2011.06.17

農業・漁業の原状復旧を目指す復興策は愚策

すでに震災から3カ月の月日が経過しているが、仮設住宅建設の遅れ、義援金配布の遅れに象徴されるように、復旧、復興のペースがきわめて遅い。

被災地域において、避難所や被災家屋での居住長期化は、高齢者の健康状態、要介護状態を急速に悪化させてゆく。地域コミュニティーを離れた高齢者の心身的ダメージも大きい。それに対して、被災地における医療・介護サービスの供給不足は危機的な状態がつづいている。すでに300~500人程度の震災関連死が起きているといわれる。

また、倒産・解雇による被災者の失業長期化は、今後、現役労働層の他地域への流出を加速させる可能性が高い。被災地域に残る現役労働層においても、生活保護などの福祉依存が急速に進む可能性があり、対策の遅れは、地域コミュニティーの自立再生力を急速に失わせてゆく。ここからは時間との勝負であり、対策のスピードアップが何としても必要である。

しかしながら、現在、政府の復興構想会議などで計画されている農業、漁業、加工業、観光業などの再生・復興には、堤防の再構築や港湾整備、塩害対策など、インフラの復旧・整備などに、かなりの長期間と膨大な資金を要してしまう。とくに、既存の農協、漁協の既得権を温存したままの現状復旧では、非効率な上に時間がかかりすぎる。

また、農業・漁業については、労働力の高齢化や産業自体の衰退、補助金依存など、震災前からの構造的問題は依然として変わらない。こうした問題を解決せず、長期的な成長や雇用拡大の展望のないままに、元の状態に現状復旧を行ったとしても、結局、労働力流出や地域衰退は避けられないだろう。

サンクコスト(埋没費用)は考慮すべきではない

経済学には、「サンクコスト(埋没費用)」という考え方がある。これは、これから新たに投資の意思決定をする場合、すでに過去に投資した費用(埋没費用)を考えるべきではないということである。

つまり、震災前にどんな産業にどれだけの資本が投資されていようと、どれだけ損失が発生していようと、「震災後」の投資の収益率には無関係だからである。これから公費をかけて行う産業復興策は、震災前の産業に縛られず、これから行う再投資に対して、もっとも収益率が高く、多くの雇用を生み、成長する産業に対して行われるべきである。

とくに、巨大な債務を抱える我が国の財政状況を考えると、25兆円以上ともいわれる震災による被害を補償する財源を早急に確保することは困難であり、「選択と集中」によって、かぎられた財源をもっとも効率的な分野に、素早く投じることが必要となる。

こうした観点に立つと、被災地域の復旧、復興にとってまず必要なことは、①スピーディーな雇用創出による生活再生とコミュニティーの活力維持、②被災地の高齢者へのスピーディーな医療・介護・生活支援、③長期的な成長が見込まれる産業への資金重点化という3点であると思われる。

社会保障産業による震災復興は一石三鳥

この3つの条件を一度に満たす産業として、「社会保障産業」があげられる。ここで社会保障産業とは、医療、介護産業に加え、高齢者生活支援、高齢者住宅建設などを含む産業である。まさに、医療・介護・高齢者支援自体を復旧・復興復の要として位置づけ、この分野で、地域内の人材育成・雇用創出をも行い、現役労働者層の中長期的な雇用確保・生活再建を進めるという一石三鳥の振興策が可能である。

まず、社会保障産業には、震災前から旺盛な需要が存在しているが、震災によってさらに需要は大きくなる一方、供給力が低下しており、医師不足、介護不足の深刻さは、まさに待ったなしの状況といえる。もちろん、高齢化比率の高い東北3県では、この分野における中長期的な需要も安定的に存在している。

また、特に、介護分野や高齢者の生活支援分野は人的サービス中心であるから、初期費用が低く、必要な規制緩和を行うことにより、かなり早期の雇用創出を実現することができる。

さらに、この分野は、雇用創出力が高く、また、地域外への需要流出が少なく、地域内で回るお金が多いという特徴がある。漁業・農業・加工業・観光業といった既存の産業とは異なり、災害に強い高台地域での展開が可能な産業でもある。

