アートで心を〈癒す〉―― 第4回「心のアート展」開催にあたって

2013年4月24日(水)~29日(月・祝)、東京芸術劇場5階〔ギャラリー1〕にて東京精神科病院協会(以下、東精協)主催による「第4回 心のアート展 ―― それぞれの感性との出会い」が開催される。開催に先立って、同アート展の実行委員をつとめる荒井裕樹氏にお話を伺った。「心の病」をかかえる人たちにとって、アートはどのような役割をはたすことができるのだろうか。(聞き手・構成/出口優夏)

 

 

「心のアート展」とは?

 

―― まず「心のアート展」についてご説明ください。

 

東精協に加盟している精神科病院(67病院)に、入院あるいは通院されている方たちの作品を展示するアート展です。東精協というのは東京都にある私立の精神科病院の連絡協議機関で、2009年から「心のアート展」を開催するようになりました。今回で4回目になります。

 

 

―― どのような作品が展示されているのでしょうか?

 

公募で集まった作品のなかから、2段階の審査を通過した作品を展示しています。前回の第3回展では19病院から300点ほどの作品が集まり、130点ほどの作品が展示されました。年々、参加病院・参加者の裾野はひろがっています。

 

原則的には東精協の加盟病院に入院・通院している方の作品が対象なのですが、このアート展の主旨にご賛同頂いたアーティストの作品を「特別展示」というかたちでご紹介することもあります。毎年協力してくださっているのは、『失踪日記』などで知られる漫画家の吾妻ひでおさん。吾妻さんは、ご自身も漫画化されていますが、アルコール依存症で医療機関にかかっており、自助グループにも通われているようです。

 

今回は、フランスから「アトリエ・ノン・フェール」の方々もお招きしています。「アトリエ・ノン・フェール」というのは、パリ郊外の精神科病院メゾン・ブランシェで活動をつづけてきたアーティスト集団です。現在はパリの街中を活動の舞台にしているようで、EU圏ではかなり頻繁に展示会が開かれて注目をあつめています。日本では、このアート展ではじめて実作品が展示されます。ほかにも、清貧の生活のなかで流行にとらわれず、孤高に描きつづけた画家・櫻井陽司氏の作品も紹介されます。

 

 

―― 審査はどのように行われているのですか?

 

「心のアート展」では、5人の先生方に審査をお願いしています。加賀乙彦氏(小説家・精神科医・審査員長)、仙波恒雄氏(日本精神科病院協会名誉会長)、齋藤章二氏(斉藤病院理事長・院長)、立川昭二氏(北里大学名誉教授・医学医療史)、安彦講平氏(〈造形教室〉主宰)です。どなたも、臨床現場と芸術分野の両面でゆたかな経験をお持ちの方です。

 

審査でむずかしいのは、「良い作品とはなにか」という点です。「良い」の基準をどこに置くのかというのは、とてもむずかしい。「技術的に上手い絵」をえらぶと普通のアート展との差異がなくなってしまいますし、「がんばって描いた絵」をえらぶとすれば応募されたすべての作品があてはまってしまいます。

 

審査会の現場では、審査員や実行委員の方が作品に試されているような緊張感があります。「この絵の価値があなたにわかるのか?」という感じですね。むずかしいことは重々承知の上で、可能な限り、作者の切実な思いや生命の息吹みたいなものが感じられる作品をえらびたいと思っています。

 

 

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アート展を行う意味

 

―― このようなアート展を開催することに、どのような意義があるのでしょうか?

 

「障害者文化論」を研究するわたしの立場からの答えになりますが、いくつか意義があるように思います。

 

ひとつは啓発活動として。「心の病」という言葉がとても身近なものになってきた一方で、「精神科病院」や「精神障害者」にたいする偏見はまだまだ根強いです。「心の病」はボーダレスにこの社会にひろがっていますが、それをサポートする「精神科」への心理的なボーダーはとても高い。そのようななかで、アートは「心の敷居」を乗り越えるひとつの窓口になるのではないかと思っています。

 

ふたつめは、病院同士の情報交流の場として。精神科病院のアート活動は、基本的にはデイケアやOT(occupational therapy:作業療法)の現場で、医療スタッフの指導のもとに行われていることが多い。それぞれの病院が工夫をこらして活動をしていますが、ほかの病院の活動については、お互いに知らない部分も多いのではないでしょうか。ですから、さまざまな病院の作品を一堂に会することで、ほかの病院がどのような試みをしているのかを知る良い機会になると思います。

 

さいごは、病院という場で、とてもユニークで個性的で力強い作品をつくっている人たちがいる。そのことを社会に届けたい、知ってもらいたい、ということ。個人的には、これが一番おおきな理由だと思っています。なかには、この社会の閉塞感や生きにくさ、あるいは冷酷さなどを凝縮して映し出したような作品もあり、こちらが圧倒されることもあります。

 

研究者としての立場から言えば、このようなアート作品を社会に投げかけたら、人びとはそれをどのように受け止めるのか、という点にも関心があります。苦しんでいる人たちの心にこの社会はどのように映っているのか。アートはきっと「いつもとは違った角度から社会を見つめなおす」きっかけを与えてくれると思います。

 

 

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