、毎回、一週間の、現場を垣間見ながらの関係者ヒヤリングとリサーチであるため、ドイツの介護事情を充分に把握することは難しいことはご理解いただきたい。また、個人情報の関係で特定の事業所や人物の写真等は掲載できないことを申し述べておく。

 

1.ドイツでは「介護」職は不人気

現地の視察コーディネーターや介護事業所関係者に聞いたのだが、一般的にドイツの雇用情勢は良好であり、職種を選ばなければ誰でも「職」に就けるという状況である。統計的にも東西ドイツ統一以来、もっとも失業率が低下し3.6%だ(高田創「ドイツは経済が好調・低失業率でも賃金があがらない」みずほ総合研究所2017年12月21日)。このような経済情勢下において、EU圏内外からドイツに多くの短期労働者が出稼ぎにくる傾向にある。

また、ドイツ国内で常識化していることは、ドイツ人にとって「介護」職は不人気ということだ。とくに、このところ経済情勢が良好であるため、あえて「介護」の仕事に就く人が減少している。ある介護関係者が雑誌記事を見せてくれたのだが、「介護施設では人員不足が顕著で、排泄介助において何時間も便器の上に放置させていたことが問題となった」との内容であった。このことからも介護現場の深刻さが窺える。

2.在宅の外国人介護士をコーデネートする介護事業所

 

・コーディネートする事業者

筆者は、今回、2回目となる、外国人介護士をコーディネートする事業所を訪問をした。代表者の方は、私が3年前に訪ねた際のことを覚えており、丁寧に対応してくれた。ドイツでは在宅で介護保険サービスを利用できるが、必ずしも充分なサービスとはいえない。とくに、介護度が重くなると公的サービスのみでは立ち行かず、家族介護が欠かせない状況という。しかし、息子や娘といった家族は、日中、働いたり、独居高齢者も少なくなく、何らかの支援が必要だ。

そこで、一部、外国人の家政婦(介護士)を雇うことで、重い要介護度であっても家族介護に代わって支援を受け、在宅介護を可能にするケースが増えているという。取材した介護事業所は非常に良心的で、質の高い外国人介護士をコーディネートしている。

こちらでは基本、ドイツ語を話せる家政婦(介護士)しか紹介しないという。彼らは立場上家政婦であるが介護の仕事をする。その肩書は日本語で翻訳しにくいが、住み込みで約1か月間お世話をする保険外サービスである。1か月約2000ユーロで利用できる(20万円弱:現在、円換算にすると26万円となるが、ドイツでは100ユーロが1万円の感覚である、1ユーロが100円の貨幣価値である)。

要介護者や障害者などの年金給付としては、ケースにもよるが1000ユーロ以上の支給があり、場合によっては介護保険サービスを利用せず全額現金給付のサービスを受けることもある。この場合、年金と現金給付を併せると2000ユーロの金額を支払うことが可能だ。

 

・東欧から来た外国人家政婦(介護士) 

実際、重度の障害者が暮らす共同生活住宅(写真1)に派遣されている、東欧から来た外国人家政婦(介護士)に話を聞いた。その介護士は男性で、以前は自国でサラリーマンをしていたという。ドイツ語が話せるので、家政婦(介護)の仕事をするために出稼ぎに来ているそうだ。一か月間住み込みで24時間体制。業務は買い物、洗濯、食事づくり、掃除、介助などをこなす。基本、夜は眠れるが、場合によっては「介助」する時間もあるという。

写真1:障害者が共同で暮らす住宅
写真1:障害者が共同で暮らす住宅

自国の医師給与と比べても、ドイツに来て家政婦(介護士)として働くほうが3~4倍よい賃金が得られるという。1か月間ドイツで働いて1か月間自国に戻り、再度、ドイツに来て働くのが一般的だという。そのため2人組で交代しながら派遣されるケースもあるという。このようなサイクルによって仕事と休日のバランスを維持しているとようだ。

ただ、ドイツ語を話せる能力がないと、ドイツで家政婦(介護士)として働くことは難しいということであった。

2.外国人介護士を養成する介護施設

 

・移民を受け入れる

筆者は、ミュンヘン市内の介護施設を訪ねた(写真2)。ここの介護施設は、外国人介護士を養成しながら介護施設事業を展開している。一般的にドイツ人が介護の仕事に従事するケースは、マネジメントやリーダーなど管理職的な介護士が多い。視察した介護施設では、7割が外国人介護士で、3割がドイツ人介護士であった。

写真2:外国人介護士の養成・受け入れを押し進める介護施設
写真2:外国人介護士の養成・受け入れを押し進める介護施設

施設では、マダガスカル、北アフリカ、アフガニンスタンなど多くの外国人介護士を養成している。在籍するのは基本的に移民もしくは認定が降りた難民である。ドイツ連邦政府では、認定が降りた難民には政府から一定のドイツ語研修の機会が与えられ、費用も公費で保証されている。そのため、この介護施設の養成所に入学する外国人は一定のドイツ語力を身につけた外国人である。

・1年間の介護士養成

外国人介護士は、1か月間の半分は介護施設で実習という形態で介護に携わり(写真3)、残り半分は授業形式で講義を受けながら1年間のプログラムで介護士としての初期段階の資格(ヘルパー)を身につける(休日あり)。1年間のプログラムがしっかりと整備されているため、プロの介護士を育てることができると担当者は話していた。その後、さらに上級の資格を取得したいならば、働きながら学校に通い3年間のプラグラムが用意されているという。

