書評「発達障害の人の会話力がぐんぐん伸びる アイスブレイク&ワークショップ」(冠地情)

著者である冠地さんが代表をつとめる「イイトコサガシ」は2009年に立ち上げられている。ちょうど時を同じくして、私も地元上尾地域の皆様とピアサポート講座やピアサポーター養成講座を始めようとしていた。冠地さんがこれまで積み重ねた時間と、私が地域や仲間と共に積み重ねた時間を重ねながら拝読した。

 

本書は、主に発達障害のある方が会話力を楽しく身につけていくために行うワークショップの具体的な方法を、テーマ別に40種類ほど紹介されている。バラエティの豊富さも魅力的だ。6章から構成されており、章を経るごとにいつの間にか楽しみながらステップアップするように組み立てられている。折々にコラムとして冠地さんの体験談や、冠地さんの活動が垣間見られるのも得したよう気持ちになる情報が散りばめられている。

 

ワークショップを言葉で説明するのは非常に難しいと常々感じている。百聞は一見に如かず、いや、一体験に如かず、である。これまでいくつかのアイスブレイクやワークショップの本を手にしたが、本書ほどわかりやすいものは初めてだ。

 

各章の冒頭では、冠地さんのファシリテートに導かれてワークショップの世界に入り込んでいく。冠地さんの実践に裏打ちされた解説と、かなしろにゃんこ。さんのわかりやすい漫画がセットになって、視覚的にも、内容的にもスーッと入ってきて、場のイメージが湧いてくるのである。

 

ワークショップでは知らない自分やみたくない自分と向き合う瞬間が訪れる。それは勇気のいることであるが、それも一貫して、ポジティブな表現に包まれ、流れていく時間と空間をつくることで、いつの間にか一歩踏み出していた、ということがワークショップでは起こる。

 

20年以上ひきこもっていた方が積極的に大勢の人が集まる学びの場に参加するようになったり、自分の病気や障害を認めたくなく隠し続けて生きていた方が自分から語り始めるようなことが図らずも起きる。これは「ここで、今」しかないダイナミズムのなかで起きる不思議な化学反応のようなものだと思っている。しかし、偶然ではなく、そういうことが度々起きるので魅了されていくのである。

 

ただ、ワークショップには「参加しない(できない)人」がいて、その一人の発言やたたずまいが場の空気感を変えることはよくある。本書でもたびたび、後ろ向きな息子さんと、すかさずツッコミをいれるお母さんが登場する。これもまた、読者にはたまらない共感を覚え、引き込まれるエッセンスになっている。彼は私たちの中にいるもう一人の私でもある。そんなことできないよ、恥ずかしいな、何も思い浮かばなかったらどうしよう、みんなの前で発言なんて緊張する、などは誰もが実は思っていることでもあり、そういう方をワークショップではどのように包み込んでいくのか、冠地さんのファシリテートっぷりとともに大いに参考になる。

 

不特定多数の方が参加するワークショップでは、気を付けることもあるが、ファシリテーターの心得が、専門用語を使わずに誰にでもわかりやすい言葉でまとめられているのもありがたい。

 

1ワークショップが概ね見開き2ページ、もしくは4ページで構成されているところなど、隅々まで読者への配慮がなされている。ページをめくるたびに、これもやってみよう、あれもやってみよう、とワクワクしてくる。あの講座、こっちの勉強会、または大学の授業でもやれるなーとか、ゼミでやってみたら面白いかも、などと想像が膨らむ。

 

冠地さんにしか出せない空間づくりはあるだろうが、全国各地で広がってほしいという思いもあって本書は出されているのだろう。本書は、障害などで諦めている自分から、新たな世界に一歩踏み出す人の一助となる導き書である。ぜひ、手にとって、仲間と体験してみましょう。

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.279 

・川口俊明「全国学力テストの失敗は日本社会の縮図である――専門性軽視が生み出した学力調査の問題点」
・神代健彦「道徳、この教育し難きもの」
・大賀祐樹「懐疑的で楽観的な哲学――プラグマティズム」
・平井和也「世界の知性は新型コロナウイルスをどう見ているのか」
・川名晋史「誰が、なぜ、どこに基地を隠したか」
・石川義正「「空洞」の消滅──現代日本「動物」文学案内(4)」