福祉は「性」とどう向き合うか――障害者・高齢者の性・恋愛・結婚

後藤潔さん(仮名・22歳)は重度の身体障害者なので、外出もままならない。また、話し相手といえば学校の先生か保護者しかいない日々を送ってきたため、他者とのコミュニケーションに自信がない。女性との出会いを求めて街コン等に行きたいと思っても、以前ヘルパーに、にべもなく同行介助を断られた経験があり、今では頼む気すら失っている。

 

一般的に恋愛等は個人的な問題であり、周りはとやかく言うものではないと思われている。しかし、上記の後藤さんのような場合、個人の努力だけでは如何ともしがたい点があるのではないだろうか。以下、障害者・高齢者の性・恋愛・結婚と福祉との関わり方について考察する。

 

 

福祉現場のいま

 

社会福祉とは、生活上に何らかの障害がある者が、日常生活を維持・回復、さらにはよりQOLの高い生活が実現できるよう、サービス利用者とともに取り組む支援のことである。

 

WHO(世界保健機関)で採択されたICF(国際生活機能分類)には「障害と生活機能分類」という項目があり、そこでは性のノーマライゼーションが取り上げられているものの、福祉現場でそれらに積極的に取り組んでいるともいえない。福祉現場では、性に関するトラブルが起きると、多くの福祉従事者(以下、従事者)は、個人的な問題として受け止めて、根本的な解決に導びこうとせずに時間が過ぎるのを待つのが現状である。なお、個人的な問題というのは、利用者の問題としてではなく、従事者の問題として捉えてしまうことを指している。

 

たとえば、従事者がサービス利用者から性的な感情を伴う好意を持たれ、相手からの言動によって利用者に嫌悪感までも抱くことがある。また、業務経験の少ない若い介護士がケア中に身体を触られるが、利用者が認知症高齢者であるために言葉で制しても効力がなく、涙を流し耐え続けたりする。

 

あるいは、特別養護老人ホームで、判断能力の乏しい女性の認知症高齢者の部屋へ忍び込み、性的関係を持とうとする男性利用者に対して注意をするものの、事実関係がわからないため時の過ぎるのを静かに待っている……。今、現場には、このような従事者が多数いると思われる。

 

性のことでなければ、「ヒヤリハット」(重大な事故に至らない事例の発見)に記載して、今後危険や問題が起きないように組織的に対応するかもしれない。しかし、性に関することであれば、大きな問題にならないように静かに時の過ぎるのを待つということになりやすい。セクシュアル・ハラスメントと考えられることでさえも、表面化していないものも含めて、多くの課題が発生していると思われる。

 

一方、旭(1993:129‐145)は「施設介護における『性』」において、「性のニーズを発信させてもらえない、発信しても拒絶される否認を体験する」と、構造上の問題を取り上げながら、サービス利用者側からのニーズを論じている。たとえば、施設入所の際には、家族構成や趣味や嗜好など、さまざまな聴取を従事者が行い、日々の生活支援に役立たせていく。

 

しかし、その質問の中に性に関する質問事項はほとんどない。踏み込まれたくない人もいるからという考え方もあるだろうし、支援に役立たせることができなければ質問が興味本位なものにしかならないために、質問しないことが現状から妥当とも言えるだろう。こうして、入所当初から利用者の性に関心が寄せられないまま、生活全般を施設が支援することになり、そこに性のニーズがあっても表面化しない。

 

中には、サービス利用者から従事者が性行為の相手を依頼されて、愛のない行為はしたくないという自らの真の気持ちを伝えるための話し合いをして、誠実に対応する従事者もいる。突然、身体的障害のない認知症高齢者の男性から、覆いかぶさられ胸を触られた際に、力ではねのけると転倒する危険があると考え、冷静な対応をした若い女性介護士もいる。彼女は、専門的な対応によって対処すべきことだと考えている。こうしたことも事故事例として考えられるが、いかに適切に対応するかは、ほぼ個人的力量に委ねられているところが大きい。

 

熊坂(2008:50‐61)が行った高齢者施設職員への調査でも、4人に1人の職員が入所者同士の性的接触場面に遭遇しているが、その対応は施設全体ではなく従事者本人に任されていると結論づけている。たまたま担当したサービス利用者から、性に関することで対応が求められた従事者が、個別に対応するしかないといったふうに、性に関することが施設全体で受け止めるべきニーズと捉えられていないのが現状である。