ただし、現状の社会保障産業は、補助金比率、公費投入率が高く、財政的な面から産業拡大への制約が大きい。このため、すでに震災前から、行政によって種々の参入規制・需要制約が課されていたところである。この公費投入率の高さが、今後の社会保障産業振興の最大のネックであると言える。

そこで、これを「特区」を活用した思い切った規制緩和を行うことにより、補助金・公費依存を改め、競争力のある効率的な成長産業に転換する。震災をきっかけとして、社会保障産業を、財政を過度に圧迫しない真の意味での「成長産業」にしてゆくことができれば、強力な震災復興策となる。

仮設住宅を中心とした短期的な復旧策

具体的な復興のストラテジーは、(1)短期的な復旧策と、(2)中長期的な復興策のふたつに分けられる。短期的な復旧段階では、ある程度の公費投入は不可欠であるが、それはあくまで、次の復興段階の中長期的な成長策への布石となるように用いるべきである。

現在、東北3県における仮設住宅の建設は、必要数の半分程度が終了したといわれているが、いずれ10万戸程度の仮設住宅(民間借り上げ分を含む)が完成し、少なくとも2年程度のあいだは、仮設住宅を中心とした復旧・再建期間に入る。

その際、仮設住宅に入居した高齢者、傷病者に対する医療、介護、生活支援の体制整備が不可欠であるが、現状では、地元の医療機関・介護事業所の多くが閉鎖されたことから、深刻な医療・介護供給不足に陥っている。

とくに、入院が必要な患者の増加に対して、医療機関の病床がまったく不足し、深刻な疾患の治療が遅れたり、病状にかかわらず短期間での退院を余儀なくされていることは問題である。また、介護施設についても、現在、東北3県の特養、老健施設の3割程度が定員をこえる要介護者を受け入れている状況である。

仮設診療所、仮設介護施設・事業所の仮設住居への併設

そこでまず、仮設住宅が密集する地区において、一定数の仮設診療所(有床施設)、仮設介護施設、仮設通所介護施設、仮設看護ステーション、仮設訪問介護事務所などを併設することにし、その供給整備を早急に行うことにする。

具体的には、その仮設住宅地区における建設用地を一定期間無料で提供し、建設費、設備のリース費などを、仮設住宅と同様の考え方で、復興財源によって全額補助する。病院や介護施設の供給不足を補うために、仮設住宅の密集する仮設コミュニティーを利用した「地域包括支援体制」を整えるのである。

仮設介護施設を開設する法人は、老健施設や特養を運営する社会福祉法人、医療法人だけにかぎらず、有料老人ホームやグループホーム、小規模多機能施設などの開設経験のある多種多様な法人を認める。株式会社の参入の場合にも、社会福祉法人同様に、一定期間の非課税措置を行えば、供給増へのインセンティブとなろう。

仮設診療所は、地域の中核病院との連携が不可欠である。こうした連携を深めるためにも、震災で甚大な被害を受けた公立病院、地域中核病院の再建は一刻も早く行うべきである。これは、岩手県立大槌病院のように仮設診療所・仮設病院を一時的に設立するということではなく、きちんとした中核病院の再建自体を、早急に行うことが必要である。

そのために、自公政権末期に設立した「地域医療再生基金」を優先的に活用して、重点的資金投入を行う。また、仮設診療所と中核病院をつなぐ遠隔医療や電子カルテや電子診断の情報網整備にも基金が使えるようにする。基金活用であれば、いつ確保されるかわからない復興財源に頼らずとも、素早い執行が可能である。

労働力不足をどう解決するか

早急な医療・介護分野の供給増を図るために、最大の問題点は、すでに述べたように労働力が圧倒的に不足しているとことである。そこで、仮設診療所については、東北3県以外からも医師を募集し、仮設住宅が終了した後も、新設される復旧後の住宅地に、後述の「家庭医」として開業することを認め、その時の開業費用(土地、建物、設備費)に対する補助または融資を自治体が行うことにして、医師募集のインセンティブとする。

とくに、福島県の家庭医制度普及を模範に、後期研修医の募集に力を入れることにする。また、仮設介護施設についても、仮設住宅終了後に、新設の住宅地への移転を認め、用地費、施設整備費の補助をすることにより、供給増のインセンティブとする。

