日本の「在宅医療」 ――急激な少子高齢化社会を支える医療――

 

近年、少しずつニュース等で取り上げられるようになってきた「在宅医療」について、情報紹介をさせていただきます。

 

 

1.暮らしなれた場で、暮らし続けながら受ける医療、それが「在宅医療」

 

在宅医療とは、どのような医療なのだろうか。厚生労働省主催の全国在宅医療会議では、「患者の療養場所に関する希望や、疾病の状態等に応じて、入院医療や外来医療と相互に補完しながら生活を支える医療」と定義している1)。つまり、在宅医療は外来医療、入院医療に次ぐ第3の医療提供形態であり、その対象者は「通院困難な患者」である。事実、在宅医療を受けるにあたり、病期や年齢、治療内容などの制限はない。在宅医療は、通院困難な方の療養生活を、暮らしの場で支える医療なのである。現在日本では、赤ちゃんからお年寄り、成年など様々な年代の患者が在宅医療を利用している。

 

在宅医療が提供される場は「暮らしの場」である。一般的にイメージされる患者宅だけではなく、患者が暮らす場としてグループホームやサービス付き高齢者住宅、ケアハウス、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、介護保険サービス内の通所や療養系施設なども在宅医療の提供の場でとなっている。

 

地域によっては、「在宅医療はお年寄りでなければ利用できない」、「在宅医療は終末期の方が受ける医療」などという偏った情報が広がっていることもあるが、在宅医療は医師に通院困難と認めらえた患者がかかりつけ医と相談しながら選ぶことができる、医療の選択肢のひとつである。

 

 

2.日本の「在宅医療」の今

 

現在の日本では、医療技術や医薬品、衛生用品、医療機器、情報技術が飛躍的に進歩し、さまざまな治療や検査、ケアが暮らしの場で提供できる。たとえば、小規模な手術や在宅人工透析、エックス線検査、血液検査、超音波検査、歯科治療、点滴や在宅人工呼吸療法、がん治療、在宅酸素療法など、一般には自宅での対応が困難と思われている治療も、実際には自宅での提供が可能となっている。さらに、療養環境には欠かせないベッドや椅子、手すり、衣類なども多様な患者ニーズに対応できる製品が次々に開発され、情報技術やロボットの活用も進められている。

 

また、患者の治療情報の電子化(電子カルテシステム)は、大病院だけではなく、診療所や在宅医療でも用いられるようになっている。患者に心拍数や呼吸状態をチェックできる小さなセンサーをつけてもらい、離れた場所から患者の心臓や呼吸、体温の状態などをチェックできるモニタリングシステムも活用され始めている。そのほか、テレビ電話や在宅ナースコールなど、入院している状況と変わらず、医師や看護師らとリアルタイムでアクセスできる環境が整えられつつある。こうした技術的な進歩が、現在の在宅医療を支えているのである。

 

 

3.日本で「在宅医療」が推進される背景=少子高齢化

 

日本において在宅医療を全面的に推進する政策に変化したのは最近のことである。背景には、少子高齢化という人口の構造変化がある。高齢者層は今後も減らず、労働世代は減り続けるという人口バランスの中で、建物などハード面の整備ではなく、人材育成やサービスの充実、工学や情報技術の活用による医療提供体制の整備を進める必要に迫られている。在宅医療も、その一環として注力されるようになった。

 

 

図1 高齢化の推移と将来推計2)

 

 

1940年代の日本は、戦後復興を目指して多産が推進された。その結果、第1次ベビーブーム(1946年~1948年頃:現在では団塊の世代と呼ばれる)などによる人口増加を続けてきたが、第2次ベビーブーム(第1次ベビーブーマーの子ども世代:1970年代前半)を境に多産の抑制を行った。その結果、少子化となり、ついに2011年頃から人口減少をはじめている。

 

同時に、医療技術の発展や新薬開発の推進、衛生環境の整備、栄養状態の改善などにより寿命が飛躍的に延伸し、高齢者の増加が進んだ。結果として少子化と寿命の延伸が進み、日本は少子高齢化社会となったわけである。1995年には高齢化率は14%を超え、日本は高齢社会となった。その後も今日に至るまで少子高齢化は進み、2017年の高齢化率は27.3%であり、日本は高齢化率の世界最高位を独走している。高齢化は今後も数十年未来に向けて進行し続けることが推測されている。

 

以下では、高齢化がいかに在宅医療のニーズを引き上げたのかを検討する。

 

 

4.高齢化する日本で起きている医療ニーズの変化

 

日本では現在、患者の7割近くは高齢者であり、今後も増加する高齢患者を中心とした医療提供体制を整える必要がある。ここで、高齢者特有の医療ニーズについて考えてみたい。下記の表は、高齢者の医療ニーズをグラフにして示したものである。

 

 

図2 高齢者のニーズとは何か3)

 

 

高齢患者に必要な医療ニーズには、小児患者や成人患者とは異なる医療ニーズの特徴がある。具体的には、若い世代に比べ、急性疾患よりも慢性疾患や廃用症候群の患者が多いという特徴である。

 

急性疾患とは、急激な体の変化によって、手術などのように負担の大きな治療を行う必要性が高い病気群のことを指す。高齢患者においてはこのような病気を持つ患者数は、若い世代と同等程度か若干少ない。

 

一方で慢性疾患とは、認知症や生活習慣病のように長い年月をかけて病気になり、完全に治ることが難しい病気である。慢性疾患は毎日の暮らしの中で病気をコントロールする治療が必要であり、長いお付き合いをする覚悟が必要となる。

 

黄色で示されている廃用症候群とは、高齢になることで体に生じる不具合であり、栄養状態の低下や貧血、筋力低下などである。廃用症候群は完全に治ることが難しい。廃用症候群も長いお付き合いをしながら、痛みがあれば痛みを和らげる治療をしたり、栄養を補給する治療をするなど、症状をコントロールする医療が必要である。

 

つまり、高齢患者が多い日本で必要な医療は、手術や高度な治療を中心とした医療よりも、日常生活のなかで長い時間をかけてコントロールする医療の方が大きくなっているのである。【次ページにつづく】

 

 

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