 

 

福祉教育の現状

 

また、従事者を養成する学校の教育課程において、性のニーズやその支援について学ぶ機会は、ほぼ皆無と言ってよいであろう。強いて言えば、欲求のコントロール障害である「性的逸脱行為」として医学的側面から教授されるくらいかもしれない。

 

一般的な福祉の教科書で利用者のニーズや支援という角度から、性について取り上げられることもなければ、教員が特別に教えることもほとんどないまま、福祉現場に学生たちを従事者として送り出しているのが、現在の福祉の教育現場である。なぜ、このようなことが起こっているのであろうか。サービス利用者の性に関するニーズは皆無であるという認識があるからなのだろうか。それとも、性に関するニーズは福祉サービスの対象になり得ないと考えているからであろうか。

 

しかし、そのニーズ把握や支援対象に関する議論さえも乏しい現状がある。それゆえ、性に関することを学ばずにいるために専門的な判断ができずに、たんなる個人の価値観だけで、従事者も考え行動していかなければならなくなる。教育上の基礎的なベースがないために専門的な知識や技術を、従事者同士でも共有すること自体も難しい。

 

とくに性に関することは、プライベートなことであり、人前で話す内容ではないという常識的な判断から、職場で何が起こっても個人の胸に収めてしまう事柄となりやすい。だが、何も学べずに従事者になれば、性に関することを支援するという視点も、そもそも生まれないとも言えるであろう。

 

 

福祉従事者による性のニーズの支援における障壁

 

また、上記で取り上げられていない、さまざまな従事者が悩む事例からも、支援上の課題が見えてくる。その一つが社会規範の観点で、これは性的な行為の介助という面でわかりやすく出てきやすい。つまり、道徳的にも、食事介助や排泄介助の延長線上に、性的な介助が認められるものではないという考えである。

 

性に関することはどこまでも「快楽」であって、「権利」という側面で考えにくい。いくら介護の業務上に発生し、業務上の人間関係から性のニーズが発見されても、従事者が性に関する介助は業務上行えない。それに対して、どのように関わるべきなのかを示す指針もない。社会福祉という公的資金が導入されている施設やマンパワーにおいて、性のニーズ、とくに性的行為への介助などを、従事者が満たすということに国民の同意があるわけではない。

 

たとえば、介護保険制度において、訪問介護(ヘルパー)サービスでは、草むしりなどは生活上に必要性があっても保険外のサービスとなる。ギャンブルや飲酒のための外出の介助も適応外であり、社会通念上適当ではないと考えられる。法令上規定される内容の場合もあるが、はっきりした線引きがなく、主観を伴う価値観が判断の基準となることもある。

 

国民の同意が得られない(と思われる)サービス提供は、社会通念上不適当と考えられるのである。あくまでも社会で対応すべき問題ではなく、プライベートなことと捉え、公共財を使用せずに私的に解決すべきだとする考え方である。したがって、プライベートだと現在考えられているものが社会的な課題として取り上げられるためには、それ相応の深い議論や時間が必要となる。

 

2つ目に、利用者の判断能力がつねに課題となる。利用者が自律的に考え行動できる場合は、利用者の自己決定の上で支援できる可能性もあるだろう。だが、判断能力の乏しい利用者への対応は複雑になる。こうした場合は、性のニーズへの支援とともに考え整理しなければならない課題も大きく、支援が難航する。

 

3つ目に理論的な根拠がない点である。これは1つ目の課題との関係とも深いが、前述したように、「快楽」を求める支援まで福祉のニーズとして考えられるのかどうかという点である。つまり、性に関する支援は、食事の提供のように生死に関わるニーズではなく、より高い生活上の欲求の充足を実行するのかどうかということである。

 

ただし、性のニーズを充足することについて、すべて「快楽」のみの充足であるという性急な判断をしてはならない。どのようなニーズが、その利用者にあるのかをアセスメントする必要性がある。性のニーズを利用者が表明したとしても、真のニーズは性欲ではなく、「精神的な人とのつながり」である可能性も十分に考えられるからだ。とはいえ、性に関する支援の指針づくりは、利用者にとっても従事者にとっても必要となるであろう。【次ページにつづく】 

 

 

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