また、介護施設、介護事業所については、一定期間の間、現状の配置基準を緩和して、一定の資格者の管理の下で、無資格者もOJTというかたちで、勤労ができるようにする。また、医療機関についても、時限的に配置基準を引き下げる規制緩和が必要と思われる。

さて、仮設住宅に避難している現役労働層については、希望者に対して医療(看護)、介護などの職業訓練を実施する。職業訓練中の労働者についても、一定の基礎研修後は、OJTとして医療、介護現場での労働を可能なものとする。

その基礎研修は短期間に最低限の知識をつけるもの程度にして、素早くOJTで現場の労働力化を目指す。その後の職業訓練は、OJTで就労を行いながら、時間をかけて資格取得を目指すことにする。職業訓練を行う事業者は、実際に医療・介護事業を仮設住宅地区で行っている事業者とする。OJT以外に、必要な職業訓練も実施することにし、その訓練費用を後述のように「労働保険特別会計」から支出する。

被災地域や仮設住宅地域における医療機関、介護施設、介護事業所は、こうした職業訓練中の労働者を雇用しても、診療報酬、介護報酬の減算とならないような時限的な措置を講ずる。このように、仮設住宅に居ながら、被災した現役労働者層が、社会保障産業に雇用され、生活再建が進むことが重要な点である。これにより、現在深刻化している仮設住宅辞退といった問題も一定の解決が可能である。また、被災者が職業訓練によって資格取得を行えば、一時的ではない、将来的な生活設計も十分に可能となる。

雇用調整助成金よりも「積極的雇用政策」を

この点で、やや懸念されるのが、第1次補正予算で多額の積み増しが行われた雇用調整助成金(既存の会社が休業している場合でも、形式上、労働者を雇いつづけ、賃金が支払えるようにするために政府が出す補助金)である。これは、失業を防ぐための当座の応急措置としては評価できるものの、このままでは、将来の展望がない産業、結局廃業する会社に対して、非効率な延命措置を行うことになる可能性が高い。

それよりもむしろ、一度、被災者を失業者として顕現化させたうえで、失業者の職業訓練の拡充および、失業者が月10万円(扶養者あり12万円)の生活費を受け取りながら無料職業訓練を受ける「求職者支援制度」の拡充を図って、社会保障産業を含めた成長産業への人材転換を図ることが望ましい。

失業者の職業訓練については、OJTを行いながら社会保障産業での職業訓練を行うことを条件に、失業給付の長期化(2年程度)を図る。失業給付に加えて、OJT分の賃金も受給できれば、訓練期間中の生活再建も容易であろう。

雇用保険のない人々に対する求職者支援制度についても、社会保障産業でOJTを行うことを条件に、支援期間の長期化(2年程度)と、支給される生活費に加えて、OJT分の賃金受給も認める。これも、訓練期間中の生活再建が目的である。また、こうした財源は、いつ成立するかわからない増税によるものではなく、現在すでに多額の積立金を持っている「労働保険特別会計」から早急に支出する。

現在、東北3県の求職者数は4万人に対して、求人は4300人に過ぎず、この状況が放置されれば、いずれ大規模な労働力流出が起きるか、生活保護などの福祉依存が進む可能性がある。そうならないために、「積極的雇用政策」で対処するべきであり、その有力な選択肢が社会保障産業の雇用創出なのである。

中長期的復興へのストラテジー

一方、被災者が仮設住宅に居住している2年程度の期間内に、高台に住宅地を集中させ、医療・介護・高齢者生活支援が日常生活圏で行える計画的な街づくりを行う。高齢者が中学校区程度の日常生活圏で、最後まで暮らせるという「地域包括支援」が整った新設の街づくりを行うことにより、中長期的にも社会保障産業で雇用が生み出され、産業が成長してゆく基盤をつくることにする。

社会保障産業は、高齢化比率の高い東北3県にとって、安定的な需要が今後も存在する産業である。しかしながら、現在の社会保障産業の現状では、公費・補助金投入率が高く、国・地方の財政を圧迫することから、財政的な制約という点で、その成長を政府・各自治体が抑制せざるを得ない。

