「ことば作り」の最前線 ――「困ってるズ」へのエール

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そう、「ちょうどいい言葉」がないんです。

 

「〇〇障害」とか、「〇〇症候群」とか、お医者さんが付ける診断名って、かた苦しいですよね。で、こういう診断名って「違う」という側面が強く出過ぎてしまう。もちろん、障害や病気の種類によっては、まったく違う扱いをしないといけないものもあるでしょう。でも、「確かに違うんだけど、そこまで違うわけじゃない」っていう感じの障害や病気もあるわけですよね。A君やB君がそういうパターンに当てはまるわけです。この「違う」と「同じ」の微妙な感じを表す言葉が、私たちが日常使っている言葉の中には少ない。というか、まったくないんですよね。

 

で、ここが「困ってるズ」さんたちの腕の見せどころになるはずです。A君やB君が、クラスの皆とちょうどいい距離感でやっていくためには、どんな言葉で説明すればいいでしょうか? この距離感を説明する言葉を考えるのは、もうお医者さんの仕事じゃないんです。彼らと同じような状況で「困ってる」人たちが、自分たちの体験を持ち寄って、「こういう言い方がしっくりくる」という言葉を出し合っていくのが良いんだと思います。

 

急いで断っておきますけど、「医者が付けた病名などに頼るな!」「そんなものいらん!」というわけじゃありませんからね。とりあえず、今の社会のなかでは、医療のケアを受けたり、福祉の人にサポートしてもらうときには必要になりますから……。

 

じゃあ、この文章のはじめに出した問題に戻ってみましょう。

 

「自分が個人的に感じている“しんどさ”って、わざわざ言葉にして表現する意味なんてあるの?」

 

そう、きっとあると思うんです。

 

いま見てきたように、「違う」と「同じ」の距離感を表せる「ちょうどいい言葉」を考えて、みんなで作っていく。できれば、分かりやすかったり、伝わりやすかったりする、あんまりかた苦しくない言葉がいいですね。そういった言葉を社会の中に貯めていく。「ことば貯蓄」や「ことば作り」のようなものをしていく。そうしていけば、いつかA君やB君と同じように困っている人たちが、「ああ、こんな言い方があるのか!」って、とても助かるかもしれないですよね。

 

病気や障害を持っているからって、「あなたはみんなとは違うから…」って遠ざけるのはやめてほしい。でも逆に「同じ人間なんだから、もっとがんばってみんなに合わせろよ!」って無理をさせられるのもご免こうむる。いろんな事情をもった人たちが、いろんな距離感を保ちながら生きていくためには、もっともっと「違う」と「同じ」を説明できる言葉が必要なんです。

 

いま、学校でも職場でも地域でも、「あなたはみんなと同じなの? 違うの?」って、二者択一をせまってくる感じが強くなってきているんですよね。で、「みんなと同じなら全部同じことをして! 違うなら専門家のところに行って!」って、細かく住み分けようとする。それが親切なことで、適切な対処なんだって、みんなが何となく信じている。まるで「敵か? 味方か?」をせまられてるみたいですね。

 

でも、「同じだけどちょっと違う」とか、「違うけど少し同じ」とか、「んー、7対3で味方かな…」みたいな人たちが、なんとなく一緒にいられる社会の方が、きっとフトコロが深くて居心地がいいんじゃないかなって、私は思っています。そんな社会のフトコロを広げるためにも、ことばを作っていくことが必要です。「困ってる人」たちが自分のしんどさを語るのを避けてしまったら、次に続く人たちも語りにくくなってしまいます。それは、ますます「困ってる人」たちを増やしてしまうんじゃないでしょうか。

 

だから、この「困ってるズ!」というメールマガジンは、その「ことば作りの最前線」なのかもしれませんね。みなさん、後に続く「困ってる人」たちのために、自分たちの言葉を信じてみてください。

 

……と、約束の文字数もオーバーしちゃったので、本当ならここで原稿を終えなきゃいけないんですけど、編集長! お願い! 一つだけ宣伝させてください!

 

「つらいことって、どうすれば表現できるの?」と思っている人に、ぜひ観てほしいアート展が開催されます。私も実行委員を務めています。日ごろ大変すぎて心に余裕のない方も、逆に余裕のある方も、よかったら覗きに来てください。なんと入場無料でやっております!

 

東京精神科病院協会主催「第4回 心のアート展――それぞれの感性との出会い――」(会期:2013年4月24日~29日 場所:東京芸術劇場) 詳しくはHPをご覧ください。

http://www.toseikyo.or.jp/art/index.html

 

(「困ってるズ!」応援版より転載)

 

 

 

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