写真3:同介護施設における入浴機器
写真3:同介護施設における入浴機器

ここの外国人介護士には養成中から給与が与えられる。年収ベースでの確認はできなかったが、養成中は毎月900ユーロ、資格取得後は1400ユーロの賃金体系であるという。さらに、3年間の上級資格を有すれば毎月2000ユーロ程度の賃金水準になるようだ。ただ、ミュンヘン市内は家賃が高いため、施設側は都市部近郊にアパートを借り上げて住まわせているという。

・外国人介護士に頼るしかない。

訪問した介護施設の責任者によれば、外国人介護士の採用は30年前から導入しており、移民の方などを受け入れているという。ただ、ここ10年間は、かなりの人手不足であるため、外国人介護士への採用に力を入れているということであった。

もはや、ドイツ人に介護の仕事が不人気である以上、外国人への養成および採用に力点を置かなければ、施設経営は難しいと話す。しかも、一部のドイツ人の介護士に比べれば、北アフリカ人などの介護士のほうが丁寧な対応をするなど、高齢者にも評判がいい。移民もしくは難民でドイツに来る人々は、高齢者を敬う気持ちがあり、多少、言葉がドイツ人よりも不都合であっても、ケアの面では評価が高いそうだ。

3.若い難民を支援する事業団体

筆者は、若い難民を支援する団体を訪問して、外国人の就労支援について話を聞いた。この団体は、ドイツ語を取得した難民に対して職業訓練校や企業実習などの橋渡し機能を果たす機関であり、若者難民を手助けしている(写真4)。活動費は市役所から補助金助成を受けている。主に、ソーシャルワーカーや社会教育主事の方々が支援に携わっているそうだ。

写真4:若い難民者の支援する団体のセミナー(就労支援)
写真4:若い難民者の支援する団体のセミナー(就労支援)

難民は経済的難民と政治的難民に分かれるが、戦争などで逃げてくる政治的難民は、長期間の滞在が許される。一方で、経済的難民の場合は強制帰国が課せられる場合がある。ただし、その判断が政府から決定されるまでは滞在が許されるので、少なくとも2年程度の滞在が許される。したがってその間、何らかの職業に就きたい意向がある。

多くの若い難民は、IT系の職、サービス業などへの就労を希望する。その意味では、介護職に就く人は少ないそうだ。とくに、シリアなどの難民者は基礎学力も高いためドイツ語取得力も高く、IT系の職に就く機会が多い。しかし、基礎学力が低い国から来る難民は、ドイツ語取得速度も鈍くドイツ人に不人気の職に就く傾向にある。

4.ドイツから学ぶもの

数年、ドイツの介護現場を視察しているが、年々、介護人材不足が深刻化している様相が窺える。日本と同様に自国の人々が介護職に就かなければ、外国人の採用に期待を託すしかない。その傾向は日本もドイツも同じである。

しかし、明らかに異なる点は、ドイツは移民政策導入の歴史が長く、どのように外国人労働者を受け入れるか、ノウハウが蓄積されている点である。しかも、ドイツ語教育(言語研修)は、公費でしっかりと保証しているため、それなりの受け入れ態勢が国家事業として整備されている。その意味で、ドイツにおいて外国人介護士は、しっかりと専門知識を身につける養成を受けることができる。しかも、ドイツでは移住者も本人が望めば長期的に滞在も可能であり、ドイツ人と同様の権利が保障されている。

一方で、日本の場合は、技能実習制度では公費負担は軽減されており、日本語教育などは送り出しおよび受け入れ機関の民間団体に託されている。外国人労働者への支援は、その財政負担が不安定である。しかも、現在、最長5年という期限付きの滞在しか認められていいない。

まとめ

その意味では、ドイツでは外国人を受け入れるのは、それなりの覚悟をもって対応している。対して日本では「ご都合主義」的な側面で、外国人介護士を受け入れている傾向にある。無論、外国人介護士は、日本人介護士よりも熱心で優秀な人も多い。しかし、そのような優秀な人材であればあるほど、日本以外の有利な国へ働きに行く傾向は無視できない。

今後、日本で本格的に外国人介護士を受け入れるのであれば、しっかりと人権を保障し、それなりの対応をしなければ、外国人介護士の確保・定着も難しいと考える。

プロフィール

結城康博社会保障論 / 社会福祉学

淑徳大学総合福祉学部教授。淑徳大学社会福祉学部社会福祉学科卒業。法政大学大学院修士課程修了(経済学修士)。法政大学大学院博士課程修了(政治学博士)。社会福祉士・介護福祉士・ケアマネジャー。地域包括支援センター及び民間居宅介護支援事業所勤務経験をもつ。専門は、社会保障論、社会福祉学。著書に『日本の介護システム-政策決定過程と現場ニーズの分析(岩波書店2011年)』『国民健康保険(岩波ブックレットNo.787)』(岩波書店、2010年)、『介護入門―親の老後にいくらかかるか?』(ちくま新書、2010年)、『介護の値段―老後を生き抜くコスト』(毎日新聞社、2009年)、『介護―現場からの検証』(岩波新書、2008年)など多数。

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