そこで、震災復興の「特区」制度を活用し、公費・補助金投入率を低め、国と地方の財政を圧迫しないように効率化を図り、社会保障産業を、公費・補助金に頼らない真の意味での「成長産業」に転換してゆく必要がある。

効率化という観点からみると、既存の医療体制は、地域中核病院、その他の病院、診療所の役割分担がまったくなされていないという問題がある。診療報酬という公定価格と出来高払い制度の下、すべての医療機関が同じ土俵で非価格競争を行うことによって、診療所の過剰設備や高コスト体質が温存されてきたといえる。

家庭医普及と保険者機能の強化

そこで、イギリスやオランダにならって「家庭医制度」の普及を図り、ゲートキーパーとして初期医療は家庭医が行うことにし、医療費の適正化・効率化を行う。家庭医は個人診療所のほか、地域医療センターを設置し、数名の家庭医が24時間診療する体制を整える。すでに述べたように、仮設診療所を運営していた医師を、新しい住宅地に配置する家庭医として優先的に採用する。

家庭医が手に負えない疾病については、その紹介によって、中核病院が医療を提供する役割分担を図る。中核病院は、専門的医療の場として指定され、人材と財源を集中させるようにする。

中核病院と家庭医の再編は、おおむね中学校区程度の日常生活圏を医療圏に設定して行う。当然ながら、中核病院は日常生活圏ごとにひとつかふたつあればよく、既存の病院のすべてが指定されることはない。

また、家庭医と中核病院は、電子カルテ、電子レセプトの導入によって治療情報を共有し、「医療の標準化」を行って、医療の質の向上に役立てるとともに効率化を達成する。さらに、レセプトの縦覧点検により、入院のたらい回し行為や重複受診、重複する医療行為などの非効率を洗い出すことができる。

こうした日常生活圏における家庭医と中核病院への再編と役割分担を進めるに当たって、ポイントとなるのが「保険者の機能強化」である。家庭医指定と中核病院指定とその支払い方式設定(包括化や独自の自己負担設定)などは、本来、保険者が行うことが諸外国の例からいっても自然である。

そこで、特区を利用して、保険者機能の強化・拡充を図り、保険支払いを認める医療機関の指定と契約や、包括化などの支払い方式の設定を保険者自身が行えるようにする。保険者との契約に従わない既存の医療機関は、支払い対象の指定から外すという権限も保険者にもたせることにする。これはアメリカのHMOなどで普通に行われていることである。

また、もともと小規模な国民健康保険が震災によってさらに財政が厳しくなったことを考慮し、都道府県単位もしくはさらに大きな単位(たとえば、道州制の東北州)の広域化を図り、財政の安定化を図る。将来的には、東北地域の健保組合、きょうかい健保、共済組合も統合して一元化することも検討すべきである。保険者の単位を大きくすることで、さらに保険者機能の強化につながるとともに、IT化のメリットも増すことになる。

日常医療圏単位の地域包括ケア

既存の介護サービス提供体制は、まず、施設介護分野(3施設)が依然として参入規制や多額の施設補助金に守られて、高コスト体質が温存されているという問題がある。また、介護施設の大半を占める特養は、原則として篤志家が土地を提供することが出発点となるために、その立地が必ずしも利便性の高いものとなっておらず、要介護者が地域コミュニティーから切り離され、在宅分野との連携も乏しくなるという問題を抱えていた。

さらに、在宅分野においても、介護サービス間の連携が必ずしもうまく行っているとはいい難く、出来高払い制度の下、非効率な介護サービス利用が生じている面がある。一方で、24時間の訪問介護や配食サービスなど、在宅介護を支える体制の整備は遅れており、医療サービスとの連携も乏しいという問題もある。

そこで、医療と同様、やはり中学校区程度の日常生活圏を単位に、計画的に高齢者の住宅、介護施設、小規模多機能施設、通所サービス、訪問サービスを配置し、「地域包括ケアシステム」を実現させる新しい街づくりを行う。在宅中心の介護サービス提供を基本としつつ、高齢者の要介護度のステージに合わせて、小規模多機能施設との行き来、さまざまな施設入所といった段階を、地域コミュニティー内でスムーズに行えるようにする。

在宅での介護では、家庭医を「在宅療養支援診療所」として、介護と医療の連携が十分に取れるようにし、安易に病院への社会的入院や施設入所に頼らない体制づくりを行う。こうした取り組みとしては、新潟県長岡市における「長岡福祉協会」の実践などが参考になろう。

また、こうした地域包括ケアを支える意味で、医療同様、やはり「保険者機能の強化」が重要であり、サービス提供業者の指定や支払い方式(包括化や独自の自己負担設定など)の設定が行えるようにする。地域包括ケアに沿わない業者を指定から外し、保険支払いを行わない権限も与える。保険財政の安定化や調査機能を強化するためにも、保険者は医療同様に、都道府県単位もしくはさらに大きな単位(たとえば、道州制の東北州)での広域化を行う。

また、医療と介護を個人単位で接続できる電子レセプトの整備によって、医療・介護を統合した点検や標準化を可能とし、医療と介護の両者にまたがる連携を効率化する。医療・介護にまたがる「標準化」も研究を推進すべきである。こうしたことを考えると、将来的に高齢者の医療保険と介護保険の統合化も合理的かもしれない。

土地区画整理事業による住宅地集約化と高齢者住宅の供給増

このように社会保障産業による震災振興を機能させる大前提として、社会保障産業や高齢者住宅を適切に配置した新しい街づくりが不可欠である。そこで、震災によって家屋を失った高齢者とその家族に対して、新しい街づくりのなかで、日常生活圏で最後まで暮らせるような「住まい」を新たに提供することにする。

具体的には、安全な高台地域などに、土地区画整理、共同建て替え事業によって住宅地を集約化し、「高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)」を利用した高齢者住宅の建設を促進する。高齢者住宅整備については、さらに自治体独自の補助金によるインセンティブをつけることも考えられる。

土地区画整理とは、一定の地域の宅地や街路などを集約化して、住宅地を一定程度以上の規模の区画に分割し、各地主の区画前の土地を区画後の土地と交換する手法である。この区画整理で、家庭医や介護施設、介護事業所を最適に立地する余地を生みだすとともに、日常生活圏内に高齢者が住むことができるような集約化を行う。当然ながら、高台の農地や森林を住宅地にするための土地利用規制は緩和する必要がある。

その際、安全な高台の住宅地面積が不足する事態が考えられるが、その場合には、高層の高専賃・高優賃を建設し、従前の土地面積と、高層住宅の床面積との交換を行うようにする。

また、すでに震災で利用不能になったり、海中に没した土地の保有者に対しても、従前の土地面積を新しい住宅面積と交換できるようにすれば、被災者救済にもなり、まちづくり計画がさらに被災者の納得が得やすいものとなろう。

さらに、従前の持家を持たない被災者に対しては、バウチャーによる家賃補助と、自治体による保証を行って、賃貸の入居を進めることにする。

こうした高専賃・高優賃などの高齢者住まいは、規格化された建物であるので、賃貸にするにせよ持家化するにせよ、高齢者の健康や要介護度のステージに応じた日常生活圏内の住みかえが容易である。

この住み替えの促進は、高齢者たちが、かぎられた日常生活圏で最後まですごすことができるために重要なポイントである。今後、高齢者が増加しても、日常生活圏を保つためには、住み替えによって各住宅が無駄なく高い稼働率を確保することが不可欠である。

推薦図書

震災後、雨後の筍のようにラッシュがつづく震災復興本のなかで、際立って有用な本である。まさに、重要なことのすべてが書いてあるといってよいだろう。関東大震災や戦後の復興から学ぶ点など、経済史にも造詣の深い著者ならでは有用な情報も満載である。また、経済学的にも非常に整理され、合理的な政策提言がなされている。経済学的なプリンシプル(原則)や方針をほとんど持っていない「復興構想会議」の有識者に、是非ともお勧めしたい一冊である。

プロフィール

鈴木亘経済学 / 社会保障論

学習院大学経済学部教授。1970年生まれ。上智大学経済学部卒。経済学博士(大阪大学)。主な著作に、『生活保護の経済分析』(共著、東京大学出版会、2007年、第51回日経・経済図書文化賞受賞)、『だまされないための年金・医療・介護入門』(東洋経済新報社、2008年、第9回日経BP・BizTech図書賞)等。

この執筆者の記事